#10 くたばれ!SNS小僧
「マジかよ……猫人間じゃん!すっげぇな!コスプレ?」
「いや、最初、人形かと思ったんだけどよ、近づいたらこっちみて、マジビビってさぁ!」
「うわっ、すっげぇ服買い込んでんじゃん!下着もあるぜ?ってか日本語喋れんの?」
「黙って何も言わないんだよな」
「展示用のロボットなんじゃね?」
「……あの、」
「うおっ!喋った!っぱ、本物だよこれ!」
「やっべ、おい!写真取れ写真!いや、動画!これ絶対バズるって!」
「取り合えず、ツブヤイターに上げようぜ!そのあとグループチャットに――」
「おい」
俺は、ガキどもの手首をつかんだ。……キレそうだ。いや、既にキレているかもしれない。
「ガキども。今すぐフォルダ開いて、撮影した写真消せ。動画もだ。俺の見てる前で」
「は?なに言ってんだオッサン」
「……現国〇点か?クソガキ。消せっつってんだよ」
俺は、両手に力をこめる。小僧たちは一瞬委縮した。
暴力反対ってか?警察やパパママに言いつけるか?……上等だよ。舐めやがって。
(おい……あいつ!)
(あっ……やべぇ、あいつ『モグラ殺し』じゃん!)
(えっ?あのショットガンの?MOGURA土下座させたっていう?中高生に絡んでんの?やっば……)
(……警察呼んだ方が良くない?)
ヒソヒソとうるせぇんだよ。外野が何も知らずに好き勝手言いやがって。てめェら、レイちゃんが絡まれてんの見てただろうが。なのに、誰も助けようとしてねぇ。何なら「目立ってるレイちゃんのせい」とでも思ってるんだろ?安全圏から対岸の火事を見るのは、花火みたいで楽しいか?えぇ?
てめぇらも、このガキどもも、人の家族に迷惑かけてる自覚あんのか?自分の家族がSNSで晒されるかも知んねぇって、想像したことあんのか?
……クソがよ。レイちゃんや、おふくろが、何したってんだ?ショッピングモールの買い物や、実家の敷地を歩き回るのの、何がいけねぇ?言ってみろよ?
てめェらも、毎日やってる事だろうが。ちったぁ、足りねぇ想像力働かせろや。自分がされてイヤなことを……俺の家族にすんじゃねぇよ、クソが。
俺の、ガキどもの腕を握る手に、少しずつ、力が入っていく。
「……あら、そいつらの制服、丘高?私たちの後輩じゃん」
フタバが、アイスのカップを乗せたトレーを持って、俺たちのテーブルに近づいてきた。
そして、レイちゃんの前にそれを置き、髪を手櫛でかき上げた。
「三年一組かぁ……クラス章もつけて真面目ちゃんねぇ?進学クラスじゃない」
「!」
俺は、フタバの視線を受けて、ガキどもの手首をパッと離した。……そうだな。暴力沙汰は下策だ。
「あー、なんだ後輩かよお前ら。制服が学ランじゃないから気付かなかったぜ」
「三年前だかに変わったのよ、このデザインにね」
状況の変化に、ガキどものへらへら顔が戻る。……流れで見逃してもらえると思ってるんだろうな。
俺も、奴らに、笑顔を返す。俺たちは、声の音量を、周囲にもよく聞こえるように上げた。
「あっ、そういや、生活指導の伊東が、またこっち戻ってきてるらしいぜ」
「へぇ……じゃあ、報告してやったら?『私達の家族を盗撮した学生がいる』ってさぁ」
「えっ……」
ガキどもの表情が変わる。身近な問題になるまで、バカは気付かないもんだよな。
「アイツそういうの嫌いだし、厳しかったよなぁ。俺たちの頃、万引きしたガキいたじゃん。親が揉み消そうとしてキレたんだよ」
「あー、あったわね!警察沙汰になって全校集会開いてさぁ!そいつらだけ居ないから、速攻噂になってんの!」
「そうそう、先公のプライバシー意識なんてザルなもんだよなぁ!」
フタバは、口角を上げて悪辣な笑顔を作り、ガキどもを睨んだ。
「あっ、そうだ。伊東からコイツらの進路についても聞いておきなさいよ。盗撮なんてした学生を、知らずに入学させるなんて、大学側も気の毒だわ」
「そうだな。受験近けぇのにかわいそうだが……まあ、仕方ねぇよな。画像残されたままじゃ、安心して水に流してもやれねぇ。大ごとにするしかねぇよ。ご愁傷様」
ガキどもの顔色が変わった。ようやく、事態を飲み込めたようだ。
「そ、それだけは……」
「……じゃあ消せ。今すぐだ。そんで、この子に頭下げて詫びろ。『ごめんなさい』ってな」
ガキどもは、俺の前で画像を消した。ゴミ箱の中から、ファイルを完全に消去する。
「……消したか。もし復元でもしてみやがれ。次会う時は法廷だからな」
「学校も、クラスも、顔も割れてるし、特定なんて簡単よねぇ。ふふ、開示請求が届いたら、パパとママは大泣きね」
ガキどもは俯いている。どうせ、「クソが」って思ってるんだろうな。クソはてめぇらだ。大人を、舐めんなよ。
「……………」
「……ん?耳が遠くなったかな?何も聞こえねえんだが」
「幼稚園児にも言えるのにねぇ?まだ、現実わかってないんじゃない?」
「……あー、じゃ、警察か。幸い、監視カメラもあるし、目撃者もいっぱいいるしな」
「!!」
俺は周囲を見渡す。「盗撮」という言葉を高らかに使ったことで、俺たちに送られるのは同情の視線に転じた。自分を、盗撮犯の肩を持つ畜生だと思いたくねぇんだろうな。小賢しく、気付いてなかったことにしたってわけだ。……勝手なもんだな。
……まあいい。ガラの悪い中年男一人よりは、フタバも入ってくれたおかげで、大分空気が変わった。まったく、群集心理に水を差してもらえて助かったぜ。
「……で、何か言う事は?」
「……すみませんでした」
「……行け。二度とこの子に近づくんじゃねぇぞ」
ガキどもは去っていった。周囲の客たちも、状況が落ち着いたのを見て、視線を自分たちのテーブルに戻した。
「……バカなガキどもねぇ。生活指導が生徒の個人情報なんて、渡すわけないのに」
俺は、レイちゃんの座る椅子の横に、しゃがみ込んだ
「怖い目にあったな……レイちゃん。もう大丈夫、一人にして、ごめんな……」
レイちゃんの震える手を、俺はぎゅっと握った。彼女は、俺の手を握り返す。
世の中、好奇の目ってのは張り巡らされている。俺も、おふくろも、ダンジョン騒ぎでそのことを思い知らされた。
……他のヒトとは違う姿をしたレイちゃんも、否応なくこの渦中におかれる。不本意に投げ出された世界に、異分子として。
……この子のそばには、俺がいる。罪悪感とか、後悔とか、そんなものは後回しだ。
知らねぇ外野に、この子を好き勝手消費させるような、舐めたマネはさせねぇ。俺が弾避けになってでも、全部、引き受ける。
俺は、彼女の手の震えが止まるまで、彼女の横で、その手を握り続けた。
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