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新大陸探検隊

その後一週間程、部屋で養生して初めて部屋の外へと出た時に、溟の目に飛びこんできたのは、荘厳なステンドグラスを多用した教会のような講堂と、中央に飾られた三女神の神像だった。


思わずヨロヨロとそれに近づき、その前にへたり込んで、溟は呆然とそれを見つめていた。


「どうして、ここにこれがあるの?」


溟の口から吐き出されたのは、男の言葉ではなく、女性の声だった。


「ミルヴァ、ミルヴァ!いるんでしょ!教えてよ!」


その状況に驚いた彩芽が、ミルヴァを呼んで来ると、溟はすぐにミルヴァにしがみつき、女性の声で言葉を続けた。


「どうして、ティアとデメルと私の像がここにあるのよ!」


その言葉にミルヴァが固まった。


「アノス!アノスなのか!君がこの子の中に居るのか!」


「そうよ!ティアとデメルと一緒に、この世界に戻ってきたの!」


ーーーー

溟の身体の中に居るアノスから、溟の姉と父にティアとデメルが宿っていることを知ったミルヴァは、その日から瑠夏の手を借りて世界中を飛び回ったが、なかなか有効な情報を手に入れることができなかった。


「ふぅ、ここまで情報が無いと流石の私でも参ってしまうね。」


ドワーフ王都のメインストリート沿いにあるカフェで、クッキーをつまみにミルクティーを飲むミルヴァが愚痴をこぼすと、今回は一緒に付いてきた瑠夏と彩芽も、手にした葡萄と林檎の果汁のグラスを口にしながら、それに同意していた。


「この国も、王族や貴族があれだけ大量に殺されてからは、少し風通しが良くなったよね。」


「おい、あまり大きな声で話すな。衛兵に見つかるとしょっぴかれるぞ。」


彩芽は背後の少し離れた隅で会話する商人のことが気になり、聞き耳を立てた。


「しかし、あの時の子供達は素晴らしく強かったな。たった二人でドワーフ王国軍の精鋭部隊連中を一網打尽の皆殺しだもんな。」


「あぁ、俺達みたいに国にお金を絞り取られてる人間にとっては、神から天罰貰ったんだと納得したもんな。髪の毛も殆ど真っ白で、ホント天使みたいだった。」


「あぁ、炎を操ってる女の子が、近衛の団長に長剣で真っ二つにされた時は、俺も思わず悲鳴をあげちゃったよ。」


その言葉を確認した彩芽は二人に合図をして席を立ち、店員に少し熱いから場所を変えたいとお願いし、会話を続ける商人達の声が聞こえる場所へと移動した。


商人達は、移動してくるミルヴァ達が気になったようで、暫く口を塞いでいたが、女性一人と二人の子供連れのグループということで、再び会話を再開した。


「どこまで話したっけ?」


「真っ二つだよ。あの時は俺も真っ青になって悲鳴を上げたよ。あんな可愛いらしいまだ十歳にもなってないような子に、なんてことするんだと同情しちゃったもんね。」


「でも、その子が王や女王だけでなく、王族や上級貴族連中をまとめて焼き払ったのを考えると、仕方ないかとも思えるんだけど....でもなぁ、子供だぞ。よっぽど恨みがあったんだろうな。」


「確か、自分のことを第二王女エシュタルって名乗ってたよな。お前知ってるか?」


「いや、聞いたこともないよ。初めて聞いた。」


「俺さ、あんな炎は初めて見たよ。蒼を通り越して白い炎だぞ。誰も一瞬で燃え尽きてたよな。」


その言葉に、ミルヴァの手にしていたクッキーが粉々に握りつぶされてテーブルの上に落ち、彩芽が慌てて自分のハンカチにそれを纏めた。


瑠夏がミルヴァの顔を見ると、その顔色は真っ白で血の気を失っていた。


「その子が真っ二つにされた後で、もう一人の子がブチ切れして、周囲の石畳全部が急に宙に浮いて、縦横無尽に暴れ回ったのにも驚いたよな。それこそあっという間に、そこに居た殆どの兵士や騎士の腹が鎧なんか関係なく、ブチ抜かれて臓物撒き散らしてたもん。」


「そうだよな。派手さは無かったけど、数秒でパレードに参加してた兵隊全滅したもんな。あれ見てると、うちの魔導騎士団ってレベル低いんだなぁと思っちゃうよね。」


「あの事件の後、あの子の死体どころか切られた身体の一部も見つからなかったんだろ....」


「お客様、声が大きいです。衛兵に連絡されると私共も困りますので、そのようなお話は他でして頂けますか?」


商人の所へ、水を運んできた振りをした店長と思われる人間が注意を促すと、その二人は慌てて口を噤んだ。


商人達が店を出ていくと、ミルヴァ達も暫くしてから席を立ち、瑠夏の飛行船へと乗り込んだ。


「間違いなく溟の探している人達だと思います。しかも一人はドワーフ王族の一族だと考えて間違いないかもしれません。」


「何か理由があるの?」


その瑠夏の質問に、少し間をおいてミルヴァは言葉を続けた。


「十年ほど前に起こったナルシスラ城の厄災の話は、以前に二人にしたと思いますが覚えていますか?」


「うん覚えてるよ。王様が同盟国のドワーフの王族に赤子を提供するように命じて、その中に混ざっていた王族の赤子が炎の精霊王を宿した時に暴走して、城を灰へと変えた事件でしょ。」


その彩芽の言葉に満足したミルヴァは頷いて、言葉を続けた。


「その赤子が、溟の言う姉か父のどちらかだと思います。精霊王を宿した程度であれだけの火力を生み出せるわけがないと考えていましたが、その身体に火の神ティアを宿しているならば、そのことにも説明がつきます。急いで帰って、溟にいろいろと確認してみましょう。」


ーーーー

「間違いありません!」


リビングテーブルの席に座っていた溟が、ミルヴァの言葉を聞いて勢いよく立ち上がった。


「私がナルシスラに連れてこられた時に、ほんの微かにですが親族の気配を感じました。ナルシスラ城を燃やしたのが、父か姉ならばそれも説明つきます。」


そこまで言うと、溟は涙をポロポロ零しながら座り込んでしまい号泣してしまった。そんな溟に誰も声をかけることができず、落ち着いたのを見計らってミルヴァは席に座るように促した。


「言いにくいことだが、キミにはまだ伝えきれていない所がある。その娘はドワーフの王族を襲撃した際に、身体を真っ二つにされている。申し訳ないが通常の回復魔法程度では、救命は不可能だし、デメルの力を持ってしても難しいと言える....」


「そこは心配していません。おそらく最初に王を燃やしたのは姉だと思います。軍全体を燃やす能力があるのにしないのは姉の優しさであり、弱さです。その場にいたもう一人の白髪の女の子が容赦なく殲滅したのなら、その子が父か母です。あの二人なら目の前で自分の子供が死んでいくのを黙ってみているはずがありません。家族の敵と見なしたものはこの世でなら迷わず殺します。それに娘が死にかけたなら、どんな手段を使ってでも救命するのがうちの両親です。そのことに間違いはありません!それには自信があります。」


その溟の言葉を聞いていた彩芽は、自分が転生してきたばかりの頃、大蛇に襲われて命を失った兄弟のことを思い出していた。今なら救命できるのだろうかという思いに沈んだ。


「その二人の動向については、何か掴めたのですか?」


元気を取り戻しつつある溟の言葉に、少し押されるようにミルヴァも言葉を続けた。


「場所的には、君達が戦闘したカントラ砦の東に当たる場所だから、そこから西の方へと移動したとすれば、その現場近くに二人がいたことも十分に想定できると思うが....そこまで都合よく物事が運ぶことは少ないと思う..でも、戦闘後に再び出現したナルシスラの厄災の炎のことを考えると、一概には否定できない。」


「間違いありません。その現場には父と姉がいたことは間違いないと思います....良かったです。もしかして、僕が追い詰めてしまったあの黒髪のエルフが母であったとしても、父と姉ならば必ず何とかしてくれます。ホントに....ホントに良かったです....」


そう言って溟は再び涙を零したが、その顔には笑顔が溢れていた。心の底から家族を信じているんだなと思った瑠夏は少し羨ましくなった。


暫く泣き続けた溟は、安心したのか少し眠気に襲われてテーブルに突っ伏してしまい、先に寝室へと運ばれた。


「ミルヴァさん、溟の家族ですが、どう思われますか?」


その瑠夏の問いかけに、少し沈黙して考えを纏めたミルヴァがゆっくりと口を開いた。


「仮に溟の家族が合流できたとしても、この大陸でそれだけの力を持っている彼らを素直に受け入れてくれる場所はとても少ない。この魔の大森林以外には無いと言っても過言ではないと思う。しかし、デメルの時のことも含めて、そんな情報は僕や四龍の力を持ってしても、一切入ってきていない。とすれば、彼らの向かった先は新大陸の可能性が高いと言うことだ....僕は新大陸へと渡ってみようと考えている。ただ迅速な移動の手段としては、四龍に運んで貰うか、瑠夏に協力して貰うしか方法がない。僕はできれば瑠夏に協力してもらいたいと思っている。お願いできるかい?」


「もちろんです!ぜひ協力させて下さい!」


そう言って、瑠夏は両手でミルヴァの手を取った。


「私も絶対に付いていきます!それが溟の面倒を見た私の責任です。」


そう言って、彩芽もその手を取り、ここに溟を加えた四人での新大陸探検隊が発足した。


最後までお読み頂き誠にありがとう御座います。

何分にも素人連合でございますので、御評価頂けますと、今後の励みになります。是非とも最下部に設定されている☆☆☆☆☆でご評価頂けると有り難いです。

よろしくお願い致します。

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