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災厄の始まり

こんにちは紫兎★です。


あらすじにも書きましたが、今回は「帰還者達の物語」に繋げるための「アストレア第三部」の改訂版です。


作品を継続する励みになりますので、お気に召しましたら、ぜひともブックマークや評価をお願いします。

「まさかですが、お育てになるつもりですか?黒髪黒目の出来損ないですよ。」


イヤらしい笑みを浮かべて、剣を止めたシルマリクを拘束の魔法で固定し、スミイルが、赤子を彼の前から自分の背後へと回した瞬間、アミレイラがその赤子を取り返した。


それに驚いたスミイルが振り向き、呆れたように声をかけた。


「え〜、王姫様もこの出来損ないを始末する気はないということですか?」


スミイルは両手を広げて、心底信じられないというようなポーズを取った。


「スミイルよ、お前の魔導師長の職を解任する。この地にお前は不要だ。即刻、王都へ帰るが良い。」


自力でスミイルの拘束の魔法から逃れたシルマリクが、アミレイラと娘を庇うように立ち、憮然とした表情のスミイルにクビを宣告すると、全く予想していなかった彼は、それが全く信じられない、理解できないことであったらしく、激怒し始めた。


「この私を、後々は父の跡を継いでこの国の王宮魔導師長になるべき私をクビ?ありえないでしょ!あなた達のような低レベルで屑のような存在が、私をクビにするなんてことはありえない!あってはいけない!」


「お前は、父親が王宮魔導師長であるというだけのただのどこにでもいる魔導師だ。しかも、セクハラ、パワハラやりたい放題のクズでしかない。父親の権威のゴリ押しでお前がここに着任してから、どれだけの数のメイドや執事、コック、庭師、小間使いが城を辞めていったのか、数えればきりが無いぞ!」


その言葉に怒り狂い、持っていた杖を振り回していたスミイルの手に風鞭(ウィンドウィップ)が放たれ、その手にあった杖が円を描くように宙を飛び、シルマリクの手に収まった。


「お前が宝物庫より勝手に持ち出したこの神具の杖も返してもらうぞ!お前が手にしただけで価値が下がる。」


杖を奪われたことで、魔力も魔力量も並みの魔導師以下となったスミイルの顔は、茹で上がった蛸のように真っ赤になった。


「返せ!それは私のものだ!私が持ってこそ価値があるのだ!」


「父親からの依頼を装い、魔導師長としての立場を悪用して、我が家の先祖の宝であるこの杖を、あたかも王への献上品であるかのように強奪して私物化した。その罪だけでも死罪に値する。こうして追放するだけに留めるのも、お前の父親の立場があってこそだ。彼に感謝するのだな。」


そう語ったシルマリクの杖の一振りで、スミイルは入り口の扉を押し開けて廊下へと吹き飛ばされた。


「明日朝以降にお前の姿を見かければ、容赦なく排除する。それが最後の情けだと思うが良い。」


廊下に転がるスミイルに、殺気の籠もったシルマリクの異様に静かな声がかけられ、背筋に寒気が走ったスミイルは、ヒッと息を呑み、這うように自分の部屋へと戻っていった。


「屑が!」


そう呟くシルマリクに、背後のアミレイラが娘を抱きしめたまま声をかけた。


「大丈夫なのですか?あの王宮魔導士長のヤジスルが黙っていますか?」


「その時は、独立するだけだ。本来、この領土は古王国のものだ。お前には申し訳ないが、最悪の場合、お前の姉である現王と袂を分かつことになるかもしれん。それも覚悟の上だ。」


その言葉を聞いたアミレイラは、固い決意を秘めた目で、そのシルマリクの言葉に応えた。


「構いません。この子はエルフの王となるべくして、この世に生を受けました。現世で最も神に近しい存在です。その子を護らずして、一体誰を護るというのですか?」


その言葉に、シルマリクは目を細めて嬉しそうに微笑んだ。この子に掛けた呪いは、全ての魔力を封じる。魔力は循環させ、使用してこそ成長する。娘が自らの力で魔力を成長させることは永久に封じられ、私が呪いを解除しない限りハイエルフに戻ることはない。それこそが彼が真に望んだことであった。


「この娘の名前は、マ・ミア。古代語で真の王という意味を持つマミアと名付けよう。構わぬか?」


ーーーー

「くそ、くそ、くそっ!この私をクビだと!何様のつもりだ!たかが辺境伯の分際で、将来の王宮魔導士長である私をコケにしやがって!」


そんな罵詈雑言を吐き捨てながら、スミイルは自分の収納鞄に、門番を騙して鍵を開けさせて忍び込んだ宝物庫に収められていた神具や魔導具を片っ端から詰め込んでいた。


既に彼の収納鞄の中には、他の宝物庫や遺跡からくすねた宝剣などの遺物やたくさんの宝石が乱雑に詰め込まれており、自分の所有する一つの収納鞄だけではこの城の宝物庫の全てを収納することは全く不可能であった為に、大剣や槍などの大きな物は諦めなければならなかったことが、余程腹立たしいようだった。


「クソがぁ、あの杖さえ取り上げられなければ、収納魔法で全てを持って帰ることができたのに!あのシルマリクの愚物めが!絶対に殺してやる。」


そんな盗人行為を続けるスミイルの前に、以前に杖が保管されていて既に空になっていた棚があり、彼はその奥に更に厳重に封印された小さな扉があることに気づいた。彼が持つ唯一の固有魔法である解錠魔法を使用すると、開け放たれた最奥の小さな扉から、一つの薄汚い箱が床に転がり落ちた。


「何だ?このボロい箱は?こんな物をたいそう大事に保管するとは奴らの鑑定眼もあったもんじゃないな。」


スミイルがその小箱を拾い上げ、中を確認しようと箱の蓋を開けようとしても、厳重に封印されているようで、どんなに力を入れても開けることはできなかった。


「待てよ。確かこの箱が、神杖を確保する為に入った宝物庫の最奥の鍵のかかった扉の更に奥にある場所に収められていたということは、余程貴重な価値あるものだからこそ、そこに保管していたとも考えられるはずだ。あまりにも安っぽい箱で、私の美意識からははずれるが、これを持ち帰って、父親への土産とすれば、私の評価を上げる役に立つかもしれんな。」


そう言って、スミイルはその小さな箱を上着のポケットに押し込んだ。


その日の夕方、スミイルの出ていった部屋と開け放たれた宝物庫を確認したシルマリクは、そこに残されていた宝剣や魔剣、神剣などが無造作に床に転がっているのを見て、呆れ果ててため息をついた。


「どれもこれも、見かけは豪勢な武器だけを持っていきやがって、本当に価値ある物が一つも盗られていないのが、あいつの見る目の無さを如実に表しているな。どうせ小さな収納鞄しか所有していなかったから、宝石や金だけを詰め込んだのかもな。」


そう言って、床から古い一本の飾りのない無骨な片手剣を拾い上げた。


「この一振りだけでも、白金貨数千枚にもなるというのに、それさえも見抜けぬ男であったのか。呆れるしかないな。」


そんなことを話しながら、彼の部屋に散らばった武器や宝物を自分の収納指輪に片付けると、その足でもう一つの被害場所である最奥の宝物庫へと向かい、一つ一つを確認しながら、整理していった。


「なんと武器で持っていったのは、宝石が散りばめられただけの短剣や片手剣だけなのか。オリハルコンやアダマンタイトの材質さえも見抜けぬとは、あの王宮魔導士長は息子にどんな教育を施しておったのだ。」


「お館様、この宝物庫への立ち入りは、これを機会に領主随伴でなければ禁止ということにさせて頂いて構いませんかな?」


シルマリクの伴を努めていた執事長のセバスが尋ねると、


「そうだな、今回は私も子供ができたことが嬉しくて、城内のことを他人任せにし過ぎていた。本当に申し訳なかった。お前には世話をかけたな。」


「とんでもございません。ただメイド長が言うには、深夜にあの男がこの宝物庫付近を彷徨いているのを確認しておりますので、何らかの解錠の手段を持っておったのかもしれません。」


「解錠のスキルだけは王級以上か、まさに真性の盗っ人ということか。」


そんなことを話しながら、最後に神杖を最奥の棚に片付けようとした時に、シルマリクは、突き当りの壁にある鍵付きの扉が気になった。


「まさかな… 」


そして、その扉に手をかけると、それはなんの抵抗も示さずにゆっくりと開いていった。


「無い… 」


空っぽの扉の中を見て、シルマリクはボソッと呟き、その顔色は真っ白に変わった。


「セバス!王城へ魔導通信を飛ばせ『【死人の王の心臓】がスミイルによって持ち出された』と、大至急だ!」


慌てて出ていこうとするセバスを呼び止め、シルマリクは更に追加の指示を出す。


「全住民に避難命令を出せ、避難先は西の孤島ウルマリだ。希望するなら国外への脱出も許可する。商業帆船も三隻ほど購入する手配を取れ。最後に、我らもウルマリへ避難する。この城ごと収納するから片付けは必要ない。各自の荷物のみを自室に纏めれば良い。住民の避難に必要ならば収納鞄も貸し出せ。一週間以内だ。それまでに避難を完了する。任せたぞ!」


ーーーー

「なんだ、なんだ、これは!?森に入ったら、ゾンビやグール、スケルトン、黒妖犬(ヘルハウンド)だらけじゃないか!騎士団の連中は何をやっているんだ!」


城を出てまもなくから、街道にはアンデッドの魔物が出現するようになり、その数は飛躍的に増えていった。御者はそんな状況で、初日に逃げ出した為、護衛として雇っていた冒険者のパーティにその代わりを任せていたが、三日目にはそのパーティも馬車ごと逃げ出した為、スミイルは歩いて移動するしか方法がなくなり、今はトボトボと一人で街道を歩いていた。


彼も並程度の魔導師ではあるので、持っていた魔導具と合わせれば、低レベルのアンデッド相手ならば、そこそこの勝負にはなった。


散々苦労して、ボロボロにになりながら国境に辿り着いたのは、彼が城を出てから十日目のことだったが、この頃には、既に国境に十メートルはある土壁で壁が作られ門はあちら側から閂がされており、一般人の通過を阻止していた。


「どういうことだ!開けろ!開けろ!私は宮廷魔導士ヤジスルの息子だぞ!」


大声で怒鳴りながら、門をドンドンと叩き続けるスミイルに、門の上から声が掛かった。


「魔導士スミイルよ。お前には古王国の秘宝を窃盗した嫌疑がかけられている。城の宝物庫より手に入れた小さな古い小箱を所有しているならば、速やかに提出せよ。命令に従わぬならば、力づくでの奪取も許可されている。返答は如何に?」


その兵士の言葉を聞いたスミイルは、ロープの右ポケットに入っている小箱を指先で確認した。


(宝石や金貨よりも、この小箱を気にしている所を鑑みるに、この小箱の価値は神杖に勝るとも劣らない物であることは間違いない。ならば私のするべきことは、その小箱を死守すること以外にはない)


この時に、スミイルが兵士に従っていたならば、この後の悲劇は回避できたかもしれない。彼の欲望がこの後の悲劇の引き金となった。


スミイルは小箱に糸の魔法を施して自分の右腕と繋げると、門の前までゆっくりと歩いていき、街道横の平たい石の上にその小箱を置いた。


「命令通り、小箱を手放したぞ。私はどうすれば良いのだ?」


「本物かどうかの確認が終わるまで、その小箱から十メートル以上離れて待機して貰う。」


「判った。」


そう返事したスミイルは、国境の門の前へと移動して待機した。あまりに素直なスミイルの態度に騙された兵士達が、門を開けて小箱に向かうのとすれ違うようにスミイルは門をくぐり抜けて国境を抜け、小箱と繋いでいた糸を思いっきり引っ張って、それをキャッチすると、そのまま飛行魔法を使って百メートルほどを飛翔して逃亡した。


スミイルは追手が街道を駆けてくるのを闇の中より確認し、一番最後の馬に軽い麻痺の魔法をかけると、その馬は部隊より徐々に遅れ始め、騎乗していた兵士が確認のために下馬している所を背後より強襲し、風刃で首を切断した。


「悪く思うなよ。俺を素直に入国させなかったお前らの隊長を恨むんだな。」


そう言いながら、馬へと近づいていくと、突然兵士から噴き出していた血液が自分の方へと降り掛かってきて、全身が血塗れになってしまった。


そのことに驚いたスミイルだったが、その血があっという間に右のポケットに吸収されていくのを見て、更に驚愕してポケットに手を入れた。


ドクン


そして、手に触れた強い拍動に驚き、手にしたものを引き抜き、前方へと放り投げると、蓋の開いた小箱の中から拳大の歪な塊が転がりでた。


それは一見ただの肉の塊のように見えたが、波打つように拍動し、兵士の首より流れ出る血液を余すところなく吸収し始めた。


スミイルは尻餅をついた状態でズリズリと後退し、何度も何度も火球を放ったが、その肉塊はそれさえもエネルギーとするかのように成長していった。


「おかしいだろ!箱に入っていたときはミイラみたいにカチカチだった筈だ!」


横たわった兵士の遺体は、その血が一滴も流れ出なくなった時点で、自分の頭を抱えて起き上がり、余った片手でその肉塊を大事そうに捧げ持った。


「デュ、デュラハン… 」



背後で巻き起こる大騒ぎを後にして、スミイルは大笑いしながら、飛行魔法を繰り返して兵士達との距離を開け、闇魔法を使って身を隠した。


(はっ!この私を捕まえたいなら大隊クラスの兵を準備するべきだったな)


そんな上機嫌なスミイルの唯一の誤算は、糸を強く引いた時に皮膚に切傷を負ってしまい、その手で小箱に触れた時に、その血が小箱に付着してしまったことだった。


最後までお読み頂き誠にありがとう御座います。

何分にも素人連合でございますので、御評価頂けますと、今後の励みになります。是非とも最下部に設定されている☆☆☆☆☆でご評価頂けると有り難いです。

よろしくお願い致します。

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