#15 レッツゴー公的案件!
ゴールデンウィークの終わった五月中旬の深夜一時半。丘坂総合運動公園にて、俺たちは集合した。
ダンジョンの浮上が金曜の深夜に重なったこともあり、俺たちは無事にスケジュールを合わせ、これを目指すこととした。
流石に、フタバやミツキの連休を拘束するわけにはいかないということで、ある程度の準備は俺が進めていたのだが、話を聞くとフタバは家族サービスとしてハワイへの旅行をしつつ、配偶者の家族と協力して、子供を預かっている間にナツオさんと射撃訓練を行っていたらしい。本格派だ。
ミツキの方も、カナコさんとキャシィ族に関する情報収集をする傍ら、クレー射撃場まで赴き練習をしたということだ。子供がいない分フットワークが軽いとはいえ、それでも連休を消費させてしまったことには申し訳なさを感じる。「銃撃つのって気持ちいいですね!」なんて冗談みたいに話されたが、それも俺への気遣いは含まれていただろう。
……だが、全てはレイちゃんのこれからのため。
罪悪感に突き動かされてる部分が無いとは言わない。だが、それよりも前に、俺にとって、彼女は大切な家族だ。あの子は、この田舎で鬱屈としていた俺の心に、誰かを大切にしたいという想いを、呼び起こさせてくれた。彼女がつらい思いをして、悲しむ姿を見ることになるなんて、想像するだけで胸が苦しくなってくる。
レイちゃんにはこれからも、重い病や、社会の理不尽に苦しめられることなく、健やかに生きていってほしい。そのためなら、俺は何だってやるし、誰の恨みを買ってもいい。
――周囲を見渡す。
情報を嗅ぎ付けたダンジョン配信者に、冒険者どもが群れを成す。
……今回は、俺もこいつらの同業者か、でも、どうせこいつら役所に許可取ってねぇんだろうな。
セーフティーロックがかかっているとはいえ、なまじ魔法器で武装してる相手と衝突を起こしたら、万が一にも大惨事が起こりかねないからと、警察機構はダンジョン探索者を放任気味だ。それなら、危険なダンジョンを排除できるだけ放置の方がマシ、ってことだろう。
だが、一応体裁として送還者救護スペースと、「ダンジョン探索パーティー名簿」を記入するための机とテントが、大急ぎで設営されている。問題が起こった時に連絡をする先ということだ。……俺たちも無許可で挑んでもよかったが、これから行政にレイちゃんの法的保護を交渉していくんだ。先方には好印象を与えておくに越したことはない。
俺は法人設立届出書を提出し「(株)山神ダンジョンスイーパー」を設立した。事業内容はソフトウェア開発の受託と、ダンジョン探索の受託だ。今後、レイちゃんのために「願望機」がいくつ必要になるかは、まだ未知数だ。そのため、今後も踏まえて「公共機関からの案件」を取得するための足場を固めた。
ダンジョン探索を業務としてやっている法人はまだ少ない。そのため入札などを行うにも他事業者もないし、そうした委託の前例もなかった。
うちもまた、立ち上げたばかりの法人であり、「実家ダンジョン」の攻略経験こそあれど、実績として信用があるわけでも無い。
だが、反面でダンジョンに烏合の無法者が挑むことを自治体も快く思っているわけではなく、今回はテストケースということで「丘坂市後援ダンジョン探索者」という表現にとどめ、バックアップは最小限、完全攻略の際に成果報酬の支払いと回収資産を買い上げる形式とした。その為、事業者として正式に「契約」を結ぶのは、攻略後になるだろう。
……なお、ソフトウェア開発事業の方は、俺の本業の税金対策だ。この程度の役得は許してほしい。
今回の目標は、レイちゃんが人間界で感染し得る、重大な疫病の予防接種と同等の抗体を体内に生成することだ。ワクチン接種の可否が不明である以上、これが最も急務であると判断した。
俺たちはシャツの上に防弾ベストを着込み、その上から防魔マントを羽織る。
魔導金庫には十分な弾薬、食料、マジックアイテムに、攻略手順をストレージに詰めた情報機材……。
頭には、ヘッドギア型の魔導暗視鏡と、地下音声通信用の魔導無線通信機。
そして……各自持参した「帰還の指輪」を、左手の指にはめる。準備は万端だ。
『――カズヒロおじさん、浮上が始まるよ』
タブレット越しにハル坊の声が聞こえた。それと同時に、一帯には地響きが起こる。運動公園のトラックの中央に祠がせり上がる。
――ダンジョンが出現しました。名簿登録が完了した方から入場を開始してください。
深夜の運動公園に放送が響く。市役所から直接受託を受けた俺たちは、首に手書きの「丘坂市後援ダンジョン探索者」と書かれたプレートを下げて、直接ダンジョンの入り口に向けて歩き出した。
今回迷宮に挑む、「(株)山神ダンジョンスイーパー」の従業員は以下の通りだ。
・山神ユキエ(65):母。(株)山神ダンジョンスイーパーの代表。自宅で待機し、孫とレイちゃんのお世話。
・山神カズヒロ(38):長男。正社員。魔導猟銃装備。前衛で全体統括。
・谷岡フタバ(37):長女。嘱託。魔導突撃銃装備。切り込み担当。前衛で別動隊長も想定。
・谷岡ナツオ(36):長女の夫。嘱託。魔導突撃銃装備。本職は魔導機械エンジニア。
・谷岡ハルト(13):長女の息子。アルバイト。自宅でオペレーション参加。インターネット、アンダーネット情報を魔導映板に送信。
・山神ミツキ(29):次男。嘱託。魔導榴弾砲装備。トラップ設置と現住種族の渉外交渉を担当。
・川澄カナコ(27):次男の婚約者。嘱託。魔導狙撃銃装備。糧食の準備と狙撃。
「……みんな、行こう」
俺の声に皆は無言でうなずき、祠の中へと歩みを進めた。
そして、狭い祠の床一面に描かれた魔法陣に足を乗せる。俺たち山神パーティーの身体は、足元から光に包まれ、地下空間への転送が始まった。
ハル坊の操作で、魔導暗視鏡に、時刻合わせ用のカウントアップがスタートする。
――(株)山神ダンジョンスイーパーの初任務。
丘坂総合運動公園ダンジョン、RTA攻略が、始まった。
――――――――【番外編/破】――――――――
実家住みおじさん、
隣町の運動公園に湧いたダンジョンで
最下層一位到達を目指して義弟妹とRTAする
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