#4 ドン引きアドベンチャー
「……扇さん、話ってなに?」
「…………」
私は、ハル君を体育館の裏に呼び出した。……シチュエーション的に告白っぽいけど、そうじゃない。
……先日のナギサとホノカの指摘もあって、傍目にはカツアゲをしてるみたいに見えるのかと不安になる。
……怖がられて、無いよね?
「これ……」
「……!」
私は、先日ナギサの彼氏が見ていた配信画面をスマホに映して、ハル君に見せた。配信者のMOGURAに詰め寄られ、カメラがぐるぐると回り、撮影者の顔を映してしまった、その一瞬。
「……これ、ハルトだよね?」
「……な、なんのこと?」
「配信日に予定が重なったこととか……、ハンドルネームも『ハルト』の名前からとったものでしょ」
「…………」
「カラオケに来てた子が見せてくれて気付いたの。うちの学校、ダンジョン探索には、結構厳しかったと思うんだけど……」
「そ、それは……」
「…………」
ハル君の目が泳ぐ。
……しまった。
圧をかけてるみたいになってる。
……別に、脅しをかけてるわけじゃない。
ただ、本人かどうか、許可を取らなくて大丈夫なのか、確認したくて、人目につかない所に呼び出しただけなのに……。
彼の前では、どうしても、言うべき言葉と、出てくる言葉とが、噛み合わない……。
「……おねがい、扇さんっ!この事は他の人には漏らさないで……!学校から許可下りないと思って、秘密でやってるアルバイトなんだ……」
「えっ……」
「なんでも……言うこと聞くから……!どうか、このことは内密に……」
……あれ?
今、私、ハル君の弱みを握ってる?
「何でも」……言うこと聞いてくれる?
………………
………………
いけない、今、すごく邪なことを考えてる……。
これじゃ本当に、カツアゲしてるのと何も変わらない……誤解を解かなきゃ……。
「……じゃあ、私にも、詳しく教えてくれる?」
「えっと……何を……?」
「その、『ダンジョン配信』について……」
……苦し紛れではあった。
今世間で流行している「ダンジョン配信」について、私はこれと言って興味を持っているわけではない。
けれど、「弱みを握ってゆすっている」よりは、「配信自体に興味がある」とした方が、ハル君の安心に繋がるだろう、という考えだ。
その思惑は的中した。
……というよりも、先程まで緊迫していた彼の表情は、一転して明るいものになっていた。
「扇さんも、ダンジョン配信に興味あるの!?」
ハル君の表情は、さながら新しいゲームを買った友人の家に招かれた少年のように、キラキラと目を輝かせながら、無邪気な笑顔を浮かべていた。
彼のこんな笑顔を見るのは、何年ぶりだろう。思わず私の顔も綻びかけて、気恥ずかしくなり口元を隠す。
「まあ、その、カラオケの時に、みんな知ってたから、ちょっとだけ……ね」
「そっか、学校では話せる友達がいなくてさ……。うん、じゃあ、こんな所でもなんだし、都合よかったらだけど、ファミレスとかでゆっくり話す?」
「……!……う、うん!」
実際は、彼の思っているように興味津々というわけではなかった
けれど、成り行きで興味を持つということもあるし、何より彼の好きなものを知ることで、理解が深まり、関係を親密に出来るかもしれない。
――棚からぼたもち。
思いもよらないチャンスだったけど、今回こそは取りこぼさないようにしないと。
* * *
放課後、私とハル君は珍しく一緒に下校し、最寄り駅の近くにあるイタリアンのチェーンのレストランに向かった。
高校の最寄り駅ではないのは、学校の関係者に見つからないようにということにしたけれど、単純に同じ学校の子にからかわれたくなかったからだ。……いや、実家の近くでも知り合いに会う可能性はあるんだけど。
会計はハル君が持つと譲らず、もしかして男らしさを見せようとしているのかとドキリとしたけれど「黙っててくれるお礼」とのこと。
……「口止め料」であると察して少しガッカリしたが、それでも彼と一緒に寄り食いというのは、ずっと足踏みしていた関係を一歩進められるようで、私の気持ちは高揚していた。
私たちは、ドリンクバーとデザートを頼み、飲み物をもってテーブルで向かい合った。
……小学校の給食以来かな、正面に座って話すの。今日は、どんな話ができるんだろ。楽しみだな。
「じゃあ、順を追ってってことで……MOGURAさんと僕の関係について、簡単に説明するね?」
「うん」
「二年前の三月頃だったかな……?僕の母さんの実家の敷地にダンジョンが湧いてね。MOGURAさんはそこに不法侵入して、伯父さんにショットガンで頭を吹き飛ばされたんだ」
「……うん?」
* * *
……頭の痛くなる世界だった。
不法侵入、無断撮影、銃や刃物を使った暴力の応酬……ここ、現代日本だよね?
あの大人しくて優しいハル君がこんな世界に首を突っ込んでいたなんて……ちょっと……いや、大分意外だ。
「あっ、ごめん……僕ばっかり一方的に話して……というか、バイオレンス過ぎるし、もうちょっと、話す内容選んだ方が良かったね……」
私が難しい顔をしているのを見て、ハル君はフォローに入った。
いや、引いてるわけではないけど……私、今のハル君のこと、何も知らなかったんだなぁと、しみじみ感じた。私の中でのハル君のイメージは、小学生の無垢なヒーローから動いていなかったんだろう。
なんだか、自分が夢見る女子小学生から成長していなかったと突きつけられたようで、気恥ずかしい気持ちだ。
「……まあ、実家ダンジョンの一件は私有地での不法侵入騒動に端を発してるから、どうしても物騒な話になっちゃうんだよね。その後は運動公園のダンジョンに親戚と一緒に挑んだんだけど、その時に伯父さんがMOGURAさんと和解して、縁が出来た感じなんだ」
「ふぅん、ちゃんと仲直りできたんだね」
「うん、ガトリングを持ったMOGURAさんにハチの巣にされそうになった所を、カズヒロ伯父さんの指向性地雷と、カナコ叔母さんのスナイパーライフルのコンビネーションで、両腕と脚を吹き飛ばして……!」
「…………」
「あっ……。本当、変な話ばっかりでごめんね……扇さん」
……別に、「イメージが壊れた!」と文句を言いたいわけでも無いんだけれど、ギャップで脳がビックリしている。
はっきり言ってハル君は、背丈も低い童顔で物腰柔らかな「可愛い系」の男の子だ。
彼の話を聞く限りでも、やっぱり親戚のおじさんからは可愛がられているようで、そこに齟齬は無いんだけど、すっかり「おじさん」の暴力の刺激に慣れ切っているようで、こう……、ダンジョンの世界って、怖いなぁ……。
「……補足するけど、その運動公園のダンジョンでは、僕ら家族は、伯父さんの奥さんの病気を直す……的な目的で、それを目指してダンジョンに潜ったんだ。おじさんも、暴力だけのヤバい人じゃないから、そこは、わかってもらえると嬉しいな……」
それを聞いて私は安心した。
過激な暴力一家ってわけではなく、家族を守るための冒険だったんだ……。それを想うと、初対面の人の頭をショットガンで打ち抜くのも…………うん……まあ、うん。すごい愛妻家なんだなぁ。
「……それで、伯父さんの奥さんの病気は快復したの?……というか、ダンジョンと病気ってどう関係あるの?」
「それは、ダンジョンの最奥部には願望機って『願いを叶えるアイテム』が安置されてることがあって……それを使った感じで、ね。今は……問題なく暮らしてるよ」
なんか少し歯切れが悪い感じがするけれど、この言い方だと健康面は心配ないってことだろう。
私は、ほっとした。
「それにしても、なんでも願いを叶えるアイテムかぁ……スケールがすごいね」
「……『なんでも』ってわけでも無いんだけどね。人を幸せにする、人道的な願いに限定されるよ」
「実家のダンジョンでも、それを使ったの?」
「そ、それは……うーん……、ちょっとこれは親戚の名誉にかかわるから……伏せさせてもらうね。ただ、それで不幸になった人はいないし、みんな幸せに過ごしてるから、結果を見れば悪いことじゃない……かな」
……やっぱり歯切れが悪い。世間体の悪いこと望んだってことかなぁ。
その後は家庭も円満みたいだけど一体何を望んだんだろう……。
……あれ?
「人の幸せ」のための願いを叶えるアイテム?
それって……「恋の願い」も、含まれる……?
………………
いやいや、魔法のアイテムで恋をかなえようなんて、記憶とか嗜好の書き換えって……洗脳みたいだし、それこそ人道に反してるよ……。
そんなこと許されるわけ……
………………
……まあ、その、
駄目な願いが叶わないっていうなら……願ってみるだけなら……アリ……なのかも?
……いや、ナシナシ!
もっと、真っ当な青春を送らなくちゃ。




