#36 昇る明星
「……行くぜ!」
「了解っ!」
俺とモグラ野郎は、ショットガンを持って駆け出した。
……まずは一撃。小手調べだ。奴らの座る操縦席に、ショットガンで散弾をぶちかます。そのために俺たちは、左右に分かれて、回り込むように走り出す。
ショベルカーのアームは一本。反対側にいる俺たちに、同時に攻撃をすることはできない。そして奴らはまず、MOGURAを狙う。その隙に俺は、操縦席のガラスに、至近距離からぶちかます。そういった算段だ。
目論見通り、そのアームはMOGURAに延びる。同時に奴は後退し、アームの射程圏外へと回避した。ショベルは、勢いよく履帯を回転させた。
俺と奴は、事前に「加速魔法」のスクロールを持っている。奴の後ろをとった方が、これを発動して、その背面に飛びつき、ショットガンをぶち込む。ハル坊の送った映像から、事前にそう示し合わせていた。
当初の予定通り、俺は、手元に持った「加速魔法」のスクロールを――
――いや、違う!履帯の回転方向が、右と左……逆だ。
これは……旋回かっ!?
ショベルのアームの先端が、真っすぐ伸びたままに、遠心力を込めて俺の右方に迫る――
「――カズヒロさんっ!」
瞬間、俺の腹回りを柔らかなクッションのような感触が包み込む。
そして、その感触はぎゅっと引き絞られ、さながら張り詰めたバンジージャンプのように、俺の身体を上空に引っ張り上げた。
「……レイちゃんっ!?」
俺が彼女の名を呼んその瞬間、俺の居た地点を粉砕機が横切った。
俺は、彼女に腹を抱えられ、その猫のような脚力をもって、上空に跳躍回避し、助け出されていた。
間一髪だ。彼女は、俺を抱えたまま再び石畳の地面に着地した。
……「彼女は戦いの場に出さない」なんて言っておいて、すっかり助けられてしまったか。俺も、大概、恥ずかしい奴だな。
……いや、違うな。
これは、俺だけの、俺たち山神兄弟だけの闘いじゃない。これは、他ならぬ「レイちゃんのための」闘いだろう?
レイちゃんが、自由な将来を勝ち取るため。俺たちはそのために闘ってるんだ。なのに、彼女を蚊帳の外に置くことが、そもそも、間違ってたのかもしれん。
事実として、レイちゃんはフタバを、俺の妹を、体を張って助けてくれた。自分が守られるだけの存在じゃないと、勇気を出して示してくれた。
レイちゃんは山神家の一員、そして、立派な大人だ。だったら、彼女の思いに応えるというのは、過保護に彼女を甘やかすということではないはずだ。
………………。
「……レイちゃん」
俺は彼女の柔らかい腕に、腹回りを抱えられていた。そして、目の前のショベルは一回転し、再び俺にその巨大な「爪」を叩きつけにかかる。
俺は、彼女の目を見て、語り掛けた。
「レイちゃん。あいつのアームの上に……俺を抱えて、飛び乗れるか?」
「……えっ?」
彼女は意外そうに、それでいてまっすぐに、俺の目を見返した。
俺も、彼女から視線を外さない。
「……一緒に、戦おうぜ?レイちゃん」
「……っ!」
俺が彼女を「頼る」姿勢を見せたその瞬間、その表情は、さながら雲を抜けた青空のように、迷いのない朗らかな笑顔に変わった。
いつも彼女の見せていた、申し訳なさが滲む悲し気な顔は、もはやそこには存在しなかった。
「うんっ……私、頑張ります。カズヒロさんと……一緒にっ!」
「そうだな。フタバ達を傷つけたイヤな奴らをぶっ飛ばして……、ハッピーエンドで終わりにしような」
レイちゃんは、俺を抱えて、再び跳躍した――
――俺たちは、狙い通りアームに飛び乗り、ショベルの運転席に走った。
あまりゆっくりしていては、アームを動かして振り落とされる可能性がある。俺は、左手で彼女の手を引き、前へ、前へと走っていく。
眼前には運転席。魔法陣の刻まれたスモークフィルム。「硬化魔法」か?
……ひとまず、コイツがどれほどの衝撃に耐えるのか、まずそれを見極める。
俺は、レイちゃんを少し後ろに下がらせて、ショットガンの引き金を引いた。宝物殿に響き渡る銃声とともに、ガラス張りの面に、楕円形の無数の弾痕が刻まれた。
――「硬化魔法」じゃねぇ。ガラス面には、一度、はっきりとヒビが入った。
だが、それは時間の経過とともに、波立った水面が静まっていくように、弾痕の凹凸をまっさらに慣らし、新品のように均一なものに戻していた。
これは、「再生魔法」か――!
俺が、頑強すぎる防弾ガラスのカラクリを悟ったのと、中の見えない運転席から、細長い剣が飛び出してきたのは同時だった。
ガラスを突き抜けた凶刃にいち早く気づいたレイちゃんは、俺に飛びつくように突き飛ばし、一緒に石畳の上に転がり落ちた。
やがて、その剣は再び運転席の中に飲まれていき、貫かれた穴は自然とふさがっていった。
「――迅い。ガラス越しに串刺しに出来たかと思ったのですが。……あの男性も、キャシィの女性も、中々に察しが良い」
「おいっ!しっかり仕留めろよ、獅子辻!向こうからは見えてなかったんだぞ!」
「……申し訳ございません、タカシさま」
「もう、アイツらを運転席に近づけるなよ!全部、アームで!キャタピラで!すり潰しちゃえよっ!」
「ふむ……確かに、彼らの現在の武装に、決定的な突破力はありません。このまま、キルショベルの武装で距離をとって、一人ずつ仕留めるのが得策でしょうな」
「じゃあ、まずは、MOGURAだ!まずアイツを潰せよ!アイツは今、近くに誰もいない!コイツさえ消えれば、ひとまずは身バレせずに済むんだ!さっさと殺して、それからゆっくり他の奴らを潰してけばいいんだ!」
「………………」
「やれよ、獅子辻っ!粉砕機に押し込んで、アイツをすり潰せ!」
「……承知しました」
しばらく制止していた目の前の重機は、急速前身を開始する。それに合わせて、曲げていたアームを動かし、孤立したMOGURAを上から押し潰しにかかる!
粉砕機は互い違いの歯をかみ合わせながら、背を向けたMOGURAを目掛けて、そのアームを――――
「――――明と暮を分かつ熾天の黒翼。暁に惑いし闇の閃煌よ」
芝居がかった男の声。
皆が見上げたその先には、ショベルの爪が握りつぶした石の柱の残骸。その凸凹の切断面の上に、奴は立っていた。
男は、長らくつけていた眼帯を外し、赤い魔法の瞳を輝かせる。その背中には、黒のマントが風を受けて翻る。
「――――屠り去れ、反逆の煉釼『漆黒葬刃』」
瞬間、周囲の光を飲み込むような、暗く、巨大な、斬撃魔法が、黒マントの瞳から真横に放たれた。
ダンジョン最深部の宝物庫を守る、最強のゴーレム「守護者」。ロケット弾や爆弾無しでこれを屠り去った、黒栖の坊主の魔導色眼鏡に刻まれた、大魔法の術式。
円弧の如く広がった魔法の剣閃は、推進力をもって広がっていき、V字型に折り重なっていたいたショベルのアームを、関節ごとまとめて両断した。
支えを失った粉砕機は、前腕部は、関節部は、重力に従いその場に落下し、轟音と粉塵を巻き起こした。
かくして、ショベルカーは主たる武装を失い「履帯付きのデカい箱」に成り下がった。
……おいおい。アイツの魔法初めて見たけど、冗談みたいな破壊力だな。
重機のアームだぞ?重量物持ち上げる前提で頑丈に出来てる機械だぞ?そんな簡単に壊れるようなもんじゃねぇだろ。
「……フッ……ハハァッ!ゆめ忘れるな、我が名は『†黒栖†』……『『漆黒葬刃』の契約者!貴様らを葬り去るのは、この俺だッ!」
奴は、黒いマントをはためかせながら、空気を掴むように両手のひらを上に向け、高らかに宣言した。俺たちと最初に会った時の演説のポーズだ。俺は「下乳揉みのポーズ」と呼んでる。
あーあ、完全に調子に乗ってやがんな。最近大人しくなったと思ってたが、こんだけ活躍すりゃ、そりゃテンションもぶち上がるわな。
……ってか、なんだよ「契約者」って。お前が結んでるのは、カラコンの売買契約だけだろ。契約対象は眼鏡屋か?
レイちゃんも「なにあれ」って表情じゃねぇかよ。……正しいよ、あれに困惑するセンスは。マネしちゃだめだぞ。
> おおぉおっ!?
> アーム真っ二つになってんじゃん!
> この登場で本当に強い奴初めて見た
> 詠唱w発動に必要ないだろww
> 設定がある方が強くなった気がするじゃん!
> なんで、中学生って黒い羽根とルシファー好きなの?
> こいつハタチやぞw
まったく、こんな中学生みてぇなセンスでさぁ、本当にカッコいい技出すなよ。コメントも反応に困ってんじゃねぇか。
……でもなぁ、しっかり結果出されると、例の乳揉みポーズまで格好よく見えるんだ。いよいよ腹立ってくるぜ。
――もう、俺もオッサンなのによ。久しぶりに、心の中学生の部分が疼いちまったじゃねぇか。
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