#26 ウォーキング・トゥ・ヘル
俺は、前を歩く三人を見る。
モグラ野郎の後輩……HIMIZUとハル坊の友人が探索に参加することは聞いていた。
……しかし、まさかその「友達」がギャルの女子とは……流石に驚いた。
俺が、二年前の認識からアップデートできていないからでもあるが、フタバの話を聞く限りハル坊は、今も変わらず「ダンジョンおたく」だ。
その性格的に、女の子を……特にダンジョンに馴染みのなさそうな子を誘って、危険な地下に潜ると言う行動が、なんとも違和感があるというか……。
決して「女はダンジョンに潜るな!」とか言うヤツではないのはわかるが、昔からアイツは温厚で親切な子供でもあったし、ダンジョン慣れしてない子を引き連れてくるのを、良しとは思わんのではないか。
……現に、リア充に僻みでヘッドショットする、ヤベェ中年男性が居ることは、身近な例があったわけだし、な。
こう……下世話な勘繰りなのはわかっているが……
「……なあ、ミツキ」
「ん、なに?カズ兄」
「あの、ハルトの隣にいる女の子……その、あいつの彼女さん……なのか?」
「あぁー……、う〜ん、なんと言うべきかなぁ……」
ミツキは、歯切れ悪く腕を組んで唸っていた。彼女ではない……っぽいな。
となると……
「運動公園ダンジョンの時の、お義兄さんとレイちゃんの関係……みたいなものですかね」
「あっ……、あぁー……」
カナコさんの補足で腑に落ちた。
なるほど、お互い近い関係だが、まだハッキリした繋がりがない段階。
所謂「友達以上、恋人未満」の関係だ。
……さらに言えば、「俺とレイちゃんの関係」に近いとは、言い得て妙だ。
「ハル坊はあの子をダンジョンから遠ざけたい」
「あの子はハル坊に歩み寄るために勇気を出してダンジョンに挑んでる」
そんな雰囲気が見て取れる。
ダンジョンという陰気な空間に似つかわしくない、明るいファッションや雰囲気の異質さも、ハル坊の微妙に気まずげな空気も、納得いく部分は多い。
昔からそんな予感はしたけど、やっぱりハル坊、成長したらモテるんだな。
前に会った時はちょっと生意気になってたけど、昔から気の回る優しいヤツではあったしなぁ。刺激的な男ではない分、ちゃんと中身を見る子には深く刺さるんだろう。
……モテという点では、女に「ほっとけない」印象を与えていたミツキの女性遍歴を思い浮かべるが、こいつの元カノの話を嫁さんの前でするのは、大人として最悪なのでやめておこう。
しかし、付き合ってるわけじゃないのか。そろそろ、俺もハル坊に会っても安心かと思ってたが、もっと恋愛にも積極性ってもんを……
………………
……いや、違げぇな。
たぶん、ハル坊がこの子と付き合えてないのは、俺のせいだ。おおよそ察する。
俺にとやかく言う権利はねぇし、変に首を突っ込む筋合いじゃねぇ、よな……。
「……責任を感じすぎることもないと思いますよ。不運な巡り合わせ、みたいなものでしょう?」
「うん、レイちゃんの気持ちも最初から決まってたわけだし、初恋なんてそんなもんでしょ」
内心を読まれたように、弟と義妹のフォローが入る。顔に出てたか……。
……まあ、そうだな。
レイちゃんをこっちの世界に呼び出したこと、山神の一員として幸せに暮らせるようにしたいと言う思いは、俺たちの総意であり、俺とレイちゃんが恋人になるのも、お互い想い合っていた以上は、自然な流れだった。
ハルトには悪いが、レイちゃんは俺の恋人であり、最愛の嫁さんだ。「現世に呼ばなければよかった」なんて口が裂けても言うつもりはない。
……心残りは、レイちゃんがあいつをハグする前に止めてやれなかったことか。
あの後は、レイちゃんと反省会も開いて、思春期のハルトとは距離をあけようという着地になったが、それには少なからず、俺のしょうもないジェラシーも絡んでいた。……今思い返しても、アラフォーの姿としてはいささか情けねぇ。
そんなわけで、色々気まずい思いを押し付けて、ハルトとは距離が開いてしまったなと思う。
これを機にしっかり話して距離感を見直したいが……一番は、あいつが年頃の女子としっかり恋愛できるようになってくれることではある。
……がんばれ、ハルトと、恋する女子高生。
「まあ、カズ兄が無理して恋愛相談のっても、あんまり好転しないんじゃないかな……。レイちゃんの気持ちも、直接言われるまでわかんなかったんだから……」
俺はミツキの脇腹を肘で軽く小突いた。
……どうせ、四十路近くまで独身だった、女心のわからん偏屈親父だよ、俺は。
* * *
「カズヒロさん、すごい人気……だね」
「うん、まさかここまでとは……」
コボルトの村に入ると、おじさんの周りにはすっかり人だかりができていました。小さい子供たちも、カズヒロおじさんの周りに集まって、辿々しい日本語で「カズヒロ!」「カズヒロ!」とはしゃいでいます。
おじさんは、不慣れなヒーロー扱いに困惑しているのか、少し恥ずかしげに頬を染めていました。
……事前にある程度わかっていたことだけど、いつの間にかおじさんはゴブリンやコボルトの間での名声がかなり高まっていました。要因としてはやはり、迷惑配信者の撃退と、ポータルの敷設などを事業として行っていくうちに、各村落の首長がその仕事を大きく評価したからのようです。
「……最近は、それだけでもないんだけどね」
「そうなんですか?」
ミツキおじさんは小声で僕たちに説明をしてくれました。
「魔力伝播wifiってあるよね?地下で地上のインターネットに直接接続できる端末。あれの固定回線版の敷設の需要があって、最近は、その設置も業務として請け負ってるの。俺も時々手伝ってるよ」
「へぇ……インターネットを……」
「そう。それもあって、カズ兄の作業風景とかインタビューを動画で上げるゴブリンやコボルトも増えててさ。……聞き覚えのある合成音声で作られた『地下インターネットの父』みたいなまとめ動画には、ちょっと笑ったよ」
アンダーネットからの接続は結構ややこしかったけど、地下にも直通のインターネットが普及し始めてるのかぁ……。便利にはなるだろうけど、文化的には功罪出てきそうだなぁ……。
「……というか、おじさんの『モグラ殺しMAD』も見られちゃうんじゃないですか?」
「うん……、そこはMOGURAくんなんかも首を突っ込んできてさ。ゴブリン集落からの動画PVに繋がるからって、こっそりゴブリン集落にMADのURLを広めて、カズ兄にしばかれたんだって」
「うっわぁ……。MOGURA先輩、相変わらずロクでもないなぁ……」
「……まあ、カズ兄見てると、悪友とのじゃれ合いみたいにも感じるけどね」
HIMIZUさんが引いているのを横目に、僕たちはコボルトの人波をかき分け、下層へのポータルに向かって歩みを進めていきました。
『カズヒロ〜!地上のお歌、歌って〜!』
「本物は歌わねぇの。合成音声じゃねぇんだぞ」
……知名度が上がるのも、考えものだなぁ。
* * *
「いよいよ、宝物殿だな……」
「武装は整えて来ましたし、事前の打ち合わせ通りにやりますか?」
「ああ。ただ、守護者の仕様はダンジョンごとにまちまちだし、特殊なタイプだったら一時撤退して、態勢を立て直すことも考慮に、だな」
「うん……基本的にゴーレムは動力供給の関係で、配置空間から大きくは出られないし、追撃は心配しなくていいと思います」
「だが、一時撤退したら再生魔法で自動修復が始まるし、装備の消耗を考えると後日仕切り直しになるかもだから、なるったけ一度で仕留めに行くぞ」
「了解」
……ハル君、カズヒロさん、HIMIZUさんが主導する形で、私たちは最後の作戦会議を行った。
改めてだけど、大人に混じって作戦立案や意見を出す彼を見ると、普段より大人びて見える。
――さながら、私を置き去りに、ひとり、大人の世界に進んでしまうように。
……寂しい。
追いつきたい。
隣に居たい。
私は、こぶしをぎゅっと握り、心の底から沸き起こる、弱い気持ちを噛み殺す。
……ここはダンジョンの最深部。
恋に浮かれたり、寂しさや切なさに翻弄されてるようでは、最後まで生き残ることはできない。
……勝つ。
勝ち取って、私は、未来に向かって進む。
そのために、私は、ここまでやって来たんだから。
私は、皆と一緒に武器の最終チェックを行った。
宝物殿の守護者に挑むメンバーは、以下の通りだ。
・山神カズヒロ(40):ハル君のおじさん。
魔導散弾銃・魔導山刀装備。前衛で全体統括。
・清水陽太(23):人気配信者。
魔導手斧・魔導長剣装備。近接による打撃担当。
・山神ミツキ(31):ハル君のおじさん。
魔導榴弾砲・魔導山刀装備。中距離・状況に応じ接近援護を担当。
・山神カナコ(29):ミツキさんの奥さんで、私の師匠。
魔導狙撃銃装備。狙撃による援護を担当。
・谷岡ハルト(15):私の、大好きな人。
魔導散弾銃・魔導山刀装備。前衛でカズヒロさんと連携。
・扇ユウカ(15):私。
魔導狙撃銃装備。狙撃による援護を担当。
私にとって初めての【最終決戦】が、幕を開ける――。




