#11 HIMIZUとニュービー
「ハイ、どーも!ダンジョン掘り掘り、HIMIZUでーす!今回は、ダンジョン初心者の高校生に案内ってことでね!東川郷の駐車場ダンジョンに来ています!チャンネル登録よろしくねー!……って、俺のチャンネルじゃなかったね。ごめんなさーい!」
俺の名前はHIMIZU。
二年前までゲーム配信メインでやっていたけれど、なんやかんやでダンジョン配信を主戦場に移した動画配信者だ。
現実でもダンジョン攻略できるなんて、楽しい世界になったよな!……なんてウキウキだった頃が、もう懐かしいなぁ。
いや、今でもダンジョン配信は好きだけどね。
さて、それで今俺が何をしてるかっていうと、東川郷ダンジョンの未探索領域の下調べ……の予定だったんだけど、ちょっとアクシデントというか、予定が変わっちゃったわけで。
誰も見つけて無いだろうなとは踏んでいたけど、思いの外情報が早かったのか、あるいは最近の子の嗅覚が鋭いのか、ただの偶然か。
マイペースに軽い探索をしていた俺は、男女五人の高校生の一団と鉢合わせしてしまった。多分、ハルト君と同じぐらいの年頃かな。
MOGURAさん達とサプライズ探索企画を練っていた俺としては、通りすがりの探索者ってことで、軽く挨拶して離れようかと思ってたんだけど……
「うわっ……誰……あっ!HIMIZUだっ!」
「えっ……うわっ本当だ!初めてナマで見た!」
初手でバレた上、後ろの女の子はスマホでカメラを回していた。どうやら、生配信中のようだ。……秘密の下調べはご破算かぁ。
企画倒れに凹んでる俺だったけど、ここはファンサに努める方針に。つっけんどんにして印象落とすより、ここは切り替えるところだね。
何より、彼らの装備品。剣と杖……いや、別に悪くはないんだけど、このあたりって上級者向けの装備というか、まだお金ない学生って、こういう「いかにも」な武器を最初に買って、爆死するのが常なんだよね。……デビュー直後のトラウマが蘇るなぁ。
放っておいても即送還食らうだろうなとは思いつつ、まあこれがトラウマになってダンジョンに苦手意識を持っちゃいそうだ。
ここは先輩探索者として軽い護衛をしてあげようか……と思ったけど、この年頃だと「いや、自分たちだけでやりたいんで!」って断っちゃうだろうなぁ。見たところ、女の子連れみたいだし見栄も張りたいだろうしね。
「……さっき、ショウが見かけた人影って、この人だったのかな」
「あー、多分そうだろうね」
ああ、俺の油断で巻き込んじゃったのか。こりゃ反省だし、責任もあるな。
……とまあ、そんなわけで、
「よかったら、君らのチャンネルでコラボ撮影するかい?」
「……ええっ!?いいんすかっ!?」
「是非っ!!」
彼らに「有名配信者のHIMIZUとコラボ配信」をチラつかせた所、思った通り承諾してくれた。……まあ、実態は護衛で、言い換えだ。
自分で言うのもなんだけど、今だとチャンネル規模はかなり大きくなってるしね。「護ってもらう」より「躍進のチャンス!」って方がノッてきやすいもんだし。俺もそうだったしね。
あと、なんか後ろの撮影役の子、物音にビビってキョロキョロしてて、付き合いで参加してるっぽくて、ちょっと可哀そうなんだよな……。
……いや、「どしたん?話聞こうか?」みたいな不埒な目線じゃないよ?この子たち未成年だからね?
良い子も楽しめるHIMIZU―TVは、コンプラには厳しいの。大人を舐めるなよ。
女癖悪いMOGURAさんのせいでちょっとイメージ引っ張られるけど、彼だってそういう条例に引っかかるような真似はしないしね。
「あっ、コメントついてる」
撮影役の女の子の声を聞いて、女子二人が画面をのぞき込む。
> 爆死実況者のエントリーだ!
> ヒミズは爆発四散!サヨナラ!
> ニュービーのチャンネルで美味しい所持ってこうとする配信者の屑
ひっでぇな……なんか、夢見る高校生配信者のチャンネル乗っ取ったみたいで、申し訳ない気分になるよ。
一方で、当の男子たちは、俺に探索関連の話題を振ってて、ノウハウを知ろうと積極的だ。
うん、ひとまずは安全そうな範囲をうろついて、送還されない範囲でモンスターと戦らせてあげるか。
> 爆死期待w
……もうそういうのは良いんだって。ネタでキャラ付けできたのは悪くないけど、デビューからそればっかじゃん。真面目な探索も楽しんでくれよ。
第一、高校生の前で古参気取って死んだら、完全にマヌケじゃん。頼れる先輩気取らせてくれよ。
俺だってもう三年目だし……そりゃ上位勢と比べりゃテクニックも装備もまだまだだけど、低階層でやられたんじゃ、恥ずかしくてやってらんないよ。
……さ、行くか。
リスナーのみんな、この子らのチャンネルも良かったら登録してやってね。
彼らの初探索……きっと「伝説の始まりだ!」って気分で盛り上がってるんだから、応援してやってくれよな。
――――――石畳に、カランカランと、落下した金属の音が響く。
足元に、パイナップルのような格子状のくぼみが刻まれた、手のひら大の塊が転がっている。
魔導手榴弾――っ!?
俺は、咄嗟にその金属塊を蹴り、振り返りざまに高校生の男子二人を突き飛ばす。
瞬間、足元で炸裂した激しい爆炎が、薄暗い通路を照らし出した。
* * *
一瞬の閃光に目がくらんだ視界が、元に戻る。
先導したHIMIZUさんが、突如身を翻して男子二人を突き飛ばした。それと同時に、轟音と爆炎が広がって……その後、どうなった?
私は、目をこすって前を見る。たじろぐホノカとナギサ。尻もちをついて呆然とする、園崎君と真辺君。
そして――――
――――うつ伏せに倒れるHIMIZUさんと、土煙の中から現れる、黒い人影。
HIMIZUさんは微動だにせず、倒れ伏せる。黒い人影は彼を見下ろし、その胴体を足蹴にし、横たわった身体を揺らす。
私たちが呆然とする中、HIMIZUさんの身体は動かず、光の粒子を出し始めた。「送還」が、始まった――
黒い人影は動きを止め、私たちに向かってその顔を上げた。
――――髑髏だ。
もっとも、本物の頭蓋骨ではない。黒い布の被り物に、白い樹脂製の髑髏が張り付けられた、仮装用のマスクだろう。モンスターの類ではない。
けれど、目の前で起こった凶行を前に、私たちは、その髑髏が、さながら本物の死神であるかのように見え、恐怖と混乱で、身体をこわばらせ、固まっていた。
髑髏は、ケタケタと顎を動かす。
光の加減か、元よりそういう造形なのか……、その暗い眼孔は、こちらを嘲笑うように、三日月のように歪んでいた。
黒装束の髑髏が、腰の鉈に手をかける。
そして、恐慌状態に陥った私たちに、
一歩、
また一歩と――――
「――――隙ありッ!!」
突如ダンジョンに響く声。走る一閃。
黒装束の髑髏は、背後からの声に振り向くと同時に、HIMIZUさんのロングソードで、山刀を持った右手を斬り飛ばされた。
返す刀で斬り下ろすHIMIZUさんの追撃を、髑髏はサイドステップで回避し、黒いローブを切り裂かれながら、彼に向かい合った。
「HIMIZUさん……っ!?」
我に返った私たちは、彼に視線を戻した。彼の身体から出ていた光の粒子は、すっかり止まっている。
「……はは、悪ガキどもに爆弾で悪戯されることが多い身の上だからね。コント以外の用途の仮想身体は、爆破耐性強めにカスタムしてるの」
彼の左手のひらには切り傷が走り、微かに魔力の光が漏れている。
「死んだふり戦法は……ちょっとズルいからカメラ回ってる所ではしない信条だったんだけど……ま、緊急時だしね」
彼は、羽織ったローブを引きちぎり、掌に巻き付け、光の漏出を止めた。
……そうか。HIMIZUさんは、自分で掌を切って、うつ伏せになって「身体にダメージが入った」と見せかけていたんだ。
「…………」
「普段は探索メインで、野良PKとか相手したりはしないんだけどさ……」
そう言ってHIMIZUさんは私たちを振り返る。
ハッとした男子は、剣や杖に体重を預け、立ち上がった。
「今回は初心者連れだしね。始めたばっかの子がトラウマになって、界隈が委縮するのは面白くないよね」
「…………」
髑髏は、無言のまま切断された右腕をあげる。それと同時に、魔法陣が展開され、失われた手首が「生えてきた」。
「再生魔法かぁ……。結構装備整えて挑んでるみたいだけど、上級者が初心者イジメるなよなぁ……」
「…………」
「…………」
沈黙。HIMIZUさんは髑髏に向かい、剣を構える。
> 爆死回避…だと…?
> 今日は若手の前で調子乗ってんなw
> 爆死系 vs 初心者狩り……ファイッ!!
「……じゃ、いい所見せるぞ~~~~!!」
動画のコメントが流れる中、HIMIZUさんは、髑髏に剣を振り下ろした。




