#18 やばいプレイヤーのMOGURA
「うわっ」
第七層の攻略に手間取る俺たちの前に現れたのは、思わぬ男だった。
因縁深い……ってほどでもないが、俺たちのダンジョン攻略の始まりに関わる存在とも言えなくもない、いつの間にかネットユーザーの呼ぶ俺の異名にまでなってしまった配信者……MOGURAだ。茶色いニット帽とTシャツのファンキーなモグライラストがいかにもわかりやすい。多分グッズ販売してるんだろうな。
俺は、奴のモグライラストにショットガンの銃口を向けた。
「……まさか、また会うとはな」
「はは、あの節はどうも……」
「……今日はなんでこのダンジョンに?」
「はは、それは、僕、ダンジョン配信者ですよ?ダンジョンがあれば潜るのは、もう宿命みたいなもんじゃないですか?」
「……私有地でもな。怒りのあまり他の不法侵入者も全部倒しちまったぜ」
……ハルトがHUDにコイツの配信を送る。首から下げたスマホは配信に使用しているようで、奴の視点から撮影しているのだろう。最悪だな。被撮影者に許可取らずにネット配信してんじゃねえよ。
「あれから、僕も考えを改めまして……、やっぱり私有地で無断撮影は良くないなと……今は公共施設のダンジョン専門でやらせて頂いてます」
「……そりゃご立派なことで。お前のおかげで、あの時に俺の喋った言葉は、余すとこなくMAD素材になったけどな。『モグラ殺しに歌わせてみた』だとよ」
「土下座ネタで火がついちゃったわよね」
「……何度も言うけど、ラーメンの人は店主土下座させてないからね?」
コイツのせいで、俺も「モグラ殺し」としてすっかりネットのおもちゃだ。一部界隈に過ぎないとはいえ、俺の発言の切り抜きは音MAD素材になり、モグラいじりも兼ねた鉄板ツールになっちまったようだ。……まあ、本名までバレてないのは幸いか、仕事に悪影響は出ていない。だが、自分の言葉が知らねぇ奴に切り貼りされてるのは、大層気分も悪い。撮影場所が自宅の敷地と考えると、はらわたも煮えくり返る。……ムカついてアホな煽りをした俺に、全く落ち度がなかったわけでもないんだが。
ともかく、だ。俺の方は、ガキの頃に炎上を経験してたから、ある程度の耐性もついてたが、繊細なやつだったらとっくに病んでるだろうよ。万が一、レイちゃんに同じことしやがったら……殺すな。
「……で、今日もせっせこ素潜りか。市の指導方針には従えよ?」
「ええ!もちろん!現地住民にも危害は加えませんし、破壊行為も略奪も無しです!MOGURA―TVは健全なチャンネル運営をしていきますよ!」
「ふーん」
「……何より、それで数字が稼げる時代には、すでに陰りが出てるんですよ。そのチャンネル独自の分野って物がないと、視聴者に楽しんでもらえませんしね!」
「そうかい。……で、それなら一体何をするんだ?ダンジョンモンスターでラーメンでも作ってみるか?」
「ザリガニとかウシガエルでよくあるよねぇ。外来生物の駆除かねて料理するチャンネル」
「 PvPです!!! 」
…………ん?
「僕が殺されたシーンの圧倒的収益率!時代は、ダンジョン配信に、PKを……闘争を求めているんですよ!」
「おじさん……っ!」
ハルトが、映像のコメント欄を拡大して、こちらに映像を送る。
> モグラ殺し来た!
> おはモグラ殺し
> おは殺~
> おは土下座
> おは地権者
> あっ…(殺し)
> タイマースタート
> 雪辱戦ktkr
> やばいプレイヤーのMOGURA
> モグラ殺し殺し
> アーマード土竜
> 土竜は闘争を求める
> 重 装 せ ん め つ 土 竜 無 双
……俺は、視線をMOGURAに戻した。ヤツは……前で組んでいた両手をほどくと、両手から魔導回転式機関銃を取り出した……!
「殺すぞ~~~~~~~~!!」
* * *
展開される弾幕を命からがら回避した俺たちは、横道に飛び退き、奴の攻撃を回避した。下手すりゃ全滅だったが、対峙したのが十字路で助かった……っ!
「一般の探索者は、市後援の探索者に危害を加えないんじゃなかったんですか!?」
「名簿の文言に、俺たちへの非攻撃事項は書いてないっす……!地雷埋める想定で策定したんで、あとでトラブルにならないようにって……」
「完全に裏目じゃない!」
そんなこと言ってもな、ここまでの危険人物になって帰って来るなんて誰が想像つくよ……!?初対面の相手に銃撃なんて、……信じられないぜ。
……だが、話せばわかる。うん、人間は、きっと分かり合えるさ。俺は、大きな声でヤツに向けて叫んだ。
「……落ち付け!落ち着いて話し合おう!暴力は良くないぞっ!復讐は何も生まない!」
「ははは、駄目ですよ!視聴者もこれを期待してるんです!そして、復讐は、暴力は、産み出すんですよ……!『快感』を!『同時接続』を!『富』をっ!」
「じゃあ……徒手格闘!うん!ここは文明的に、殴り合いでカタを付けよう!」
「体格差でそっちが有利じゃないですか!銃火器は体格差の不公平をなくす、文明の象徴ですよ!」
――銃撃が止まり、足音が近づく。
「じゃあ、文明的な話し合いはここまで!視聴者待望の……ざまぁタイムです!」
MOGURAは銃を構え、俺たちのいる十字路に身を乗り出した……っ!
「…………あー」
MOGURAの声の調子が変わった。どうやら気付いたんだろう。「俺が置き去りにしたスマートフォン」に。
「通話音声のデコイだったんですねぇ。流石モグラ殺しさん、一筋縄にはいかないなぁ……」
MOGURAの声が大きくなった。スマホを拾い上げたか。
「じゃあ、視聴者アンケートでーす!左手のパーティーメンバーと、右手のモグラ殺しさん……どっちから行きますかー?」
> 右!
> みぎw
> →→→
> RIGHT
> モグラ殺し一択w
ハル坊の送信した配信画面に映るコメントは、右一色だ。クソッたれ。部外者がエンジョイしやがって。対岸の放火魔が。
「……ま、そうですよね~。じゃあモグラ殺しさんにスマホを届けに行ってあげましょう!きっと、土下座するほど喜んでもらえますよ!」
ざけんな。俺だってあん時、本当に土下座まではさせずに帰してやっただろうが。同接数上げるためにフカシこきやがって。
……仕方ねぇな。腹くくるか。
「……よーし、じゃあ引き続き、殺すぞ~~~~~~~~!!」
「……はっ!返り討ちにしてやるよ。今度はしっかり地べたを舐めな、モグラ野郎」
奴に啖呵を切って、俺は通話を切った。ハル坊の送信した配信画面には、プロレス展開に熱狂する、無責任な視聴者どもの赤スパが飛んでいた。
……俺のチャンネルだったら良かったのにな。
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