#20 おしえて!上位存在
「3、2、1……FIREッ!」
俺の合図とともに、魔導対戦車擲弾発射筒が火を噴いた。
発射されたロケット弾は、「守護者」に命中し、爆炎の中から巨体が現れる……!
「……よし、コア露出確認っ!片手も落ちてます!」
HUD越しにズームで確認したナツオさんが、状況を伝達する。
「次弾装填ーっ!これで倒し切れなかったら、魔導山刀に持ち替えて、全員で突撃かけるぞっ!」
「了解っ!」
ロケット弾の第二波が、「守護者」に飛来する――
* * *
「どうにか、倒せたね……」
「結構際どかったですね……」
ミツキが息を切らしながら答えた。危なげな所もあったが、誰一人欠員を出すことなく、最下層のガーディアンを攻略した。
ロケット弾でダメージを与えた後は、男性陣が近接武器で突撃、フタバとカナコさんは銃火器で後方支援の布陣だった。
こうして振り返ってみると、実家ダンジョンを攻略した時の準備、RPG三門ってのは多少心もとなかったかもしれない。
……って考えると、これ一人で破壊した眼帯黒マント、相当強かったんだな。対人戦と対ゴーレム戦だと、勝手が違うってことなのかもしれない。
今回のMVPは、やっぱりカナコさんだろう。ダメージの蓄積はあれど、ピンポイントで関節打って、片腕飛ばしてたぞ。
彼女、異常にエイムが良い。……クレー射撃って散弾銃だよな?数日練習しただけで、こんなに狙撃うまくなるもんか?
「お恥ずかしいですが、長いことVRのFPSにハマった時期がありまして……スナイパーやってました」
「えっ……カナコ、VRってメタバースのために買ったんじゃなかったの?」
「最初はそうだったんだけどね。あっちの友達にオススメされたのが思いの外楽しくてね。気恥ずかしかったからミツ君にも黙ってて……」
「そっか……てっきり、かわいいアバターでも着てワイワイやってるもんだと思ってたけど、思ったより血みどろだったんだなぁ……」
「カナちゃん、銃撃つときめっちゃ笑顔だったね……正直びっくりしたわよ」
「あはは……」
……婚約者と言えども、何もかも知ってるわけじゃないってことか。まあ、夫婦であっても他人と言えば他人。あまり知られたくないことぐらいあるだろう。
……いや、恋人「だからこそ」知られたくない面もあるか。見栄もあるし、良い所だけを見てもらいたいってのも人情だ。もっとも、いつまでも隠しきれるものでもないし、こうしてお互いを知ってくことで、関係が安定してくって面もあるのかもな。
ナツオさんはフタバに水筒を差し出した。よく気が付く人というか……温厚な性格の人だし、結構尻に敷かれてるのかも。ミツキとカナコさんの二人ほどの初々しさもないが、その分勝手知ったる信頼関係を感じる。もうすぐ十五年目だったかな?……時間たつのって、本当に早いよな。
………………いいなぁ。
……なんて、考えてる場合でもねぇやな。今はそれどころじゃねぇ。レイちゃんの問題解決。そのために来たんだ。
「じゃあ……さっそく『願望機』、使用と行きますか」
* * *
――――迷宮を攻略せし勇者よ。汝の願いを叶えよう。
――――望みを言うがよい。
白い人影が揺らめきながら、俺たちに語り掛ける。願望機の執行システム「上位存在」だ。
……二度目ともなると、ちょっと神秘性とか、感動も薄まるな。
「あー、使用前にさ、願いの実現可能範囲とか確認したいから、その受け答えからね。……質問に答えるだけで『願いは聞き届けた』とかは無しだぜ?」
――――そんなケチなわけないでしょ。
「念のためだって。じゃ、まずは――」
* * *
「なるほど、あんたが倫理規制を担ってるってことか」
――――そういうこと。
――――殺人だとか強奪だとか、そういう目的に私達のことは使わせないためね。
……いや、異世界誘拐は良いのかよ。レイちゃんがこの世界に来たことを否定するつもりは毛頭ないが、それでも、あの時の願いは人道にはもとるだろう。何かこいつらの倫理基準も疑わしいんだよな。
――――そこは、四十九号願望機の判断だからなぁ。
――――あっ、君たちの実家の願望機ね。私は四十六号。別物だよ。
――――各々の裁量に基づいて善悪を判断してるの。私ならNOだったかも。
「………………」
――――まあ、その子の生い立ちと、使用者の君の内面を加味しての結論だよ。
――――信頼性に欠ける者に、苦しむ人の人生を預けるほど、我々も無道じゃない。
――――もっとも、私から見た君は、ダンジョンに地雷敷設しまくる、ヤバい人の部類だけど。
ぐぅの音も出ねぇや。俺より他の奴に使用任せるべきだったかな。
……まあいい。その辺は他のヤツに使用権をパスして信頼性ロンダリングすればいいんだ。兎にも角にも、まずはレイちゃんの健康だ。さっさと本題に移るとしよう。
「キャシィ族に、現行地球人類の医療的恩恵を与えたい。それについて、どこまで可能なんだ?」
――――ふむ。そうだね。
――――まず、君たちのプリントアウトしてきた資料を見る限り……
――――(1)現世に存在する既知の伝染病の抗体の生成
――――予防接種に該当する処置だね。これは問題なく可能だ。
――――ただし、現在まだ発生していない新種のウイルスへの抗体は無理。
――――現代医療の発展を待つことになるね。
――――個別のケースとして「新型の病気にかかったこの子を助けて!」は可能。
――――「未来の予防」は話が変わる。ウイルスの変異は予測不能な混沌だ。
――――なので「無病息災」は、実現不可。不老不死みたいなものさ。
「……願望機っていうか、神頼みでも定番なのにな。無病息災」
――――「地上最強の生物にしてくれ!」みたいなもんさ。
――――その時最強でも、僅差じゃいつかは追い抜かれるかもだろ?
――――かといって、重機みたいな人間なんて、人の領分を逸脱してる。
――――人の身に余らない程度に願いを叶える。それが我々の役割で、限度なの。
……まあ、いい。ひとまず最優先事項の対応が可能というだけでも十分だ。念のため、他のアイディアについても聞いておくか。
――――(2)キャシィ族とホモサピエンスの生理的相違点を資料として出力
――――これもOK。キャシィ族の生体機序の論文みたいなものだね。
――――現生人類の医療技術に相当する所までは提供可能だよ。
――――ただ、それを医療機関や国にどう認めさせるのかは、我々の管轄外だね。
……なるほど。確かに情報だけあっても仕方ない所はある。
俺たちが勝手に用意した情報で、医師が独断で診察や外科手術とかできるわけもないしな。そりゃそうだ。
データを手にした後どうすべきかは、俺たちが手探りで進めていかなきゃならない、ってことか。
――――(3)レイちゃんの肉体のホモサピエンスへの変換
――――これもOK。人間の技術では再現できないけど、我々なら可能な範囲だ。
――――現世と異世界の生物、双方についてすべて把握してるからね。問題ない。
――――ただし、これは哲学に近い。懸念通り、同一性が問題になるだろうね。
――――我々としては「物質も魂も継承した同一人物」と断言できる。
――――だが、それを証明する手段は無い。哲学的ゾンビの問題にも近いね。
――――例えば、記憶喪失で「経験」を失えば、みな「別人」に感じるだろう?
――――そうした、自他の「認識」までは、我々にはどうしようもないのさ。
……そうだな。こいつを信用するかどうかはさておき、「証明できない」んだ。
レイちゃんと同じ自我、同じ魂を持っているとされる、分解再構築された別の生命体が、本当に同じ自我を持った存在であるか。その疑問は決して晴れないだろう。
何よりレイちゃんにも人生はある。つらいこともあっただろうが、これまでの彼女の歩みであり、アイデンティティにもなっているであろう「種」を書き換えるなんて、俺たちの独断で許されることじゃない。
彼女の求めがない限りは、今のままのレイちゃんが、そのまま幸せになれる道を模索するのが順当だろう。
――――(4)レイちゃんの生活環境の整った別世界への転移
――――これもOK。なんなら、一番安全で確実な手段にはなるよね。
――――「キャシィ族の生活する、社会制度の整った近代異世界」ね。
――――多分、該当する世界は、少し探せば問題なく見つかるよ。
「!」
――――ま、君らはそうしたくないんだろ?顔見ればわかるよ。
――――我々は、「人の望みをかなえるアイテム」だからね。
――――人を不幸にしたいわけじゃない。答えは慎重に出したまえよ。
少しだけ考えて、俺は、願望機に、望みを伝えた。
「……わかった。まずは、現世の人獣を問わないすべての既知の感染症について、その予防措置を彼女に対して行ってくれ。……万一、彼女が現世に重大な問題を起こしうる病原体を持ち込んでいたら、その防疫も合わせて頼む。……ただし、彼女の健康を著しく害さない範囲で、だ」
――――OK。承知した。
……俺は、ひとまず胸をなでおろした。これで、第一段階はクリアだ。まだ問題は山積みだが、目下として重篤な感染症にかかるリスクは、これでなくなる。
――――で、その「レイちゃん」……レイチェルって子はどこにいるの?
――――君のパーティーって全員、現世出身のヒトだよね?
「…………えっ?」
――――いやいや、確かに、我々は願望機であらゆる願いを叶えるけどね?
――――目の前にいない人を、どうやって治療するのさ。
……おいおい、これって……まさか、こいつ、マジか?
――――あー、彼女を連れて、ダンジョン攻略「再走」だね。
――――ま、願い事はまだ未消化扱いにしとくからさ。頑張ってね☆
レイちゃんの命が掛かってなかったら、この場で叩き割ってやりたい気持ちだった……。
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