#37 棺桶へ、いらっしゃい
「な……なんだよ、今の……」
「……斬撃魔法、それもかなり大掛かりに事前準備されたものです」
「あんなの、もう一度喰らったら、このショベルだって……」
「……ですが、不幸中の幸いではあります。アームは落ちましたが本体は無事。まだ、動かすこともできます。彼の大魔法も、再度の発動には時間がかかるでしょう」
「………………」
「……このまま入口まで撤退し、逃走しましょう。幸い、私たちの顔はリアルタイムには配信されていません」
「………………」
「タカシさまのことは、なんとでも誤魔化せます。私が囮に出て行って、身代わりになってもよいでしょう。ですから、タカシさまは……」
「……願望機は?」
「……宝物殿の結界で持ち出し不能です。置いていくことになるでしょうな」
「……っ!イヤだよ、そんなの!何のためにここまで来たと思ってるんだよっ!」
「しかし……っ!」
「俺はイヤだからなっ!願望機は俺が使うんだ!ましてや、俺に喧嘩を売ってきた、ムカつく連中に使わせるなんて、絶対にイヤだっ!」
「………………」
「お前は、七光の執事だろ?俺の命令に従えよっ!あんなモブ連中に願望機を渡すなっ!全員轢き殺して、地上に送ってやれっ!」
「………………」
「あんな……あんな奴ら……っ!」
――運転席を覆うガラスに、石が当たる音が響く。
――俺は、石を奴らのショベルの運転席に投げつけた。
ショットガンを降ろし、左手の人差し指と中指を、くいくいと動かす。
音が聞こえていないであろう、奴らの運転席にも伝わるように、ゆっくり、大きく、口を開き、語り掛けた。
「 来・い・よ。 な・な・ひ・か・り 」
俺は、遠くからもよくわかるように、首を上げ、見下した笑いを投げかけた。
「~~~~~~~~ッッッ!!!」
「……タカシ様!」
「もういいっ!オッサン一人しか倒せてない、お前の考えなんて、聞きたくないっ!俺の命令だけ、黙って聞けばいいんだよっ!」
「………………っ」
「轢き殺せっ!あのオヤジをっ!俺のことを見下した、あの中年をっ!」
「しかし……っ!」
「……どけっ!俺が動かす!」
「タカシさま……っ!」
「ぶっ……殺してやる……っ!」
――重機が、アームを失った棺桶が、俺を踏み潰すべく急速前進を始めた。
……なんかヨタヨタしてんな。急に運転ヘタクソになったというか、中でトラブルでも起こってんのか?
まあ、それでも重機は重機。轢かれたら、俺はミンチになって、地上送還だ。おっかねぇや。
「――死ねよ、オッサン……っ!」
「――手玉だぜ?ボンボンが」
瞬間、左の履帯の真下で一瞬の閃光と巨大な爆炎が巻き起こった。重機は、その車体を、斜めに大きく傾ける。
……対守護者用途でストックしていたが、使いどころがなくて塩漬けにしていた魔導対戦車地雷。奴らがモグラ野郎と黒栖の坊主に気をとられてる間に敷設した、俺の「とっておき」が、炸裂した。
「……ミツキっ!」
「了解!」
俺の掛け声と同時に、ミツキはグレネードランチャーを重機に打ち込む。その狙いは、重機に残された「アームの残骸」。その先端。ここに打ち込まれた擲弾は爆発を起こし、さらに左側面に力を与える。
斜めに大きく傾いた車体。現在、重機の機体の最も高い個所に位置する、アーム先端に加わる爆発力。右の履帯を支点にしたてこの原理。力のモーメント。その行き着く先は……横転だ!
横倒しになった重機は、慣性で俺に迫る。俺はそれを右に回避する。重機は、俺にその機械的な底面を見せつけるように、減速した。
――ここは、逃さない。
俺は、武器を魔導山刀に持ち替えた。
――斬る。ぶった斬る。
俺は、全身の力を、仮想身体を構成する魔力を、手に持つ山刀に込めて、その重機の底面に迫る。
俺は、山刀を振り下ろした。接触面から激しい火花が散る。
荒れ地を踏破し、探索者を踏み潰す履帯を、「無限軌道」を、俺の渾身の一刀が、切断した。
……これで、もはやこの重機は「動く棺桶」ですらねぇ。ただの「デカくて頑丈な棺桶」だ。
それを見て、奴が駆け寄ってくる。千載一遇のスキャンダルを求める、重武装の厄介配信者の鏡みてぇな野郎が。俺は、身を前にかがめ、重機の底面に沿うように「踏み台」になった。
「……モグラ野郎ッ!」
「OKっ!MOGURA……行きますっ!」
奴は、俺の背中を蹴り、横倒しの重機によじ登った。そして、ガラス面のドアを踏みつけ、立ち上がった。
「……って言っても、当然運転席の鍵は閉めているでしょうね!だったら、こっちも、乱暴に行きましょう!」
奴は、左手首のスマートウォッチを操作した。その瞬間、液晶画面に魔法陣が展開し、空中に投影される――!
「魔機召喚魔法――っ!」
奴が手を掲げると同時に、光の粒子が、その手の中にひとつの武器を形作る――!
無数の細長い銃弾の繋がった弾帯。それは、奴の持つ巨大な銃の本体に向けて連なる。円形に連なる六本の回転する銃身。本来手持ちするものではないであろう、巨大な本体に取りつけられた持ち手。尋常ならざる連射速度を持つ、回転式の多銃身機関砲――。
―――― 魔導回転式機関砲 対モグラ殺し 特別カスタム ――――
「ぶっ……壊すぞ~~~~~~~~っ!!」
奴は、真下に向けて、機関砲を発射する。それはもはや、連射とも呼べない物だった。高速射出される魔法弾の光は、一直線に連なり、レーザービームにすら見えるほどの速度で、大量の弾を打ち付けた。奴が上に乗る重機のガラス面は、仕込んだ再生魔法の修繕速度すら追い着くことなく、ヒビが徐々に広がっていく。
……いやちょっと待て。
この武器、「対モグラ殺しカスタム」ってことは、こいつ、俺にこれ撃ち込む気だったの?人間相手にこれを?
ちょっとさぁ……重機とか機関砲とか、どいつもこいつも、限度ってもんを知らねぇのかなぁ。もっと、常識的な範囲の武装で探索しろよなぁ……。
「さあ、いよいよ運転席の御開帳ですよ!誠意って物を……見せてもらいましょう!」
「――させんっ!」
瞬間、運転席の内部から年老いた男の声が聞こえると同時に、無数の剣閃が運転席のドアをバラバラに切り裂いた。飛び出してきた老執事は、そのままの勢いでMOGURAに斬りかかり、さながら立体パズルを解くように、手元の機関砲を、パーツごとに切り分けてしまった。
運転席の中には、両手で顔を隠し、丸まった金髪の若造がいた。こいつが、この爺さんの雇い主のボンボンってことか。おおよそ爺さんの指示で、顔を隠して縮こまっているのだろう。
「断じて……暴かせはせんぞ!」
後ろに飛び退くMOGURAを追い詰めるように、爺さんの突きが奴の首元に、配信中のスマホに迫る――!
だが、重機の底面を上り終えた俺は、山刀の側面で、その突きを食い止めた。
「ダメだぜ爺さん。保護者はガキに『悪いことしちゃダメ』って教えてやらなきゃよ?」
「………………」
老執事は、俺たちを睨み付ける。俺は、ナツオさんの落とした山刀をMOGURAに手渡した。奴は、再び手元に武器を得て、不適にニヤリと笑う。
「さもないと、僕らみたいな『悪い大人』に、人生台無しにされちゃいますしねぇ……!」
……一緒にすんじゃねぇよ、放火モグラが。
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