表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】実家住みおじさん、私道のど真ん中に湧いた邪魔なダンジョンと配信者どもをヘッドショットでぶっ潰す  作者: CarasOhmi
【番外編2】実家住みおじさんの甥、幼馴染ギャルとダンジョンに潜り、こじれたケモノ性癖の矯正を目指す
80/96

#21 ドキドキ♡乙女ブリッヂ

 恐ろしい殺人鬼による仲間の蹂躙。

 ハル君の救援により、その危機が去ったことで、緊張の糸が切れた私は、溶岩の洞窟で彼に抱きついて、ただただ泣いていた。


 ……やがて、落ち着きを取り戻した私は、彼に連れられる形で、再び石畳の遺跡へと歩き出した。


 ひんやりとした地下の空気。溶岩の地底湖が広がっていた、先の洞窟からの寒暖差で、私は軽く身震いをした。

 ……髑髏の殺人鬼に追われている時は、ずっと走り続けていたので感じなかったけれど、この遺跡の中はひんやりとした空気が漂っている。

 その静けさは、反射的な身震いは、改めて、先の見通せない、この「ダンジョン」という、現実から隔絶された仄暗い空間への恐怖を呼び起こす。


 ――もし、また、あんな恐ろしい敵が現れたら?


 足取りが重くなり、身体が、小刻みに震える。




 ――私を振り返ったハル君が、手元の小箱から取り出した深緑のローブを、ふわっと空中に広げ、私に羽織らせた。


「……気付かなくてごめん、寒いよね。僕の予備だけど、良かったら羽織って。対刃性能もあるから、万が一の事態にも備えられるから」

「…………」

「はは……。サイズ、扇さんにも丁度いいね。僕、その、背が低いから……」


 空気の抵抗で広がっていたローブは、肩にかけられたように、真下に垂れる。落ちないようにと、私が袖を通そうとした時、指先が彼の手に一瞬触れた。


 彼は、私と同じ深緑のマントを翻し、私に背を向けた。

 ……気がつけば、私は彼を繋ぎとめるように、その左手を、ぎゅっと、握っていた。


「……あっ」


 意外そうに私の顔を見た彼の表情をみて、私は、はたと我に返った。

 少し間を置いて、彼は優しい笑みを浮かべ、私の手を握り返した。


「……うん、いいよ。まだ怖いもんね。しばらく、手を繋いでよう」

「…………」

「大丈夫、無事に帰れるよ」


 掌に、彼の体温が伝わる。

 脈が、どくん、どくんと、少しずつ、早まっていく。


 ………………


 ………………………………


 ……この状況で、私は、何を考えてるんだろう。

 危険が全て去ったわけでも無いのに、ハル君に迷惑をかけているのに、私は、すっかり色恋に浮かれている。



 ……けれど。


 これまで、私がハル君に抱いていたのは、彼の、やさしく、落ち着いていて、そばに居て安心できる、そういう穏やかさへの憧れだった。

 決して、激しく情熱的な恋愛を求めていたわけではなく、年老いた老夫婦のような、笑顔を交わし合う、穏やかな愛のような、そんな関係を望んでいたはずだ。


 今の私は、高鳴る鼓動が、まるで耳に聞こえてくるように感じている。

 それは、恋を育むことへの「恥じらい」によるもの……だけではない。


 彼の見せた、自分の大事にしている人を守るためなら、「暴力」や、「卑劣」すらも厭わない、危うさすらも感じさせる「強さ」に……私は、これまでにない、ドキドキを感じていた。



 ハル君は、他人を傷つけるために、暴言や暴力を用いる人では、決してない。

 私の身を案じ、保護に動き、やさしい言葉をかけてくれる、そんな子だ。


 けれど、そんな彼の見せた別の一面。手段を択ばず「守護(まも)ってもらえる」、その頼もしさに、スリリングな彼の一面に、私は、間違いなく、魅了されていた。

 先程まで殺人鬼の闊歩していた、この暗い迷宮を進む不安を、ハル君への想いは塗りつぶしていた。不安しかないはずの旅路すらも、ある種の青春の冒険物語のように、私の脳は「色」を付けてしまっていた。




 ……あからさまな「吊り橋効果」。

 ナギサやホノカが望んだ、肝試し的な冒険企画。


 解かっていながらも。不謹慎だと思いながらも。

 まんまとやられてしまった、そんな私は。

 もしかすると、自分が思っている以上に……


 バカな子……なのかもしれないなぁ。



* * *



「きゃっ!?」


 彼の後ろに着いて歩く、浮かれ気味の私の前に現れたのは、全身を茶色い体毛に覆われた、垂れた耳を持つ一メートルほどの背丈の人影。

 見た所三人の集団で、服の上には鎧を着こみ、ショートソードを携えている。


 ……第二層の露店でも見かけた、現住部族「コボルト」だ。


「ッッッ!!」

「……〇×◆◆◇♨ッ!」


 ただ、その対応は上の階のコボルトたちとは違う。決して友好的な振る舞いではなく、彼らは剣を抜き、こちらを警戒している。

 私も、浮ついた気持ちはすぐに引っ込み、ハル君の顔を見た。

 彼は、武器を手に取ることなく両手を上げ、掌を見せながら口を開いた。




「……◎◎×▼▼コボ?」

「!」

「……××●△□、〇◎『ゴブリンガル』?」


 ……ハル君の口から出たのは、聞いたことの無い未知の言葉。

 英語ではないと思う。しゃべり方はたどたどしくもあり、ニュースの一場面で見るような、ヨーロッパやアジアの言葉みたいな、そういう雰囲気も感じられない。


 ……もしかして、『コボルト語』?


 私の仮説は当たっていたようで、コボルトは顔を見合わせたかと思うと、こちらを向いて頷き、警戒を続けつつも、ハル君の行動を促した。


「……言葉、わかるの?」

「文法はわからないけど、単語レベルはね。遭遇した時に『敵意はない』って伝えられないと、暴力沙汰になるかもだしね……」


 ハル君は、小箱の中からタブレットを取り出した。

 ……この小箱、明らかに容量無視した荷物入ってるなぁ。ネコ型ロボットのアレみたい。


 そして、彼は「ゴブリンガル」と書かれたアプリをタップして起動する。そして、メニュー画面から「コボルト語」を選択し、画面を彼らに向け、マイクに向かって話し始めた。


「はじめまして、ダンジョン探索者の者です。こちらは危害を加えませんので、お話を聞いて頂けますと助かります」

『……兄さんは話す気はあるみたいだな。ちょっと前まで、髑髏の仮面付けたヤベェ人間の不審者がうろついてて、警戒してたんだが』


 ……さっきの髑髏の殺人鬼のことだろう。


「さっき、ボコボコにして溶岩に放り込んできました。もう安心して大丈夫ですよ」

『……本当かぁ?ウチの村の戦士数人がかりでも、何度も村に送還されたんだぜ?』

『会話する気があるのは良いけど、ヤツのお仲間じゃない保証もないしな……』


 どうやら、髑髏の殺人鬼はコボルトにも迷惑をかけていたようで、私たちが警戒されているのもそのためみたいだ。どこまでも迷惑な人だ。


 コボルトは怪訝そうな顔で、私の方も睨んだ。

 ……怯えの戻って来ていた私は、思わず身をすくませてしまった。


「彼女は友達で、第三層でパーティーごと髑髏の罠にかけられて、ここまで飛ばされてしまったんです。僕はそれを追って救援に来たんですが……ここは第何層ですか?」

『第六層だよ』

「うわっ、深いなぁ。HIMIZUさんに探索は頼めないし、帰り結構遅くなっちゃうかも……」


 ハル君は門限を心配しているみたい。余裕があるのかないのか……。


「……ん?」


 ハル君は、何かに気付いたようにポケットからスマホを取り出した。ちらっと見えた感じ、ツブヤイターのDMの通知が映っていた。送り主は、HIMIZUさんのようだ。


 ……一瞬、駐車場の砂利の上で正座させられてる、元髑髏仮面の男性の写真が映った気がしたけど、見なかったことにした。


「……ああ、もしかすると何とかなりそうかも。HIMIZUさん、僕の親戚のおじさん夫婦にも連絡とってたみたいで、上階から降りてくる形で合流できるかも」

「ファミレスで話した、実家ダンジョンの攻略の指揮をしたっていう?」

「ああ、『カズヒロおじさん』の方じゃないね。『ミツキおじさん』と、『カナコおばさん』っていう、母さんの弟さんとその奥さん。ふたりも、運動公園ダンジョンの方で……」


「!」


 コボルトの一団が、何かに気付いたようにざわめきだった。


『……カズヒロさんの知り合いなのか?』

「え、ええ。僕は『山神カズヒロ』の甥で……、あっ。そうだ、写真っと……」


 ハル君は、スマホで家族写真と思しき集合写真を表示し、彼らに見せた。


「ほら、ここの小さいのが僕です。二年前なんでまだ背は低いですけど……いや、今もか」


 ……そこが可愛いんだから、気にしなくていいのに。


 やがて、写真をじっくり見たコボルトは、表情を変えた……のかな?

 人間感覚だとわかりづらいけど、多分、笑顔になった……んだと思う。


『なんだい!それなら話は別だよ!兄さんのおじさんには、他のダンジョンのコボルトやゴブリンも世話になってるからね!』

『疑って悪いね!ほら、村まで案内するからさ!着いておいでよ!』

『大変だっただろう?……というか、髑髏野郎を倒したって話、本当なのかい!?お礼にご飯出すからさ、ゆっくり話を聞かせておくれよ!』


 すっかり上機嫌になったコボルトたちは、剣を収めて私たちに近づき、肩を叩く。

 ハル君にとっても意外な対応だったようで、彼も当初はきょとんとしていたが、やがてコボルトたちにお礼を言って、彼らについていく形でダンジョンを進むことに決めた。


 ハル君の親戚、顔が広いんだなぁ……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ