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【連載版】実家住みおじさん、私道のど真ん中に湧いた邪魔なダンジョンと配信者どもをヘッドショットでぶっ潰す  作者: CarasOhmi
【番外編2】実家住みおじさんの甥、幼馴染ギャルとダンジョンに潜り、こじれたケモノ性癖の矯正を目指す
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#24 日陰の恋路

 ――あの冒険から一週間。


 ダンジョンからの帰り道、私はカナコさんとチャットアプリで連絡先を交換し、これからミツキさんと始めるという、東川郷町ダンジョン隠し階層の攻略を手伝わせていただくことにした。

 基本的には荷物持ちを手伝うつもりだったのだけれど、カナコさん達の使用する携行型の魔導金庫(マジカルチェスト)は、ハル君が使っていたものと同じで、格納する物体を縮小し、その重量を軽減するという不思議な効果があるらしい。

 なので、パーティーの手荷物はそこまで多くならない。お手伝いを申し出ておきながら早速やるべきことを見失ってしまった。


「いいよ、ひとまずのところは私に着いて来て。ダンジョンって場所に慣れることから始めよう?」

「……すみません、手伝うなんて言っておきながら、何の役にも立たなくて」

「ううん、大丈夫だよ。それに、チェストに入れて持ち運べない持ち物が増えるかもだしね……」

「……?それは、どういう……」


 私がカナコさんに問いかけると同時に、彼女は私を手で制止した。

 彼女はすぐに、その場で片膝をつき……ライフルを構え、スコープをのぞき込む。







 ――銃声。


 視線の先で、なにやら大きい影が倒れ込んだ。

 私は、カナコさんとともに、現場に速足で向かっていく。


「……モンスター?」

「ダンジョンマダライノシシだね。集落で飼育されてた家畜が、抜けだして野生化したのかな?」

「…………」

「いったん、コボルト集落に戻ろうか。仮想身体の力なら、二人掛かりで持ち上げられるはずだから」


 私たちは、ロープで縛った憐れなイノシシの手足を、カバンのように肩にかけ、コボルト集落へと帰って行った。



* * *



「うん、これで装備も整ったね」


 私は、カナコさんに連れられ、三層のコボルト集落にやって来ていた。そして、イノシシを肉屋に売って得た魔石で、ローブやブーツ、魔導狙撃銃マジカル・スナイパーライフルを買い揃えていた。


 浅い階層の集落は人間社会との交流が行いやすい。

 この隠しエリアが見つかり、探索や交流が進んでいったことで、地上のメーカーからマジックアイテムを取り寄せ、ダンジョン行商として販売するコボルトの商人も増えたとのこと。


「でも、ここまでしてもらうなんて……」

「装備無しで潜っても、前の二の舞だよ」


 ……私は、先週の出来事を思い出し身震いする。

 そう。あの悲劇は、準備もせず向こう見ずで行動を始めてしまった結果なのに、私も学ばない……。


「じゃあ、山神ダンジョンスイーパーの経費で落として、ユウカちゃんには貸与って扱いにしておこうね。バイトの備品や制服みたいなものってことで。今日の探索が終わったらチェストに入れて私に返却してね」

「はい」


 私は、カナコさんの後をついて村を歩く。「ゴブリンガル」を起動したタブレットを胸元に携えながら。

 その後は、マジックアイテムを取り扱う露店で、カナコさんは数本のスクロールを買い足した。やがて、イノシシ肉を仕入れて賑わいだったコボルト食堂で、私たちは昼食を取ることにした。

 きっと、カナコさんの仕留めたイノシシだろう。



* * *



「そっか、ハルト君が学校で……」

「はい、あの時の配信が一部で拡散されて、『ドクロ殺し』って話題になったみたいで、他のクラスの子とも交友が出来たり、配信視聴者の同級生の子からも話しかけられるようになったみたいです」

「……学校から怒られたりはしなかったの?」

「一回呼び出しされたらしいんですけど、ミツキさんとの写真を見せて『家業の手伝いをしてる時に、塾の友達を助けた』みたいにして、誤魔化したみたいです」

「ふぅん……、ユウカちゃんのことは隠し通したんだ」

「……でも、一緒に潜ったナギサやホノカは映像に映ってたから、噂になって呼び出されましたし、みんなだけ怒られるのも不公平なので、私も名乗り出ました」

「ユウカちゃん、いい子だねぇ……」


 ……いい子、ではないと思う。

 私が名乗り出なかったら、うちの生徒では三人だけが先生に怒られることになる。

 それでも、ハル君はきっと私を庇ってくれるんだろうけど、ナギサやホノカを見捨てて自分ひとり怒られないんじゃ、友達関係にもひびが入るかもしれない。これは保身だと思う。


 ……臆病者なんだ、私の本質は。

 私は、水の入った樽のジョッキに口をつけた。


 そう、ずっと臆病だったから、私は――




「ところで、ユウカちゃんは……ハルト君のこと好きなんだよね?」

「!」


 私は、飲んでいたお冷を気管に入れてしまい、軽くむせてしまった。


「……あっ、ごめんね水飲んでる時に」

「…………」


 私は、口元を拭って、涙ぐんだ眼を彼女に向けた。

 核心を突かれて怯んでしまったけれど……そもそも、カナコさんが私の手伝いを認めてくれたのは、おそらく、私の想いを察して、気を回してくれたからだ。不思議でも何でもない。


「……はい」

「そっか。それで、彼と一緒にダンジョンを巡ったり、助けてあげたいって……そういう感じ?」

「…………」


 私は口を噤む。


 ……そういった気持ちがないわけではない。

 けれど、私の動機はもっと不純だ。


 ハル君に振り向いてもらうために。

 不変の運命を捻じ曲げるために。


 私は「願望機(ホープジェム)」を求めている。




 それは、このダンジョンにあるのかもわからない。


 たどり着けるかもわからない。


 それでも、私は、いつかそれにたどり着くために、カナコさんを手伝い、知識を、力を、情報を、集めようと考えている。


「……近づきたいのなら、本人に『一緒にダンジョンに行こう』って言えば良いと思うけど、それじゃ駄目なの?」

「…………」


 ……それは難しいと思う。

 ハル君は、私をダンジョンで危険な目に合せたと後悔している。きっと、私をダンジョンから遠ざけたい気持ちの方が強いはずだ。


 ……大事にしてもらえていることには、嬉しさもある。

 けれど、そこに甘んじていては、私は彼のいる場所に、いつまでもたどり着けない。


 彼に甘えず、ダンジョンでも物怖じしない勇気と強さを。

 そして、彼が女性と恋をするための「前提」を。

 私の手で、手に入れなくちゃならない。




「恋に思い悩んだり、がむしゃらに頑張るのは、若い子の特権だよね」


 カナコさんは、ちぎった堅パンを口に含み、それに合わせて口に含んだ水で、やわらかくして流し込む。


「……でも、対話は放棄しちゃダメだよ。いくら頑張っても、尽くしても、誰かを『好き』って気持ちは、そう簡単には伝わらない。誤った道を一人で走って、かえって遠ざかることもあるの」

「…………」


 カナコさんは、水の入った樽ジョッキを揺らしながら、ため息をついた。


「ミツ君も、全然鈍くてね。結婚までこぎつけるまで、何度ヤキモキしたことか……ってね。それに……」


 カナコさんは少し考え、口を開いた。


「カズヒロさん……ハルト君のもう一人のおじさんもね。レイチェルさんと結ばれるまで、色んな過程で負い目を感じてて、彼女を護らなきゃって思いで一杯一杯でね。彼女からハッキリ『好き』と言われるまで、前に進むこともできなかったの」

「…………」


 ……「レイチェルさん」も、なんだ。

 私にとって、ハル君の愛を一身に受けているあの人も、その恋の道のりは平坦じゃなく、勇気を出して、大好きな人と結ばれたんだ。


 ………………


「……口にせずに伝えられることなんて、少ないの。だから……大好きな人に見合う自分になろうって気持ちは素敵だけど、最後に必要になる勇気は『自分の気持ちに素直になること』って、胸に留めておいてね」

「……はい」


 カナコさんは、にっこりと笑い頷いた。


「あはは……若い子に偉そうにアドバイスとか、私もオバさんになっちゃったなぁ……」


 ――勇気。


 自分の想いを、偽らず伝える勇気。

 きっと、今の私に一番足りないものは、間違いなくそれなんだ。



* * *



 ――探索から帰った、その夜。

 ――私は、ベッドの中でひとり、遠い過去を思い出していた。

 ――記憶の奥底にしまい込んで、向き合うことから逃げていた負い目。

 ――臆病にも、ていよく忘れたふりをしていた「あの記憶」。




 「あの日」。


 「あの場所」で。


 言い放った「あの言葉」を。


 ハル君を傷つけた「あの言葉」を。


 私は……、ちゃんと、謝れるのかな。


 私は、勇気で「過去」を、変えられるのかな。




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