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死の国2

こんにちは紫兎★です。


あらすじにも書きましたが、今回は「帰還者達の物語」に繋げるための「アストレア第三部」の改訂版です。


作品を継続する励みになりますので、お気に召しましたら、ぜひともブックマークや評価をお願いします。

「なんてことだ… 」


王宮魔導士長のヤジスルの前には、二十を超える喰い散らかされた遺体と、数十人の負傷者、その大元となったまっ黒焦げなスミイルの遺体が並んでいた。


「入国した時点で、既にアンデッドに汚染されていたのか。傍迷惑で誠に愚かな息子だ。王への謁見を要求していたが、やはり幽閉が正解であったか。」


そう呟いた後で、犠牲となったスタッフを一人一人確認していき、遺体を一人残らず全て火葬した後に、埋葬するように指示を出して、ヤジスルは報告するために城へと戻っていった。


土魔導士が庭に直径十メートル程の深い穴を掘り、そこに遺体を並べた後に、火魔導士が協力して、そこにいくつもの大火球が放たれ、真っ黒な煙と灰が空高く舞い上がった。これが新たな災厄の元になるとは、その場の誰もが気づかなかった。


もう一つの更なる悲劇は、治療室となっている本館の食堂で発生していた。


「「ウガァァァァ!」」


治療を受けていた人間が男女に関わらず、発狂したように騒ぎ出して真っ赤な瞳で周囲の治療スタッフに襲いかかり、彼らに喰らいつき、貪り食う状況となり、本館は阿鼻叫喚の嵐となっていた。


ーーーー

「ヤジスル様!大変でございます!お館で大事が発生しております。直ちに対処をお願いします。」


「それは、王への報告よりも優先するべきことか?」


顔に怒りを滲ませて、サリテューユ王への報告の為に跪いていたヤジスルが伝令に来た兵士へと振り返った。


「ヤジスル、私のことより死人の王の関連と思われる事件の対処が先だ。もしもシルマリクが言うように、スミイルが持ち出した物が本物の死人の王の心臓であるならば、その復活は有り得ると考えるべきだ。かつてのエルフ王国、古王国をたった一人で滅亡に追いやったその力を侮ることはできん。それにいくら子が成した事件といえど、お主にその責任が無いとは言えん。」


その言葉に顔色を変えたヤジスルは、王の許可を受けて、急いで立ち上がり、王の隣に控えるフシオを一睨みすると、踵を返して急いで部屋を出ていった。


「フシオ、どう思う?」


そうサリテューユ王に問われても、フシオは黙ったまま頭を垂れていた。


「やはり精神(こころ)を壊してしまったことは間違いだったのか、命令にしか従わぬ者は、もはやゴーレムと同じ。物でしかないということか。寂しいものよの。」


憂いに満ちた表情で、彼女は宰相へと指示を出した。


「伝令をナルシスラ城のケビアスへ、『死人の王が復活した。お知恵を拝借したい』そのように送れ、大至急だ。」


ーーーー

「クソッタレが!あの馬鹿息子は碌なことをしやしない!どれだけ親の足を引っ張れば気が済むのだ!」


その愚息を育てた自分の責任を棚上げして、子供のことを非難するヤジスルは、傍から見ればただ魔力の高い五十歩百歩の存在だと言えた。溜息をつきながら馬車を駆る御者の目に、先程出てきたばかりの館が大きな火の手を上げて燃え盛っている光景が飛び込んできた。


「ヤジスル様!ヤジスル様!大変でございます!館が、お館が燃えております!」


「な、何だと!」


館は、警備していた兵士達に遠巻きに封鎖されており、誰もそれより内に入れぬように隔離されていた。その中に執事長の姿を見つけたヤジスルは急いで駆け寄り事情を尋ねた。


「ヤジスル様、あの後でスミイル様に傷をつけられた者達が、全員スミイル様と同じように狂暴化して周りの者に襲いかかりました。そして、それがかすり傷であっても、彼らに傷をつけられた者達も同じように狂い、手がつけられなくなった為、屋敷の全ての門を閉鎖した所、中より火が上がり、このようなことになってしまいました。」


「やめて!やめて下さい!これは逃げてくる時に転んでできた傷です。化け物に襲われた傷ではございません。お願いです。やめて下さい!」


二人の隣では、そう叫んでいる屋敷の使用人達が、次から次へと捕らえられ、塀の外に応急的に作られた台座から、屋敷の中へと放り投げられていた。また、その際に引っ掻き傷をつけられた者も、同じように今度は自分も屋敷の中へと放り込まれていた。


「申し訳ございません。私の勝手な判断ではありましたが、疑いのある者はすべて処分の対象と致しました。」


「構わん、下人などまた新たに雇えば良いだけだ。今は、この汚染が広がらぬようにすることの方が大事だ。」


ーーーー

「ケビアス様、サリテューユ王からの連絡です。『死人の王が復活した』とのことです。」


「何?見せて!」


伝令から書簡を受け取り、隅から隅まで目を通し終わると、ケビアスは大きな溜息をついた。


「人とは、どれだけ愚かなことを繰り返せば反省して、教訓とするのだろうか。」


その言葉に隣りにいたカルタが、ケビアスを振り返り、手渡された書簡に目を通した。


「彼らは不死の王のことについて、どれだけの知識を持っているのだろう。汚染された被害者に対する対応はきちんと理解しているのかどうか、すごい不安なんだけど。」


「俺達、ハーフリング族や幻獣の間でも正しい知識を有する者は少ないはずだ。ましてや族長のフシオがあの状態だ。幻獣達にも期待はできないだろうな。」


カルタの返事に、エルフ王国の対応が不安になったケビアスは、土魔導士を総動員してエルフ王国との間に大至急で国境の壁を造成し、完成するまでの間は厳重な国境警備を行い、侵入しようとする者は手足の自由を奪い、全て深い穴に埋めるように指示を出すと、その足で急いで王国に向かって出発した。


本人自体は、死人の王の放つ病原体に耐性を持っているので不安はなかったが、対応を間違えれば僅かな時間で王国中に被害が広がることが予想された。


ーーーー

「サリテューユ王、時間がありませんので単刀直入にお話しさせて頂きます。死人の王の呪いにより生み出されたグールやワイト、ゾンビなどに噛みつかれると、その傷より呪いが拡散します。おそらくは、身体や体液などの細胞の一つ一つに呪いが刻み込まれ、それが身体に侵入することで新たな不死者が生み出されます。更に倒したワイトやグールを放置すると次にはゾンビとなって活動を開始し、風化が進むとスケルトンへと変わります。死人の王の呪いに汚染されているかどうかは、浄化魔法により判別できます。軽症の者は浄化されますが、不可能な場合は直ちにグール化しますから、対応できる人間が必要になります。」


「な、なんと!それでは対処しようがないではないですか!」


ケビアスの言葉に、サリテューユ王が立ち上がって、両手でテーブルを強く叩いた。


「まだ、説明は終わっていません。死人の王の呪いのサークルを打ち消す方法は、骨も残さず、細胞の全てを骨や灰を残すことなく高温で焼き尽くすことです。前回の時は、そこにいるフシオ殿の一族が、グール全てを氷結してマグマの中に放り込んで処理しました。死人の王は、火の精霊王エシュタルがマグマ以上の高温で焼きましたが、心臓だけは燃やすことができずに封印することになったのです。」


その内容に、サリテューユ王の顔色は真っ白になった。ヤジスルの説明では、グールはただ燃やしただけで、骨まで焼いたわけではなく、灰も周辺に飛び散っていたのは明らかだった。


「我々は、この国を放棄するしかないのか?」


その力ない言葉に、ケビアスは申し訳なさそうに言葉を返した。


「もしも先程のような対処法を取っていない場合は、今後、この国のアンデッドは急速に増加するでしょう。その一体一体に個別に対応していくことは、多くの犠牲を生み出すことになります。当然、その責はどなたかが追求されることになります。そのご覚悟はおありですか?」


「シルマリク辺境伯は正しかったということか。」


サリテューユ王の諦めたような言葉に


「シルマリク殿が、どうかなされたのですか?」


ケビアスが尋ね返した。


「死人の王の心臓が持ち出されたと判ったと同時に、国外への移民を希望した者以外の領民全てを最北の孤島へと移住させることに決め、このヤジスルが事件を引き起こすまでに移民を完了し、外部との交流の為の帆船の建造、食糧の購入手配を完了したそうだ。」


ケビアスはその話を聞き、対処法を知っていた者が居たことに驚き、シルマリク辺境伯の顔を思い出すと、一度話をしてみたいと思った。


ーーーー

話し合いが終わると同時に、ケビアスは城中のエルフに浄化魔法を施したが、幸いにも中等症以上の者はおらず、アンデッド化した者がいないことが救いだった。その後、エルフ王国国民全員が、国外へと避難するのには三ヶ月程を必要とした。


国境では、全員に浄化魔法が施されたが、三割程がアンデッドへと姿を変え、その都度剣技によって首を切断されたり雷魔法で麻痺させられた後に、流れた血と一緒に身体を水魔法と氷魔法を利用して凍らされ、鉄を生産する為の高炉へと運ばれ、灰さえも残さぬよう骨まで燃やされていた。


その中にヤジスルが含まれていたことは、言うまでもない。


「閉鎖されちゃったねぇ。僕の旅行はこれまでかな。」


死人の王シリスの諦めたような言葉に、付き添っていたペルネは、申し訳なさそうに頭を垂れた。


二人はここに来るまでの間に、医師を騙り、多くの病人に触れて、仲間を増やしてきた。


見かけ上は、シリスが触れることにより一時的に誰もが元気を取り戻すので、多くの一般市民は、彼を聖者として崇め、かなりの地位にある者までが、その毒牙に捕えられていた。


二人は古王国の国境から、王都より離れるように南寄りの進路を取り、海岸沿いの都市や街、村を回って、仲間や信者を増やしていたが、ケビアスの提言により、国境には巨大な壁が築かれ、出国の際には厳重な身体検査が行われていた為、強引に突破すれば、現在の最強戦力と言われる人族の軍と事を構えることになるため、シリスは時期尚早と判断し、エルフ王国の王都へと進路を取った。


魔臓を残された者は、アンデッドの中でも上位種であり、食事として生の肉、人肉を食べる以外は、知恵もあり、力も強く、再生力が強い為、生物としてはこれまでのエルフや人族よりも上位の存在であるとも言えたが、繁殖能力はなく、仲間を増やす為には自分の細胞を他者に感染させる必要があり、感染させられた者は、突然変異とかなければ、親よりもその能力は劣化する為に、死人の王シリスの手によりアンデッド化した者は、死人の国では自然と支配者階級に属することとなり、上位となればなるほど、王への忠誠はより強固なものとなるピラミッド型の社会構造が出来上がっていった。


エルフ王国の各都市に国外への避難命令が発せられても、王国南部の諸都市がその命令に従うことはなく、一部の市民が避難を試みて反乱を起こしても、周囲のアンデッドにより反乱軍市民は直に感染させらることで鎮圧されていった。


エルフ王国の東部と西部の住民達は、サリテューユ王の指示に従い、他国へと移住し、北部の旧王国の住民の殆どは、最北端の孤島へと移住し、南部の住民の殆どはアンデッドと化して、王都周辺に集まった。


こうして、子供のいない死者の王国ヘルハイムが誕生した。


ーーーー

「シリス様、ご相談があります。」


ヘルハイムの王都にある旧スルト城の王の間にて、ペルネが王への陳情書の内容について、シリス王に意見を求めていた。


「なんだい?キミが僕に意見を求めるなんて珍しいね。」


「はい、今後発生すると思われる食糧問題について、シリス様のお考えをお聞かせ願いたく思います。」


シリスは、そのペルネの質問が意外だったのか、当たり前のように応えた。


「そんなのは、今までと同じで良いよ。」


「はい?申し訳ありません。愚鈍な私めに答えをお聞かせ頂くと有り難いです。」


「人間は、肉が食べたかったらとうするの?」


「狩りに出ますが、国内にはグール化していないエルフや人族は少なく、直に狩り尽くしてしまうと思われます。」


「人間は他にもしてることがあるだろ?」


ペルネは何も答えが思い浮かばず、申し訳無さで涙が溢れてきた。


「おいおい、僕は何もキミを泣かす為にこんな質問をしている理由ではないよ。よく考えてごらん。」


「牧場とかですか?しかし、牛や豚の動物の肉では国民の希望に答えられません。」


その答えを聞いたシリスは、ニヤリと口角をあげた。


「ほら、答えはもう出てるじゃん。牛や豚の代わりに、人間や獣人を育てれば良いんだよ。やり方は牛や豚と一緒さ。牛や豚は自分の餌を育てられないけど、人間や獣人は、餌を自分で育てることができるから、もっと楽に増やすことができるかもね。エルフは繁殖能力低いから、牧場には向いてないから、さっさと食べてしまえば良いんじゃないかな。骨しか残さなければ、グールやゾンビにならないし、スケルトンは食糧必要ないからね。」


その答えを受け取ったペルネは、まだ自分の価値観がエルフであった頃のものから脱却していないことに気付いた。


「ありがとうございます。目から鱗が取れました。早速、人間狩り、獣人狩りの部隊を派遣したいと思います。」


「牧場にする村は、東部だと他国に近いから、逃亡を諦めさせる為に、西部か北部の村を利用すれば良いと思うよ。そうそう、人間にしても獣人にしても、成長速度は遅いから、味は落ちるけどオークの牧場も忘れずに作るようにね。」


「了解しました。早速手配させて頂きます。」


最後までお読み頂き誠にありがとう御座います。

何分にも素人連合でございますので、御評価頂けますと、今後の励みになります。是非とも最下部に設定されている☆☆☆☆☆でご評価頂けると有り難いです。

よろしくお願い致します。

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