ナルシスラ城
こんにちは紫兎★です。
あらすじにも書きましたが、今回は「帰還者達の物語」に繋げるための「アストレア第三部」の改訂版です。
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ナルシスラ城では、エルフ王国のサリテューユ王を招いて、王国会議が開かれていた。
「この度は、我が国の不手際により、皆様方には多大なるご迷惑をおかけしております。落ち着きましたら、国民全員で、現在手つかずで残されている魔獣の森を開拓していく心づもりでおります。それまでの間は、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」
「国を捨てるとは、それでも王か。さっさと王位を移譲すれば良いんじゃないか。」
サリテューユ王の言葉に、皮肉たっぷりに応えるキハマト軍務大臣だったが、ケビアスがサリテューユ王を擁護する意見を述べた。
「死人の王の呪いは、中途半端な対応では国を滅ぼします。それは歴史を少し調べれば判ることです。例えば、死人の王に汚染それた街を燃やした国は、その際に広がった灰により、更に汚染が拡大して一年後には国が滅びました。汚染されて国力が低下した国に対して、大軍を組織して殲滅戦を行った国は、帰宅した兵士から更に汚染が広がり隣国も同時に滅びました。今回、エルフ王国が全国民の避難を決定したことは、英断と判断します。」
あまりの正論に、キハマトはそれ以上の言葉を続けることはできなかった。
すると、今度は国境警備を任されている王軍大将オルトスより、現況についての報告があった。
「先日の天変地異により死の大地へと変わった西北部担当の国境警備隊よりの報告があります。現地は人が全く住まない無人の荒れ地となっている為に、警備隊の数も少ないのですが、夜間警備担当の者が数人行方不明となりましたので調査をしたところ、国境の壁の一部に修復した痕跡が見つかりました。周辺に複数の騎馬の足跡も確認できましたので、内部より壁を破壊して我が国へと侵入し、その後補修したものとの結論に至りました。」
「グールが土魔法を使用したということか!そんなことはありえないぞ!」
メユール宰相が即座に否定したが、ケビアスが補足した。
「何もアンデッド、死人の王の配下の全てがグールというわけではありません。デュラハン、スケルトンマジシャン、スケルトンキング、ワイトなど様々なアンデッドが存在します。リッチなどは個体数が少ないとは思いますが、魔法も並の魔導士では刃が立ちません。当然、死人の王も魔法を使います。中でも最強クラスの魔法使いはエルダーリッチといえます。」
「まさか!奴らはアンデッドだぞ、ただの死体が動いているだけの存在ではないのか!」
「初めから魔臓を持たない人族や獣人族、エルフやドワーフ、ハーフリングであっても、魔臓を奪われたり喰われた者は、あなたの言うような意志を持たない存在となりますが、魔臓を持つ者には意志があり、死人の王に対する崇拝にも似た忠誠心があります。今回の死人の王の復活がエルフ国内で生じたことは、誠に不運だったと考えます。おそらく数年もすれば、意志を持たないグールは全てスケルトンになると考えられますが、それまでの間は厳重な対処が必要と判断します。」
そのケビアスの言葉に、会議に出席していた議員の殆どは黙り込んでしまった。
「魔臓を持つ者の特性は理解したが、我々のように魔石を持つ者はどうなるんだ?」
「判りません。今回が初めての経験となります。」
「奴は封印されていたんだろう?その時はどんな対応したんだ?」
メユール宰相の質問に、
「かなりの時間を必要としましたが、リッチやキングなどの上級種相手では、火の精霊王が灰も残さぬほどの超高温で焼き、一般兵に対しては、今はサリテューユ王の護衛である氷狼を中心とした氷系列の神獣や幻獣が、纏めて凍らせ動きを止めた後に、活火山のマグマへと落とし処理したとの記載があります。」
ケビアスが答えると、宰相は更に言葉を続けた。
「火の精霊王は既にこの世に存在しないが、凍らせることなら、我が軍の魔法部隊にも可能ではないのか?」
「我が軍の魔法部隊には、氷の最上級魔法である氷結地獄や、絶対零度を使用できるものは存在しません。彼らの使う氷結や氷吹雪程度の魔法では、一時的に凍らせることは可能ですが動きを止め続ける為には、連続での使用が必要となります。魔力が尽きてしまうので、現在の戦力では不可能と言えます。前回の戦争で、多くの幻獣や神獣を滅したことが死人の王の軍勢に対する対応を不可能としています。」
そんな説明をしているケビアスは、頭の中で最近になって縁を結べた転生人である瑠夏と彩音の二人なら、死人の王の呪いを拡散することなく、エルフ王国の領土全てを焼き尽くすことが可能だろうなと判断していた。しかし、大地をマグマに変えるあの魔法なら解決は可能だが、同時にその後の処理に多大なる労力を必要とするであろうことも理解していた。
そんな会議の最中に、コソコソと扉を開けて顔を真っ青にした一人の官僚が会議室へと入ってきて、ケビアスにそっと耳打ちした。
それは、ある程度ケビアスが予想していた通りの内容であった。
「今、私に入った情報ですと、一時間ほど前に、西北部の国境から二十キロ離れた所にあるソリナバの街がアンデッドの軍勢に襲われたそうです。」
「「何!」」
「何だと!警備隊は何をやっているんだ!」
激怒する議員連中の顔を見渡し、ケビアスは更に言葉を続けた。
「街の門を開けさせたのは、その国境警備隊のメンバーだったようです。彼らもワイト化したようですが、どうやら魔石を持つ人間も上級種になるのは間違いないようですね。」
「そんなことは、どうでも良い!軍隊はもう派遣したのか?」
「ここでの対応が定まっておりませんので、まだ北部城壁大門の前に待機中です。」
「何を悠長にしている!早く生存者の救助に向かうべきだ!」
興奮する議員を制して、ケビアスは言葉を続けた。
「ソリナバには、既に生存者は一人もおりません。三十歳以上の住民は、魔石ごとグール達に喰われ、三十歳以下の住民は男女、大人子供問わず、全員連行されたようです。」
「どういうことだ?奴らは狩りに来たのではないのか?奴隷狩りか?」
「いえ、奴隷だとは考えられません。食糧なのだと思います。」
「ワァーハッハッハッハッ!」
突然会場に、これまで沈黙を貫いていたアルソルト三世の豪快な笑い声が響いた。
「死人の王も面白いことを考えおる。おそらくそれは牧場とか養豚場に近い物を作るつもりなんだろう。奴らがエルフ王国の領土を占領して、一番に発生するのは食糧問題だ。片っ端からアンデッドを増やしていけば、その数はねずみ算以上の増加を見せるだろう。食糧を外に求めれば、当然我が国とは戦争になる。こちらも馬鹿ではないから近接戦などは度外視で、遠距離からの一方的な攻撃を優先するだろう。違うか?ケビアス。」
「その通りでございます。近接戦を避けることは、アンデッドによる汚染を避けるために重要な手段と言えます。灰などによる軽度の汚染ならば浄化魔法で対処できますので、それが最良の手段だと。」
「そういうことだ。まだ十分な兵力が育っていない死人の国では、それは致命的になりかねん。故に、我らと全面戦争にならぬように食糧を外に求めず、自国で賄おうとしているのだろう。」
「しかし、人を食す為に人工的に増やすとは、人は牛や豚ではないのですぞ!」
「それこそ偽善!我らとて新大陸で暮らす魔族を狩って育てて魔石を確保しておるではないか。奴らも主張するぞ、我らは牛や豚ではないと、違うか?我らは死人と同類と呼ばれても仕方がない、罪深い存在なのだ。だからといって、魔族狩りをやめるつもりなど髪の毛一本ほどもないがな。むしろ死人の国のように魔族をある程度纏めて餌をやり、数を増やして魔石の確保を容易にすることも考慮するべきかもな。」
そう言って、アルソルト皇帝はまた大きな声で笑った。
「もしも炎魔法や氷魔法の魔導士が足らないと言うなら、それこそ魔臓を持つエルフやドワーフにその特性を持つ精霊の核を埋め込めば、強力な魔導士が誕生するのではないか?技術庁の担当大臣はどう考える?」
その王の問いに、ハーフリングのキュシュア技術大臣が応えた。
「魔石を人に埋め込む技術を応用すれば可能だと考えます。元より火魔法や水魔法の素因を持つ子供であれば、成功する確率は高いと考えます。」
「だそうだ。サリテューユ王、ドワーフ王国のガルバ王よ、もちろん協力してくれるよな。」
「もちろん協力させてもらう。」
と答えたサリテューユ王を睨みつけながら、ガルバ王も渋々頷いた。
「帝よ、本気ですか?」
ケビアスの睨みつけるような視線も気にすることなく、アルソルト皇帝は口角を上げながら低い声で応じた。
「不満か?ならば、お前は参謀の座に相応しくない。今この場でその職を解く、帝の考えを実現するために奔走することこそ参謀の役割である。ただの一兵卒に戻るが良い。」
ケビアスは、一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべたが、すぐに呆れたような顔へと変わり、手にしていた資料をテーブルの上に置いた。
「帝よ、あなたは変わられた。虐げられる人族を何とか一人でも救おうと足掻くあなただからこそ支えようと思い、共に歩んできたが、ここまであなたの成してきたことは、私の描いた世界と全く異なる方向を向いている。私は間違っていたようだ。」
そう語り、扉を出ていこうとしたケビアスを警備兵が槍を光差して止めようとしたが、その槍と扉はあっという間に灰へと変わり、彼の姿は空気に溶け込むように消えていった。
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