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【連載版】実家住みおじさん、私道のど真ん中に湧いた邪魔なダンジョンと配信者どもをヘッドショットでぶっ潰す  作者: CarasOhmi
【番外編2】実家住みおじさんの甥、幼馴染ギャルとダンジョンに潜り、こじれたケモノ性癖の矯正を目指す
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#34 スタートライン

「その……僕、ユウカちゃんのことが、好き……です。これから、僕と、お付き合いしてもらえますか……?」

「…………」


 期末テストを終えたその日に、僕は二ヶ月前にユウカちゃんに呼び出された体育館の裏手で、その……、告白と、交際の申し込みをしました。



 ……沈黙が、怖いです。


 ダンジョンの宝物殿では、状況が差し迫っていたこともあって意識が向いていませんでしたが、「好きな人に好意を伝え、決断を求める」ということが、こうも勇気がいることとは、想像していませんでした。

 ましてや、相手が自分への好意を持っているのかどうかわからない中での、彼女の告白は、今の僕とは比較にならないでしょう。今更ながら、彼女にそれをさせてしまったことに、情けなさや、後ろ暗さを感じる僕でもありました。


 思えば、小学生の頃のバレンタインから、僕は彼女の気持ちを「待つ」ばかりでした。やはり、僕より彼女の方が「勇気のある子」なんだと、再認識させられます。




「……はい」


 頭を上げると、彼女は顔を赤らめ、その綺麗なダークブラウンの瞳を潤ませながら、僕の目をまっすぐに見て、僕の申し出を受け入れてくれました。


 彼女は、その細く白い指先を前に差し出し、僕の右手を両手で包み込むように、そっと握りました。


「これから……よろしくね。ハル君」


 ……安堵と、多幸感が、僕の心を満たし、胸を高鳴らせていました。緊張のあまり暗く覆われていた視界は、鮮やかな色彩を取り戻し、恥じらいとともに見せる彼女の笑顔を、美しく彩っていました。


 かくして、期末テストを終えたその日に、短かった僕とユウカちゃんの「友達」の期間は、幕を閉じました。


 これから、僕らは交際関係……「彼氏」と「彼女」という関係になっていきます。



* * *



 それから、一週間ほど。


 ……交際関係になったからと言って、僕はこれから何を始めればいいのか、何も把握していませんでした。僕たちふたりの関係は明確にはなりましたが、恋人という関係はどうあるべきかについて、僕は何も知りません。

 改めて連絡先を交換し、チャットアプリで夜にその日の出来事についての会話をしたり、挨拶スタンプを送り合ったりしていますが、相手方の迷惑にならないかと考えすぎてしまったり、変な内容を送ってしまったのではないかと身もだえしたり、そんな感じです。


 しかし、僕はずっとダンジョンのことばかり考えている陰気な男子高生だったのですが、僕の同級生で女子とお付き合いしてる子たちは、どんな感じなのでしょう。

 僕らの年頃のカップルは、何を話すべきなのか、デートではどこに行くのか、どれぐらいの頻度で会うべきなのか、その……スキンシップなどはどこまで測るべきなのか、など。……最後のは、ちょっと下世話ですね。


 なので、ひとまずとしてテスト期間を終え答案を返却された僕たちは、二人でファミレスで復習を兼ねて、お互いのミスの確認をしていました。……試験勉強期間と、あまり変わらないかも。


「ねえ、ハル君……」

「なっ……、なに?ユウカちゃん」


 名前を呼ばれた僕は、裏返った声を整えて彼女を見ました。


「恋人って……こういう感じで、いいのかなぁ」

「…………」

「あ、いや。不満とかそういうのじゃないの。ただ……わたし、恋人になった子たちが何をするものなのかって、あんまりわからなくて……」


 ……彼女も、同じ悩みを持っていたようです。

 僕らはお互いのことを好きになり、歩み寄ろうと決めたのですが、「友達」から「恋人」に、関係性のラベルが変わったことで、その付き合い方を見失いつつあるようです。


「うん、実は……その、僕も同じことで悩んでて……僕の友達って、あんまり女の子と付き合ってる子がいないから……」


 黒栖さんは彼女はまだいないようで、HIMIZUさんは大学の最初の頃に付き合ってた子とは、配信の折り合いがつかず別れてしまったそうです。

 これについては、古傷をえぐりそうというのと、自分事として考えると身につまされ過ぎて、逆に聞きにくい部分もあります。……ユウカちゃんとの時間は、しっかり大事にしよう。

 ……MOGURAさんの交際観については、参考にすべきではないです。カズヒロおじさんも言ってましたが、大分こじらせてます。人気配信者の闇ですね……。


 そもそも論として、歳の離れている人間が多いこともあり、僕の周りには高校時代の交際についてを明確に話せる人間は身内に居ません。父さんや母さんに聞くのも少し躊躇われます。

 身内の恋愛事情を聞くのは気まずいですし、確か両親は社会人になってお付き合いを始めたと聞くので、両親以外の異性との交際歴は、僕も聞きたくないと言いますか……。


「……あっ。ユウカちゃん、小畑さんや田辺さんと仲いいんだから、聞いてみたらどうかな?」

「ナギサとホノカかぁ……うーん……」


 月極駐車場で一緒に探索していた彼女たちの名前を出すと、ユウカちゃんは少し躊躇うような表情を浮かべました。何故?と考えましたが、心当たりが浮かんだ僕は、「しまった」と思いました。


「まさか、あの子たち、彼氏さんと別れ……」

「あっ……、いや、そういうのじゃないの!そこは大丈夫!」

「えっ、あっ……そうなんだ」


 ……僕の勘繰りは外れたようで、胸をなでおろしました。助けに入るのが遅かったばかりに、あの四人の関係が悪化したのではと考えたので、そうではなくて安心するばかりです。


「あの四人は、まだ付き合ってて……、四人ともハル君のことを悪く思ったりはしてないというか、なんというか……むしろ……」

「?」


 ……どうにも歯切れが悪い感じです。何かしら、僕に言いにくい理由が何かあるんでしょうか。


「あの、髑髏の不審者に追われてた時、HIMIZUさんと一緒に私の持ってたスマホ……真辺君のチャンネルの配信を確認してたみたいなんだけどね」


 ああ、そういえばHIMIZUさんからのオペレーションも、その映像越しだった。あの四人、怖い目に遭った後も映像を見てたんだ……。道順の確認も必要だったから、HIMIZUさんに頼まれたのかな。


「……それで、私が髑髏に切り刻まれそうになった時に、ハル君が助けてくれたでしょ?」

「うん」

「それを、四人は私の視点の配信で見てて……」







「……みんな、ハル君のファンになっちゃったの」

「へ?」


 突拍子もない彼女の言葉に、僕は口を開け、ぽかんとしていました。


「僕のファンって……えぇ……?なんで、そうなるの?」


 僕はユウカちゃんに尋ねましたが、何ともばつの悪い表情でこちらを見ていました。


「……あの配信、ずっと私の視点で配信されてたでしょ?それで、私が絶体絶命の時に、ハル君がそれを颯爽と助けて、私の手を引いてトラップを解除しながら奥に進んでいって、最後は髑髏との一騎打ちで裏をかいて倒して、泣いてる私を抱きしめて……ってなったでしょ」

「…………」

「あの状況を、四人とも、私の視点で見てたの……」





 ………………


 ……うわっ。


 初めて知ったけど、言われてみれば、それはそうだ。


 というか、あの四人だけじゃない……僕のあの時の振る舞い、あのチャンネルを見てた視聴者に全部筒抜けというか……アーカイブで確認できるだろうし、今でも全世界に……?

 あっ……うわぁ……恥ずかしすぎる……。




「それで、男子二人は『超カッコいい!』ってなっちゃって、ハル君に会いたいとか、一緒に探索したいって言ってて、ナギサやホノカ、HIMIZUさんにもお願いしてるみたいなんだけど、三人に止められてる状況で……」

「ああ……、気持ちは嬉しいけど、気恥ずかしいというか、先輩気取りたいわけでも無いから、止めてくれて助かるよ……。あとでお礼言わなきゃ……」

「…………」


 僕の言葉に、ユウカちゃんはちょっと不機嫌そうな顔を浮かべる。


「……ハル君、少し鈍感だよ」

「えっ」

「……同じ映像、ナギサやホノカも見てたんだよ?今日まで、あの二人のハル君への対応の変化、感じなかった?」


 彼女は僕に怪訝な視線を送ります。


「えっ、いや……それは……確かに、前と比べると若干話しかけられることも増えた……かな?でも、それって、ユウカちゃんと僕の関係が改善したとか、恋人になったから、友達の彼氏として繋がりが出来たから……」




「……あの二人も、映像でハル君のことが『憧れのヒーロー』になっちゃったの」

「え、えぇ……?」


 ……いやいや、それは流石にうがった見方でしょ。


 確かに、多少話す機会は増えたとは思うけど、そんな目を向けられるはずないでしょ。他人の四肢を地雷やショットガンで吹き飛ばしたり、溶岩に放り込んでるんだよ?

 挙句、そんな暴力をふるってイキってるチビが、粗暴な口調で大人を威圧してトドメ刺したりとか、どう考えても「カッコいい」より「痛々しい」でしょ……。ユウカちゃんの考えすぎだよ、それは。




「ハル君」

「はい」


 気付けば、ユウカちゃんが、ずいっと身を乗り出し、僕に迫っていました。

 僕は、滅多に見せない彼女の圧に、怯んだように背筋を伸ばしました。


「その、ハル君は……ハル君が思ってるより、ちゃんとモテる子で、君が思ってる以上に、他の子にとって『王子様』みたいに映っちゃうことはあるんだから……」


 彼女は、テーブルに乗せた掌の上に、白くて暖かい、彼女の手を重ねた。


「……『私だけの』王子様でいてくれなきゃ、その……イヤだよ?」




 ああ、これは、ユウカちゃんの……その、ジェラシー……なのかな。

 確かに、自分の恋人が、他の異性と仲良くしてたら不機嫌にもなるかもだし、それで警戒心が強まってるのかも。


 ……惚れた欲目というか、正直僕みたいな陰キャが、ユウカちゃんの思ってるようにモテモテなんてことはあり得ないとは思うけれど。……自分がモテると勘違いして調子に乗る自分の姿を想うと、小学生の黒歴史の再来です。

 それでも、たとえ取り越し苦労でも、ユウカちゃんから「女性にいい顔ばかりする見境の無い彼氏」と見られたくはないのも事実です。


 ……加えて、その、僕にそうしたジェラシーを示してくれるユウカちゃんの姿が、新鮮というか、たまらなく愛おしく、可愛らしいと感じてしまう気持ちもあり。

 そんな彼女を悲しませる真似もしたくないので、これからも、謙虚に、堅実に、誠実に、一途に、彼女とお付き合いしていければ、と。そう思うばかりです。




「……僕は、その、『王子様』っていうのは似合わないと思うけど、これからもずっと、ユウカちゃん一筋でいるから、大事にしていくから、その……」


 僕はしどろもどろになりながら、言葉を絞り出しました。


「見捨てないでください」

「……もうっ」


 僕の情けない言葉に、彼女は呆れた笑みを浮かべる。

 ……どんな笑みでも、彼女の笑顔は、とても眩しく、かわいらしいです。


「……やっぱり、ハル君は鈍感だよ」

「そう……かなぁ……」


 僕は、彼女の手厳しい言葉に、しょんぼりとため息を漏らしました。




「……私にとって、ハル君は、いつだって、ずっと『王子様』なんだから。もっと、自信もっていいんだからね」




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