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【連載版】実家住みおじさん、私道のど真ん中に湧いた邪魔なダンジョンと配信者どもをヘッドショットでぶっ潰す  作者: CarasOhmi
【番外編2】実家住みおじさんの甥、幼馴染ギャルとダンジョンに潜り、こじれたケモノ性癖の矯正を目指す
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#20 くたばれ!リア充殺し

 僕は、抑えていた右手から手を放し、その場で立ち上がりました。


「……初心者をいたぶるあなたの目的から、僕の身動きを封じるのが初動だとわかりました。腕を伸ばせば、まずそこから狙うでしょうし、うずくまってしゃがみこんだら、あなたの方から近づいて来ざるを得ない」


 左を下にして倒れ込んだ髑髏仮面のPKに歩み寄りました。


「あなたが僕に歩き寄って来たのを確認して、遺跡の出入り口の『壁』に敷設した魔導地雷(マジカルマイン)を起爆しました。明暗差で視界がホワイトアウトして、注意が削がれるタイミングを見越して」


 僕は、彼を見下ろしながら続けました。


「地雷を設置した石畳の壁、その上に数ミリの間隔を開けて疑似壁魔法(ウォールデコイ)を乗せました。魔導探知(マジックソナー)は光学的に魔法陣トラップを見破る魔法なので、上から壁を被せれば隠蔽できます」


 ――髑髏の彼が、右腕を懐に入れるのと同時に、洞窟に銃声が響き渡りました。




 僕は、彼が落とした魔導猟銃(マジカルショットガン)を使って、彼の右肘を吹き飛ばしました。


「……っ!」


 続けて僕はスピンコックでリロードを行い、彼の左腕も吹き飛ばしました。そして、彼の懐から右腕の残骸を引き抜くと、その場に一本のスクロールが落ちました。


「やっぱり、再生魔法(リジェネレーション)のスクロールを持ってましたね。ありがたく使わせてもらいます」


 僕は、拾い上げたスクロールを起動しました。

 彼の銃撃によって吹き飛ばされた、僕の仮想身体の右手は、眩い輝きを放ちながら再生をはじめ、瞬く間に完治しました。


 僕はしゃがみ込み、四肢をもがれて抵抗不能になった彼を仰向けにひっくり返しました。

 そして、彼の顔を覆う髑髏の仮面を掴み、勢いよく引っぺがしました。




 ……彼の顔は、知り合いというわけではありません。


 ただ、一方的に、僕が知っているというだけの存在。

 それでも、僕にとっては、紛れもなく青春の一ページ。


「――戦術から、もしかしてって思ってましたが、やっぱりあなただったんですね」


 僕は、落胆し、ため息をつきました。


「……『もぐり屋JOLLY(ジョリー)』さん」

「………………」


 ……彼は、僕が小学生の頃に人気を博した、古参配信者でした。



* * *



 ――もぐり屋JOLLY。

 令和十九年現在、彼の名前を知っている配信ファンは少なく、彼の存在を知る者は、きっと「古参」の扱いを受けると思います。


 令和ダンジョン時代、配信という文化が勃興した黎明期に、彼はダンジョン配信中級者向けに技術紹介を行う、硬派なチャンネルとして人気になりました。

 その一方で、この時代はダンジョン配信の立ち位置が、マニアのための「ホビー」から、マスに向けた「エンターテイメント」に変わっていく、ターニングポイントとなる時期でもありました。


 それが良いことか悪いことか、簡単に論じることは難しいです。

 MOGURAさん達は、新たな時代に迎合した内容にシフトしつつも、芯をもってダンジョン探索という文化を発信するストリーマーでもありました。それは、当時の内向きなコンテンツに市民権を与え、一般リスナーにも一層の理解を深めさせました。

 その一方で、視聴者の感心としては、ストリーマーのビジュアルやトークに注目することが増え、アングラ的でディープな配信者は、徐々に存在感を失っていきます。


 小学生の頃、親に隠れながら見たダンジョン配信。

 背伸びをするように、学校のPCで友達と語らったあの頃。

 当時の僕にとって、未知に挑むダンジョン配信者は、サッカー選手や漫画家のような、憧れの「スター」でした。


 JOLLYさんはそんな中で消えて行ったストリーマーの一人。

 彼の失踪に寂しさを覚えつつも、僕はダンジョン配信の視聴を辞めず、彼の配信のバックナンバーを見て研究も続けました。


 ……僕に根付くダンジョン配信への関心。

 トークよりストイックな研鑽に憧れる僕の性質は、間違いなく、彼の影響が大きかったのです。


 彼の遺した活動の事績は、僕の血肉として流れ、引退した今も僕にとってはMOGURAさん達と同じスターの一人。

 だから、彼が配信から離れた今も、健やかに暮らしていて欲しいと、僕はそう望むばかりでした。



* * *



 彼は憎々し気に、僕の方を睨みます。


「……リア充のクソガキが」

「陰キャですよ、僕は」

「はっ!」


 信じてなさそうな表情です。思い込みの激しい人だな……。


「驚きました。……というよりガッカリですね。まさか、憧れの配信者がこんな稼業に身をやつしてたなんて」

「…………」


 彼は、僕の言葉に気まずさを誤魔化すかのような表情を浮かべつつも、それを振り払うように、早口でしゃべり出しました。


「……儲かんねぇ自己満を一生続けろってか?鬱屈とする気持ちを抱えて、気に入らねぇ連中の成功を、若造どもの青春を、見せつけられながら、何も上手くいかねぇ俺にエンタメを提供し続けろって?」

「…………」

「クソ喰らえ」


 彼の吐いた唾を、僕は靴をずらして回避しました。


「……もう、まともな配信者には戻らないんですか?」

「はっ、今さら御免だね。俺は俺のやりたいように……」


「……じゃあ、結構」


「っ!?」


 僕は彼の首筋を掴み、その上半身を持ち上げました


「……別にPvPが悪いとも言わないですし、つらくなったなら配信と距離を置くのだっていいと思いますよ」


 僕は、彼を引きずり、溶岩の方に、一歩、また一歩と歩いていきます。


「て、てめ……」

「それで、デビューしたての初心者をいじめて小遣い稼ぎ?ろくな武器を持たない女の子を、追いかけまわして怯えさせて高笑い?……本当『つまらない』人になったんですね。あなたは」


「!」


 向こうでは、浮上した「溶岩鰐獣ラーヴァ・クロコダイル」が、溶岩の上に両眼を出して、こちらの様子を窺っています。

 彼は、これから自分の身に何が起こるかを察したようで、顔面を蒼白にしていました。


「……何より、僕に親切にしてくれた、大事な友達をイジメた人に、かけられる言葉なんて、ひとつしかありませんよ」

「やっ……やめ……っ」


 僕は、彼の襟を持ち上げ、彼の瞳を見つめました。

 この人は、僕の少年時代、憧れのスターでした。

 けれど僕は、今の彼を許すことは、決してありません。


 僕は、深呼吸し、かつての憧れの存在に、最後の言葉をかけました。




「……二度と、やるんじゃねぇ」




 僕は、勢いをつけて、四肢を失った彼を、煮えたぎる溶岩の上に放り投げました。

 彼のローブは、溶岩に触れるよりも早く熱で燃え上がり、少しずつ、少しずつ、その仮想身体を焼いていきます。

 やがて、苦悶の表情で、両手足の残骸を動かし前に進もうとする彼に、溶岩鰐獣ラーヴァ・クロコダイルが近づいてきて……


 彼の身体は、ワニに噛み砕かれて光の粒子となり、地上に送還されていきました。

 彼の最後の姿を見届けて、僕は、深いため息をつきました。



* * *



 ………………


 ……恥ずかしい。


 PK髑髏こと、闇堕ちしたJOLLYさんを送還し、ひとまずの平和が訪れた今。

 ……僕の胸中に訪れたのは、安堵よりもまず羞恥心でした。


 憧れのスターへの失望。扇さんを傷つけた彼の行動への怒り。

 確かにそれは僕の本心でしたが、最後の言葉は三文芝居です。


 流石にもう、扇さんはダンジョンに潜ることはないとは思います。

 ですが、彼が再び同じようなことをして、怖い目に合う子供がいたらと思うと忍びない。


 そこで、釘を刺そうと思ったのですが……威圧感を出そうにも、僕みたいなチビじゃ、いささか役者が不足していることでしょう。

 ……カズヒロおじさんや、母さんのようにはいきません。


 正直、知り合いである扇さんの見てる前で、恥ずかしいことを口走ったなと、顔から火が出る思いです。もう一回、あのシーンだけやり直せないかな……。


「ハル君……」


 そんな胸中を知ってか知らずか、扇さんが声をかけました。僕は、恥ずかしさから少し視線を逸らし、俯いてしまいました。


「その、怖いことに巻き込んで……ごめん。帰りの魔法陣が無くなってるかもしれないって、伝えなかったことも、その……」


 僕が、そんな言い訳を零すなか、彼女は、涙を溜めながら、じっと、僕の方を見つめていました。

 ……何かを言いたげに。それでいて、何も言葉が出てこないかのように。


 僕は、ハッとしました。


 ……そうだ。


 凶器を持った不審者に追い回され、最後にはひとりになるまで取り残されたこと。

 張り詰めた恐怖が終わり、ようやく解放されたにもかかわらず、その実感が得られていない現状。


 ……僕が髑髏にすごんでみせたヘタクソな芝居もまた、極限状態の彼女にとっては、本当に恐ろしい言葉に聞こえたのかもしれません。

 彼女を巻き込んだ僕が言う言葉としては、いささかマッチポンプとも感じますが……それでも、今彼女のそばにいる者として、「もう大丈夫」と、彼女に伝えて、安心させなくてはなりません。


 僕は、彼女の前で片膝をついて、視線の高さを合わせました。


「……大丈夫、怖い人はいないから」

「…………」

「一緒に、地上に戻ろう?『ユウカちゃん』」

「!」


 思わず口をついたのは、小さい頃に彼女を呼んでいた呼び名。

 恐ろしい殺人鬼と殺し合いをして、卑怯な手段も迷わず使った、そんな自分としてではなくて。

 ここにいるのは、彼女と幼少期を共に過ごした「谷岡ハルト」であると、そう伝えるために。




 間を置かず、彼女は僕に抱きつきいてきました。

 一瞬困惑した僕でしたが、耳の後ろから、ぐすっ……と、彼女のすすり泣く声が聞こえてきました。

 僕は、彼女の動揺が少しでも落ち着くようにと、その背中をそっとさすりました。


 オレンジ色の光の照らす広間。

 溶岩に潜っていく溶岩鰐獣ラーヴァ・クロコダイルを見送り、僕は彼女が落ち着くのを待ちました。


 ……数年間で、子供の頃とはすっかり変わってしまったと思っていた扇さん。

 けれど、何年かぶりに涙を零す彼女を見て、彼女はやっぱり「扇ユウカさん」のままだったんだと、僕は今さらながら、あらためて実感していました。




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― 新着の感想 ―
ハルト君無双完了。お疲れ様でした でも、これずっと配信してましたよね むふむふ・・・この後が楽しみです
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