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墓さがし  作者: お赤飯
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墓さがし2

火野「お墓を探している?」

狩野「ええ。・・・・・そんなに驚く話ですか?」

火野「あ、いえ。すみません。まだ、お若いのに。お墓を探しているなんて、と、思いまして。・・・・・ちょっと早すぎません?」

狩野「はぁ?」

火野「ま、あの、えっと。そうですね。あの、価値観は人それぞれですから、」

狩野「そうですね。皆さん、そう言うと驚かれます。結婚もしていないのに、もう、お墓なんて?って。お墓を探すより、いい、結婚相手を探した方がいい、なんて、皆さん、そう言いますよ。」

火野「そういうのも全部、人生観は皆、違って当然ですから。その、お金は残さない主義だとか、稼いだお金は犬に使うとか、旅行に使うとか、ねぇ? マンション買っちゃったり、投資に注ぎ込んだり、・・・・・結婚して、専業主婦になっちゃう人もいますからね。どっちが墓場か分かりませんね?ははははははは。」

狩野「私、東京に出てきて、知り合いもそんなにいないですし、親もそんなにアテになりませんから、・・・・・将来の事を考えると、やっぱり、お墓の事を考えちゃうんですよね。結婚できるとも限りませんし。」

火野「いやぁ、あの、・・・・・今、結婚する、できる、とか、そういう話も、セクハラになっちゃう時代ですもんね。同性だからって気軽に言えないのも、考えものです。ただ、狩野さんは美人だから、お相手に事欠かないんじゃないんですか?正直な話。」

狩野「私、結婚願望はある方です。子供、欲しいと思いますし。でも、・・・・結婚したからと言って、その後、一生安泰ってわけじゃないじゃないですか。」

火野「ああ。そういう話になると、あえて目を逸らして生きて来たのに、現実を突きつけられると、返す言葉がありません、ねぇ。」

狩野「あ、別に、ライターさん。火野さんの事を言っているつもりはありませんよ。ま、一般論として、そう、思っているだけで。マンションを買うより、お墓の方が現実的じゃないですか。人間、いつかは死ぬわけだし。」

火野「そう考えると、お墓は必須ですね。」

狩野「・・・・実家のお墓に入るって話もありますけど、一度、家から出た女は、冷たくあしらわれますよ?」

火野「家から出た女は他人。戻ったところで、敷居を跨がせてもらえず、かと、いって、こっちにも戻る場所もない。・・・・なまじ、義理の姉なんか出来た日には、とてもじゃないけど、針の筵ですよ。」

火野「ははははははははは・・・・・・・ご体験があるんですか?」

狩野「私はありませんけど、田舎の人間は、みんな、そうですから。女に生まれただけで苦労しますよ。せめて、死んだら、ゆっくりしたいじゃないですか。死んだ後まで、義理の姉やら、小姑、舅姑と同じお墓に入りたいと思いますか?ごめんですよ、死んでまで。」

火野「ぁぁ。なんとなく、分かる気がします。」

狩野「今のうちから、良いところがあればと思って、探しているんです。ああ、火野さん。お墓はイス取りゲームですよ?良いお墓から売れていきますから、自分が、欲しいと思った時に、カスしか残っていない可能性だってありますからね。」

火野「カス?」

狩野「電車もバスも通っていない山奥の、人間よりクマだイノシシが多い場所に、誰が行きますか? お坊さんだって来てくれませんよ?」

火野「・・・・なるべく交通の便が良い場所。そうなると、都内。都内じゃなくても、都市部。通勤圏内になりますよね?」

狩野「あ、良い所に気づきましたね。その条件って、ファミリー向けのマンションや戸建てと一緒って事なんですよ。」

火野「お墓が、マンションと一緒!」

狩野「そうなんです。ある程度、交通の便が良いところって、人が住むんですよ。だから、マンションもお墓も、考え方は一緒なんです。立地を考えると、どうしても、高くなってしまう。ジレンマですよねぇ。」

火野「・・・・・そうなると、土地の単価は一緒でしょうから、マンションを買うか、お墓を買うか、二者択一になりますよね。」

狩野「まさにその通り! 将来、結婚するか分からないんだったら、マンション買うより、お墓を買った方が堅実的だと思いませんか?」

火野「そういう考え方。分かります。分かるようになってしまいました。」

狩野「イス取りゲームだから、立地の良いお墓から売れていき、残り物のカスは、どんどん、どんどん、田舎に向かっていくんです。買っても、行けないんじゃ、お墓としての意味がありませんしね。」


狩野「お墓は分譲なので、考え方は、賃貸のマンションと同じです。」

火野「買うのに、借りる? え? 意味が分かりません。どういう、事?」

狩野「お墓っていうのは、お寺にしか立てられないんですよ。お寺の土地に、お墓を立てさせてもらうんです。だいたい、お寺の隣が、お墓でしょう?」

火野「まぁ。はい。そうですね。」

狩野「そのお墓を立てて良い場所の一角を、終生、借りる権利を買います。」

火野「あ、権利を買うんですか?土地を買うんじゃなくて。」

狩野「ええ。土地はお寺のものですから。お墓を立てて良い場所の権利を買うんです。その他に、毎月、使用料って言うんですかね、管理費っていうのか、そういうのを払います。」

火野「月々、まだ、払うんですか?」

狩野「一括して年毎っていう所もありますし、月々っていう所もあります。それはお寺によって違いますね。管理費は、文字通り、お墓の管理を、お寺に委託しているようなものですから、そんなに、頻繁に、お墓に通えないでしょう?」

火野「・・・・ホントに管理しているんですか?」

狩野「まぁそういう体になっていますよね。雑草とか生えますし、お供えも、置いておけば腐りますから、そういうのを捨ててくださったり、一応は、やってくれているみたいですよ?・・・・ちゃんとしているところは。」

火野「ちゃんとしている所? ちゃんとしていない場所もあるんですか?」

狩野「当然、あるでしょうね。お墓もピンキリですから。お金だけ取って、何もしない所もよく聞きますし、檀家でもないのに、お布施をせがまれたりするらしいです。」

火野「クソボウズですね。」

狩野「土地建物の購入ですから、安い買い物ではありません。だから、執拗に調べるくらいで丁度いいんですよ。だって、私達、素人ですからね。」

火野「一生に何回も、家を買うなんて事もまず、ないでしょうから。」

狩野「そうなんです。一回、間違っても二回。それくらいしか人生で縁がないものを買うんです。騙されて当然くらいで、しつこく、調べないと、騙されますからね。」

火野「ああああああああ。・・・・お墓も奥が深いですね。」

狩野「生きている人間の方が、欲の皮が厚いですよ。・・・・なんつってぇぇぇぇぇぇぇ!」


狩野「日本中、お墓を探していると、ときどき、お墓に呼ばれる事があるんですよ。」

火野「・・・・・あのぉ、オカルトの話ですか?」

狩野「オカルトと決めつけるのもどうかと思うんですけど、私の様に、実際、お墓を探している人間なんて、ごまんといるじゃないですか。そういう人の、よくある話みたいなんですけどね。・・・・お墓を探している人達のコミュニティっていうのかな、そういうのがあるんですよ。」

火野「コミュニティですか」

狩野「情報交換会?っていうのか。ほら、SNSで情報発信している人もいますし、そういう方が中心になって、オフ会を開いたりするんですよ。・・・・・あそこの霊園は良いとか、不動産会社が詐欺まがいな事をしているとか、けっこう有益な情報を交換できるんですね。そういう時に、たまに出る話です。」

火野「お墓に呼ばれる?」

狩野「どこまでがオカルトなのかは分かりませんけど、そういう人の話を聞くと、少なからず、みんな、経験しているんですよ。不思議なことに。」

火野「狩野さんもですか?」

狩野「ええ、はい。もちろんです。あ、毎回じゃないですよ?ときどき、波長っていうのが合っちゃう時があるんですよね。広い霊園を見学している時なんか、遠くの方から、呼ばれた気がして、でも、仲介人と私以外、誰もいないんですよ。だって、ほら、お墓ですから。お盆の時期ならつゆ知らず。普段の日に、勇んで霊園に来る人も珍しいでしょう?」

火野「そう言われたらそうですね。・・・ま、でも、本当は、たまにじゃなくて頻繁にお墓に行って、手入れとか、しなくちゃいけないんでしょうけどね。」

狩野「本来はそうです。本来は。信心深いとかそういうんじゃなくて、土葬が許された時代は、家のすぐ横に埋めたりすることもあったそうですから、死と普段の生活って、切り離されたものじゃなかったんですよ。死が生活の一部だったんです。」

火野「そうですね。今は、さっきお話されていたように、法律で厳格に定められていますからね。むしろ、お墓が住宅地の近くにあると、土地の単価が下がって嫌がる、そういう話も聞きますから。あ、そう言えば、私の大学時代の知人は、あえて、お墓の隣のアパートを借りていましたね。安いんですって。家賃が。それに隣がお墓だと静かで、五月蠅くなくて良かった、とか、言っていたのを思い出しました。」

狩野「そういうのはライフハックの一つですからね。結婚式もあえて仏滅の日に行えば、人気が無いから、割安で行えるとか。まぁこれもライフハックですよ。日本人って、そういうの気にする人、案外、多いですからね。縁起、かつぐのも好きな人種だし。」

火野「クリスマスもそうだし、盆や正月も気にするし、お寺にも行く、神社にも行く。これだけ多宗教の国民性もないですけどね。多宗教ではなく、無宗教の国民性だから、他の宗教や文化の良いところ取りをしちゃうんでしょうけども。」

狩野「・・・・・そう、それで、声だか、なにか気配を感じて、振り返っても誰もいなくて。気になって、そっちの方に行くじゃないですか?」

火野「行くんですか? 勇気ありますね、狩野さんは。」

狩野「ええ、まぁ。気になるから。ま、行ってみると、無縁墓って言うんですか?あれ。誰も、お参りに来ていないような、苔が生えた石が置いてあるんですよね。たまに来る人間に、気づいて欲しいから、ああやって、声をかけているのかなぁなんて、思ったりもしますけど。」

火野「・・・・軽い怪談話じゃないですか。」

狩野「当たり前の話ですよ。いくら死んだとはいえ、人間が眠っているんですから、放ったらかしにされたら誰でも嫌だと思いません?」

火野「でも、焼いて、骨に、なっているわけですよねぇ?ホラーじゃないですか?」

狩野「結果、そうなってはいますけども。お墓は、人生、最後の場所ですから。・・・・お墓を綺麗にするのは、生きている人間の努めですし。火野さんも、汚いお墓で眠るのは嫌でしょう?」

火野「綺麗か、汚いかで、問われれば、綺麗な方が良いです。それに管理費まで払っているのに、汚いのは、納得、出来ません。化けて出る幽霊の気持ちも理解できます。」

狩野「幽霊かどうかは分かりませんけどね。私、幽霊、信じていませんから。」

火野「私は幽霊がいるのか、いないのかは分かりませんが、死んだ人に畏怖の念を持つというのは、古今東西、どこにでもある話ですからね。幽霊、お化け、ゴースト、ゾンビ、ミイラ、ドラキュラ、キョンシー。文化は違えど、死体が怪物になったり、概念というか、魂だけの存在になるか、形態は違えど、根本は一緒です。死んだ人が蘇るっていう恐怖です。」

狩野「あれ、不思議ですよね。亡くなった人が生き返ったら、本当は、嬉しいはずなのに、どこか、怖いっていうのが。」

火野「ああ、あれは元カレ元カノ現象と同じです。」

狩野「ん? どういう?」

火野「人間って、一度、決着がついたものは過去のものとして脳に格納されるんですよ。自分自身は決着がついて過去の事象になっているのに、元カレ元カノとか言って、馴れ馴れしくされたり、付き纏われたりすると、気持ち悪いじゃないですか? それと一緒で、お葬式をあげたり、火葬したり、お墓に埋葬したりと、儀式を行いますよね?段階的に。お墓に埋葬すれば、終わりなんです。葬式っていう儀式に終わりがあるから、しっかりと終わりを認識できる。もう、決着がついた過去の事象になるわけで、その決着がついた人が、生きていようが死んでいようが、また現れたら、気持ち悪いだけなんですよ。生理的に。頭の中で終わっているから。人間って、今を生きている動物だから、今更、過去の人間に出てこられても、やっぱり迷惑なんですよね。」

狩野「すごく分かりやすいです。」

火野「ただ、”怖い”と”敬う”は別のものと思っていて、お盆っていう故人をしのぶ風習なんかは、どっちかと言うと、仏教より儒教の教えの方が強いみたいですが。大陸から仏教がきた時に、どっかで、ごっちゃになっちゃったんでしょうね。仏教も、チベット仏教、中国仏教、日本仏教と、カスタマイズされてしまって同じ仏教だって思えないですし。」

狩野「キリスト教だって、そうですし。同じ宗教のはずなのに、宗派があるって、おかしな話ですよね?」

火野「ですから、過去の事象になっている、死んだ人が、お墓で呼んでいる、というのは生理的に、気持ち悪いって事なんですよ。」

狩野「・・・・火野さんって面白いですね。この話を真面目に論じた人、初めてみました。是非、お墓探しのコミュニティで披露してもらいたいです。・・・・火野さんってオカルト雑誌のライターか何かなんですか?」

火野「オカルト記事、専門ってわけじゃないんですけどね。ははははは。」


狩野「・・・・・墓場に呼ばれて、そこまでは、いいんですけど、帰って来ないって言う話もありまして。」

火野「ん?」

狩野「帰って来ない、って事じゃないんですけども、この、お墓探しのコミュニティを急に退会しちゃうっていうか、連絡が取れなくなる人がいる、・・・・らしいんです。」

火野「ええぇぇぇ・・・・・・、さっきの話の続きですか?」

狩野「続きと言えば続きなんですけど、・・・・・・・・・誰も連絡が取れないし、いわゆる、消息不明な状態で。」

火野「事件じゃないですか?」

狩野「いや、でも、・・・・いい大人が、SNSで集まった、半分、サークルみたいな活動で、急に来なくなったからと言って、即、事件性があるとは、言い切れないじゃないですか?嫌で辞めた可能性だってあるし、お目当てのお墓を手に入れて辞めたって事も、十分、考えられますし。・・・・・ねぇ?」

火野「それにしたって、急に、誰にも連絡が取れない状況になるのは不自然じゃないですか?」

狩野「ええ。それは、そう思います。ただ、・・・・こういう活動って、そのぉ、地区のゴミ当番じゃないんだから連絡先を共有しているわけでもないんですよね。来なくなっても、それっきり、って言うか。・・・・でも、私達も釈然とはしていないんですよ。ただ、不思議だなぁって思って。」

火野「そうですね。狩野さんのおっしゃる通りだと思います。浅く、広く、そういう交流の場なのでしょうから。」

狩野「でも、みんな、口には出さないんですけど、たぶん、同じ事を思っていて、・・・・・・・”墓に喰われた”んじゃないかって。」

火野「”墓に喰われる”・・・・・?」

狩野「妄想ですよ、妄想。馬鹿々々しい話ですよ。中には、真剣に考える人もいるようですけど。さっきお話したように、お墓に呼ばれる事があるって言ったじゃないですか。呼ばれるだけなら、いいんですけど、中には、故意に呼ぶ墓があるそうなんです。善良な、故人だらけならいいですけど、きっと中には、そうでない死んだ人間もいるんじゃないかって、話なんです。」

火野「お墓が、故意に、生きている人間を、呼び寄せる、って事ですか? はははははははははは。これは、これは。」

狩野「火野さんは信じませんか? 実際に体験した事がないから、信じられないでしょうけれども。」

火野「・・・・・・・いや、あの、別に。いや、そういうのを否定するつもりは一切ありません。かと言って、信じられる根拠もありませんから。・・・・・そういう話として伺いますが。」


火野「死者が生者を呼ぶ話は、先程、お話した通り、何処にでもあります。珍しい話ではありません。強い思い、怨念と言うべきか、執念と言うべきか、それを抱えたまま亡くなった故人を、あえて祀る事で、守り神になってもらう。陰陽道では、そういう考え方もあります。強い力を持った死者が、巨大な都市を守っているのも事実です。」

狩野「ああ、京都とか、そうらしいですね。」

火野「陰陽道っていうのが信じられるに足る、とはまた別の話ですが、少なくとも、死んだ人間が生きている私達に、影響を与えるのは事実のようです。生前の、強い想いがあればあるほど、その力は増すようですし。・・・・・その、想いが達成されない限りは、成仏する事が出来ないとも言いますね。」

狩野「なかなか、・・・・それが成就される事もないから、亡くなっても、想いが晴れないんでしょうね。」

火野「ここら辺の話は、キーとトリガーの話なので、単純なんです。必要なキーが揃えば、トリガーが発動して、成仏できる。でも、そのキーが揃わないから、成仏できない。問題は、そのキーが何なのか、分かれば、成仏させられるって話なんです。」

狩野「ああ。お使いRPGですね。映画でもよく使われる、伏線回収って奴ですよね?」

火野「よくある手法。文法なんですけどね。ただ実際はそう簡単な問題じゃぁありません。簡単に揃うキーならば、とっくの昔に成仏しているはずなんです。何百年、何千年、想いを成就できずにいる死者は、キーが揃わない事が容易に考えられます。いわゆる、無理ゲーって奴です。まぁ、例えば、好きな人がいて振り向いて欲しいと思った時に、その人が死んでいたら、振り向くも何も、気持ちを確認する術がありませんし。そもそも、お互い死んでいますから、どうする事も出来ません。あえて怖くない例えを話しましたが、恨み、つらみで死んだ場合も、一緒ですよ。トリガーが発動できないキーじゃぁ、どうする事も出来ません。」

狩野「まぁ。・・・・・そうですね。」

火野「そう考えれば、成仏できないでいる死者も当然、いますよね。・・・・生者を呼ぶ、っていうのも、きっと死者の何らかの行動原理からだとは、思いますけど。あと、よく聞く話では、古戦場跡など、多くの人が亡くなった場所は、その手の事例が多く聞かれますね。戦争なんて、何時だって、理不尽なものですから。」

狩野「戦争は、その九割九部が、平民ですしね。駆り出されて、殺されて、そりゃぁ、想いも半ばであればこの世に未練を残す事もあるでしょうし。」

火野「そういう、死にたくて死んだんじゃない、生に未練がある人は、そういう想いに凝り固まって、執念だけで、生きている人に、その想いをぶつけるでしょうし。それは死者だけでなく、生きている人間だって、嫌な事があれば、誰かに八つ当たりする。それと一緒ですよ。」

狩野「死んだ人が、生きている私達に、八つ当たり?をする・・・んですか?」

火野「逆恨みとも言いますけどね。自分だけ死んで、生きている私達が、憎い。きっと、こんな感じでしょう。生きている私達からすれば、たまったもんじゃありませんけどね。」

狩野「・・・・・・・なるほど。」

火野「墓場は好きな所に立てられる、立てられたって話、していたじゃないですか。政治活動をしていた僧侶は市中に寺や屋敷を持っていましたが、階級が低い僧侶、地方のお坊さんなんかは、人が多く亡くなった場所。ええ。嫌でも、遺体を供養する為、そう言った古戦場跡にお寺を作って、お墓を作って、供養していたという話があります。ですから、元をただせば、墓場って言うのは、多くの、非業の死を遂げた死者が眠っている場所だったりするんですよ。いくら、公園のように表向き、綺麗にしても、その実、中身は変わっていないんです。・・・・・墓場で声をかけられるって言うのも、割と、現実的な話だったりするんですよね。」

狩野「・・・・はははははは」

火野「古戦場跡だけじゃありませんよ? 処刑場跡だって、日本中、至るところにありますからね。ほら、時代劇でよく聞く、市中引き回しの上、打ち首、獄門。年がら年中あった訳じゃないそうですが、悪い事をしたら見せしめに、晒し首なんて、珍しくもなかったみたいですからね。」

狩野「ああ、コナンと一緒ですね。大岡越前だと毎週、打ち首になりますもんね。コナンも毎週、誰かしら死ぬから何とも思わないけど、そうそう、人が殺される町って嫌ですよね。」

火野「あの、遠山の金さんはだいたい打ち首ですけど、大岡越前は滅多に、打ち首にしませんよ。人情裁きが大岡越前の売りですからね。」

狩野「ああ、すみません。そうでしたか。」

火野「本来お墓は、死者が、永劫の時を心穏やかに眠る場所ですから、神聖な空間のはずです。もし、墓場が故意に生者を引き寄せているなら、その墓場自体、やはり問題を抱えている土地という事でしょう。お墓を探している人間を、釣るのですから、アリジゴクと一緒で、その死者にしてみたら入れ食い状態ですよ。常にフィーバーしている状態。やめられないでしょうね。きっと。」

狩野「・・・・コミュニティで聞いた話だと、海沿いの、海風が気持ちよく吹く、高台の霊園だそうで。見晴らしが良く、水平線も見えるし、反対を見れば、町を見下ろす事も出来る。景色の良い・・・・その割に、価格も良心的で、それなのに、区画が売れ残っていて、それが違和感だ、なんて聞きました。」

火野「そんなセント・アンドリュースみたいな所にお墓、あるんですか?当然、ゴルフ場とかホテルが放っておくわけないと思うんですが。」

狩野「だから不思議なんです。穴場で、かといって、最寄りの町からの交通便も悪くない。騒がしくもないし、お墓の立地として、最高だと思いません?」

火野「戦時中、集団自決した場所だとか、身投げのメッカだったりとか、」

狩野「そんなメッカ、嫌ですけど。」

火野「そんな、なんか、いい場所、リゾート開発でも宅地開発でも、不動産屋が放っておかないと思いますから、・・・・・いわくつきの土地なんでしょうね。いわくつきかな、岩月加奈。現在、オーストラリア在住・・・・・」

狩野「誰ですか、その人は?」

火野「ま、私がヨタ話で言える範囲は、このくらいですよ。狩野さんもお墓を探されている、というのであれば、今のお墓だけを見るのではなく、過去、そこが何だったのか一応、調べておいた方が賢明だと思いますよ。・・・・・現実問題、安い買い物じゃぁないんでしょうからね。」

狩野「はははははは・・・・はは、そうします。」

火野「例えばですけど、別に、幽霊が出る出ない関係なく、そのお墓の土地が以前、田んぼだったりすると、地震であっと言う間に液状化。取り返しのつかない事になりますよ。」

狩野「怖い事、言わないで下さい!」

火野「あと、」

狩野「まだ、あるんですか?」

火野「お墓を買ったら、・・・・その土地の管理者が、お寺とは別の全く関係ない人で、いわゆる名義貸し。お墓を売るだけ売って、雲隠れ。後から、本当の土地所有者が出てきて、自分の土地に勝手にお墓を作られた、とか裁判になって、お金も取られる。お墓も取られる。墓場分譲詐欺だった、なんて事もあったみたいですよ、噂の東京マガジンで見ましたから。」

狩野「ほんと、やめて下さい!」

火野「森本毅郎が怒ってましたよ。」

狩野「そりゃぁ怒るでしょう、番組だし。・・・・・お墓の購入に際しては、私も、ゆめゆめ、そういうのは気をつけています。コミュニティでそういう事例の勉強会も行っていますから。」

火野「勉強熱心でいらっしゃるんですね。」

狩野「高額な買い物ですから命懸けです。悪徳不動産がいたら、たぶん、私。呪い殺すと思いますよ。・・・・ふざけんな!って。」

火野「・・・・はははははは。」

狩野「火野さん。笑いごとじゃありませんよ。私達、真剣なんですから。終の終の棲家の為に。」

火野「これは大変、失礼いたしました。」

狩野「・・・・・火野さんも、冗談じゃなく、お墓。若いんだから、早めに探しておいた方がいいですよ?いずれお墓も、嗜好品になる時代もあり得ますからね。」

火野「お墓が、ですか?」

狩野「これは、・・・・うちうちの話なんですけど。勉強会で出た話なんですけどね。少子高齢化はもう妨げられない事実として、社会制度を変えていくと思いますけど、それと同様に、独身者。単身者って言った方がいいでしょうか、単身者の割合も、自ずと増えてくる試算があります。」

火野「・・・・・当然でしょうね。」

狩野「単身者が増えれば、亡くなった時、私の様に予めお墓を用意できている人間であればいいですが、生活に余力がなければ、お墓を持つ事は叶いません。それに、単身なのだから死んだ後の事を考えない単身者も増えるのは必須で、そうなれば、行政が、葬儀を行う事になります。税金を使ってね。・・・・だってそうでしょう?親類縁者、誰もいない孤独な単身者。誰が最後、面倒を見てくれるんですか?最後の最後は行政です。国です。税金で面倒を見るしかなくなるんです。」

火野「それは、・・・・かなり現実的な話ですね。」

狩野「お葬式も合同葬。お墓は共同墓地。・・・・やっている事は、生ゴミを燃やす焼却と一緒。人間、大きな炉で焼かれて、灰になって、まとめて、埋められちゃうんです。それって、寂しくないですか?人生の最後がそれって寂しくないですか?・・・・だから私、今の内にお墓を探しているんです。そんなの嫌ですもん。」

火野「人生の最後、割り切って、それでいいや、って思えるかですよね。」

狩野「私は嫌です。人として、最後を、送りたい。」

火野「・・・・出来るなら、私もそうしたいと思いますけど。出来るなら。」

狩野「やりましょう!火野さん! 一緒にお墓を探しましょう!ねぇ?一緒に、幸せになりましょう!ねぇ?」

火野「・・・・・・どんなお墓でも気を付けて立ち入らなければいけません。ミイラ取りがミイラにならない為にもね。くわばら、くわばら。」


※全編会話劇です

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