#29 くたばれ!コソ泥野郎
「令和ダンジョン時代」。ダンジョンの浮上により魔石が入手可能となり、その採掘と魔導産業の活性化が進む現代を指す言葉だ。別の切り口からは「魔導産業革命」とも呼ばれる。「IT革命」みたいなもんさ。
そんな時代にあっては、暴力団や半グレなんかの「ケツモチ」を持たないフリーの荒くれ者も、ダンジョンに隠れて稼業を営みやすくなった。昨今じゃ、有名ECサイトで魔導武具が簡単に揃えられるようになったしな。金さえあれば、探索者デビューの敷居は低く、その影響で昨今では配信者など娯楽に特化した探索者の稼業も生まれたほどだ。
実に都合がいい事に、ダンジョン内で行われた暴力行為の結果は、地上に持ち越されることはなく、またロストしたアイテムについても法的な保護を受けない。ダンジョンに放置された時点で、それらは所有権を放棄したとみなされる。まだ未探索のダンジョンにおいて、行政は遺失物の回収になど人的コストをかけられないからな。ならば、それを使って後発の冒険者の探索に役立てよう、ってのが政府の意向ってわけ。
これは、ダンジョン探索って面倒ごとを市民に丸投げするために、「自己責任論」と「ダンジョン開拓優先」の意向のもとに作られた、雑な法律さ。そして、その法の隙間は、必然的に「ある稼業」を生み出したわけよ。
――そう、俺はダンジョン内の窃盗を専門に行う、合法的な窃盗犯……「ダンジョン盗賊」なの♪
* * *
「はい、ショットガン二丁ゲット~♪自分で買うには高かったからねぇ……ありがたく使わせてもらうねぇ~」
ショットガンを奪われた俺とMOGURAは、目の前の軽薄なそうな男を睨み付けた。
「『窃盗魔法』……反社絵巻!?」
「……おや、キミ知ってるんだぁ?もしかして、結構探索歴長いのかい?」
俺は、MOGURAに視線を移した。
「……ダンジョン探索用に製造されてたスクロールですが、探索者間のトラブルになるからって、早い段階で製造中止されたものですよ。今じゃ、国内メーカーじゃどこも作ってないはずです」
「そうねぇ……。でも、海外じゃまだまだ現役だし、それを密輸入してる稼業もあってねぇ♪昔ほどには大っぴらに使いにくくなったけど、俺らの世界じゃ、まだまだ現役で活躍してるってワケよん♪」
「……窃盗団かよ」
「ダンジョン専門のね♪……窃盗スクロールだって、法規制されたわけじゃないんだぜ?ロストアイテムの拾得を規制したら混乱が起こるし、増産されなくなったのもメーカーの自主規制でしかないの♥これだって合法合法♪ボクは善良な探索者だよーん♪」
……ダンジョンのロストアイテムの所有権の扱いって雑だなと思ってたけど、そりゃこんな魔法使う奴いたらトラブルだって起こるわ。
「それで、このスクロールは『最新型』でね♪キミらの仮想身体の視線だとか、魔力の集中を判別して、『今一番無くなったら困る手持ちのモノ』を盗ってくれるの♥防具を奪えないのは残念だけど、武装解除が手っ取り早いだろ?」
「……っ!」
眼帯マントが慌てて懐を探る。何かをなくしたようで、全身のポケットというポケットに手を当てていた。
「……おや?コンタクトレンズかぁ、残念賞かな?それとも……魔導術式の刻まれた魔導色眼鏡?」
「……貴様っ!」
「おおっ!大当たりっ!アレめっちゃ高いんだよねぇ♪きっとアルバイトして買ったのかな?安心してよ、オジサンがフリマサイトで出品してあげるから……また頑張って働いて、買い戻してねぇ♥」
……この分だと、レイちゃんも何かを盗まれていそうだ。だが、スクロールはそれなりに嵩張るが……奴の手の内にはない。
何かしらのアイテムを盗まれているとは思うが、探索において重要なものは、盗られていないはずだ……!
しかし、レイちゃんの顔色は青かった。何か、大切な、盗られてはいけない物を奪われたような、そんな顔――
「どうした?何か盗られたのか?レイちゃん」
「あ……その……」
(その、下着が……)
「!」
盗賊は、ショットガンを握る指を、ゆっくりと開く。
そして、その手のひらに含まれた、ひとひらの布を――
――拝む前に、俺の拳が奴の顔面に突き刺さった。
* * *
「てめぇ、よくも、レイちゃんを、辱めやがったな?おい?気絶してんじゃねぇ。ぶっ殺してやるよ。おい」
俺は、奴に馬乗りになり、その顔面に、拳を、繰り返し、繰り返し、振り下ろした。
「あーあ、泥棒さん、両手にショットガン持ってたし、咄嗟に殴り掛かられて、リロードも反撃も出来なかったみたいですねー……」
「うわっ……むごい……どっちが反社かわからないなこれ……」
「まあ、先に悪いことした方が悪いっていうのが、KAZUさんの持論ですしね……」
「……『対話も大事』って言ってなかったっすか?」
「しかし、すごいですねー。流石『モグラ殺し』さん……悪人相手とは言え、暴力に一切躊躇がない。……憧れるぜ」
> 憧れんなw
> 丘坂アウトロー頂上決戦
> ざまぁを通り越してヒヤァ…って感じ
> 本当にカタギ?
やがて、コソ泥の手元から、布の丸まった塊が転げ落ちた。
「!おい、モグラ!カメラ他所向けろ!絶対映すんじゃねぇぞっ!」
「はっ……はい!」
俺は、彼女に申し訳ない気分になりながら、その布を拾い上げるべく、手を……
……あれ?
「……これ、シュシュ?」
「………………」
レイちゃんに視線を移すと、彼女は顔を赤くしながら俯いていた。
………………
………………
……あー、そういう事か。
レイちゃんには「尻尾」が生えている。だから、服はオーダーメイドで発注し、その為の穴をあけて貰っている。
しかし、そのままにしてしまうと、換毛期などの毛の薄くなる時期に、隙間から「下着」が露出してしまう危険がある。その為、しっぽの付け根に、スカートにボタン止めする形で、シュシュを固定して隠しているわけだ。
……なるほど「無くなったら困るモノ」だ、これは。
……というか、冷静に考えたら下着単品を、未装着で持ち歩いたりするわけねぇ。おそらく、上からローブで羽織った時に、引っかかって落としたら困るからと、服から外してポケットに入れておいたんだろう。
目の前では、顔面をボコボコにされた憐れなコソ泥が横たわって、何かを言っている。
あー……泥棒は褒められたもんじゃないが……下着ドロ扱いでボコボコは、ちょっとやり過ぎたな。一応、探索者名簿の文言においても、窃盗は明確なルールとして禁止はしてないし……。
まあ、次以降、公共ダンジョンを潜る時の、ルール策定の参考にはさせてもらおう。それで、チャラにしてくれ……。
「ゆるして……もう、盗みとか、悪いこと、しないから……、殴らないで……」
「あー、うん……。その、俺もやりすぎたよ。今地上に戻してやるから、今後は、もうちょい他人に迷惑をかけない探索をしよう……な?」
立ち上がった俺は、ショットガンを拾い上げて引き金を引き、コソ泥を地上に「送還」した。
「……その、こわい所見せてごめんな。これ、LEAちゃんの、その、『髪飾りのシュシュ』……」
「は、はい……」
ばつの悪い顔をした俺から、彼女はその「髪飾り」を受け取った。
> こわ…
> 髪飾りにブチ切れすぎる…
> LEAちゃんのホームセキュリティだな
> 民間軍事会社では?
> モグラ&泥棒殺し
「リ……、リスナーのみんなも、女の子のファッションアイテムを、気安く奪ったりしちゃ……だめだぞ?」
「……『モグラ殺し』が、おしおきに来ますから、ね」
俺は、MOGURAに軽く肘打ちした。
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