表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】実家住みおじさん、私道のど真ん中に湧いた邪魔なダンジョンと配信者どもをヘッドショットでぶっ潰す  作者: CarasOhmi
【番外編2】実家住みおじさんの甥、幼馴染ギャルとダンジョンに潜り、こじれたケモノ性癖の矯正を目指す
76/96

#17 マジカル・ジェノサイド

 私たちは、溶岩の海に背を向けて、薄暗い石畳の通路へ、走る。走る。

 赤橙の光に慣れていた視界は、しばらく一面を真っ暗に飲み込むが、徐々に目が馴染んできて、薄暗い魔法の灯に照らされた、青暗い石造りの景色に変わっていく。


 逃げなきゃ。


 どこへ……?


 ……わからない。


 私たちはあてもなく、「髑髏の殺人鬼のいない方へ」、ただ、走る。走る。

 作戦も見通しもない。ただ、一秒でも、あの恐ろしい髑髏を、視界に入れなくて済むように。少しでも、恐ろしい目に合う瞬間を、先延ばしに出来るように。







 ――丁字路を前に、私たちは脚を止めた。


 ゆっくりと、これ見よがしに足を広げ、兵隊の行進のように。

 右の通路から歩き出てくる、黒い人影。


 その人影は、ゆっくりと、背筋を逸らしながら、ぐりんと、私たちの方を向き直る。


 その人影の頭には、樹脂製の髑髏。悪辣な笑顔で、笑っている。


「――――ッ!」

「な、なんで……」


 途中にいくつかの十字路はあった。

 それでも、真っすぐに走って逃げてきた私たちは、最短でこの通路を駆けてきた。髑髏に追い抜かれた事実はないのに、既に先回りして、そこにいた。

 

 ―― ケタケタ ケタケタ


「う、後ろ!曲がって……ッ!」


 真辺君の声を受けて、並びを反転する様に後ろを振り返り、彼を先頭にして私たちは直近の十字路を左に曲がり、道を変えて走り出す。

 そして、追っ手を撒くために、右折、左折、右折と、アミダのように進行方向を変え、その先へ――







「……!」


 いつのまにか、先頭を走っていたホノカが脚を止める。

 出会い頭には、仁王立ちする髑髏が待ち構え、ホノカの前に立って、暗い眼孔で彼女を見下ろし、嘲笑う。


 ―― ケタケタ ケタケタ 


「あ、ああ……」


 ホノカは、震えながら後ずさる。

 血の気の引いた私たちを見て、攻撃を仕掛けるでもなく、髑髏は、ただ、顔を振り、カスタネットのような笑い声をならす。


 ―― ケタケタ ケタケタ 





 ―― ケタケタ ケタケタ ケタケタ ケタケタ 


 ―― ケタケタ ケタケタ ケタケタ ケタケタ 





 ―― ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ

 ―― ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ

 ―― ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ

 ―― ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ





 広い通路で反響したその音は、まるで、何人もの、何十人もの、何百人もの髑髏が、この迷宮を徘徊しているかのように、その笑い声を響かせる。

 さながら時間が止まったように、あるいは走馬灯が駆け巡るように。無音の迷宮に、髑髏の笑い声がこだまする。


 ―― どこに逃げても、髑髏がいる。

 ―― 追い付かれて、殺される。


 その発想に捕らわれた私たちは、もはやすべての思考が蒸発していた。

 ただ震えながら、息が出来なくなるような閉塞感に襲われていた。







「……いや」


 髑髏に一番近いホノカが、絞り出すように、かすれた声を漏らした。


「い、いやああああぁぁぁっ!!」


 彼女は絶叫し、後ろを振り向いて走り出した。彼女はもう、私たちが視界に入っていないかのように、肩がぶつかるにも構わず、陸上部で鍛えた脚力、その全速力で、通路を駆けだしていた。

 私たちは、彼女の声と、ぶつかった肩の衝撃で我に返り、ホノカの背中を――





 ――瞬間、光とともに地面から生えてくる無数の槍。


 右太もも、左腕、腹、下腹部、右胸、左耳、左上腕……目の前を走っていたホノカの身体を、地面から竹のように生えてきた槍が、順々に貫いて、持ち上げていく。


 彼女は、足元から生えた槍衾で串刺しにされ、その体を宙に浮かべながら、身動きを止めた。


 そして、「奥から」歩いてきた髑髏が、彼女の身体を、鉄の槍ごと、鉈で斜めに両断した。地面に落ちる、彼女の半身と槍の残骸。


 髑髏は懐から大きなT字型のマシンガンを取り出す。

 そして、地に落ち、虚ろな瞳で虚空を眺めるホノカの上半身に、バラバラと音を立てながら断続的に銃弾を発射し、彼女の身体を完膚なきまでに破壊した。

 間を置くことなく、彼女の破片は、光の粒子となって、天井へと吸い込まれて、地上へと送還されていった。







「あ、あああぁぁぁぁぁっっっ!!」


 真辺君は、後ろを振り向いて駆け出した。

 私も、彼を追うために脚を――







 ――動かない。


 気付けば、私は銃撃の際に、恐怖のあまり、地べたに、ぺたんと、おしりをついてしまっていた。

 身体が動かない。息が出来ない。恐ろしい、恐ろしい、髑髏から、目が離せない。

 もう、終わる――







 ――髑髏は、後ろを振り向き、通路の奥に消えて行った。

 真辺君の逃げた方角とは逆方向。




 ――見逃された?

 ――なんで?




 そんな疑問は、すぐに解消された。

 通路の奥から、髑髏が、引き返してきたためだ。





 ――真辺君の、首を手に提げて。



 髑髏は、私の横に、彼の首を転がす。

 ごろりと転がる彼の視線が動き、私を見る。


 恐怖で潤んだ視線で、私を――




 直後、髑髏の投げたナイフが彼の頭頂部に突き刺さり、彼の身体は光の粒子となり地上へと送還されていった。







 ――もう、いや。怖い。怖くて、たまらない。

 こんな怪物のいる世界、一秒も居たくない。早く地上に帰りたい。

 そうだ、地上に帰れば今まで通り、なんてことの無い、平和な日常が……





 ……そのためには、この髑髏に殺されなくてはならない。楽に、殺してくれる?



 ……そんなことは、決してない。

 この髑髏の男には、良心も躊躇もない。子供をいたぶり、怯えさせて楽しむ、殺人鬼だ。



 髑髏が、ずいっと顔を近づけ、私の瞳を、暗い眼孔でのぞき込む。


 ひっ……と、声にならない声を出した私は、動かない身体でどうにか逃げようとした。

 両足を伸ばして地面を蹴り、身体をひねって、地面にへたり込んだおしりを動かし、どうにか、後ろに動こうとした。


 ……何秒もかけて、数センチ、数センチ、少しずつ後ずさる私。


 髑髏は、ずいっと一歩前に出て、私の数秒かけた距離に、すぐに追いついた。




 ―― ケタケタ ケタケタ ケタケタ ケタケタ 




 顎を鳴らして嘲笑う髑髏を見て、私は、もう、何もできないと悟った。

 もう、どこにも逃げられない。何もできない。


 誰も助けてくれない。


 一人で、この、恐ろしい髑髏に、私は、恐ろしい方法で、殺されて――




 嫌。


 やだ。


 助けて。誰か、助けて――――



 ――――髑髏が、


 ――――私の右手首を掴み、


 ――――中腰の姿勢で吊り下げて、


 ――――縦に長い流線形の鉈を


 ――――私の右腕に、


 ――――白く光ったその刃を

 


 ――――――――――――――――



 ――――――――



 ――――













「――――『ユウカちゃん』っ!!」




 その声を聞いて、私は一瞬の混乱の後、ぎゅっと瞑っていた眼を開けた。



 ――私を「そう」呼んでくれる子は、中学に入ってから長らくいなかった。

 聞き馴染みのない呼び名。けれど、まるでずっとそう呼ばれていたかのように、私の耳に、神経に、頭に、……そして心臓(こころ)に、はっきりとした「意識」を届けた。


 それは、さながらヒーローものの映画や漫画、あるいは昔話の英雄のように。

 オリーブグリーンのマントを翻した、私と同じぐらいの背丈の少年が。

 剣のような鉈で、私を掴んでいた髑髏の左腕を、肩付近から斬り落とした。



 私を掴む腕が落ち、落下した私が尻もちをつくのと同時に、その少年は髑髏をタックルで突き飛ばす。髑髏がよろめき、その体勢を立て直している間に、少年は、私の右手を、左手で握った。



「落ち着いて、深く、息をして……」



 語り掛ける声。薄く白い手袋越しに滲む、微かな体温。伝わってくる激しい鼓動。


 彼の「声」が、私を引き起こす力が、恐怖で霞がかかっていた意識を、はっきりと覚醒させる。


 ――立てる。歩ける。


 私が確信を得るのと、彼が空中に「缶」を投げたのは、同じタイミングだった。

 そして、そのラベルに書かれた魔法陣が輝くと同時に、さながら殺虫剤の燻煙のように、激しく白い煙を吐き出し、私たちの視界を包み込んだ。




 ……何も見えない白煙の中を、私たちは、走る。

 互いに握りしめた掌で、相手の存在を確かめながら。




 ――それでも、私は、彼が何者か、よく知っている。

 彼がどうして、ここに来たのかも……「来てくれた」のかも。


 頼まれてもいない中で、誰かのために、……私のために。


 悲しくて泣き出しそうな私を、助けに来てくれた。


 そんなことをする子を、私は、誰よりもよく知っている。





「ハル君」


 白い煙の向こう、揺れる小さな少年の背中。

 しばしの沈黙が流れた後、彼の声は、返ってきた。


「……久しぶりだね。扇さんから、そう呼ばれるの」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ