#19 MOGURA’s SONG
俺の名前は土御門 竜。MOGURAの名義でダンジョン配信をやっているストリーマーだよ。
俺のチャンネルの歴史は古い。令和ダンジョン黎明期、伝手をたどって「帰還の指輪」を入手したことで、ダンジョンレビューを始めたんだ。
最初の頃はチャンネルも全然伸びなくてさ、変な企画も色々やったよ。ダンジョン餓死RTAとかさ、今では鉄板のネタとして擦られてるけど、絵的に地味で本当伸びなかった。見てる側も不快通り越してガチ心配って、当時の数少ないリスナーにも言われてたほどだったよ。
その後、俺の企画力と編集技術の向上で、着々と人気をつけていったチャンネルだったけど、実の所、最近は伸び悩んでたってのが本当の所なんだ。ダンジョン配信者ってめっちゃ増えたでしょ?独自性の高い企画をもってないと、どうしても埋もれちゃうんだ。
先行者利益で結構資産はあったけど、うちのチャンネルには「テーマ」が欠けてたんだ。ダンジョン料理とか、考古学解説とか、学術的なことは、どうしても専門知識が必要だしね。ぶっちゃけ、Fラン大学卒の俺としては付け焼刃で太刀打ちできる世界じゃなくなりつつあったんだ。
だから、企画内容はどんどん過激になったし、誰も入っていないダンジョンを探して、私有地にも立ち入ったわけ。悪いことだとはわかってたけどね。
でも、転機ってのはあるもんでさ。みんなも知ってるだろう?「モグラ殺し」さんのヘッドショット!最初は訳も分からず、地上で目を覚ました俺だったけど、彼にスマホ返してもらって、電車で配信ログ見てびっくりしたよ。うちのチャンネルがこんな盛り上がってるの、いつ以来だ!?
「暴力」「復讐」「ざまぁ」……これは、人類の根底に根差す快感と深くリンクしてる。どれだけ文明が発達しようと、俺たちはこの欲求を消すことはできない。視聴者のみんなも、学術的なチャンネルに感心する一方で、こういうゲスい体験にはずっと飢えているのさ。
じゃあ、俺がやるべきチャンネルはどういう物か。ようやく道筋が見えたよ。これをやるために、俺はダンジョン配信で金を溜め込んだんだ!って……!
俺は彼を恨んでなんかいない。……むしろ尊敬しているんだ!あんなに気持ちよく、イヤなヤツをぶっ飛ばせる人、そうそういないよ!
彼は俺の目標だ!もし彼がダンジョン配信を始めたいって言ったら、喜んでサイドキックをやりたいぐらいだ!一緒に他の配信者をぶちのめそう!
……けど、彼は配信者が嫌いだろう。そりゃそうだ。迷惑かけた身だからね。本当申し訳ないし、……残念だよ。
……だが、ありがとう、モグラ殺しさん!俺の動画配信者としての鬱屈を取り払ってくれて!「面白い配信」が何かを教えてくれて!
だからこそ、感謝と敬意をこめて!俺はあなたに「ざまぁ」をしなくちゃいけない!俺自身が、あなたの存在を越えるために!
あなたを倒して……「モグラ殺し」の存在を闇に葬って、俺はようやく「ざまぁ系PvPダンジョン配信者」として一人前になれるんだ!
さあ、俺のクライマックスにして、俺のスタートライン……!
一緒に作り上げようぜ!最高の配信をッ!
* * *
「いやぁ、HIMIZUくんの配信のおかげで、地雷のことも予習できててよかったですよ!」
俺は、床に設置された地雷を、両手の魔導拳銃で打ち抜き、起爆させていく。
非破壊性の魔力指向爆弾……ダメージを与えるのは「帰還の指輪」で構築された仮想身体だけ。ダンジョンの建造物には被害を与えないプロの仕事……!「市後援ダンジョン探索者」は伊達じゃない……!流石はモグラ殺しさんだ……っ!
……だが、今回の俺は一味違うぞ!魔導銃火器についても綿密に下調べして、ゴブゴブ生配信のタイムシフトで、彼の対人戦術も徹底的に把握した!まだ明かしてない手の内があるかもしれないけど、だからこそPvPはアツいんだ!最後まで誰が勝つかわからない……バトルの醍醐味がそこにある!
「今回は、家族の方以外にも二人パーティーメンバーがいるみたいですね!いやぁ、楽しみだ!どんな戦いになるのか、配信してる僕にもわからない!」
俺は歩みを進めていく。やがて、前方にはL字路。待ち伏せにも警戒が必要だろうが……逆に俺が壁を利用して攻撃を仕掛けることもできる。
しかし、なんだろう、何かが――
――ジャコン
「!!」
フォアエンドを引く音……ショットガンのリロード……待ち伏せか?……だが、俺の姿はまだ彼らに見られてない。曲がり角に隠れながらの銃撃で、先手を取って彼らを仕留められるかもしれない!
俺は、壁に背を当て、ショットガンを取り出し、頭の中でここから先の展開をイメージした。確か、こっちに逃げたのはモグラ殺しさんと、若い女性だ。俺の後方には、残る三人の気配は感じない。追手は……まだ来ない!
……撃つ。ふたりが視界に入ったら……すぐに照準を合わせ、引き金を引く……っ!まずはモグラ殺しさん、次に女性メンバーの方だ!
俺は、深呼吸をして……銃を構えて身を乗り出した!
――そこには「箱」があった。
前後に延びた二本の足が、その歪曲した薄い小さな箱を自立させている。
――魔導指向性地雷かっ!
俺は、乗り出した身体を瞬時に引いた!小さな無数の魔力弾が、俺が背を向けていた壁に瞬時に叩きつけられる!
……回避した。回避できた。間一髪……俺は、生き延びた。俺は、歯をむき出しにして、笑っていた。
読み勝った……モグラ殺しさんの奥の手を!
ショットガンのリロード音で俺を誤認させて、広範囲の面攻撃で仕留めにかかる設置トラップ……これを回避した!
リロード音はついさっき。彼らは、まだそこまで先へは進んでいない……走ればすぐにでも追いつく!ましてや袋小路……彼らに逃げ場はない!
……勝てる!勝てるんだ!俺が、この手で、モグラ殺しさんを殺してやれるんだ!
すまなかったな、モグラ殺しさん。俺の持ってる知名度のせいで、変に名を広めちまって。
……でも、もうこれで終わりだ。アンタは俺に負けて「はた迷惑な配信者にキルされた一般人」に、戻れるんだよ。
……行くぜ。俺の手で、ケジメをつけてやる……!
俺は、ショットガンを構えて、クレイモアをジャンプで飛び越し、その先の道を――
――巨大な銃声とともに、俺の右足が前に吹き飛んだ。
何が起こったのか、バランスを崩しながら倒れ込む俺の後方から、さらに二発の銃声。俺の右手首が、左手首が、両手で握られていた銃が、前方に千切れ飛んでいく……。
これは、狙撃……?
俺は、地面に倒れ込んだ。地面に顔を打ち付け、ざらざらした床面に、唇を擦り付けた。
「お義兄さん……!人を撃つのって……めちゃくちゃ気持ちいいですねっ♪」
「……カナコさん、それ、人前では……多分ミツキの前でも、言わない方が良いっすよ」
……俺の後方で、聞こえるはずのない二人の声が聞こえた。
* * *
俺は寝返りを打つようにあお向けになり、震えながら上体を起こした。
「どうして……?」
「あー、ここ、L字路じゃないの。T字路なの。俺らがいたのは、お前の正面にあった壁の中ね」
先程まで壁のあった場所は通路になっている。
……「疑似壁魔法」?絵巻の魔法か?
「最近、シャーマンとの親交も増えててな。使えそうなスクロールを買い取って準備してたの。銃火器だけと思って油断したな」
……そうか、一瞬感じた違和感。なかったはずの壁。
待て、じゃあ、あのリロード音は――
「スマホはもう一台あったの。アンダーネット用と、普段使いのインターネット用ね」
……クレイモア地雷の後ろ、良く見たらスマホが置いてある。
……ああ、録音再生か。考えてみりゃそうだ。さっきのデコイ作戦だって、モグラ殺しさんが、もう一台スマホを持ってなきゃ成立しない。
……最初から、俺の後ろをとるために、彼らは偽壁の後ろに隠れてたんだ。
俺の違和感の正体。なかったはずの壁。これをショットガンのリロード音という「エサ」で、視野を狭めて、選択肢を塗りつぶした。
角を曲がって追いかけさせるように、俺を誘導して、隣の女性に狙撃させたんだ。
彼は、俺の懐からスマホを抜き取った。……はは、彼の宣言通り、地べたを舐めて、スマホを返す羽目になったよ。
ああ……強えなぁこの人。勝てなかった。完敗だ。
……クソっ、悔しいなぁ。万全の準備をしたのに。泣きたい気分だよ。
「さて……」
……でも、楽しい。また、この人に挑んでやる。モグラ殺しの異名、今度こそ奪い取ってやるぞ。
「じゃ、送還前に、何か言い残すことはあるか?」
彼は、ショットガンをリロードし、銃口を俺に向けた。
………………
………………まあ、
……「これ」しか、言えることもないよなぁ。
俺は、全力で、笑顔を作った。
「チャンネル登録と高評価……よろしくお願いしますっ!」
ショットガンが、俺の上半身を吹き飛ばし、俺の身体は光の粒子となり、地上に送還された。
「……まったく、大したプロ根性だよ。お前も」
最後まで読んでいただけた方は、下にスクロールして☆を入れて頂けますと幸いです。
☆:いま一歩
☆☆:最後まで読んだ
☆☆☆:悪くない
☆☆☆☆:良い
☆☆☆☆☆:最高!




