出航からの「再会よ、あれがドワーフ王国だ」
「この船は魔力で動きます。」
「どこにも魔力に関係するような設備はなかったぞ。魔道具らしきものもなかったし、説明してもらえるか?」
通常は動力といえば、火魔法や風魔法、時に水魔法が使われていたが、この船には、それらしき痕跡を全く見つけることができなかった。
「僕が使えるのは、元素魔法と回復魔法、樹木魔法、収納魔法と常識外と皆さんから評価される生活魔法や鑑定です。それ以外は使えません。この船の動力には、意外かもしれませんが家事魔法の土魔法を使っています。」
その答えに、その場の皆はキョトンとした顔をした。使い方が全く判らなかった。
「まずは、この船を大きな岩や土塊と認識します。土魔法は、それらを自在に動かすことが可能ですし、重さも同じ大きさの岩とかと比較するとすごく軽いし、海の上に浮いているので、小さな岩を移動させるのと同じくらいの魔力で動かすことができます。僕くらいの魔力量だと、それこそ永久に連続して動かすことが可能です。」
「ま....まさか、そんな方法があるなんて。」
「アミュさんなら、この船が浮いてる水を操って、同じことができると思いますよ。」
「ホントか?どれどれ......ホントだ。そんなに魔力も必要としない。」
「同じ考え方を応用すると、この船は短い時間ですが、空に浮いたり、水に潜ったりもできます。当然必要とされる魔力量は多いので、長くはできませんけどね。」
そう言って、ラルネは再開を空に少しの間浮かべて、軽く一回りした。すると、同じように船底付近の水を操ったアミュが、同じように船を空に浮かべた。
「ホントだ......飛べる。」
「ラルネ!こんな魔法の使い方は初めてです。私の知りうる全ての神は、こんなことはできません!精々風の神が風の力でこの船を吹き飛ばすくらいです。ゆったりと旅するなんてできるはずがありません。」
ウェスタの大絶賛に、頭をポリポリとかいているラルネに次の指令が飛んだ。
「あなたが出かけるのは、許します。気をつけて行ってきてください。」
「「「えぇ〜!」」」
「ただし、これと同じ船をもう一隻造りなさい。そして、相手の船がどこにいるのかいつでも判るように工夫しなさい。それが条件です。」
「へっ?」
パンと皆が両手を叩いて納得した。
「そうか、その手があったか!」
はぁと大きくため息をついたラルネは、諦めたように言葉を続けた。
「じゃあ、今度の船はもう少し大きくして、皆さんの部屋を作りますから、それぞれ希望を教えてくださいね。頼みましたよ。」
「「「ヨッシャァァァァァ!」」」
出発は三ヶ月遅れることになったが、ラルネは無事に新大陸を出発できることになった。
皆に見送られらながら、色々な色の紙テープを皆に持って貰い、ゆっくりと港を出ていくと、風に飛ばされたテープがヒラヒラと空に舞い、とても華やかな感じで出港することができたので、以後のスキタイの港からの出港は、それが定番となった。
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外洋に出ると、白波が立つほどに海は荒れていたが、船が波に任せて揺れるようなことはなく、少し魔力は無駄に消費することにはなったが、魔法で操られたクルーザーはグラリと揺れることなどなく十五ノット程の速度で、まっすぐに北の方角へと進んでいた。
ドラマドル帝国へ向かうという手段も選択できたが、新大陸と最も敵対する国をわざわざ選ぶ必要はないと、一番南にある新大陸に最も近いドワーフ王国へと向かうことにしたが、新大陸から旧大陸までは、三千キロ程離れており、途中の無人島で少し休む計画も立てていた。
もしも、無人島がなければ、土魔法で強引に浮き島でも作成すれば良いかと考えているラルネの常識は、既に神の領域に入っていた。
途中で内部に空洞を持つドーナツ型の直径百メートル程の浮島の無人島を作成し、ドーナツの穴に当たる部分に船を留めて夜を過ごした。起床後は、最近はほぼ無限の容量を誇る収納空間に島を収納し、食事時や休む時にはそれを活用して休憩した。
「これは、あとで絶対に文句言われるパターンだよな。」
と独り言を呟きながら航海を続け、十二日目になってようやく眼前に旧大陸の陸地が見えてきた。
「再会よ、あれがドワーフ王国だ。」
などと演技しつつ、夜になってから小さな港へと侵入し、陸へ上がった時点で、再開を収納した。
夜になるのを待っている間に、身支度や、食事も入浴もトイレも済ませていたので、ラルネは再会を収納すると同時に、そのまま深夜の街道を王都へ向けて歩いていった。
腰まで伸びた髪は、高い位置で一つに纏め、前髪はパッツンで額を隠し、耳前に翠色の髪の混ざった房と伽羅色の髪の混ざった房を垂らした。服は膝丈のワンピースの上にベストを身に着け、肩からショルダーバッグをかけた。足元は編み込みの焦げ茶色のロングブーツを履いて、基本はウェスタに出会った時に身につけていた格好を選択していた。
ドワーフの女性は、合法ロリと呼ばれる程、見かけは小さく若い子が多いので、髪が白く!目がエメラルド色と琥珀色のオッドアイということを除けば、ラルネの見た目が周囲と比較してそれ程目立つということはなかった。
土魔法でスケートボードのような物を作成し、夜に街道を飛ぶように移動していく姿は、見慣れぬものではあったが、夜に出歩くドワーフは、基本酔っ払いであり、それを気に留める者はいないようだった。
夜が明けてくると、近くの森や草原へと移動して土魔法で巨大な穴を掘り、中に再開を設置して、上部を土魔法で塞いで隠蔽し、昼は寝て、夜に移動するということを繰り返しながら、二週間ほどかけて、ドワーフの王都へと辿り着いた。
鍛冶を好む民族との先入観があったので、ラルネは工業都市のようなイメージを抱いていたが、現実は他の種族の都市と大して変わりはなく、高い城壁に囲まれ、土壁や石壁を用いた平屋建ての住居が城壁沿いに並び、石畳の道路を進んで行くと、城に近づくほど建物は高くなり、土壁の建物を見ることはなくなった。
中心となる石畳の道は、幅が二十メートル以上もあり、上壁の門からまっすぐに王城へと伸びていたが、こんな作りだと、攻められたらお城へ一直線だなと呆れたラルネだった。
中心部の店は、綺麗で大きく賑わっていたが、一本裏路地へ入るだけで、路上に寝転ぶ汚い姿の酔っ払いの男達が目立ち、意識不明の大人達から、財布を抜き取る子供達の姿も何人か見かけた。
前世で言えば、ストリートチルドレンのような子供達なのであろうが、その種族は人族、獣人族が多く、エルフやドワーフ族の子供は少なかった。
途中、剣と盾のマークの冒険者ギルドのような建物を見つけ、登録はせずに買い取りだけを希望した所、買い取り価格は二割ほど下がるが可能だと言われたので、スキタイ周辺で狩ったバーニングボアやオーガキングを提出すると、まず収納魔法持ちだということに驚かれ、出した魔物が高レベル過ぎると二度驚かれ、熱心に入会を勧誘された。
今は忙しいから、余裕があったら登録するねと受付嬢を適当に交わし、女性が宿泊しても心配ない少し高級なホテルの場所を確認してからギルドを出た。
お約束の地元の不良冒険者の襲撃はあったが、全員を叩きのめして、ギルド前に顔だけ出して埋めてやった。
か弱いレディ?相手にカツアゲしようとするムサイジジイなんて、それで十分だと思っている。