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新大陸探検隊2

瑠夏の造る飛行船に乗って、瑠夏と彩芽とミルヴァと溟の四人は、ひたすら南へと向かった。


瑠夏の収納空間には、穀物や惣菜、肉や野菜や果物の他に、各種レトルト食品も含めた約三ヶ月分の食糧が保存されていた。


「もうそろそろ海へ出ます。ここからどれくらい先に新大陸はあるのですか?」


「君達の暮らしていた地球の単位で言うと、三千キロ近い距離があると思うけど、これまでも正確な測定をしたわけではないから、はっきりとした距離は判らない。」


「そんなに離れているのに、魔族の魔石を確保するためにでかけて行くのですか?」


「彼らにとっては、良質な魔石を手に入れることは、直行で自身の出世に繋がるからね。命をかけるのには十分な理由みたいだね。」


「向こうでの捜索にも時間が必要だと思います。到着したら休憩無しで夜通し移動しますから、各自夕食の片付けが終わったら、自分の部屋で早めに休んで下さいね。」


瑠夏のその言葉に従い、四人はウンパーで配達してもらった、各種のカレーを食べ終わると、それを流しに片付けてから各自の部屋へと戻っていった。


夜もふけ、真夜中と言える時間に彩芽がトイレへと向かうと、船首の居間と呼べる空間で、炭酸飲料を手にして、椅子に座ってぼんやりと外を見つめる溟に気がついた。


「どうしたの?やっぱり心配?」


その声に振り向いた溟の顔には覇気がなく、不安だけが見て取れた。


「ミルヴァは、否定していたけど、俺はあの時のエルフは間違いなくママだと思うんだ。小さな身体に何十本もの槍を打ち込まれて、無事だなんて到底思えないんだよ....今でも、あの時のあの子の姿を夢に見るんだ....許してなんて言えないよ....」


そこまで言うと、溟は頭を抱えて俯いてしまい、床にポタポタと雫が零れていた。


(この子は、転生前が何歳だったかは判らないけど、知らない世界に一人で放り出されても、瑠夏に救われた私と違って、この年まで誰にも頼らず生きてきたんだろうな....しかも、捜し求めていた家族を、自分の手で殺してしまったかもしれないという不安に押し潰されそうになって....)


そこまで考えた彩芽が、胸がキュンと締め付けられて、思わず椅子に座ったまま俯く溟の身体を、後ろからそっと抱きしめると、その身体はまるで寒い外に放り出された子供のようにガタガタと小刻みに震えていた。


溟は、彩芽の腕を振りほどくことなく、何も言葉を口にすることなく、椅子に座ったままでいたが、少しして身体の震えが治まると、


「ありがとね。眠れるかどうか判らないけど、明日に備えて寝るように努力するよ。彩芽もゆっくり休んでね。」


そう言って立ち上がり、彩芽を振り返ることなく、手を振りながら自分の部屋へと戻っていった。


一人で船首に残された彩芽は、その力ない溟の姿に心惹かれるというか、放っておけない姿に、胸の奥が再びキュンとしていた。


ーーーー

夜通し飛び続けた飛行船は、明け方には新大陸上空へと到達し、眼下には深い緑に覆われた大森林が広がっていた。


「僕も、この大陸のことはあまり知らないから、初めは少し上空から人工物の調査をしてみようと思っているんだが、どう思う?」


そのミルヴァの言葉に真っ先に反応したのは瑠夏だった。


「僕もそう思います。私達みたいな日本人には、僕がそうであったように、下にあるような原生林の中で野営を続けるというのは難しいと思うんです。森の中よりも、遺跡みたいなものがあるなら、それを利用してとか、なければ僕がそうしたように、洞窟とかの自然を利用した拠点を造るように思えます。」


その瑠夏の言葉を聞いたミルヴァは大きく頷いて、今後の方針についての説明を続けた。


「先ずは、かなり上空からこの大陸の山や川、平地や森などを確認してみよう。そして、遺跡とかが見つかれば、その都度相手にわざと気づかれるように接近して、調べてみることにしようか。遺跡の調査を終えたら、次は川や岩場をメインにして調べてみよう。」


その方針が決定してから、数十の遺跡を上空から発見したが、その多くは放棄された廃墟としか呼べないような無人の魔物の住処であり、稀に拠点としている者がいた場合でも、魔石を求めて新大陸へと渡ってきた人族が多く、求めていた情報は手に入らなかった。


今日発見した遺跡で暮らしていたのも、魔石を求めて新大陸へと渡ってきたドワーフとエルフの集団で、手土産として渡した小麦粉に素直に喜んでいた。


「ところでさ、最近の新大陸で奴隷狩りとか、人攫いの集団の情報とか入ってきてない?」


「ん?誰か捜してんのか?」


「うん、人族の金持ちの令嬢なんだけどさ、どうも誘拐されて、この新大陸へ運ばれたみたいなんだよね。もし、何か変わった情報があったら教えてほしいんだけど、勿論情報料はそこそこ払わせて貰うよ。」


「うーん、聞かないなぁ。おい、誰かなんか知ってるか?」


自分こそが奴隷狩りの親分のような顔をしたドワーフが、周りの仲間達に問いかけても、かんばしい返事は返ってこなかった。


「そうかぁ、お礼には樽の火酒を準備してあるんだけどなぁ。」


その言葉にドワーフ達の顔色が変わった。


「何だと!おい、寝てる連中を叩き起こしてこい!絶対に手に入れるぞ!」


そうして起こされてきた下っ端の一人が、四人に気になる情報を教えてくれた。


「俺は、元々はもっと西の方から来たんだけど、そっちにあった拠点の遺跡が魔人の連中に乗っ取られたんだよね。かなり大規模に魔石を集めて、ガキや若い女連中は、魔石育てる為に牢屋に閉じ込めてたんだけど、そこが無茶苦茶に強い奴らに襲撃されてね、全滅だよ。全滅。俺はたまたま狩りに出てたから助かったけど、連合軍の三部隊が全滅させられたから、相手はかなりの連中だと思うよ。俺はもう行きたくないね。」


それはかなり有力な情報と言えたが、ミルヴァ達は求めていた情報ではないというような顔をして、情報料としてはボトルのウィスキーを渡そうとしたが、それを相手の親分が拒否した。


「おいおい、これはかなり有力な情報だろ?それをボトル一本で済まそうなんて甘すぎるんと違うか?」


その言葉で、その場にいた集団はさり気なく四人が逃げ出さないように包囲する配置についていた。


「もちろん約束通りの報酬を払ってもらえるんだろうね?」


そう言って、そのドワーフの親父は、髭モジャの脂ぎった顔の口角をクイッと上げた。


「判ったよ。瑠夏、樽を出して貰えるか?」


瑠夏は予め準備してあったウィスキーの十リットル樽を、収納鞄に見せかけた収納空間から取り出した。


「ほらよ、約束の報酬だ。じゃあ、俺達は帰るからな。」


そう言って、帰ろうとした四人を取り囲んだドワーフ達が、ニヤニヤしながらその包囲を解かずにいるのを確認した溟が雷魔法を発動させて、四人の周りに数十の雷を落とすと、彼らは腰を抜かしたように座り込み、這うようにして道を開けた。


「今度ふざけたことをすると、殺すぞ。」


溟の感情のこもっていない言葉に、その場にいたドワーフ達は、ただコクコクと首を動かすだけだった。


「この辺りが、新大陸の西海岸の南端だから、ここから北上していくね。」


そう言って、瑠夏が飛行船を海岸線に沿う形で北上してから六時間ほど経った時、前方にこれまでの遺跡と異なって、街とも表現できるようなまだ新しい建造物群が見えてきた。


「....あれは?」


ミルヴァのセリフとほぼ同時に、飛行船のフロントガラスに、背中に真っ白な四枚の羽を背負った金髪碧眼の軽鎧を身に着けた少女が姿を現した。


【ここは、守護と秩序の女神であるウェスタ様が治める地である。早急な退去を要求する】


突然、頭の中に響いてくるその少女と思われる声に、元異世界人の三人が固まったが、ミルヴァは躊躇うことなく問い返した。


【この世界には、守護と秩序の女神は既に存在しない。所属する世界を教えてほしい】


その声に、金髪碧眼の少女は驚いたように目を見開いた。


【ウェスタ様は、この世界の創造神と元の世界の地母神の企みにより、この地に幽閉された神である。もしも、あなたがこの世界の神であるなら、その責任の一端はあなたにも存在する】


【この世界には、既に神は存在しない。あなたの希望に応えることはできない】


そのミルヴァの言葉に、その少女は眉を寄せて、戸惑うような表情を見せたが、その目が溟を捉えると、大きく見開かれた。


【そこの白髪のオッドアイの少年に問いたい。そなたの名前は何という?】


溟が睨みつけるように、その少女を見つめ返すと、暫くその溟の顔を見つめていた少女は、合点がいったという感じで、突然に破顔した。


【お前、溟だな。マミアとラルネと琳が探してたよ。よく来たね】


そう言って、その少女は満面の笑顔を浮かべると、それまでの態度をガラッと変えた。その豹変ぶりに反応を返すことができずに、溟が突然の待ち望んでいた情報に呆然としていると、


【で、こいつが溟だったということで、さっきまでの会話は全て無しにするね。こんな遠くまでよく来てくれたよ。ウェスタ様にも紹介したいから、下の都市までこの飛行船を降ろして貰っても良いかな?】


ミルヴァと瑠夏が頷き合って確認を取り、飛行船が着陸に移って行く間に、溟がいつしかしゃがみこんでしまい、その両目から流れる涙を堪えきれないでいるのを、彩芽が頭をヨシヨシと撫でるというなかなか見れない光景が目の前で展開しているのを、これは見ちゃいけないやつだと、瑠夏とミルヴァは目を逸らし続けていた。


ファナに案内されて、都市の広場へと飛行船を着陸させてそれを収納してから、四人はファナのあとに続いて、街の中央部にある宮殿へと歩いていると、建物の陰から探るような多くの目がその姿を追いかけていた。


「気になるか?」


頻りに気配を探る四人に、ファナが少し突き放すような言い方で尋ねた。


「気にならないと言えば嘘になります。魔族の方達ですか?」


「あぁ、彼らにとっては、お前たちは侵略者以外の何者でもないからな。いくら俺が一緒にいるのが頭では理解できていても、不安なんだろうな。」


そんな不安と不快感の混ざった視線に追われながら、四人が中央通りを歩いていると、最近は獣人の子供達の世話が多くなって、耳と尻尾を出したままにしている彩芽の左右に揺れる尻尾を小さな手が掴んだ。


彩芽が慌てて振り返ると、


「ねぇ、お姉ちゃん達はわたち達の命石を取りにきたの?」


まだ三歳くらいに見える、小さな透き通った羽を生やした女の子が不安げな表情で尋ねてきた。


「ううん、私は幻獣で魔臓もあるから魔石は必要ないよ。見ててね。」


そう言うと、彩芽は太陽を背にしてその子の隣に立つと、両手の指からスクリーン状に細かな霧のような小さな水滴を勢いよく噴出させて、空を覆った。すると、それぞれの水滴を通過した太陽光が様々な波長の光に分解されて、空に大きな虹を作った。


「うわぁ~!チュゴい!チュゴい!お姉ちゃんは、虹の魔導士なの?」


その虹の魔導士という単語が気に入ったのか、彩芽は満面の笑みを浮かべると、その子の両手を優しく包むようにくるみ、最近学んでいる収納空間からミルキーの飴を三つ手渡した。


「これはね、飴ちゃんと言って、とっても甘いお菓子なの、後ろで心配そうにあなたを見てるお兄ちゃん達と一緒に食べてね。」


言われた女の子は、(てのひら)にある飴を驚いたように見つめ、ニカッと笑うと、彩芽に手を振って別れを告げ、兄達の元へと駆け出した。


「ちゃんと紙の包みは取るんだよ。それは食べ物じゃないからね。」


「わきゃったぁ!」


そう大きな声で返事をすると、その子は後ろ向きにバイバイしながら元気に帰っていった。


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