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ウルマリ王国独立戦争

それから三日ほどをかけて移動する間に、エシュタルは風魔法を利用して船を操る方法を身につけ、最後にはラルネよりも高速で船を移動させることが可能になっていた。


「あの飛び出た岬の上に建っているのが、カントラ砦だよね。」


エシュタルの言葉に、まだ数キロ先にある岬を見上げたラルネが眉を寄せた。


「ヤバいね。あれ戦闘が始まってるみたいだね。一旦このあたりに停泊して、岬に近づくのは暗くなってからの方が良いかもね。下手に近づくと攻撃されるかも。」


「この世界の人達って、戦争ばっかりだよね。早くママちゃんとメイちゃん見つけて新大陸に渡りたいね。あたしゃ、心配だよ。」


おいおい、ドワーフの王都で自分達がしてきたことを棚上げして、そのセリフはないんじゃないかと思ったラルネだったが、逆に言えば、今のエシュタルには、ドワーフ王国やドラマドル帝国への復讐心は完全に無くなったとも言え、それは良いことなんじゃないかと、自分に納得させた。


日が沈んで暗くなってから、崖へと近づいて、土魔法で大きな穴を開け、外洋との境に簡易の堤防を造り、空気穴として上部は外界と繋げた。


洞窟内部では、閉じ込められた魚を釣ることもでき、その日の夕食は、エシュタルの釣り上げた黒鯛の煮付けとなった。


ーーーー

死人の王が星外へと追放された後、その眷属の殆ど全てが燃やされた後の領地に、人族、ドワーフ族、かつてのエルフ王国住民からなる軍が攻め入って、それぞれが元エルフ王国を分割統治するようになった。旧王都を中心とする北部はエルフ族が、東部を人族が、南部をドワーフ族が支配するようになり、そして、従軍を拒否したシルマリクが新たに建国したウルマリ王国が西部を確保した。


しかし、サリテューユ女王はその新王国を認めず 、人族、ドワーフ族と連合軍を形成してウルマリ王国領土である旧西部地区へと侵攻し、国内が激しい内乱状態となり、その戦闘が始まってから既に五年が経過していた。


十歳になったマミアは成長が遅いハイエルフであるため外見上は子供のままで、魔法が使えぬ為に騎馬隊に所属していたが、その槍の技術により分隊長を務めるほどになっていた。彼らの使う槍は、長さが二メートル程で、穂先に斧頭が付き、反対側には円錐状に尖った突起物のついたハルバードに近い形態のものであり、マミアのものは重量負荷が殆どない宝物庫の肥やしとなっていた特殊仕様のものを常備していた。


それは手元の操作により、魔石を媒介にして穂先が大鎌へと変化し、一見死神の持つデスサイズのように変貌するものであった。


彼らの部隊は、遠距離攻撃を主体とする魔法部隊には相性が悪かったが、獣人の傭兵部隊やあまり大きな魔法を使用できない人族の騎馬部隊相手に、かなりの戦果を上げていた。


その騎馬隊のメンバーは、元々持つ魔力の少ないハーフエルフや、弱い攻撃魔法しか使えないエルフから構成されており、その境遇から武に励む者が多く、武勲もかなりのものを上げていた。


真っ先に戦闘に投入される彼らの部隊は、エルフにしては珍しい武力主体の真っ黒な鎧を身に纏う集団と認識されており、黒い死神と異名を持つマミアが率いるその部隊は『死神の使い』と呼ばれていた。


今日も、その分隊長であるマミアと副隊長であるミオカステーロは、王の間へと呼ばれていた。


「人族の部隊を中心にした連合軍が南側の国境付近にあるサルトスル砦に陣を敷いた。おそらくは、そのまま海沿いに侵攻を続け、我らのカントラ砦を目指すものと推測される。そこでお前達の騎馬隊第三分隊には、カントラ砦への食糧並びに物資の援助を行って貰いたいと考えている。あそこの砦は左側壁にマストカ山の崖を背負い、背後を海崖(かいがい)に守られた天然の要塞だ。前面には二十メートルにも及ぶ城壁が展開し、門さえ破られなければ半永久的に持ち堪えられる構造を持つ。ただし、兵糧と物資には限界がある。お前達には、その運搬をお願いしたい。」


そのシルマリク王の命を聞いて、ミオカステーロの背中には一筋の汗が流れた。確かにあそこは守りに特化したと言っても過言でない構造を持っている。しかし、一度門を破られれば、逃げ場のない袋小路の砦でもあった。実際に過去に二度砦内へと侵入され、全滅の憂き目にあったこともある。三度目がないとは断言できなかった。


しかも、自分達の部隊の隊長は、鴉と陰で蔑まれている黒髪黒目のエルフではあるが、れっきとした王女である。そんな危険な場所へと派遣する王の真意を測りかねていた。


「了解しました。このマミア精一杯務めを果たさせて頂きます。」


左手を握り拳を胸の前に掲げるエルフ族特有の敬礼をして、二人が部屋を出ていこうとすると、シルマリクがミオカステーロを呼び止め、マミアだけが退出した。


「ミオカステーロ、お前にはもう一つの特命がある。万が一にも門が破られ全滅の憂き目にあった際には、マミアのことを頼みたい。」


そう言って、シルマリクはテーブルのお茶をグイッと飲んだ。


「あやつは、曲がりなににもこの国の王女だ。生きて王女として、女として(はずかし)めを受けるよりも、死を選ばせてあげたい。それをお前に頼みたい。」


ミオカステーロは、ハッとして息を呑み込んだ。


「殺せと言うのですか?」


「一般の兵であれば、精々辱めを受け、奴隷に落とされるだけで済むかもしれんが、王女となれば、それだけでは済まん。生きていくのも辛い状況になる可能性が高い。私にはそれが辛い。」


いやいや、辱めを受けて奴隷に落とされるだけでも耐えきれない者は多いだろう。そう感じたミオカステーロは、シルマリクの感覚のズレに驚いた。これが王族とそれ以外の者の価値観の相違かとの思いに襲われた。


しかし、その言葉にも一理あると思える自分もいた。


「了解しました。不肖の私めではございますが、お館様の命に恥じぬよう心がけたいと考えます。」


そう言って、部屋を出ていくミオカステーロの背を見て、シルマリクの口角は醜いくらい歪んでいた。


何艘かの船に分かれて対岸へと渡った騎馬隊第三分隊のメンバーは、マミアの指示の下、輜重部隊の集まる砦へと移動した。


「本日、警護に当たる騎馬隊第三分隊です。よろしくお願いします。」


「こちらこそよろしくお願いします。第五輜重部隊責任者のオラスケスです。道中は魔物も多く、かなりの近接戦闘が予想されます。第三分隊が担当してくれて有り難いです。こちらこそ、今日はよろしくお願いします。」


そう言って、二人はまず固い握手をした。魔法がメインの部隊では、小回りが効かず、森の中や細い街道を進まねばならぬ今回の輸送では、取り回しが悪いことが予想されていた。


第三分隊も今回は、ハルバード以外に各自短槍も準備していたのも好印象だったようだ。


馬車七台と護衛騎士三十名程の部隊は、昼前に砦を出発し、夕刻には野営場所である休憩所へと到着した。


途中、ゴブリンやオークを主体とした魔物を掃討したり、森林狼の群れに遭遇したりという軽いアクシデントはあったが、誰も怪我をすることもなく輜重部隊は順調に進んでいた。


夕食は、通常は簡単な干し肉とかの携帯食で済ませるのだが、第三分隊においては、マミアが食事担当をかって出ており、出汁に干し肉を使った野菜スープや、その肉を使用したチャーハン、香草を使用して臭みを消した肉炒めなどは、部隊のメンバーにすこぶる好評であった。


「順調ですね。このまま進むことができれば、三日目には砦に到着できますね。」


「はい、油断はできませんので、今後の旅程も順調に進めるよう、務めさせて頂きたいと思います。」


輜重部隊の責任者の言葉に応えるマミアの言葉は、自信に満ちており、隊員達は全く不安を感じることはなく、むしろ、王女であるにも関わらず、食事担当を兼任するマミアには、好印象しか持たなかった。


それから三日ほどかけての移動はすこぶる順調であったが、最後の野営場所である休憩地で異変は起こった。


「少し前に、ここで十人前後が野営した痕跡がある。」


部隊の斥候の言葉に、全体に緊張が走った。この細い街道はカントラ砦に直行する道ではあるが、エルフ族以外のものがここを使用する可能性は極めて低い。連合軍が近づいているこの状況で、砦からの斥候が使用することはないと断言でき、自分達の仲間が砦に向かった可能性も否定的であった。


「敵か?」


マミアの短い言葉に、斥候のリーダーが応じた。


「周辺に処理されていないゴミが散乱しています。エルフは通常は森に魔物の餌となるようなゴミを残すことはありませんし、そこに書かれている文字は、人族のものですので、連合軍の野営の痕跡だと判断します。ご決断を。」


このまま進めば、連合軍に接敵する可能性は極めて高く、相手の人数を考えれば、おそらくは連合軍の斥候部隊である可能性は高い。この人数であれば、奇襲すれば容易に制圧することは可能だろうが、砦に辿り着いても、輜重部隊のメンバーを無事に帰すことは不可能になる。


それを考えると、マミアには戦闘兵でない彼らを共に砦へと連れて行くことを良しと判断することはできずに、心を決めた。


「輜重部隊の隊長を呼んで下さい。」


呼ばれた輜重部隊の隊長と副隊長が、マミアの所にやってくると、


「ここから先には連合軍がいます。行きは無事に砦に到達できたとしても、帰って頂くことは不可能になります。幸いにもここから砦までは、夜駆けすれば朝には砦に到着することができます。ですから、ここより先は我ら第三分隊が物資を運搬します。あなた方には馬を提供しますので、ここから本国へと戻り、状況を説明して頂きたいと思うのですが、如何でしょうか?」


その説明に、二人は一瞬固まったが、輜重部隊の責任者として、物資を届け終わるまでが仕事と考える二人には、受け入れがたい提案だった。


マミアの根気強い説得により渋々提案を受け入れた二人であったが、副隊長のジアマールだけは、責任者として是非とも随行したい旨を告げた。


できれば輜重部隊の副隊長も帰したいと思ったマミアだったが、それでもジアマールが元々騎士団の一員であったこともあり、随行を認める判断をした。


荷馬車の御者席に騎馬隊のメンバーが乗って手綱を取り、輜重部隊のメンバーは騎馬隊の馬に乗せて馬と共に帰らせ、警護として四名の騎馬隊員を随行させた。そして、マミアは第三分隊メンバーに告げた。


「この先には、間違いなく連合軍がいる。相手部隊は斥候を主とする部隊であることが推察されるが、近くには必ず本隊がいる。これからなるべく静かに移動するが、私を含めて四名の者は斥候として先行する。異存のある者はいるか?」


「是非とも私も同伴させて頂きたく思います。」


副隊長のミオカステーロの言葉に、マミアは判断に悩んだ。戦力的には彼が来ることで格段にアップするが、残った部隊の指揮をどうするかということが、頭を悩ませた。


「幸いにも、輜重部隊の副隊長が後続部隊に参加して頂けるとのことですから、指揮は彼に任せる方が、より確実だと判断します。私とは経験が違います。」


「なるほど、ジアマール殿、お任せさせて頂いて宜しいでしょうか?」


「身に余る光栄です。ぜひともお任せください!」


そうして、マミアとミオカステーロ他二名の隊員は、部隊に先行して走り出した。馬を使えばその蹄の音などを探知される可能性も高いと思われるので、それは仕方ないことだった。ただ、この四名の隊員は夜通し走り続けたとしても、全く問題ないレベルであったので、その行動はいつも通りとも言えた。それから数刻走り続けた時に、前方の木の隙間にチラチラ輝く焚き火の灯りが見えた。


マミアの停止の合図に、四人は前方の空き地で休む部隊を取り囲むように配置に付き、暗い藪の中へと身を隠して、その時を待った。


火の番をしていた二名の兵士の額の真ん中に、マミアとミオカステーロのそれぞれの矢が突き刺さり、一言も声を発することなく兵士が倒れると、すぐさま他の二名が活動を開始した。


焚き火は、ミオカステーロの水魔法であっという間に消され、各テントに散ったマミアを含めた部隊員が、まだ寝ている兵士の首を短剣で次から次へと切り裂いていった。切られた者は、声を出そうとしてもヒューヒューと空気が吹き出すばかりで、すぐに静かになっていった。


数名のものがポーションを使用し、大声を上げて反撃してきたが、長剣やハルバード、マミアのデスサイズによって、身体と頭を切断され息絶えた。


「九、十、十一名か、打ち洩らしはないな?」


「大丈夫でございます。確実に仕留め終わったようでございます。」


「良し。部隊へと戻り、砦への道を急ぐぞ。」


しかし、たまたま大きい方の自然現象のためにテントから離れていたものが一名だけ、この襲撃を生き延びており、腰を抜かして動けなかったのが幸いして、輜重部隊が通り過ぎていくまで、藪の奥深くに身を潜ませることができ、朝がくるのを待って、本隊へと駆け戻り、一部始終を伝えたことから、カントラ砦攻防戦の火蓋が切られるのであった。


マミア率いる輜重部隊は、無事にカントラ砦へと入って現況を伝えると、そのまま砦防衛の任についた。


到着した翌日、物見櫓の兵士より、かなりの数の連合軍が砦周辺に展開しているとの報告が入った。


「いよいよ、来ましたか。これで輜重部隊の到着が一日遅れていれば、戦況はかなり悪い方に傾いていたと思われます。九死に一生を得ましたな。」


そう言いながら、砦守備隊隊長のジタマカナがマミアに話しかけてきた。


その間にも門の方からは、大きな破裂音が響いてきたが、ジタマカナは全く気になっていないようだった。


「門が攻撃されていますが、大丈夫なのでしょうか?」


「ハッハッハッ!流石に気になりますか?あの門にも城壁にも対魔法の魔法陣が刻まれていますからな。生半可な魔法では、全く歯が立たないでしょう。」


マミアが、相手の魔法が届かない物見櫓に昇り下方を見ると、まさにその言葉通りの光景が展開されていた。


複数人の水魔法や火魔法によって構成された、大水球や大火球が繰り返し門や城壁に衝突するが、衝突すると同時に門や城壁に淡蒼白色の光が発生し、その威力を無効化しているようだった。


反対に城壁上部から放たれている火球や水球、氷球や土塊はそのまま相手側勢力に直撃し、城壁上部から放たれる矢も、少しずつではあるが連合軍の部隊を減らしていた。


「このまま何の策もなく攻撃してくるなら、問題はないのですが、ここは今までに二度攻略されています。一度目は内部の造反により、内側から門を開けられました。二度目は延々と毒霧攻撃を続けられ、門と城壁はそのままなのに内部の人間が衰弱して破れました。何れも今は対策済みですので、ご心配は必要ありません。」


ジタマカナの自信満々の言葉に、難攻不落の城や砦はないと確信しているマミアは、心配している二つのリスクを尋ねた。


「この左手の山の崖から敵が降下してくる心配と、海の崖の方から登ってくる心配は無いのですか?」


「ハッハッハッ!もしもですよ。この百メートル近い岩肌を降下してくる人間がいたら、砦の中にいる者にとっては、単なる的でしかありません。海側の百メートルある崖を登って来る者にも同じことが言えます。心配ありませんよ。」


自信満々なジタマカナの元を離れ、マミアは第三分隊の方へと戻ると、左手にある崖の見張りと海側の崖の見張りを欠かさぬよう、警戒を維持するように伝え、自身は副隊長のミオカステーロと共に物見櫓へと昇った。


「一万はいないな。五千ほどか?エルフやドワーフの数も多いな。奴らも本気というわけか。」


「そうですな。魔法師団も出張って来てるようですが 、かなりの魔法を門や城壁に無駄撃ちしてるようですから、粘ればこちらにも勝機はあるかもしれませんな。」


「援軍に奴らの背後をついてもらうとかは、期待できないのか?」


「判りません....シルマリク様には、味方となる後ろ盾がおりませんので、自身で兵を準備するしかありませんから、難しいと判断するしかありません。」

最後までお読み頂き誠にありがとう御座います。

何分にも素人連合でございますので、御評価頂けますと、今後の励みになります。是非とも最下部に設定されている☆☆☆☆☆でご評価頂けると有り難いです。

よろしくお願い致します。

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