エピローグ2
「どう?助けられそう?」
マミアの言葉に、ラルネは自信満々に答えた。
「助けないと、ママちゃんが嘘つきになっちゃうじゃん。そうならない為にも絶対に助けるよ。」
そう言って、ラルネは解放されている胸部を閉じることから始めた。内部にたまった膿や蛆などを清浄魔法をかけながら綺麗に取り除き、胸腔内を清浄な状態へと戻すと、再生魔法を使って心臓を健康な状態へと戻し、更に走行する神経や心臓を覆う膜や脂肪を再生した。大血管や神経を復元してから肺を再生し、それを保護する肋骨や筋肉を再生させて、右画の胸の大きさに合わせて乳腺を再生してから胸部の皮膚を閉じた。復元された胸部は彼女の呼吸に合わせて自然に上下動し、治療が無事に進んでいることを実感させた。
「どうして、あの背中の瘤から処置しないの?」
その言葉にラルネは眉を顰めて答えを返した。
「形状と鑑定から寄生型の植物性の魔物と判断したんだけど、納得いかない部分が多々あったから、より深く探ってみたら、どうも寄生型の魔物に擬態した呪いのようなんだよね。だから外すのは一番最後にしようと思ってるんだ。その時にママの協力が必要になる。」
「判った!任しときなさい!」
次に手を付けたのは大きく切り裂かれた腹部の処置だった。先ほど繋いだ腸が問題ないことを確認し、他にも損傷を受けていた臓器を、腎臓や膵臓から順番に再生処置を行い、骨盤腔内臓器の損傷を修復してから、まだ傷の残っている消化管を丁寧に再生し、脾臓、肝臓、大網膜を修復して筋膜や皮膚を元通りに修復した。
「この後は顔と手足になるけど、手足は再生魔法を駆使すれば数分で終わるし、顔も眼球は再生に少し時間がかかるかもしれないけど、脳が損傷しているわけではないから一時間もかからず修復できると思う。それからあの呪いを解除するけど、おそらく呪い返しの状態となり、相手に解除したことが伝わると思う。その時点でダンジョンコアへの侵攻があるかもしれないから、二人にそのことを伝えておいてくれる?」
そのラルネの言葉に従って、マミアはダンジョンコアルームへ戻ると、二人にそのことを伝えた。
「捕まえる必要ある?それとも即殲滅で良い?」
溟の言葉に、マミアは即座に返答した。
「あんなクソ呪いの元凶だから、悪即斬の方針で行こう。」
マミアのその言葉に、溟と琳は揃って親指を立てた。
マミアが戻ると、眼球と顔の修復はもう既にほぼ終わっていたが、その顔を見てふと親近感を覚えた。
「ん?あれ?」
「どうかした?」
「なんか既視感がある。もしかしたら知ってる子かもしれない。でも何百万年も昔の記憶だし、この子もその頃からずっと捕まってたわけでもないだろうから、よく判らない。」
「でも、もし知り合いなら助けられて良かったから。それはそれで良いんじゃないかな。」
そんなことを喋りながらも、修復はどんどん進み、あとは背中の瘤を取り除くだけの状態となった。ベッドの上には、腰までの白金のストレートの髪に濃いサファイヤ色の瞳をした身長百六十センチ程のスレンダーな女性が俯けに寝ていた。背中の六枚の羽も形が綺麗に整えられ、抜け落ちていた羽根もしっかりと生え揃って女性の身体を隠していたことで、ラルネの心遣いがマミアには少し嬉しかった。
「さぁ、ママちゃんの出番だよ。これは呪いだから聖魔法で解除できる。以前ダンジョンの宝箱で僕が汚染された時に、ママちゃんが使ってくれた神聖解呪魔法で問題ないはずだからよろしくね。」
「判った。」
そう短く応えて、マミアが集中するとその身体が白銀色に輝き始め、眼を開いてその光を左手に集めてその瘤に翳すと、手から放たれた光球はその瘤に吸い込まれるように吸収され、瘤はブルッと震えたと思うと消滅した。
「後のことは僕に任せて!急いで二人の所へ!」
その言葉に頷いたマミアが扉を抜けると同時に戦闘音が響いてきた。ラルネは、急いで収納庫から寝ている女性の傍らに大きなバスタオルと背中を大きく開けたファナ用のバスローブを並べると女性を一人残して部屋を出た。
その場には侵入してきた五人の男神と一人の女神に、マミアと琳と溟の三人が対峙していたが、部屋を壊したくない三人は思うように魔法が使えず、マミアは両手剣、溟は短めの小刀を手にし、琳は短刀を使って戦闘していたが、三人の男神の片腕は既になく、残る二人の神も大きな傷を負っており、女神の腕にも切り傷ができていた。
ラルネは急いでコアに駆け寄り、所有者を己に書き換え、それを収納すると同時にその場に居る全員を最下層の空間へと転移させた。
「準備できたよ、思いっきり殺っちゃって!」
三人はニカッと良い笑顔を見せると、それぞれ相手していた神を蹴り飛ばして、マミアはハルバードを溟は両手刀を取り出し、琳は白焔を纏った。
「な、な、なんなんだ!お前らは一体何者だ!」
そんな言葉など無視するかのように、先端の小さな鎌を大きく変化させてデスサイズのようにしたマミアは、一振りで二柱の男神の首を刈り取り、溟は二振りで二柱の男神を真っ二つにし、琳の放った白い火球は一柱を灰も残さず燃やし尽くした。
「最後に名前くらいは聞いてあげるわよ。さぁ、お名前は?あなたが呪いをかけた本人でしょ。」
そのマミアの言葉に、眼尻を釣り上げた二十代後半くらいの女神がキンキン声で怒鳴りたてた。
「お前らはこの事業が地母神であられるヘラ様の意思であることが判っているのか!私はそのヘラ様の直属の配下であるデュノスミア、お前らみたいな下等な輩が目にするのも叶わぬ存在なるぞ!」
そんなことを叫ぶ女神の左腕が溟の一振りで飛んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「それのどこに、お前らがよそ様の世界を自由にして良い理由があるんだよ。この最下層で堕天させられて死んでいった天使達だって、この世界を少しでも良くしたくてこの神門ダンジョンに挑戦したんだよ。それを貶めて良い理由がどこにあるんだ!」
デュノスミアは斬られた腕を再生させると、歪な笑みを浮かべた。
「このダンジョンは、このアストレアの創造神ウラノがヘラ様に託したものだ。それをどう使おうとこちらの勝手ではないのか?」
その言葉に即座に言葉を返すことができない三人を押しのけて、ラルネが一歩前に出た。
「『星神界の取り決めで、何者もその世界の創造神の許可なく関わってはいけない』というルールを言ってると思うけど、ウラノは既にこの星を棄てている。彼はこの星の創造神ではない。よって新しく創造神となった神或いはそれに準ずる神と契約をし直す必要があるとも定められているはずだよ。それは無視なの?」
そのラルネの言葉にデュノスミアは怒りに口元を歪めて応じた。
「誰からそんなデタラメを聞いたのか知らないが、そんなルールは存在しない。ありもしないことを持ち出されても困るんだが。」
それにラルネは落ち着いて自信満々に答えた。
「へぇ、それはおかしいですね。あなたの世界の十二柱の一人であるウェスタ様よりご教授頂きましたが、少なくともあなたよりは立場が上の方ですよね。それにこの世界にはまだ見習いですが、既に創造神は誕生しました。それは星暦書にも記されています。これでもまだ議論を続けますか?」
「ウェスタだと!あいつはまだ生きているのか!」
「その言葉、あなたはあの謀略に参加していたということですね。安心して罰を与えることができますね。」
「バカめ、次に出会った時こそが、お前達が塵に変わる時だ!」
ラルネがその言葉を言い終わらぬうちに、デュノスミアの姿は薄くぼやけ始め、醜い笑顔と捨て台詞を吐いてその場から消えた。
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