#13 道化芝居
鍔迫り合いから、髑髏の山刀を弾き俺は距離を取った。
加速魔法のかかった攻撃も、勘所でダミーの手榴弾で牽制されて防がれている。
……こいつが結構強いってのは実際のところなんだけど、俺って探索メインで対人想定の戦闘とか真面目にやってきてないから、心理戦とか駆け引きとか、正直苦手なんだよな。
ただ、今の俺の主たる目標は時間稼ぎだ。勝負を焦って送還されてしまったら本末転倒だし、拮抗さえしていればあの子たちが追い付かれることもない。
そして、そろそろあの子たちも入口の魔法陣のある場所にたどり着いた頃だろう。そろそろ、勝ちにせよ負けにせよ、決着所かもしれないな。
―――― ケタケタ ケタケタ
髑髏が音を鳴らして笑う。
……どういうギミックだ?
仮面の顎が可動式になってて、カスタネットみたいに鳴らしてるのかな?
よく見りゃ、顎鳴らすためにめっちゃヘドバンしてるんだよなぁ。
暗闇から出てきた不気味なドクロ仮面……ニュービーの高校生はビビり上がるだろうけど、俺からすりゃパペット芸みたいでマヌケで笑える。雰囲気出すのに全力じゃん。
「……キャラ作り、ちょっとスベってるよ?嫌がらせじゃなくて配信でもやりゃ愛嬌もあるのに。プライド高いんだね、キミ」
煽りを入れてやると、髑髏はヘドバンを辞めて、懐に手を入れた。銃撃を警戒した俺は懐の加速魔法スクロールに手をかけ、敵の出方を窺う。
――スマホ?
奴が取り出したのは、武器ではなく掌サイズの小さなスマホ。そこに映し出されたのは一面の壁と魔法陣の静止画。……いや、動画か?動きが無いからわからないな。
俺が不思議そうにその映像を眺めていると、壁の向こうから人影が、「高校生の一団」が駆け寄ってきた。
何故それが分かるか?……こちらから見た壁が「半透明」だと気づいたからだ。
「……っ!疑似壁魔法かっ!」
くっきりした輪郭とは裏腹にコントラストの低い単色の映像……暗視カメラがまばゆい光に包まれた。そして、「壁の向こうの魔法陣」がは光の余韻を残し、高校生たちをいずこかへ転送した。……それとは対照的に、カメラに映る「こちら側の魔法陣」は、沈黙を保つ。
……やられた。
疑似壁魔法は「壁の立体映像」をその場に投影する魔法だ。背後に隠れて敵襲をやり過ごすための幻影で、その壁は裏から見ると半透明だが、表からでは周囲の壁と区別がつかない。
この髑髏は、これを使って通路の行き止まりにある「本物の帰還魔法陣」の手前に、偽壁を作った。
そして、得体のしれない転移魔法陣を置き、大急ぎで帰還を目指す彼らを、どこかへ転送した。おそらく……より危険な深層や、奴の趣味を楽しむための拠点などだろう。
これを俺に見せつけるために、戦闘中にスマホ出したのか。本当に悪趣味な男だな。……一刻を争う自体はまだ終わらないな。
――決着をつけるか。
「魔機召喚魔法――っ!」
俺は、手元のスマートウォッチを操作し、髑髏に向けて掌を向ける。奴はびくりと体を震わせ、山刀を構える。
複数の魔法陣が空中に展開される。魔機召喚魔法はマジックアイテムの召喚魔法。その威力に応じてコストがかさむため、重火器なんかだと一個しか召喚できない。俺は魔法が得意ってわけでも無いので、低コストな奴を召還するようにしている。
「――魔導手斧 ×15……ッ!」
空中に出現した手斧が回転を始める。召喚と同時に発動する「仕込み」は、十五本の斧すべてに対し済ませてある。
俺は、掌を髑髏に向けて、魔法を発動した。
「投擲魔法!」
十五本の手斧が、高速回転しながら、順次髑髏に向けて射出される。髑髏は山刀を振るい、手斧を防ぐ。
……だが、この攻撃はMOGURAさんとのPvPで一矢報いるために作った対人戦闘の切り札だ。
どんな達人と言えども、加速魔法を使おうとも、その身のこなしには限界がある。重い攻撃を弾くには、硬直する時間も発生する。
ならば、事前準備した重量級の武器を順次ぶつけ、捌き切れない量の飽和攻撃をすれば、必ず崩れる。
この髑髏もその多分に漏れることはなかった。
奴は障壁魔法を発動し斧を防ぐも、最初の三つの斧で障壁は粉砕。
無防備となった奴の右ひじ、左肩、左わき腹、首筋に、斧の斬撃が入り、バランスを崩す。
そして最後の一本が奴の頭部を目掛け投擲される。しかし、奴はそれをしゃがんで回避した。
……いくつかの斧は足元の地面に刺さっている。腐っても上級者らしく、脚は守り抜いていたようだ。
だが、今のヤツは重傷だ。俺の剣で仕留め切れる。
こいつを送還し、一刻も早くあの子たちを助けに行く。
瞬間、奴はすさまじい速度でバックステップを踏み、俺から間合いを取った。加速魔法が掛かっているようだ。
そして、背後を振り返り、十字路を左に曲がり逃走する。このまま逃げおおせるつもりか。
「逃がさないぜ……っ!」
俺は、地面に突き刺さった斧を一本、左手で抜き、奴を追って十字路に差し掛かる。
曲がり角での奇襲反撃を警戒し、剣と斧を構えたまま進むが、奴は俺に背を向け一目散に逃走している。すでに距離は開いているが……これなら届く!
俺は、左足を踏み込み、右手に持ち替えた手斧を奴に向かって投擲した!一直線に飛来した斧が背中に突き刺さり、奴は地面に倒れ伏した。
……倒れた髑髏は動かないが、俺がやったように死んだふりの可能性も無くはない。再生魔法で回復されるのも厄介だ。ここで確実に仕留めて、送還すべきだろう。
俺は、倒れた奴にトドメを刺すべく、剣を片手に奴に駆け寄り――――
――背後からショットガンの銃撃を受け、両足を吹き飛ばされた。
* * *
仄暗い迷宮に轟く銃声と、虚空に浮かぶ硝煙。
俺の背後、陽炎のように揺らぎ、黒い人影が姿を現す。
……髑髏だ。不可視魔法で姿を消していたのか。
しかし、それなら俺が追いかけて行ったあの人影は……
そこで俺はようやくようやく気付いた。ゆったりしたローブを着ていたから目立たなかったが、逃げていった方の髑髏……あいつ、斬ったはずの両腕が復活してる。仮想身体の魔力漏出も起こっていない。なんで気付かなかったんだ。
あれは「人形」……「疑似傀儡魔法」の類だ。マネキンか風船かに……簡易的な疾走動作を割り当てる魔法。
奴が曲がり角を曲がった時に、魔機召喚魔法でこの人形を呼び出し、本人は不可視魔法で待機。俺が、透明になったヤツの横を通り過ぎ、背中を見せた辺りで再生魔法で回復。魔導散弾銃を取り出し、俺の両脚を吹き飛ばした。
奴は、ケタケタと笑い、俺を見下ろす。
……こいつ、マウント取るために脚を狙いやがったな。性根がひん曲がってる。
奴は、そのまま俺の頭に散弾銃の銃口を突きつけた。
……今日は、武装も最小限。落ちたらそのまま帰る予定だったから、予備の帰還の指輪も持ってきていない。
送還されてすぐに、あの子たちに追い着くのは無理だ。どうする……どうすれば……
頭の中で考えを巡らせる俺に、髑髏は満足げに笑みを見せた。
仮面に張り付いた動くことの無い笑顔は、俺にはそう見えた。
言葉を発さぬ頭蓋骨は、言外で俺に「ざまぁみろ」と吐き捨てるように、ゆっくりと、ねっとりと、散弾銃の引き金を、引いた――




