#24 キッズ篭絡戦線
指輪をはめたレイちゃんは、心ここにあらずと言った顔でボーっとしている。……大丈夫か?
……まあ、悩んでる時間はない。今アイツらは最深部……他の攻略者が到着したら、「願望機」を巡って衝突は必至だ。
現地には、一人でも多くの戦闘要員を残すため、指揮をフタバに任せて俺一人で「帰還の絵巻」で離脱し、車で実家に飛ばしてきた。……交通法規は守って、な。
彼女用の防魔ローブと、予備の防弾ベストも車に積んでいる。彼女を車に乗せたら、運動公園にとんぼ返りだ。
「おふくろ、レイちゃんを……連れて行く!事情は事前に話した通りだ!」
「……なるほど、レイちゃんのため、ね?」
「ああ。みんなを置いてきてるから……急いで帰る必要がある……!」
「……行きな、カズ。しっかり、やり遂げてくるんだよ」
「当然だ。おふくろは、寿司の出前でも取っておいてくれや」
「いやァ~~~~ッ!」
向かい合って話していた俺たちを遮るように、女の子の声が聞こえた。
……やべ。チアキちゃん起きちゃったか……。この子、レイちゃんにガッツリ懐いてるから、こりゃ、かなりマズい。
「……ごめんな、チアキちゃん。レイちゃんと大事な用があって……」
「レイちゃん、チアキと一緒にいるの~~ッ!」
ああー……、これじゃらちが明かない。孫のことじゃおふくろも頼れねぇ。事情を伝えてないレイちゃんも困っちまう。ハル坊を呼んで引きはがそうとするのも……泥沼だろうな。
……仕方ねぇ。ここは、ダーティーに行くか。
「……チアキちゃん、『マジック☆ピュアまじょ』の変身グッズ……ピュアコンパクトだったよな?……欲しいか?」
「!」
「レイちゃんを放してくれたら……ママに秘密で、買ってやるよ」
……やっぱり、子供にはこいつが有効だ。ぐずりが速攻で収まり、そろばんを弾き始めた表情だ。
大人は過去を美化して忘れちまってるがな、子供ってのは大人が思うほどピュアじゃねぇ。現金なもんなんだよ。
人の親じゃない、自由人だからこそ、客観的に見られるガキの汚さ……しっかり利用させてもらうぜ?
「……『マジックジュエル』も?」
……えっ?たしか……本体に挿す、別売りのガチャガチャ回して集めるやつ?
いや、大人だし、財布は痛まねぇけどさ……俺、女児向け玩具のガチャガチャ回しまくるの?
……いや、悩んでる場合じゃねぇ。うん、レイちゃんにおもちゃ売り場について来て貰おう。このぐらいまでだったら、お願いしてもバチも当たらんだろ……。
「……ああ、フルコンプさせてやる。おじさんの金持ちっぷりを、舐めんなよ?」
「やったぁ!カズおじさん、大好き!」
現金なガキんちょめ。……なんていっても、正直ちょっと頬が緩んじまった。ま、姪っ子が可愛いのは嘘じゃねぇさ。たまには甘やかしてやっても良いだろ。……叱ってくれるなよ、フタバ。
俺は、廊下に向かって大声を出し、奥の部屋でオペレーションをするハルトに声をかけた。
「……ハルトーッ!状況が変化したらDM飛ばしてくれーっ!運転中は出られねぇが、現地で確認するからーっ!」
「了解ーッ!」
「あと、お前も、あとでグラボ買ってやるからなーっ!フタバには秘密なーっ!」
「えっ……マジ!?……よし、カンペキにこなすから、オペは任せてっ!」
「おうっ!頼りにしてるぜ!」
へへ、こっちにもやる気出してもらわんとな。兄妹差別は良くないぜ。
……値段的に、ヘッドセットやキーボードぐらいに留めといたほうが良かったかな?
まあいい。オジキに二言は要らねぇ。なんだって買ってやるよ。
「よし、いくぞレイちゃんっ!」
「は、はい……っ!」
俺たちは、玄関を出て、車に向けて駆け出した。
「……頑張るんだよ、カズヒロ」
「……ところで、チアキちゃん。カズヒロじゃなくて、私が買ってやろうか?『ピュアまじょ』の、変身おもちゃ♥」
「う~ん……、ばぁば、スリスリしつこいから、おじさんの方がいい~」
「なっ……、なんてこったい……っ」
* * *
俺は車を飛ばす。法定速度ギリギリでスピードを出すので、安全のためにも話は現地ですると言っている。現代知識が充分でないレイちゃんに対してだと、信号待ちの時間だけで説明しきれる話じゃないしな。
信号を待つ間、レイちゃんは、俯いて左手をさすっていた。車に乗り込む前に、手元にあった「帰還の指輪」だけでもと、慌ててはめたからな……もしかしたら、指を擦ってしまったのかもしれない。……ごめんな、レイちゃん。
わけも分からないまま連れ出された彼女を想うと、やはり事前に説明すべきだったかという想いもある。けれど、説明の難しさは元より、きっと彼女は、自分のために働く家族の姿を見て、自責の念に駆られちまうことだろう。
願望機が遠隔発動可能なら、彼女に知られることなく、すべてを解決してやりたかった。何も気に病むことなく、これまで通り幸せに暮らして欲しかった。……上位存在め、もっと融通きかせろっての。
「……もうすぐ、着くよ。ちょっと大変で怖いかもしれないけど、降りたらちゃんと説明するから」
「……はっ……はいっ!」
裏返ったような声……きっと、不安だったんだろうな。俺は、思わず、往年のミケを予防接種に連れて行く、あの道中を思い出してしまった。
ケージの中で不安に怯えるミケを見ると、こっちも悲しくなってしまった。……猫扱いは失礼だが、そんな記憶が、つい彼女と重なってしまう。
……しんどい記憶を思い出した俺は、シフトレバーから手を放し、彼女の右手に手を添えた。レイちゃんは、一瞬びくりと肩を震わせたが、俺の方を見つめ、少しずつ、落ち着いていった。
「……大丈夫。俺がそばにいるから。何も、心配いらないからな」
「…………はい♥」
よかった……。明るい声が返ってきた。やってしまってから「これ、ハラスメントじゃねぇか?」と不安になったが……、そうは言っても、この子とはもう兄弟みたいなもんだ。
きっと、レイちゃんだって、そう思ってくれてると、少なくとも俺はそう信じている。……「お兄さん」とは、まだ呼んでくれないけどな。フタバの自慢気な顔がちらついて、少しイラっとした。
……この子を、フタバやミツキみてぇに雑に扱ったりはできねぇが、それでもレイちゃんとは、本当の家族のような信頼を築けたと思っている。
どれだけ情けない姿を見せようが、俺は山神の長男だ。この子に、俺の家族に、もう不安なんて……感じさせはしねぇ。
――俺は、左手をハンドルに戻し、アクセルを踏み込んだ。
大丈夫、レイちゃん。俺はそばにいるよ。
レイちゃんが……、自分の足で、将来に向かって歩き出す、その日まで、な。
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