#30 山神ディフェンダーズ
「おいおい……先客がいるじゃねぇか」
「へへ、でもオッサンとオバサンだぜ?バトルになって負けることはねぇよ」
「そうだな……おい!アンタら!」
……男たち数名が、私達に向かって声を張り上げた。最深部に到達したほかの探索者だろう。あーあ、カズのやつがさっさと帰って来ないから、ついに来ちゃったかぁ。
彼らは、モヒカンにトゲ付きの肩パッド、火炎放射器を持っている。汚物を消毒するのが得意そうねぇ。
……1990年代って、私やカズが産まれるギリギリなのよね。物心ついたころにはノストラダムスとか過去の人だし、世紀末って言われてもピンとこないっていうか。パチンコ屋の前に、半裸のマッチョの等身大フィギュアが置かれてるのを見たぐらい。
「……で、なに?」
「へへ……オバサン。痛い目見たくなかったら、そこをどきな」
「ダンジョンの攻略報酬も、その場に置いてな♥」
「……ナツ、私ってオバサンなのかしら?」
「いやぁ、三十七はどうかなぁ……世間的にはわからないけど、子供たちの友達からはそう呼ばれるよねぇ」
無神経な夫の脇腹に肘が入り、ウッと声を上げる。否定しろよ。
「……ちょっと、ミツ君!来たよ!うたた寝しないで!」
「……はっ。ご、ゴメン」
カナちゃんに肩を揺らされてミツキが起きる。相変わらず緊張感というか、頼りない弟だなぁ……。カナちゃん、世話焼きたいタイプなのかしら。
「おいおい……、まだ状況が分かってないみたいだぜ?」
「じゃあ、いっちょ探索者の『リアル』ってやつを……教育してやるかァ♪」
男たちは、斧に、鎖に、ナイフに、トゲ付き棍棒に……一貫性の無い武器を構えて、私たちににじり寄った。
「◆〇×▼◎~~~~~~~~ッ!!」
宝物殿に、声にならない絶叫が響き渡る。
男たちは……一斉に失神し、その場で倒れ伏せた。
「いやぁ、流石に効くわねぇ。マンドレイクの叫び声」
「耳塞いでたのにぞわっとしましたよ……」
私とカナちゃんは、ハンドガンを取り出し、倒れ伏せたモヒカンの頭を打ち抜き、彼らを地上に送還していった。
身動きが取れない相手なので、ほとんど流れ作業だ。
「いやぁ……ずっと耳栓してると、外界からシャットアウトされて、眠くなっちゃってさぁ……」
ミツキは植木鉢を抱えながら恥ずかしそうにそう言った。
私たちの持ち込んだ秘密兵器、「マンドレイクの鉢植え」。
対人戦闘でこれを引っこ抜けば、叫び声の届く範囲の相手を気絶させて無力化できる、音響攻撃手段だ。
引っこ抜く担当のミツキは、耳栓をしながらずっと植木鉢を抱えていたわけだ。そのため、ミツキだけは、私たちの時間つぶしの会話にも参加できなかった。
……探索中の睡眠も仮眠程度だし、眠くなるのも仕方ないかもね。
「じゃ、自分交代しましょうか?」
「いいの?ナツオさん」
「ええ、ずっと耳栓担当は孤独でしょうし、交代交代で担当しましょう」
「……助かるよ~、ありがとうね」
……ミツキは、兄弟の中でも甘えん坊気質というか、面識の薄い相手にも結構遠慮なく踏み込んでいって、可愛がられるんだよね。カズと比べてナツとも気さくに付き合ってるというか。
この辺、長男同士だとお互い「家の代表者だから」みたいな気負いがあって、堅苦しい付き合いしちゃうところはあるのかもしれない。あるいは、妻帯者のナツや私に対して、引け目を感じたりとか。
……私は、手元の願望機を眺めた。
正直、結婚の有無で立場の上下を測るなんて馬鹿馬鹿しいと思う。アイツは兄弟に劣等感を感じてるのかもしれないけど、私自身は別に自分が立派とは思わない。事実として、兄貴にはオカンの面倒を任せちゃってるわけで、そのせいで婚期を逃した面は間違いなくある。引け目を感じてるのはアイツだけではないんだ。
そのフラストレーションが極まった結果として、実家ダンジョンでの「あの願い」に繋がったんだろう。現代日本で生きてる人間として、あの願いの非人道性を擁護はできないけど、よそに嫁いで責任を回避した自分を棚に上げて、兄貴を責めるのも、筋違いというか、気が引ける部分はある。
何より……兄貴自身がその行動を後悔して誠実に接しようとしてて、レイちゃんは幸せに暮らしているんだから、結果オーライというか。
……むしろ、変に罪悪感に怯えて、ダラダラ歳を重ねられたら、それこそ、誰が幸せになるんだって話。
もう、無限に選択肢を選べるほど、自分で思っているほど、若くはないんだよ。私たちは。
ミツキは立ち上がり、私たちの後ろで鉢植えを受け渡す。ナツも植木鉢に手を添えて――
――瞬間。
轟く銃声とともに、鉢植えは砕け散り、土とともにマンドレイクは粉微塵に吹き飛んだ。
「!」
「……襲撃!?」
「うーん、ナイスショット!獅子辻♪」
「お褒めにあずかり恐縮です、タカシさま」
宝物殿の入り口には、二人の男たちが立っていた。
背の低い金髪ピアスのチャラついた若者……大学生?その横には、燕尾服を着込んで口ひげを生やした、片眼鏡をかけた銀髪糸目の老紳士。……金持ち御曹司と執事かしら?
……うーん。
ベタというか、ダンジョンって、コスプレ好きを集める魔力でもあるのかしらね?
『……っ!父さんっ!母さんっ!気を付けてっ!』
突然、無線機にハルトの通話が入る。鬼気迫る声で、私たちの緩み切っていた心が、しゃんとする。
『そこの爺さん……上位探索者……だよっ!』
「……ランカー?」
「模擬探索大会で上位をとったり、高難度ダンジョンを制圧した、スゴい実績持った人!国際協会からも認定された、ヤバい凄腕ってことだよ!」
……なるほど。さっきの狙撃も、隣のお坊ちゃまじゃなくて、こっちの執事ってわけね。そういや、「ナイスショット」って言ってたわ。
『獅子辻武年……っ!普段は現県知事の七光家邸宅の使用人……執事として身の回りのマネジメントをしている。その傍ら、七光氏の私有地に発生したダンジョンをはじめ、県内外のあらゆる迷宮を探索し、数多くの難攻不落の迷宮を単独踏破した凄腕!その名望は国内外を問わない畏怖の対象!』
「ふむ、すごいんだなぁ……」
「緊張感ない反応ねぇ、あんたのパパは」
『……そんな彼を、人は、ダンジョン探索者は、畏怖を込めてこう呼ぶんだっ!』
―――― 戦場の老執事 ――――
「……ハル君、なんか口調変わってない?いつもより説明的というかさ」
『だ……「ダンジョンペディア」からの引用だよっ!』
「ちょっと、芝居がかってたわよね。楽しんでるでしょ。もう、そんな年頃なのねぇ……」
「ちょっとママ。思春期の子供の成長に悪影響だから、そういうこと本人の前で言わない方が良いよ?」
『……うっさいな!真面目な場面で息子をからかうなよっ!』
……まあ、油断ならない相手ってことはわかったわ。私は、夫に目配せをして、魔導突撃銃の銃口を執事に向けた。
先手必勝。私たちは、老紳士に向けて三点バーストでの射撃を敢行した。
――しかし、執事に、青年に、一切の傷はなかった。
発生した現象は、老紳士の手元から伸びた幾重もの光の軌跡、甲高い金属音と「的外れな地点」への着弾のみ。
執事は、何処からか取り出した細身の剣……レイピアを片手に、振り抜いたような姿勢を、元の構えに戻した。
えっ……これって、もしかして……凄腕剣士の御約束の……「アレ」?
「やっぱりすごいねぇ、獅子辻の剣技♪」
「少々、海外で鍛え直して参りまして……今ではアサルトライフルのフルオート射撃までなら『斬り落とせる』ようになりました」
えーっ……、何それ。銃弾斬り落とせるとか、漫画の世界じゃん。勘弁してよ。
っていうか、漫画だってせいぜい拳銃じゃん。フルオートのライフルはないわぁ。
……こっちはね、遺産分与のためにようやく銃持つようになった新米の兼業主婦なのよ?こんな、化け物爺さん相手にさぁ……どう戦えってのよ……。
……ま、泣き言言っても始まらないか。
レイちゃんのためだもんね。
「総員!」
声を張り上げる。皆、火器を構えて老紳士に向かい合う。
私は「願望機」をバックパックにしまった。カズヒロのいない今、この攻略報酬を守る別動隊の指揮官は私だ。
「……踏ん張れっ!」
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