#12 しんがりエスケープ
……さて、どう戦ったものかな。
今明らかな敵の装備は、光星魔導工業製の魔導山刀と坊魔ローブ……他の装備品も光星製だとすると、魔導銃火器の装備も持ってる可能性あるな。初手から手榴弾だったし、銃火器でビルドしてる可能性はかなり高いと思う。
……ってのが装備品を誤認させるブラフって可能性もあるけど、リーチを考えると銃火器の装備は警戒した方がいいな。間合いを開けたら銃撃食らうかもしれない。
加えて、再生魔法を発動したあたり、多分スクロールも色々持ち込んでる可能性はあるか。未開拓領域で単独行動をしているあたり、モンスター対策も出来てるだろうし、それなりに場慣れはしてると思う。
……けど、髑髏の仮面で他の探索者ビビらせてるってあたり、多分イヤガラセ好きな厄介PKだな。
……となると、MOGURAさんのバトルスタイルを想定して戦うのがいいかも。流石に山神さん以外にPKでダル絡みはしない人だけど、PvP企画ではとにかく性格悪いプレイするから、あの人のやりそうな手口を想定して戦るか。
あとは、このPK髑髏の狙いだけど、俺に対するイヤガラセ……もやりたいのかもしれないけど、懸念すべきはこの子たち……高校生の一団への攻撃だな。
俺みたいなお調子者配信者も、まあ気に入らないんだろうけど、こういう性根の曲がった探索する奴が一番嫌うのって「リア充」だからなぁ……。俺との戦闘が長引いたり、隙を見せたら攻撃したり、人質に取ったりとかするかも。
……そうだな。ひとまずこの子たちは、第二階層まで逃がすか。俺も今日は装備少ないけど、この子たちが入り口の魔法陣に戻るまでの足止めぐらいならいけるだろう。
……帰還の指輪も安くなったとはいえ、魔力の最充填は小遣いでやるにも金はかかる。挑んで速攻帰還ってなると、流石に気の毒だ。
……そういや、俺もデビュー戦で地雷攻撃かまされたから、MOGURAさんの伝手で山神さん相手にゴネて、帰還の指輪二個分の充填費用出させたんだよな。懐かしい。
「よし、ショウ君とレン君。このPKは厄介だ。ここで俺が引き受けるから、いったん撤退して、安全地帯で待っててほしい」
「!」
「……キミらも戦いたいって気持ちはわかるけどね。この髑髏、多分銃持ってるんだよ。後衛の女子が撃たれるかもしれないのは……イヤだろ?」
俺は二人に視線を送る。彼らは黙って頷いた。
「よし。じゃあ、もと来た魔法陣を使って撤退して待っててほしい。それが終わったら、みんなでモンスター討伐でもやりに行こうか」
「……はい!」
彼らは後ろを振り向き、女子を促し元来た道を走り出す。同時に、髑髏は懐から拳銃を抜き構え、引き金を引く――!
「……ととっ!!」
俺は、後ろの子たちに当たる軌道の銃弾を三発、剣で切り弾いた。
両断された弾は石れんがの壁面に当たり、火花が散る。
「!」
「……へへ、倒れた時に加速魔法かけといたんだ。剣は使い慣れてるし、ゲーム配信の頃に反射神経や状況判断も鍛えてたから、やろうと思えば俺もトッププレイヤーの獅子辻さんの真似事出来るの」
「…………」
……時間限定ではあるけどね。
常時アクセルかかってる仮想身体を使ってまともに動けてるあの人は、ちょっと人間じゃない。
「ってなわけで、初心者狩りはここまで。ギャラリーが居ないのは寂しいけど……」
髑髏の山刀を、ロングソードで受ける。
「対戦よろしくお願いします」
* * *
――私たちは走った。
元来た道を戻り、安全地帯に向けて、ひたすらに走る。
私たちの歩いてきた経路にモンスターは居なかった。幸いにして、出会い頭でモンスターに出会ったりすることもなく、ただひたすらに、真っすぐ。
時々視界に入るスマホの配信画面には、HIMIZUさんの戦闘を映せとか、髑髏の敵に立ち向かえとか、そういった話が見え隠れする。
……けれど、私たちはそんなことは知ったことではなかった。
迫りくる危険な不審者。
身長から考えるに、髑髏の男性は、長大な刃物を、手榴弾を、拳銃を使い、私たちを殺そうとしていた。
……「仮想身体で死ぬことはない」。
私たちはそれを事前に知っていた。
私たちの身体はここになく、どれだけ致命的な外傷を負っても、それが原因で死ぬことはない。安全安心な探索。
……けれど、それは「知識」でしかない。
私たちは、私たちの前に現れた「武器を持った男」の凶行が、その場に存在する出来事として見えている。
頭で「本当のことではない」などと言っても、足に響く石造りの地面の硬さも、ざらざらとした壁の感触も、頬を伝う汗の乾く冷たさも……その全ては「現実」としか思えなかった。
――死にたくない。それは、本能の発露だった。
私たちは、HIMIZUさんが髑髏の男と戦って持ちこたえている今、一刻でも早く帰還の魔法陣にたどり着かなきゃと、全力で走り続けていた。
「……はぁ、はぁ」
「あった、最初の魔法陣……」
先頭で立ち止まるホノカに追い着いて、私たちは脚を止める。
この先は袋小路。その突き当りに、観光開発されていた第二層とつながる、転移の魔法陣がある。
……私たちは、安堵のため息を漏らした。
助かった……。いや、まだこの先も、ダンジョンの中ではある。
それでも、この先には他の観光客も沢山いる。いくら凶悪な探索者でも、そんな衆目の場で私たちに襲い掛かることはしないはず。
涙で滲む視界を袖で拭い、私は四人を追って魔法陣に歩いていく。
一人、また一人と、魔法陣に乗った仲間たちは、その体を光の粒子に変え、「転送」されていく。
最後に残った私も、肩を上下させて、切らした息を整えた。
……こんな怖いこと、もう沢山だよ。
世間で人気の趣味とは言っても、合わないものはどこまでも合わないもの。人によって適度な距離は違う。
私は、通路の行き止まりに向けて、足を進めていく。
――ふと、ハル君の顔が脳裏に浮かぶ。
……このダンジョンに挑んだのは私の自己責任だし、止めなかったのも、ついていくことを決めたのも私。ハル君を悪く言うつもりはないし、責任を求めようとも思わない。
ハル君は、決して「ダンジョン探索」だけの人じゃない。真面目で気遣いも出来る、他人に優しい、魅力的な男の子だ。
……でも、彼が本気で取り組んでいることのひとつが、この世界だった。私は、その世界を奥に進むことはできなかった。
せっかく歩み寄れたと思ったのが、また振出しに戻ってしまったこと。怖い記憶だけ刻まれてしまったこと。
私は、悲しい気持ちになりながら、足を前に進めていき……魔法陣の上に乗った。
魔法陣が輝き、私の身体が光の粒子に変わる。
そして、散らばった粒子は急加速し、私たちを目的地に向けて転送した。
元来たはずの第二層ではなく、階下へ――――




