#2 ブラック・ヒストリカ
実家に帰還して早々のことだ。
ローブのフードを外したレイチェルさんの顔を見て、おふくろの怪訝な目は急激に緩んだ。
「あら……あら~~~~っ♥か、かわいい~~ッッッ♥」
「やめろ、おふくろ!怖がってんだろうが!猫じゃねえんだぞ!」
おふくろは、目の色と声の色をかえて彼女に抱き着き、頭を撫で回し、頬ずりを始めた。
ざけんな。男がやったらセクハラになるっつーか、女がやっても十分ハラスメントなんだよ。初対面の相手に取る行動としてはマイナス一万点だ。俺はおふくろを引っぺがした。
「……オカン、カズの言うとおりだよ。知らない人にいきなり抱き着いちゃダメ」
「あっ……ごめんなさい。怖がらせちゃったわね……怖い人はいないから、安心していいのよ?」
「……怖い人はてめェだよ。反省しろ、妖怪ババァが」
……俺に悪態をつかれ、おふくろはレイチェルさんを居間に案内しつつ、後ろ足で俺のすねを蹴った。俺も、怪我をしない程度におふくろのふくらはぎに、爪先で蹴りを返した。年寄りだからって何しても許されると思うなよ。
* * *
「そうかぁ、大変な目にあったんだねぇ……」
「うっ……うっ……」
居間で飯を食い終えて、ミツキやハルトと話しながら涙を流す者がいた。
――ダンジョンの最奥部で対峙した眼帯マントの坊主だ。
大規模テロ未遂はとても擁護出来ることではないが、奴の過去は同情に値するものだった。イキったクラスの悪ガキどもに囲まれ、殴られ、恥をかかされ……「よくある」いじめではあるが、よくあることだからこそ、その切実さも身につまされる。
昨今、イキったガキどものいじめの対象は、ダンジョンに湧くゴブリンどもに移りがちだったわけだが、それでも悪ガキどもは、「自分により近い弱者」をいじめたいと考えるものだ。
俺も、コイツほどじゃないがガキの頃は図に乗ったクソガキどもに舐めた真似をされたことがある。幸いにして、その後は体格がデカくなって、運動部に入ったあたりから、舐めた真似はされなくなったが。情けねぇ奴らだ。生きてて恥ずかしくねーのかな。
「……まあ、なんだ。誰も彼もお前の敵ってわけじゃねーんだ。ちゃんと話せば友達になれるかもしれない奴を、一緒くたにぶっ殺すのは、勿体ねーだろ?」
「………………」
眼帯マントは俯いて目をこする。
「ほれ、ダンジョン配信だって最近流行りなんだし、ガーディアン倒したお前なら、応援してくれるヤツも多いと思うぜ?……私有地には許可取って入るべきだがな」
「それなら、公共施設に湧いたダンジョンとかもいいよね。最近は探索レースとか、ガーディアン討伐のタイムを競う競技ダンジョンもあるんだって」
ハル坊はタブレットでブラウザを開いた。自治体のサイトにダンジョンの写真が載っている。マッピングも公開しているみたいで、公民館や運動公園の趣だ。
「へえ、スポーツ庁の認可ダンジョンの所在地についてまとめたマップもあるんだ。町興しとかに使ってる自治体もあるんだね」
「おお、夏祭りではゴブリンが出店開いてるのか。いいイベントじゃん。……みんなそっちでやってくれりゃ助かったんだがな……」
「そこはまあ、クライミングとボルダリングの違いみたいな感じかなぁ……」
「人の私有地でクライミングすんなよな……」
俺たちは、居間のテレビにミラーリングしたハル坊のタブレットの映像を眺めて感心していた。いつの間にか眼帯マントも結構乗り気になってハル坊に色々聞いている。さっき、ハル坊やミツキと、ツブヤイターのアカウントも交換していた。「@DarknessBlade9696」の「†漆黒葬刃† 黒栖」だったっけか。
……大学生でこのセンスは心配だが、まあ、もうこいつは大丈夫だろう。
「……ってか、カズヒロおじさん、ツブヤイターやってないの?連絡にも便利じゃん」
「仕事の営業用の本名アカウントは作ってるけど、つぶやきはしないな。照会されたら住所バレるし」
「リテラシー高いね」
「カズ兄、高校生の頃にイキって炎上してね……カズ兄にちょっかい出して返り討ちにあってた子たちが、仕返しにって匿名アカで煽って、晒し上げてたの」
「うわ……」
「お気の毒に……」
眼帯マントからも、ガチ目の同情の視線を受ける。なんで俺が気を使われてんだ。
……人生の成長痛ってのは、思い返しても痛々しいもんだよな。
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