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そして再会

身体をホンワカと包み込んでくれるような柔らかさと暖かさに、マミアは薄っすらと目を開けた。


真っ白な染み一つない天井と、頭の両サイドに据え付けられたどこか覚えのある品の良いブラケットライト。


砦のことを思い出し、自分の身体を触れてみても、どこにも傷は見当たらず、子供の頃に庭の大木から落ちて作ってしまった傷さえも消えていた。


(これは、夢?)


不思議そうに周りを見渡すマミアの目に映った世界は、どこか浮世離れしている、でも少し懐かしい世界だった。


(どこで見たんだろう?見覚えがあるようなカーテンや、シーリングライト?やベッドボード?....なんかとても懐かしい気がする…)


そんな思いに捕われていると、入り口の扉が開いて、トレイを抱えた自分と同じくらいのツーサイドアップの白髪の女の子が入ってきた。


薄紫色を基調としたメイド服に白いエプロンを身に着け、胸に見たことのあるような朱の強い虹色に輝くクロスペンダントをつけた娘は、持ってきたトレイをベッド横のサイドテーブルに置き、おもむろにマミアを覗き込み、二人はバッチリと目を合わせた。


マミアは恥ずかしさで毛布を鼻まで引き上げた。


「....こんにちは。」


マミアの言葉に、その娘の朱い瞳は真ん丸に開かれ、大声を上げた。


「パァパ!ママちゃんが目を覚ました!」


そう叫んで、その子はトテトテトテトテと隣の部屋へとかけていった。


『ママちゃん』何故かとても懐かしい呼び名に、何故か涙が溢れた。


(そうだ。昔、私には家族がいた。夫と娘と息子の二人の子供。前の世界に置いてきてしまったとっても大切な私の家族。もう絶対に会うことのできない私の宝物達....)


次々と溢れ出る記憶の洪水にマミアの涙は留まることを知らなかった。朝早くから夜遅くまで仕事して、やっと授かった二人の子供のために夫は私を専業主婦にして、仕事を一人で背負ってくれた。あの頃の懐かしい思い出が、走馬灯のようにマミアの頭に浮かんできていた。どうして?どうして忘れていたんだろう。こんなに大切な思い出なのに、どんなに考えても忘れていた理由が判らなかった。


再びトテトテと床を走る音がして、先程の女の子によく似た白髪ポニーテールの女の子が、さっきの子と競い合うように並んで部屋へと入ってきた。


先程の子によく似た淡い翠色を基調にした同じような服に碧色のクロスペンダントをぶら下げ、やはり白いエプロンをつけた先程の子と双子のようにそっくりな姿をしたその子は、そのままベッドに飛び乗ってくると、寝ているマミアを毛布ごと強く抱きしめて泣いた。


「マァマ、マァマ!会いたかった!会いたかったんだよぉ!あの時はごめんね、本当にごめん、助けられなかった!絶対に幸せにすると約束したのに!自分には何もできなかった!」


その子は、大声で顔をびしゃびしゃにして、ヨダレも鼻水も垂れ流して、絶叫しながら泣き続けていたが、マミアの記憶の中に、そんな子は存在しなかった。


「ごめん、ダレ?」


ピキッと音を立てて、時間が止まった。


その後は、十年以上も話せなかったストレスを一気に解消するように、お互いに会話が全く止まらなかった。


先程の誤解は、ラルネがそれぞれのステータスを教えることで何とか納得してもらった。


「でも、パァパもリンちゃんも、二人とも人ではないなんて、ママはショックだよ。まだミィちゃんは、半精霊(ハーフスピリット)だからピッタリだと思うけど、まさか、まさかのパァパが魔物なんて、信じられないよ。しかも、男の娘って、それじゃあ、結婚できないじゃん。」


そう言って、マミアはテーブルに置かれたハムと卵のサンドイッチを一つ手に取りパクリと食べて、その美味しさにニッコリ微笑み、ラルネは手にしていたサンドイッチをポトリと落とした。


「えっ?前世の結婚はまだ有効じゃないの?」


その答えに、左手にアイスレモンティーを持ったまま、マミアは右手の人差し指を立てて、ラルネの前でクイクイと振った。


「女の子には、結婚っていうのは特別なの。こっちの結婚式がどんなのか判らないけど、やっぱりウェディングドレスは、女の子の憧れなの。ねぇ、リンちゃん!」


問われたエシュタルは、ツナとレタスをマヨネーズであえたサンドイッチを咥えたまま、ウンウンと頷いた。


「確かに、僕は魔物だけど、一応男の娘だけど、男だし、結婚は可能だと思うな。」


汗をかきかきラルネが焦ったように答えると、


「でも、その格好じゃねぇ。どう見ても少女なんですが、しかも、リンちゃんとソックリで双子みたいだよ。」


「え〜っ、そんなこと言うけど、ママちゃんだって、鑑定したら、変なの出るかもよ。」


「私は普通のエルフだよ。魔法全く使えない無能だけどね。」


そう言って、寂しそうな顔をしたマミアに、ラルネがニカリと笑った。


「じゃあ、鑑定してみるよ。鑑定!」


種族..ハイエルフ、デミゴッド(封印中)

年齢..十歳

性別..女の子

魔法..全属性魔法、精霊魔法、幻獣生成魔法

スキル..両手剣、ハルバード

加護..法と掟の神の加護

祝福..法と掟の神の祝福

状態..呪い(愚者の呪い)


それを見て口角を上げたラルネが、鑑定結果を書き出した紙をマミアの前にペシンと置いた。


「神様だって!」


そう言ってラルネが笑うと、その紙を毟り取ったマミアは、目をまん丸くして食い入るように見て、エシュタルがそれを覗き込んだ。


「パァパ、それを言うのは今じゃないでしょ!」


マミアはその紙をじっと見つめたまま、その身体は細かく震えていた。


「へっ?」


「ここだよ、ここ!呪いだよ、呪い!誰かがママちゃんに呪いをかけたんだよ。」


「ん?そんなの解けば良いだろ。」


「「解けるの?」」


二人の声が、ピッタリハモった。


「簡単だよ。パパはね、回復魔法のスペシャリストだよ。こんなの簡単に解けちゃうんだからね。神様が神様に掛けてた呪いも解いたことがあるんだからね。」


ラルネはひっくり返るほど胸を張った。


「じゃあ、さっさと解きなさい!」


「は、は、はいっ!」


マミアとエシュタルの剣幕にピッと姿勢を正すのと同時に、ラルネの身体が碧色に輝きだし、その光は時間と共に輝きを増していき、部屋の中に透き通ったエメラルドグリーンの光がこれでもかというくらいに広がった。


「解呪、『愚者の呪い』!」


ラルネの言葉に合わせるかのように、部屋中の碧色の光が、マミアの身体に吸い込まれるように移動し、彼女の身体を一際明るい透き通った碧色に輝かせて消えていった。


そして、光が消え去った後には、虹色の房の混じった白銀に輝くクルクル巻き毛をミディアムロングに揃え、虹色の瞳を持った少女が呆然とした表情で立っていた。


「鑑定......大丈夫。呪いは解けたし、封印も外れたよ。」


その言葉に、マミアの両眼から涙が溢れ出て、身体もガクガク震え出し、終いには、立っていられなくなったようにしゃがみ込んでしまった。


「....わたしはね..小さな..頃から..かげでは....みんなに..無能..無能って....呼ばれて..いたの..」


その言葉に、ラルネとエシュタルの二人は、マミアに駆け寄り、抱きしめるようにしゃがみ込んで、彼女の言葉にウンウンと頷いていた。


「..でもね....負けるもんか....魔法が使えなかったら....剣があるって..ホントに....一所懸命....ガンバったの..」


「ママちゃんらしいね。前の世界の時と一緒だね。」


その言葉に、マミアはラルネの顔を見て、唇をギュッと結んでウンウンと頷いた。


「私、ママちゃんに呪いをかけた人、許せないんだけど!」


エシュタルの怒りの籠もった言葉が、三人の間に響いた。


「おそらくは両親のどちらかだと思う。あの『愚者の呪い』は、ママの髪と眼を黒に変えた。産まれた時のそれは、白色で虹色だったはずだから、途中で、それが黒に変わったら、嫌でも判る。」


ラルネの言葉に、マミアは俯いて下を向いてしまった。そして、暫くすると決心したかのように話し始めた。


「エルフには、『ハイエルフが産まれた時は、その赤子を王にする』という古い掟があるの....私を王にしたくなかったというより、父が王になりたかったのかもしれない。」


エシュタルが、右手の拳を床に叩きつけた。


「この世界の親って、どうしてこんなに屑ばっかりなの。私の親だって、あの帝国に赤子の私を生贄に差し出したんだよ!」


そう言って泣き出したエシュタルを、今度はマミアが抱きしめた。


「大丈夫よ、あなたの親はここにいるわ。」


そのマミアの言葉に、エシュタルは更に強くマミアに抱きついて、オンオン泣いていた。


ーーーー

一頻りみんなで泣いた後、居間へと移り、夕食を取ることにした。


「準備する暇が無かったから、昔に作って保存してあった物にするけど良いかなぁ?」


「何があるの?」


「カレーいろいろ、丼ものいろいろ、ピザいろいろ、パエリアもスパゲッティもあるよ。」


「私、ピザが食べたい!」


「「どうぞ、どうぞ」」


そして、テーブルの上にはカルビチーズピザ、ハム、ベーコン、ソーセージを乗せた肉盛りチーズピザと、シーザーサラダ、オレンジジュース、リンゴジュース、パインジュースが並んだ。


「うわぁぁぁぁぁ!」


さっきの泣き顔が嘘のように、満面の笑顔のマミアが大きなピザに齧り付いていた。食後のプリンアラモードを食べながら夕食の余韻に浸っている中で、エシュタルが、昨晩の勝手な行動の告白と謝罪をしていた。


「勝手だとは思ったんだけど、私はどうしても許せなくて、砦の連中を全員燃やした。奴ら、もう死んでる女の人を......」


横からラルネがエシュタルの口を塞いだ。


「それ以上、言う必要はないよ。ミィちゃんが殺らなかったら、パパが殺ってたから。」


「そうよ、むしろありがとね。本当だったら、私が絶対にやるべきことだったから....部下の人達も燃やしてくれたの?」


そのマミアの問い掛けに、エシュタルはウンと首を縦に振った。


ーーーー

翌朝、三人はラルネの作成した大きめの土で作ったボードに乗って、崖上へと移動した。そこに広がる眼下の光景は、城壁に囲まれた真っ白な灰の山と融けた岩ばかり何も存在しなかった。連合軍の兵士達で城壁外に居て命の助かった者達は、既にカントラ砦から完全撤退しており、周辺にも人の姿は全く見当たら無かった。


マミアは地上に降りると、まずは跪いて、両手を合わせてお祈りをしていた。その頬には一筋の涙が流れていた。


「親には恵まれなかったけど、部下達にはすごく恵まれたからね。ホントに良い人達だった......リンちゃん、ありがとね。」


エシュタルに御礼を言い、立ち上がったマミアに、ラルネが声をかけた。


「ママちゃん、これからどうする?」


「私は魔法を勉強したい。これまでは全く魔法を使えなかったから、私には魔法の知識が全く無いと言っても過言じゃない。」


「私は火魔法と風魔法、パァパは元素魔法と回復魔法を教えられるけど、他は無理だからなぁ。」


「まだメイちゃん見つからないけど、一旦新大陸へ戻ろうか。そこなら、全部の属性教えて貰えると思うよ。ウェスタ様なら、精霊魔法や幻獣生成魔法も教えて貰えると思うよ。」


その言葉で、マミアのラルネを見る目が厳しくなった。


「ウェスタ様って、誰?」


「へっ?ウェスタ様は、べラっていう神様にダンジョン最深層に幽閉されて、眷属の人達とダンジョンごとこの世界へ転移させられた......」


そこまで説明しても、マミアの厳しい目はますますキツくなり、背後に紫色の炎が見え始めた。


「ママ、ママ!止めて!止めて!船が燃えちゃう!」


「えっ?あれ?」


マミアが振り返ると、自分の背後で燃え盛る紫色の炎が目に入った。


「わぁ、ママ!もう炎魔法覚えたの?それって火魔法より難しいんだよ。すご〜い!ママって天才!」


そのエシュタルの言葉に、満更でもない笑顔を浮かべ、機嫌は急転直下で改善した。


「そう?ママってスゴイの?」


上機嫌になって喜ぶマミアに抱きついて、一緒に喜ぶエシュタルが、マミアに知られぬようにラルネを振り返り、ウィンクして笑った。


ご褒美は何を要求されるんだろうと心配になったラルネだったが、家族の時はいつもこんなだったなと笑った。


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