#32 考えるマン
『カズヒロおじさんっ!到着はまだなの!?』
「ああ……今しがた第七層抜けた所で、もう直に宝物殿前の大廊下に出るっ!」
音量を最大にしたスマホからはハルトの声が響く。レイちゃんや眼帯マント、MOGURAも、走りながら状況を聞いていた。
しばらく走ってカメラが揺れるということで、視聴者のカメラ酔い回避のため、今配信に流れてるのは、今回の「切り抜き総集編」らしい。配信と動画編集同時進行かよ。スタッフ潤沢だな、本当。
そんなわけで宝物殿到着までの間は「身バレ」も、最深部にいる連中の「ネタバレ」も気にせず、話していられるという寸法だそうだ。結構計画的に配信の絵を描いてるんだな。
「しかし、よりによって、獅子辻さんがこのダンジョンに挑んでたなんて……」
「知ってんの?」
「そりゃもう、探索者界隈じゃ知らない人はいないぐらい、有名な人ですよ」
「俺も知ってますね。探索に使用する魔法の実用書も出版してますし、俺もカラコンに術式仕込むのに参考にしました」
「あ~、まあ、俺一般人だしなぁ」
「……私もです」
別に探索者や配信者になりたかったわけじゃないからな。……今後は、商売敵として知っておくべきかもしれんが。
「……七光県知事は知ってます?」
「ああ……、そりゃ知ってるよ。今期も再選したしな」
「一週間前の『にゅーす』?でも、見た気がしますね」
「ローカル局で地域イベントの話してたやつね」
「獅子辻氏は、七光氏の雇ってる執事ですね。ダンジョン黎明期に、邸宅で発生したダンジョン問題の解決に送り込まれて、単身踏破してこれを沈めたらしいです」
「何か、他人事とは思えない境遇だなぁ……」
「その後は、探索者として名も通ることとなり、七光氏の執事を続ける一方で、七光家と彼自身の家柄の権威を高めるために、七光家の後援の元で探索活動をしているみたいです。活動に関してもかなり精力的ですね」
「年をとってからハマっちゃったのかぁ、ダンジョン攻略……」
……別に俺は趣味で潜ってるわけでも無いけど、憂さが溜まってる時に大暴れしたいって気持ちにハマった部分は共感する部分も大きい。この爺さんも、鬱憤溜まってたんだろうなぁ。
「今では、七光氏の大学生の息子さん……黒栖くんと同い年ですね。その子の世話係もやっているそうですが……この青年はあんまりいい噂聞かないですねぇ。親と獅子辻さんの威光にぶら下がって、あちこちで横暴な真似をしているとか」
「あー、典型的な虎の威を借るボンボンなのね」
「実家が太くて、権力と暴力の世襲かぁ……いじめっ子やってそうで、俺とは話合わなさそう」
「私も……、お金持ちで権力のある方は、ちょっと苦手です……」
……眼帯マントもレイちゃんも、その手の輩にはイヤな思い出あるだろうしなぁ。会ったことない相手をどうこう言うのも良くないだろうが、素行が悪いっての踏まえると、そう思われても無理ないとは言える。
「ま、いいんじゃないか。これから地上に送還するんだし。仲良くなるなら、ヘッドショットでキルした後にしようや」
「……うーん、流石の物騒っぷりですね」
* * *
――重機の腕の先端で回転する粉砕機が、石の柱をえぐり、握りつぶした。
ああ、イヤだイヤだ。アレに握りつぶされるのとか、絶対考えたくない。……何考えて、こんな邪悪な兵器作ったんだよ。頭おかしいよ。
「まあ、戦車みたいなホンモノの兵器を作るってのは国も黙ってないだろうしねぇ……。重機の改造ってことでお茶を濁したんでしょ」
「既に、銃とかロケット砲作ってるじゃん……」
「そのあたりは、ダンジョン内でモンスターに使う物って体裁はあるしね……魔導重機なら、魔導建材を使った建築用途みたいな抜け穴もあるんでしょ」
「……さすが魔導機械エンジニア、視座が俯瞰的ねぇ。その視点から見て、あれをどう攻略する?」
「うーん……」
重機は宝物殿の中央に陣取る。車体の大きさは三~四メートルほどだろうか。先程ドアが開いた時、その運転席はひな壇上で、下段の操縦席に執事、上段にはバカ御曹司が乗り込んでいった。今は、ガラス面に張られたスモークフィルムで、運転席の内部は伺い知ることもできない。
「……バカ御曹司だけでも、狙撃で仕留められたら、退散してくれないかしら?」
「けど、あの運転席……多分坊魔防弾ガラス仕込んでる感じだよ?ほら、角度つくと魔法陣みたいな模様が……」
「……相変わらず、『魔導』ってつければ何でもアリね。『魔導バナナ』なんて釘でも打てるんじゃないの?」
「それは連想ゲームだね」
ミツキが手榴弾のピンを抜き、重機に投げつける。……が、轟音の鳴りやんだ後もなお、重機はどこ吹く風だ。カナちゃんの見えざる狙撃も、その車体に傷をつけることはない。
「……あーあ、せめてRPGが一門でも残ってればね」
「無いものねだりをしても仕方ないよ。今できることを考えなきゃ」
「とはいってもね、物理攻撃の火力が不足してるのよ?あなたには、これをひっくり返すようなアイディアあるの?」
「……実は、あるんだけどね」
「えっ」
「ただ、まあ、その、なんだなぁ……あんまり気が進まないというか」
大の男がもごもごと尻込みしている。だが、状況は待ってくれない。あのアームに追いかけまわされている以上、私たちのスタミナが尽き次第、粉砕機の餌食になることは明らかだ。
「……何よ、もったいぶって。早く言ってよ。ナツ」
「いや……、親が『これ』見せるのは、ハルトの情操教育に良くないかも、って」
* * *
「うーん、まるでもぐら叩きだなぁ……。アイツら全然死んでくれないじゃん」
「……あまり結果を焦ってはなりません。タカシさまの望みを叶えるためです」
「……そうだけどね?結局、さっきの銃撃戦と同じだよ。膠着しちゃって、代わり映えしないんだよなぁ……退屈ぅ~」
「ふむ……しかしながら、遠くない内に動きはあると思われます」
「……っていうと?」
「我々が重機に乗っている一方、彼らの体力や集中力は我々の比ではないほど消耗してるということです」
「まあ、そりゃそーだろうね」
「つまり、彼らが次とる手段は……一か八かの、『捨て身』に出るでしょう」
「……へぇ」
「あまり良い趣向とは思いませんが……少なくとも、彼らが華々しく散って行く光景は、さぞ刺激的で、タカシさまの退屈を吹き飛ばしてくれることでしょうな」
「いいじゃん♪じゃあさ、引き続き、コツコツ削ってってくれよ♪」
「………………」
「承知いたしました。タカシさま」
* * *
私は、一通りの資材を回収し、物陰に隠れるナツに駆け寄った。
「はい、ナツ。ミツキとカナちゃんと合流して、一通りの物は持って来たわよ」
「……ありがと、フタバさん」
「……本当にやるわけ?」
「フタバさん、心配?……大丈夫だよ。ここはダンジョンだからね。帰還の指輪がある以上、本当に死んだりはしない」
「……そりゃそうだけど、ねぇ?あなたの言う通り、子供に見せるべきもんでもないわよ」
「うん。……だから、みんなには、しばらくHUDのカメラを、伏せてて貰いたいんだ。オペレーションしてるハルトに見せないように」
ナツは笑顔で答える。
……なんだかなぁ。ちょっと手も震えてんじゃん。勇敢な戦士気取っちゃって。
「……あなたがやらなくてもさ、私が代わってもいいのよ?」
私の言葉に、ナツは一瞬真顔になる。
「こういう度胸なら私の方があるでしょ?無理することないわよ」
しばしの沈黙の後、ナツはまた表情を崩した。
「……いやぁ、フタバさんは指揮官でしょ?」
「だからこそ、率先して責任を負うべき場面もあるでしょ」
「その『責任』は、最後まで生存して、皆を導くことだと思うな」
「………………」
……ナツオの言う通りか。私も、大概感傷的になってるみたいだ。
「……それにね、母親がやる方が、子供にとってはトラウマになるよ。ママは、子供たちの安心の象徴でいてあげてね」
「……それ、時代錯誤じゃない?私、言うほどやさしいママじゃないわよ?」
「……かもね。けど、人間なんて……男なんてね、いつの時代も、みんな同じように馬鹿に走るんだよ」
ナツは、私の左手を、両手で包み込むように、子供を勇気づけるように、ぎゅっと握りしめた。彼の右手の指先が、私の指輪に、そっと触れた。
「男はね、好きな女の子を守るためなら、死んでもいいの」
「……バカねぇ」
「バカさ」
ナツは、ちっぽけな勇気を振り絞り、カナちゃんから渡された遮蔽魔法のスクロールを起動する――
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