#27 二年ぶりの共闘
僕は、宝物殿の中央に位置する祭壇に埋め込まれた、半球状の魔石に手を伸ばしました。
―――― 魔力信号を検知しました。
宝物殿全体に反響する、機械音声のように無機質な日本語音声。
さながら警告を出すように、魔法の照明が明滅し、祭壇から二十メートルほど先の床面に、青く輝く魔法陣が展開されました。
―――― 種族……人間
―――― 職能……配信アシスタント
―――― 仮想身体熟練度……推定15前後
―――― 当該古代遺物継承に際し『試練』フェーズに移行。
やがて、魔法陣から生えてくるように、光の粒子によって徐々に形成されていく、金属製の巨大な体躯。
……僕も、「これ」を自分の目で直に見るのは、初めてでした。
―――― 宝物殿最終防衛機構 守護者 LV.5、起動。
―――― これより、古代遺物継承候補者への、試練を開始します。
巨大な守護者の目が赤く輝き、僕たちを睨み付けました。
宝物殿の番人であるゴーレムが起動するのとほぼ同時。
僕は……カズヒロおじさんは……ミツキおじさんは……
山神一族の男性陣は――――
――――守護者に向かって魔導対戦車擲弾発射筒を構えました。
「FIREッ!」
カズヒロおじさんの合図とともに、三門の魔導対戦車擲弾発射筒が火を噴きました。
発射されたロケット弾は、「守護者」に命中。
そして、爆炎の中から巨体が現れる……!
「……コアの露出は無しか、運動公園ダンジョンの奴より頑丈かもな」
「深層の村長も、対爆装甲を仕込んでるって言ってましたね」
「でもまあ、多少の金属疲労はあると思うし、ここからはコツコツと攻撃を叩きこんでく感じになりそうだね」
……RPGを使うことで、初手での有効打を期待していましたが、何事も思い通りに事が運ぶものではありません。ここから先は、事前に立てた作戦に沿って、コツコツ削っていく流れです。
僕とカズヒロおじさんは、皆に先んじるように、一歩、前に歩み出しました。
おじさんは、暴力に躊躇の無い恐ろしい男ですが……ダンジョンという場において、味方でいてくれる間は、これほど頼もしい人も知りません。
僕は、彼を一瞥し、再び守護者に向き直りました。
「……いくぜハル坊。今回は戦力として頼りにしてるぜ」
「うん、任せて」
「魔機召喚魔法――っ!」
僕は、手元のスマートウォッチを操作し、空中に魔法陣を投影しました。それは、マジックアイテムの召喚魔法。
僕の背後に、十本あまりのスクロールが召喚されました。召喚と同時に発動する「仕込み」により、浮遊したスクロールは順々に起動していきました。
僕は、掌を守護者に向け、魔法を発動しました。
「投擲魔法!」
飛来したスクロールが地に落ちると同時に、ガーディアンを取り囲むように、一帯に若干傾斜のついた「壁」が出現しました。
……ただし、その壁は、僕たちの方からはすべて「半透明」のものでした。
それは「疑似壁魔法」。
守護者は、敵の認識において、僕らの目と同じように、光学的な視覚情報を用いています。
そのため、実体のない見掛け倒しである疑似壁魔法の立体映像でも、その物影に隠れた対象は視認できなくなります。
防御に使うことこそできませんが、複数人が壁に隠れながら攪乱することで、守護者は敵を特定することが困難になる。僕たちだけが敵を視認できる、状況を有利に動かすためのフィールド形成です。
――舞台は、整いました。
「魔機召喚魔法――っ!」
続いてカズヒロおじさんのスマートウォッチからも魔法陣が展開されました。そして、彼が手を掲げると同時に、光の粒子が、その手の中にひとつの武器を形作る――!
―――― |魔導対物散弾砲《マジカル・アンチマテリアル・ショットキャノン》 モグラ叩き 特別カスタム ――――
黒光りする、レバーアクションの巨大な砲身。
彼は、その武器から伸びたストラップを肩にたすき掛けし、腰を落としてリロードを敢行。拳すら収まりそうなその銃口をガーディアンに向け、引き金を引きました。
瞬間、轟音とともに、親指ほどの円形のくぼみが、守護者の装甲に、大量に刻まれました。
それを確認したおじさんは、手元のレバーを前後させてリロード、もう一度同じ個所に射撃を行いました。それにより、致命傷にこそ至らないものの、数カ所、散弾が重ねてあたった箇所には小さい穴が開いていました。
「うむ、ゴーレム相手ならコイツで通るな……」
「えぇ……『モグラ叩きカスタム』って、カズ兄、これをMOGURA君に打ち込むつもりだったの?」
「非常識な奴は、非常識な武器で撃たれるのがお似合いだろ」
「……まあ、いいや。じゃあ手筈通り、カズ兄が装甲に穴をあけて、隙が出来たら俺がグレネードを……」
――その時、守護者の肩から上腕にかけての装甲がパタパタと開きました。
そして、その隙間からこぶし大の鉄球がボロボロと零れ落ちたかと思うと、線形の隙間からフイルムのような「翅」を広げ、空中に浮かびあがり、守護者同様の赤く発光する視線をこちらに向けました。
「付随補助機構――っ!?」
付随補助機構は、大型のゴーレムに付随して展開される飛行型ゴーレム。単体では大きな脅威ではありませんが、巨大なゴーレムの子機として運用することで、死角に存在する敵の警戒や、自律的な攻撃など、多岐にわたる運用が可能。
「……まずい、疑似壁魔法に回り込んで、位置がバレる!」
僕の声を聞いて、皆は上空に視線を移しました。壁の裏に空中制止したそれらは、魔力弾を撃ち込むべく、魔力をチャージし始めました。
「障壁魔法!」
HIMIZUさんはスクロールを起動、僕ら山神三人衆は、慌ててその半球状のバリアの中に飛び込みました。
魔力弾は、シールドに弾かれていますが……耐久が削られればこの障壁も破壊され、ジリ貧でしょう。
その時、響く銃声とともに、空中に展開された付随補助機構が一体、粉々にはじけ飛びました。
そして、ひとつ、またひとつと、まちまちな方向に破片を飛び散らしながら、ゴーレムの子機は破壊されて行っています。
「……カナコと、扇さんだね。不可視魔法と加速魔法で、身を隠しつつ高速移動しながら狙撃してるんだと思う」
……なるほど、運動公園ダンジョンでカナコおばさんが獅子辻さんにやってた戦法のようです。壊れるペースを見ると、扇さんも空中の子機の狙撃に参加しているようです。
基本的に空中の定位置に位置取っているとは言え、数十メートル離れた拳ほどの大きさの標的に当てられるということは、相当練習をしたことが伺えます。
……正直、僕は扇さんを心配するあまり、彼女の成長性や、ダンジョン攻略にかける本気さを見くびっていたようです。今の彼女は、僕にとって、とても頼もしい味方になっていました。
「よし、子機はもうじき殲滅だ。ここで一気に畳みかけて……」
一瞬、感傷に浸ってしまった僕が、おじさんの声で我に返ったのとほぼ同じタイミング、守護者から、先程同様、甲冑の金属板がガシャガシャと駆動する音が響き、金属塊が射出され、地面に落下音を響かせました。
ただし、そのサイズは、先程のこぶし大ではなく……自動車のタイヤのようなサイズ。怪訝な顔で警戒するおじさん二人とは裏腹に、僕とHIMIZUさんはその正体を察し、大きな声を上げました。
「付随補助機構の……近接機動型っ!」
次の瞬間、タイヤは丸まったダンゴムシが体を広げるように、円筒形の身体をまっすぐに伸ばし、大型のネコ科動物のような流線形の脚を展開。目にも止まらぬ速さで僕らの隠れる障壁魔法の壁を、前足で叩き割りました。
金属製の爪の並んだ足は、ミツキさんの左腕と、カズヒロおじさんの抱える散弾砲を切断。そのまま着地に合わせ、反復的にカズヒロおじさんに飛びかかったところを、HIMIZUさんがロングソードで受け、鍔迫り合いの形になりました。
動きが膠着する二者に割って入る形で、カズヒロおじさんは通常サイズのショットガンの引き金を引き、近接機動型の半身を粉砕しました。
「やべぇ、主要武器が……ほかに火力持って来てる奴いるか?」
「……俺の榴弾砲は、対爆装甲を破った後に撃ち込む予定だったから、現状だと有効打はキツイね」
「俺も、近接戦の想定だったのでロングソードとかの武装ですね……」
「じゃあ、ここからは近接武器で突撃して直接攻撃を……」
作戦を再考している中で、守護者はまたしても「タイヤのような金属塊」を数体、地面に落としました。
そして、先程同様四本の脚が展開し、チーターのようなシルエットを形作っていきます。
「おいおい……、まだ出せるのかよ」
「チートもいいとこですね」
「……チーターだけに?」
「……そういうオヤジギャグは、思っても黙っとけや。ミツキ」
半ば逃避気味に軽口を叩く彼らでしたが、その表情は険しいままでした。形勢を逆転するために必要なのは、本体の装甲を破壊できるだけの……「火力」。
………………
「……これ、使うしかないですね」
「あっ……」
僕が取り出したスクロールを見て、HIMIZUさんは「なるほど」という顔をしました。
カズヒロおじさんとミツキおじさんは、スクロールを見て「何だ?」という顔をしていましたが……スクロールの中身を見せた所、「使いたくない理由」を察したようで、苦笑を浮かべました。




