帰還そしてダンジョンへ
「ウェスタ様、長い間ご迷惑をおかけしました。ただいま帰りました。」
神殿都市スキタイの神の間の玉座に座るウェスタの前に、ラルネ、マミア、エシュタルの三人が跪いていた。
「うん、よく帰ってきたね。無事に家族の人達を見つけられたみたいで良かったね。僕達に紹介してくれる?」
「はい、妻のマミアと娘のエシュタルです。息子はまだ見つけられていませんが、二人の修行も考えて、一旦帰ってきました。」
ウェスタと彼女の眷属である五人が、二人を穴の開くほどに凝視していた。
「家族って言うより、三姉妹って言っても良いくらい似てるよね。ラルネとエシュタルは双子みたいだし、マミアも髪質が違うことを除いたら、そっくりだよね。」
「「「え〜?」」」
「うん、そっくりだね。」
アミュの言葉に、五人がウンウンと頷いていた。
「ところで、修行って、何をするつもりなんだ?」
アジバが興味深そうに尋ねると、
「はい、マミアはハイエルフでデミゴッドなのですが、これまで呪いで魔力を完全に封印されていたので、使い方が殆ど判っておりません。全属性魔法に適性があり、精霊魔法や幻獣生成にも適性があるようなのですが、全く修行方法が判らないので、私達ではお手上げ状態なのです。」
そのラルネの言葉に、ウェスタが少し驚いた。
「それだけの適性を持っている時点で、既に神だと思うのですが....特に幻獣生成は、精霊を幻獣化して眷属を生み出す神属性の能力です。神以外の者には使用できません。マミアには法と掟の女神、私のいた世界ではテミスに親しい神の加護と祝福がありますが、魔法とスキルから判断すると、戦と繁栄の神となれる素質があるように思えます。」
ウェスタの言葉に、舞い上がるどころか、戸惑い不安に慄いてしまったマミアが、ラルネの腕に強くしがみついていた。
「どうしよう....私は..そんな役できそうにない....やだよ..パァパ..助けてくれるよね。」
「いやいや、あくまで可能性だから、できることだけやれば良いんだよ。できないことを無理にやれなんて、誰も言わないよ。」
「マミアよ、ラルネの言う通りです。神なんてなろうとしてなるものじゃないし、気づいたらなっていたという存在なんです....理解してない神も多いですけどね。」
そう言って、ウェスタはマミアに微笑み、彼女の頭に軽く手を触れると、マミアの身体が虹のように光り始め、やがて身体に染み込むように消えていった。
「エシュタル、あなたもこちらに来なさい。」
エシュタルがおずおずとウェスタの前へと歩み寄ると、マミアと同じように手を置かれ、祝福が与えられた。
「ラルネには、この都市でたくさんのことを成して貰いましたが、あなた達二人にも、できればこの新大陸の発展に協力して頂きたいと思っています。無理をする必要はありません。できる範囲で良いのです。宜しくお願いします。」
そう言って、ウェスタは二人に頭を下げた。
この神様は信じて良いかもしれない。そう思った二人がラルネを見ると、普段のパパがよくしていたように、頭を掻いて苦笑いしていた。
「マミアよ、お主には剣術と槍術のスキルがあるようだか、儂と腕試ししてみんか?」
「えっ?私で良ければ喜んでお相手させて頂きたいと思います。」
その返事にニヤッと笑ったアジバが、更に言葉を続けた。
「エシュタルよ、お前にも火魔法の才能があるようだから、それも見てやろう。構わぬか?」
「こちらこそ、ご指導宜しくお願いします。」
そう言って、ニヤリと笑うエシュタルを見て、ラルネは嫌な予感がした。
(....まさかね)
「さぁ、遠慮なくドーンと来い!」
闘技場の真ん中で、悠々自適に構えるアジバを見て、アミュは心底呆れていた。どうせ、新人にマウント取るつもりでノコノコ出て行ったとしか思えなかった。
「まぁ、無いとは思うけど、あれで負けたらどうすんだろ?」
小声で呟いた言葉は、誰にも届かず消えていった。
アジバの前に立ったマミアが、収納からデスサイズ風のハルバードを取り出して構えたと同時に薙ぐように振り抜くと、その刃から放たれた斬撃が風の刃となってアジバを襲った。
アジバは、突然の風刃に一瞬慌てたが、直ぐにその刃を両手を組んだ拳を打ち下ろして破壊して、ホッとして顔を上げると、目の前には既にデスサイズを大きく振り上げて、今にも振り下ろそうとしているマミアがいた。
「ウォォォォォ!」
慌てて飛び下がった彼の目の前を、巨大な鎌が通過していき、アジバの背中に一筋の汗が流れた。
「アジバさん、流石です。私のこのコンボを初見で避けた人いませんでした。よーし、どんどん行っちゃうよ!」
「....ま....待て」
その言葉が届かぬうちに、彼の周りを飛び跳ねながら、彼女のハルバードからは、次から次へと斬撃が放たれ、アジバは無数の風刃に囲まれて回避不可能の状態となり、彼は鎧の持つスキルである『無敵の城塞』を発動した。
彼に襲いかかった風刃の全てが、そのスキルにより無効化されたが、最後に襲いかかってきたマミアの槍術のスキル死棘の槍の応用である『死の一棘』が振り下ろされると、『無敵の城塞』を破壊することはできなかったが、この刃の先が、それを突き抜けて、アジバの目の前で止まっていた。
「負けたぁ!今の一撃で倒せなかった時点で私の負けです。流石です!アジバさん、最強です?」
そんな褒め言葉を発しながら、マミアはアジバに一礼し、闘技場を出ていった。勝ったのかと戸惑うアジバに更に声がかかった。
「今度は、私の番です。アジバさん、よろしくお願いします。」
まだ依然として固まっていたアジバの前で、エシュタルが一礼して、早速集中し始めて、焔を纏い始めた。
それを見たアジバも、慌てて炎を纏い始めたが、如何せんその纏った炎の大きさも色もランクが違った。
アジバの纏う炎が真っ赤に燃え上がるようなイメージであるのに対して、エシュタルの身体から次から次へと噴き出した焔は、生き物のように蠕き、周りを喰らい尽くす真っ白な龍のような姿をしていた。
「.......ま....待てぃ!」
アジバの悲鳴のような絶叫が、闘技場に響いた。
「な、何だ!それは?そんな火魔法や炎魔法など見たことも聞いたことも無いわ!あまりにも非常識だろ!それはいったい何なんだ!」
そのアジバの言葉に、エシュタルの纏っていた焔は、あっという間に消え去り、顎に手を当てて首を傾げる彼女の姿があった。
「たぶん焔魔法だと思いますが......判りません!」
それを闘技場外から見ていたウェスタの背にはビッショリと流れる冷や汗があった。
「....あの魔法は、太陽神であるアボロンが使っているのを見たことがありますが、色はもっと朱に近かったように思えます。でも、それをハーフスピリットが使えるものなのでしょうか?ラルネばかりか、マミアもこの子も規格外ということなのでしょうか?敵には絶対に回したくない人達ですね。」
闘技場での訓練も終わり、九人は神殿の神の間へと戻ってきて、大きな木製のダイニングテーブルに集まり、お茶の時間となり、テーブルの上には、ラルネの準備したフルーツパフェと様々な色のクリームソーダが並んでいた。
「やっぱりラルネのデザートは最高ね。同じように見えても、味が全く違うわ。」
「ありがとうございます。それで突然なんですが、お願いがあるのです。私達三人で以前にウェスタ様達が幽閉されていたダンジョンに潜ろうと思うのですが、構わないでしょうか?」
そのラルネの言葉は、皆にとって意外な提案だったようで、多くの質問が投げかけられた。
「みんな強いのに、どうしてダンジョンなんて潜るの?」
「今更潜っても、魔物のレベルどころかランクが違うから、スキル上がらないんじゃないの?」
「まだ家族が一人見つかってないのに、そっちは放っておいて良いの?」
その三人の問いに、ラルネが代表して答えていった。
「順番に答えさせて頂きますね。マミアは、剣術と槍術は高レベルですが、無意識で使用している風刃を除いて、他の魔法スキルは初期レベルです。エシュタルも、火系の魔法は究極レベルですが、風魔法や音魔法は初期レベルですし、近接系戦闘のスキルは全くありません。私も近接系のスキルはありませんし、樹木魔法は初期レベルです。これらの歪さを改善するためにダンジョンでスキルアップしようと思ったんです。」
「どうして、強くなる必要があるの?今のままじゃダメなの?」
「マミアを救出する時に、今の人族やドワーフ族、エルフ族の正規軍の実力を把握する機会を得ました。周囲への被害を考慮しなければ、一般兵相手なら全く問題ないことも理解しました。でも、私達は自分の都合で無関係の人をなるべく巻き込みたくないのてす。だから、余裕を持って対応できるように、もっと強くなる必要があると家族で決めたのです。」
その言葉を聞いたウェスタ達は、これ以上引き止めても、三人は必ずダンジョンに潜るだろうと考えざるを得なかった。
「ラルネ、私達は、あなた達に私の国造りに協力して頂きたいと考えています。家族が見つかったら、それはお願いしても良いのですか?」
ウェスタの質問にラルネ達は顔を見合わせて、もう一度ウェスタの顔をしっかりと見つめて大きく頷いた。
「私達には帰る場所がありません。できればこの新大陸で暮らさせて頂ければ嬉しいです。ただ末の息子には、まだ意見を聞いていないので、できればそれは考慮して頂きたいと、思います。」
「それはもちろんです。あのダンジョンは、私の所有するものではありませんので、許可をするというのも変ですが、気をつけて行ってきて下さいね。」
「「「ありがとうございます!」」」
その言葉で締めくくられて、その会議は終了となった。
「ラルネ、私達は付いていくことができないけど、気をつけて行ってきてね。」
「あそこはどんどん深化が進んでいて、今は最深層が450層近いから、私達が出てきた時でも、一年以上かかったんだ。しっかり準備はしていくんだよ。」
「そうだよ、中には食べれる野菜や果物や魔物もいるけど、いつもいるとは限らないからね。特にアンデッドの階層は、食べるもの全くないから。もし君らが骨食べれるなら可能かもしれないけど。」
アテル達の言葉に、ラルネは確認するようにしっかりと頷いた。
「私達の場合は往復になりますから、最低でも二年は必要になると思います。その間、ウェスタ様とこの大陸のことをよろしくお願いします。」
「そんなの当たり前じゃん。私達を誰だと思ってるの!安心して行っておいで。」
ファナの言葉に、笑顔を見せてスキタイ城を後にした三人は、早速海へと出て、まだ正体の割れていないドラマドル帝国の港へと向かい、これまで集めていた魔石を冒険者ギルドで全て売り払って資金を得ると、いくつかの街を回って、三年分の食料を買い集めた。米や小麦などの主食ばかりではなく、砂糖や塩、胡椒などの調味料、野菜や果物、肉も大量購入して驚かれ、牛乳などの乳製品を爆買いした際には、それは生ものだから保たないぞと注意され、屋台で調理済みの料理を屋台が空になるまで購入した際には、近くに軍隊でも来てるのかと不安がられた。
二ヶ月ほどで食料の準備も終わり、その一月後には、ついに三人はウェスタが幽閉されていた島の鳥居の前に立っていた。
「さぁ、行くか。」
「「うん。」」
こうして、三人の姿は祠の中に消えていった。
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