死の国1
こんにちは紫兎★です。
あらすじにも書きましたが、今回は「帰還者達の物語」に繋げるための「アストレア第三部」の改訂版です。
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あまりの恐怖に、スミイルの股間はぐっしょりと濡れ、地面に染みが広がった。
今のスミイルには、単独でデュラハンを倒せるだけの能力はなく、ただただ這いつくばって逃げることしかできずに、必死に手足を動かしていたが、その背中から大きな槍が撃ち込まれ、大地に縫い付けられた。
「ギャァァァァ!」
その絶叫が森へと響き渡り、驚いたように梢から鳥が飛び立っていく、自分がなかなか死なないことを不思議に思い、スミイルが恐る恐る振り返ると、デュラハンの隣に黒衣を纏ったヒョロっとした痩せた大柄な男が立っているのに気付いた。
「この男が、私を解放したのですか?エルフの割には小さな魔臓ですね。こんな下っ端に解放されるなんて、私のプライドが許しませんね。」
男のセリフに、こんな時でもスミイルのエリート意識は健在で、すかさずその言葉に反論した。
「私の父は、現在の王宮魔導士長だぞ。私はその後継者だぞ!訂正しろ!」
「こいつは馬鹿ですか。それが一体何なんだと言われて言い返せるのか?それとも、自分を使って、潜在能力の高い連中を誘き寄せろという策を提案しているのか?全く意味不明なんだが。」
スミイルの語る言葉が全く理解できず、暫く頭を捻っていた男は、良い案を思いついたというように、右拳で左掌を軽く叩いてから、一気にスミイルの魔臓を吸収した。
男は、倒れているスミイルに魔法陣を埋め込むと、デュラハンと共にその場を去っていった。
ーーーー
「御主人様、あの男は配下に加えなくても良かったのですか?」
デュラハンの手にした長い金髪を後ろで束ねた女性の口が開いて、隣の真っ黒いローブを羽織ったミイラのような男に尋ねた。
「あの男は、貴女と違い配下に加える価値もありません。ただ、本来ならワイト止まりで、仲間を増やす役割だけで意思など持たせませんが、あえて自我を残せは、自分がワイトだとも気づかす、父の元へ、王城へと連れて行かれるでしょう。あの男に欲望をコントロールできる力などありませんから、後は本能に任せて仲間を増やしてもらいましょう。」
「なるほど、馬鹿も使いようと云うわけですね。」
「その通りです。それでは私達は、せっかくエルフ王国に連れて来て頂いたのだから、ゆっくりと力を集めさせて頂きましょう。ただ、街に行くにはあなたのその格好は人目を集めますね。こうしてみましょうか。」
男より放たれた赤黒い光が、デュラハンに降り注ぐと、そこには鎧を身に纏った一人の女性が立っていた。
「こ、これは?」
「変化の術です。戦闘時には直ちに元のデュラハンの姿に戻りますが、平時は鎧を着用した女性騎士の姿で過ごせます。問題ありますか?」
「と、とんでもありません!そのお心遣いときめ細やかなご配慮に心より感謝させて頂きます。」
「それでは、私も人の姿を騙りましょうか。」
その言葉と同時に、男の身体は同じような赤黒い光に包まれ、骨に薄く硬い皮膚が貼り付いただけだった骸骨のような顔は、少し色白のふっくらした少年のような顔になり、スキンヘッドだった頭には暗赤色のややウェーブの掛かった髪が生え、ミイラのようだった大柄な身体は、少し痩せ型の十歳ほどの体躯へと縮んでいた。
「さて、久しぶりの街ですね。十分に楽しませて頂きましょうか。これからの貴女の呼び名はペルネです。私のことはシリスと呼んで下さい。さぁ、行きましょうか。」
手前に少年を乗せて、女性騎士が駆る馬がゆっくりと街の中へと歩を進めていった。
「クソ親父が、せっかく息子が帰ってきてやったというのに、こんな屋敷に閉じ込めやがって。しかも、せっかくあのクソ領主の所からヘクってきた宝石まで一つ残らず取り上げやがって、何様のつもりだ!」
スミイルは、自宅敷地内にあるゲストハウスの一室に閉じ込められていた。手当たり次第に家具を投げつけ、散々物に当たった後はメイドに食事の支度を命じていた。
「あの不気味な男やデュラハンには驚いたが、結局何もできずに姿を消したということは、俺の持つ潜在的な力に恐れをなしたということだろうな。」
そんな自意識過剰な言葉を吐きながらテーブルについて食事を開始したが、どの料理を口にしても、まるで紙を食べているように味がせず、唯一ステーキだけが僅かに味を感じた。
「なんだ!なんだ!このクソ不味い料理は、私はヤギじゃないぞ!もっとしっかりと味付けろ!この肉も焼きすぎなんだよ!もっと焼き加減を工夫しろ!レアの意味が判ってるのか!焼き直せ!」
そう言われたメイドは仕方なく料理をキッチンワゴンへと戻し、料理長の元へと運んだ。
「どうしたんだ。あの味音痴のクズ嫡男がまた文句言ったか?」
「ハイ、お肉が焼きすぎらしいです。」
「はぁっ?この肉は表面軽く炙っただけのブルーレアだぞ。中はほとんど生だぞ。これ以上焼かないってんなら、もっと生に近いブルーつまりローってことだぞ..そうだなこれ持ってけ。」
そう言って、料理長は生肉を切り落としたものをそのまま皿に盛り、付け合わせの野菜を並べた。
「これを持ってけ。」
「えっ?これって生ですよね。」
「あの味音痴には、これがご馳走になるかもよ。」
そんな会話を交わした後、メイドが運んだ料理をスミイルは美味しそうに食べ始め、次第に顔が紅潮し、口から涎を垂れ流し始めると、最初はナイフとフォークを使って食べていたのが、手づかみで食べるようになり、顔中が血だらけになっているにも関わらず、夢中で食事を続けていた。
メイドは、その場にいることに耐えることができずにその場を離れた。
ーーーー
それから三日程が過ぎた晩に、暗闇に女性の悲鳴が響き渡り、屋敷は瞬く間に喧騒に包まれた。
「どうした!何があった?」
執事長が夜番のメイドに話しかけると、彼女は困ったような顔をして応えた。
「まだ十分な確認ができておりませんが、悲鳴は二階のスミイル様の部屋から聞こえたようです。今は警備の方に向かって頂いております。」
「また悪い癖が出たということですか?困ったものです。」
「「ギャァァァァ!」」
二階から、今度は男の野太い悲鳴が聞こえてきて、即座に只事ではないと判断した執事長は、本館に居るであろう王宮魔導士長のヤジスルへと伝令を飛ばし、自らは屋敷中の警備を集めて、スミイルの部屋へと向かった。
ドアを大きく開け放った執事長が見たのは、 部屋中が血塗れになるほどの夥しい血液と、まるで巨大な獣に首を半分ほど噛み千切られた上に、腹部を服ごと大きく抉られ、右腕と左脚を失って倒れているメイドの姿と、首から血を噴き出しながら転げ回っている警備兵と、首を引き千切られたように失い、ズタズタになった切断面からダラダラと血を流し続けている警備兵だった。
そして、目の前には血だらけになりながら、右手と左手にメイドの手と脚を持ち、大きな牙を生やした血塗れの巨大な口で、それを咀嚼しているスミイルの姿だった。
血まみれの顔の中で、真っ赤な瞳をギラギラと輝かせ、執事長達の姿を見ると、新しい獲物を見つけたとでもいうように、その広角をニシャリと上げて、手に持っていたメイドの手足を執事長達の方へと投げつけると、数メートルほどの距離を一挙に跳躍し襲いかかった。
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