#31 KILLマシーン
――私たちと老執事は、数度の衝突を繰り返した後、さながら示し合わせたように、互いに動きを止めた。
「ふむ……」
「……おいおい、獅子辻。どうしちゃったんだよ、いきなり動き止めちゃってさ」
「いやはや、タカシさま。お恥ずかしい話ですが、膠着状態に入ってしまいまして……」
「……どーゆーこと?」
老執事は、私とナツを指さす。
「まずは、彼ら夫婦。アサルトライフルで弾幕を張る主力攻撃人員です。私も、タカシさまも、ライフル弾を喰らえばひとたまりもありません。強制送還ですな」
「んー、まあ、そりゃそーだよな。でも、獅子辻にはお得意の剣技があるだろ?」
「とはいえ、彼らに有効打を与える為には接近が必須。……ですが、あそこの若者がグレネードを使い私の行動範囲を制限しています。爆風の攻撃範囲は広いものです」
「さっき、斬り落として爆発止めてたじゃん」
「あれは、起爆装置を筒状に切り抜いて爆破を止める、ちょっとした曲芸ですな。タイミングがあっただけで、いつでも使える物ではありません」
ミツキが顔面蒼白になっている。……そりゃそうだ。
ピンを抜いて投げた手榴弾が、剣に刺さって爆発しないとか、完全に悪夢としか言いようがない……。
「あの時に、彼を仕留められていれば楽だったのですが……一番厄介なのは……」
瞬間、響き渡る狙撃音とともに、お坊ちゃまの両脇に土ぼこりが上がる。カナちゃんの狙撃だが……老執事に斬り落とされたのだろう。
「……これですなぁ。先程までいた、若い女性が消えているでしょう?」
「あ、ホントだ」
「……おそらく、不可視魔法と加速魔法ですな。隠れて高速移動して、私を狙撃しています。スナイパーライフルの弾速と威力は、他の比になりません。注意を怠れば、私とて直撃は避けられないでしょう」
「なんだよぉ……情けないなぁ」
「汗顔の至りにございます」
……いやいや、どうして飛んでくる方向がわからない狙撃に対応できるわけ?殺気でも読んでるの?オカルトじゃん。
視線って、結局は視覚情報からの推察よ?見えてない人間のそれを認識できるわけないじゃん。こんなんチートだチート。そのまま異世界にでも行っちゃってよ。
「各個撃破が出来れば負けはありませんが、良く連携が出来ている。きっと仲の良いご家族なのでしょうなぁ」
「はいはい。で、どーすんのさ?いつまでも突っ立って弾切れを待つわけ?オレ、そんなダルイのイヤだよ?」
「そうですなぁ……悩ましい話です」
「最初みたいに銃で撃つのは無理なわけ?」
「ふむ……私めも、分類上は万能型なのですが、銃の練度は彼らと同じか、あるいは毛の生えた程度です。それでは決定打に欠けますし、連携の取れた相手には、弱みにもなりかねませんな」
「んー……じゃあ、そうだなぁ……」
「『アレ』使おうよ?」
「……此処で、ですか?」
「いーじゃん、配信者もいないんだしさ。どーせバレないって♪」
「………………」
「なんだよ、文句あんの?獅子辻」
「いいえ。祖父君や、父君からは、人の上に立つ者としての実感を持たせるようにと、固く申しつけられております。タカシさまの願いを実現可能な範囲でかなえるように、と。……異論などあろうはずもございません」
「じゃあさ、決まり♪やろうぜ?アレ」
「……承知しました」
老執事は、しぶしぶ、という顔で面を上げた。これ、あのガキに大分振り回されてるなぁ……。ちょっと同情するわ。
「魔機召喚魔法」
――瞬間、老紳士の着用した、正円の片眼鏡に、魔法陣が投影された。
そして、それは彼が手を地につくと同時に、地面一杯に広がっていく――!
やがて、まばゆい光の粒子が舞い上がると同時に「それ」は、地上に姿を現した。
巨大な「乗り物」……というべきだろうか?古めかしい石造の宝物殿にはあまりに不似合いな巨大な「それ」。
本来、それが持つであろう「建築」という目的を逸脱し、破壊を目的として再構築されたであろう、巨大な「魔導重機」。
巨大な「ショベルカー」の先端のアタッチメントは、対象を握るハサミのような構造、その歯の一つ一つには、互い違いに回転するドリルが連なり、粉砕機の様相を呈していた。
―――― 魔導挟戟破砕機構 獅子辻カスタム Mk-II ――――
「……いや、ふざけんなっ!」
私は、目の前に現れた場違いな重機に、思わず叫んでしまった。
「ふ……フタバさん、どうどう……」
「なんでも『魔導』ってつければ許されると思ってんだろ、このボンボンどもがっ!」
「うーん……まあ、気持ちはわかる」
「引っ込め成金がっ!ダンジョンなんだから、もっと冒険者らしく闘えよっ!」
「いや、まあ、私らも銃使ってるからさ……あんまり言うと自分に返ってくるよ……」
ボンボンとコスプレ執事は、重機に乗り込んだ。本気かよ。本気でこれで暴れる気かよ。限度ってもんを考えろよ。
履帯がギュルギュルと音を立て、重機は私たちに高速で迫ってくる。私たちの居た地点に、高速回転する粉砕ばさみが打ち下ろされる――
想像を絶する耳障りな異音と粉砕音、粉塵を巻き上げながら、頑強なダンジョンの床は抉り取られた。
――おいっ!
ダンジョン破壊すんなって探索者名簿の要項に書いてあっただろ!
読まずに入ったのかよ、コイツらっ!信じらんないっ、本当にっ!
「……さて。『これ』を出す以上、誰にも見られぬよう、決着は早急につけねばなりません。配信者が来るよりも迅く、ケリをつけますよ」
「うんうん、じゃあその辺は獅子辻にお任せで♪さっさと済ませて、全部コイツらがやったことにしちゃおうぜ♪」
「了解しました。ご期待に沿うよう、粉骨砕身いたします」
く……クソガキ~~~~ッッッ!
殺すっ!絶対殺すからなっ!
「……あ~、楽しみだなぁ。願望機♪ようやく俺も、楽しい夢が見られそうだよ♪」
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