#4 おねがい!上位存在
「へえ、ロケット弾でも傷がついてない……すごいね『願望機』」
「七つ揃えなくても、願い叶うのかしら」
「ゴブゴブ」
「あっ、翻訳入れるね」
ハル坊がタブレットをタップし、こちらに画面を向けた。案内役のゴブリンの声を拾い、テキストが表示される。
『ダンジョン攻略者に与えられる報酬っすね。一つでも、ある程度の願いはかないますよ。本来だとさっきの眼帯マントに使用権が与えられたのかと思いますけど、まあ他の攻略者に奪取されたってなると、お兄さん方のものってことになるんじゃないですかい?』
「うわぁ……なんか、ウチの土地のものとはいえ、少し申し訳ないな……」
「まあ、テロに使われるわけにもいかないし、しょうがないでしょ」
確かに、その通りだ。大いなる力には、大いなる責任が何とやらだ。あの若造の無責任な復讐で、大規模テロに巻き込まれたんじゃ、一般市民も溜まったもんじゃないだろ。
「……そうかぁ、なんか、雑に世界救っちゃったみたいだね」
そこら中でこんなこと起こりかねないのかと思うと、冷や汗出るな……自分の家の庭に核ミサイル埋まってるみたいなもんだぞ。
「で、どうする?国に買い取ってもらって、売値を三等分するか?」
『……国に願望機持たせるのも、それはそれで怖くないですかい?』
「あー、確かにな。なんでも叶っちゃう力を国家権力にってのはなぁ……そもそも国がもっとしっかり対策してくれりゃ、こんな苦労することもなかったわけだし」
『……もっとも、結界もあるので宝物殿の外へは持ち出し不能ですがね。国に使用権を渡すって言っても、手続きだけで一苦労でしょうな』
「うーん……、やっぱり、ここで使っちゃった方が早そうだな」
俺は、これをどうするか頭をひねる。雑な願いでも叶えちまった方が後腐れはないが、兄弟で骨肉の争いをするのは、ダルいなぁ。
「あー、俺は結婚資金も手に入ったし、好きに使って良いよ」
「それなら、私もハルトたちの進学費用溜まったし、好きにして良いわよ。大学までなら私立でも問題なく行かせられそうだし」
「僕も、特に今欲しいものはないかな。今回の手伝いで小遣い十分もらったし。カズヒロおじさんの好きなことに使ったら?」
……うわ、みんなやさしいな。家族でどろどろの奪い合いも覚悟したが、こんな欲のない家庭だったのか。……というか、魔石の売値がデカいな。単純に金で叶う願いなら、おおよそ叶う額になっちまった。二人の直近の願いである結婚と子育てはもとより、中学生の望みなんて大抵叶っちまう。
……俺はというと、二人と比べてライフステージが進んでいない。元より実家暮らしで金は使わなかったが、今回の一件の取り分を考えると、また無駄に資産を持っちまった。老後も心配ないぐらいだが、それはそれで夢も何もなく、何とも虚しい。
……叶えたい願いは、正直ある。金では叶わない、俺の願いが。
俺は、願望機に手を触れた。
周囲が暗くなり、輝く人型のシルエットが浮かび上がる。三人は、俺が何を願うのか、静かに耳を傾けていた。
――――迷宮を攻略せし勇者よ。汝の願いを叶えよう。
――――望みを言うがよい。
「……猫耳の、やさしくてかわいいお嫁さんをッ!俺にッッッ!」
――――え、えぇ~……?
「うわっ……」
「うわぁ……」
「キッツ……」
「ゴブ……」
……仕方ないだろ!ライフステージ進んでるお前らと違って、こっちはもう独身のまんま四十路が近づいてるんだよ!田舎の実家住まいの長男なんて、婚活市場でも避けられる!こちとら、おふくろに「結婚はまだか?」といびられる毎日なんだよ!
だからって、こんな山中におふくろ一人にするわけにもいかないだろ!土地に縛られた俺には、こんな機会も無きゃ、嫁さん貰える機会も無いの!
「あー、だからカズヒロおじさん、カップルやハーレムパーティーに厳しかったのね」
「大分、私怨も交じってたんだなぁ……流石に俺も引くわ……」
「報酬で嫁さんを望むとか、女をトロフィーだと思ってるんじゃないの?これまでの暴れっぷりを見ると、DVとかしないか心配だわ」
言いたい放題、好き勝手なこと言うなよ!俺は根っからの純愛派だ。リモートで家事をする時間だって取れるし、嫁さんとはお互い家のことは助け合って、仲良く暮らしていきたい。
「百万歩譲って『嫁さん』は良いわよ。『猫耳』って何よ。欲出すぎでしょ。もう四十路近いのに夢見てんじゃないわよ……」
……は?猫耳は最高のチャームポイントだが?現実の人間に生えてない方がおかしいんだよ。
「きっしょ」
――――えっと、じゃあ、猫耳のかわいくてやさしいお嫁さん、でいいの?
えっ、本当に叶うの?
――――うん、まあ、上位存在だしね。
――――でも、流石にその為だけに生物作るのは、倫理的にも良くない。
――――境遇的に保護を求めてる異世界の子を招致するから、保護してあげて。
――――「お嫁さん」については、お互い大人として、自由恋愛ってことで。
――――くれぐれも、酷いことはしちゃだめだよ。
えっ、えっ……?マジで?半ばヤケクソだったのに……
――――苦情来たら別世界に送り帰すことになるから、大事にしてあげてね?
そんな、えっ……ちょっと、心の準備が……
「上位存在、話が早いなぁ……」
「これ、別に眼帯マントに使わせてもテロとか起こらなかったんじゃない?」
「ハルくんと同じで、ホットラインと医師を教えて終わりだったかもね……」
――瞬間。
願望機が光の軌跡と化し、俺たちの足元に、巨大な魔法陣を描いた。足元からあふれた光の粒子は渦を巻き、中心に集積し、足元から人の形を形作っていく。
やがて、その輪郭はハッキリとしたものに変わり、徐々に光は収まっていった。
質素でぼろぼろの布のワンピースに、不似合いなほどに高級感を感じさせるサラサラの長い銀髪。ダークグレーの猫耳としっぽ。澄んだブルーの瞳。
そして、その肌の色は……白とライトグレーで……フサフサの毛に覆われていた。
「ここ……は……?」
彼女は、かわいらしい肉球で、顔を洗うように目をこすった。
けも耳じゃなくて、ケモそのものじゃねーかッッッ!!
……そう叫びそうになる気持ちを、俺はぐっと我慢した。
どうやら、欲にまみれた俺であれ、最後の良心までは捨てられなかったようだ。
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