再会(リュニオン)
「どうしても行くのか?」
ウェスタは心配そうに、ラルネに尋ねた。
「はい、僕の目的は、この世界に転生したであろう片割れと、一緒に転生してきたであろう家族を捜すことです。これまで魔人の人達や、捕虜になった人族やドワーフ族の人達から、たくさんの話を聞きましたが、思ったような情報は、全く入りませんでした。それならば、やはり自分で捜しに行くしかないと決意しました。」
「でもね、あなたを一人で外の世界に出すのは心配なのよ。ダンジョンで五年、そこを出てから五年、あなたはまだ十歳なのよ。私は心配でならないわ。」
そのウェスタの思いやりのある言葉は、ラルネにとってとても有り難く嬉しい言葉であったが、それに甘えて、家族に何かあったらと思うと、それが不安でならなかった。
「大丈夫ですよ。見かけは十歳のアルラウネですけど、転生前の年齢を加えたらもう七十五歳ですからね。人族だったら、良いお爺ちゃんですよ。」
その言葉を聞いたウェスタやその仲間達は、少しムッとした顔をして、
「じゃあ、僕達はどうなるのかな?既に灰かな?」
「神様と一緒にしないでくださいよ。泣いちゃいますよ。」
そんな会話を交わしながら、それぞれ笑顔になると、
「家族が見つかったら、また戻ってくるんだろ?」
アジバの問い掛けに
「はい、ここは僕の第二の故郷ですから、家族を説得してでも帰ってきます。」
と答え、
「そうよ。この街の開発だってまだまだ充分じゃないんだからね。あなたの知識は、私達以上に先進的だから、必要不可欠なんだから!」
アミュの言葉に、ラルネは涙を流した。
「やっぱり、送り出せない!」
そう言って、ウェスタがハグすると、またまた窒息して気を失うラルネだった。暫くして、ラルネがベッドで目を覚ますと、テレスとファナとアテルが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「キミはね、僕達の命の恩人なんだ。キミがウェスタ様と来てくれたからこそ、僕達はこうして以前のようにウェスタ様と一緒にいられる。この恩は半端なことでは返せないんだ。もしもだよ、僕達の力が必要になることがあったら、いつでも言って、どんな時でも力になるから。」
ファナの言葉に、ラルネの涙腺は再び決壊して涙がポロポロ溢れ出し、四人でまたまた号泣大会になってしまっていた。
「ところで、旧大陸にはどうやって渡ろうと思っているんだ?」
アジバの問い掛けに、ラルネはニヤリと笑いながら答えた。
「専用の船を造りました。」
そう答えて、ラルネはウェスタが築いた神殿都市スキタイに造られた港へと皆を案内した。
「これです。」
ラルネの言葉と同時に、一艘の外洋クルーザーを彷彿させる真っ白な船が海に浮かんだ。
「す....すごい!なんて綺麗な船なんだ。」
「この船の名前は、再会という意味を持つリュニオンという名前にしました。船体は、ベースは植物魔法を使って造った材木を素材にしています。それに元素魔法で作った強化ガラスを薄くコーティングして、強度を高めるように工夫しました。」
「うん、いい名前だね。キミがこのスキタイまで帰ってきた時にも、僕達と『再会』するんだからね。最高の名前だよ。それに、この船の色というか、塗装もスゴくツヤがあって綺麗だよね。ラルネの髪とよく似合っているよ。」
ラルネの言葉に、ウェスタが満面の笑みで答え、皆は大きくウンウンと頷いていた。
「もちろん、案内してくれるんだろ。」
これだけ興味を持った美少女のキラキラ眼で見つめられて、断れる人がいたら教えてほしい。ラルネは即座にOKサインを出し、皆を船に載せた。
「船を一人で操作しなければならないので、あまり大きな物は作れませんでした。長さは二十五メートル、幅は八メートル程あります。操縦席は二箇所に設定してあります。一つは展望台にあります。」
そう言って、皆をデッキから展望台へと案内したラルネは椅子の前にある銀色に輝く操舵輪を見せた。
「これをこうやって右に回すと、後ろについている舵が動いて右に曲がります。左に回すと左に曲がります。操縦者の後ろに置いてある豪華な椅子は、景色を楽しみたい人が座るための椅子です。前方には風よけの強化ガラスを取り付けていますので、どんだけ速度を上げても、強風に曝されることはありません。」
木製デッキを歩いて展望台へと案内された皆は、その贅沢な造りに驚愕していた。操舵輪でさえも錆びないようにとミスリルが使用されていた。
「本来は、周囲を探知するレーダーとか、陸の人達と通信する無線機とか、周囲を照らすライトとか、位置を示す航海灯とかも取り付けるんだけど、ここでは要りませんからね。さぁ下に降ります。」
そう言って、ラルネは皆をブリッジへと案内した。幅は三メートル以上あり、奥行きも五メートル程度あり、中には大きめの八人程が座れるセンターテーブルが据えられ、両サイドには豪華で古風なソファが設置されていた。内装は、床と腰板がマホガニー色の板材で統一されており、その上部には鶯色のクロスが貼られており、天井は生成りの白系のクロスが貼られ、前面中央には、展望台と同じように舵が設置されていたが、こちらの物はかなり硬めの木材を利用して作られていた。
「ほぇ~....何これ?この部屋、お城の会議室よりも素敵じゃない?色合いとか本当に落ち着く。あれ、これ何かしら?」
ファナが壁に取り付けられた扉を開けると、中にはよく冷やされたドリンクが並んでいた。
「じゃあ、この隣は?」
テレスがその扉を開けると、各種アイスや様々なシャーベットが所狭しと並べられていた。
「すんごい!じゃあこちら側の扉は何なの?」
アテルがそれを開くと、中には各種食器が転倒しないように整然と並べられており、その隣の扉の中には、茶葉や茶器の他に、様々なお菓子が収められていた。それらを見たアミュが静かに言い放った。
「私は、やっぱりラルネが心配だから一緒に付いていくことにするよ。」
「ズルい!行くなら私も行く!というより、絶対に行きたい。」
直ぐ様、ウェスタが意義を唱え、艦橋は騒然となった。
艦橋の案内が終わり、いよいよ船室へと移動した時には、その騒ぎはまさに阿鼻叫喚の状態へと深化した。
船首側の一番広い部屋が主寝室になっており、奥に大人三人でもゆっくり寝れるような巨大なキングサイズのベッドが中心に置かれ、両サイドにドレッサーが設置され、それに続いてアンティーク調のチェストが並べられており、入口両サイドの扉の奥には、右側が小さな浴槽を備え付けたシャワールームであり、左側は大理石風の石とオーク調の木材で作成された洗面ルームと、城で好評の最先端の淡いアクア色のトイレが据え付けられていた。
その時には、一同皆口をあんぐりと開けて茫然としており、場には静けさが広がった。
「あの〜、次行っても良いですか?」
そのラルネの言葉に、全員の目がギョロリと睨みつけるようにラルネに注がれ、彼の背中にツツツ〜っと一筋の汗が流れた。
「やっぱりラルネの家事魔法はおかしいよ。土魔法や水魔法は、一流の魔導師でも刃が立たないレベルじゃん。こんなの家事魔法とは呼べないじゃん。全属性の魔導師と評価しても良いんじゃないかな。」
そんなアテルの言葉はスルーして、ラルネはさっさと次の部屋へと案内した。居間として設定されている部屋には全員がゆったりと食事できるような大きなマホガニー調のテーブルが、中心にドンと据えられ、長椅子をソファのように加工して背もたれのある物が、両サイドに固定されて設置されており、長椅子には両サイドのアンティーク調の肘掛けが設置されているのに加え、長椅子を、一人一人で区切るかのように、肘掛けが設けられていた。
「普通の椅子だと、船が傾いた時に動いて危ないので、こんな感じの長椅子を作成して固定しました。あまりオシャレじゃないかもしれませんが、安全のために我慢しました。」
「イヤイヤイヤイヤ!十分にお洒落だからね。これがお洒落じゃないなら、城の会議室はどうなるの!」
すぐにアテルがツッコミを入れた。
両サイドには大きな木枠の嵌め込みタイプの窓が設定されており、採光で内部は十分に明るく、腰高の古風な食器棚がその下に据えられていた。
「この窓は木枠ですが、船体は透明なボードで覆っていますので、波で破られたり、水が漏れてくる心配は全くありません。これまでに見てきた窓も、全て同じ仕様ですから、安全性は全く心配ありません。」
驚くことを通り越した六人は、そのままラルネの案内に従い、冷凍庫、冷蔵庫、魔道コンロ、流しを備えたシステムキッチンとも呼べる台所、十畳程の広さを持つ天蓋付きのダブルベッドと大きめのドレッサー、狭いながらもウォークインクローゼットを備えた二つの客室を説明された。
「最後はここです。」
そう言って一番船尾よりの扉を開けると、そこには城のそれに負けないほどの豪華な、金や大理石を多用した洗面台と大きな鏡を備えた洗面室があり、その奥の扉を開けると、船尾と左舷側の腰から上の部分がほぼ全面鏡張りの部屋があった。
「この部屋にもう一つ大きな仕掛けがあります。」
そう言ってラルネが入り口右側のスイッチを押すと、それまで鏡だったものが透き通ったガラスへと変化した。
「仕掛け鏡です。元素魔法でガラスの外側に光を通さない塗料が透明なものへと変わり、内側からの光を通すように変化します。結果として、このようなサイドがガラス張りの部屋へと変化します。」
左舷側に沿って大きな浴槽が設置されており、浴槽の中に腰掛けると、まるで浴槽と外の海とが一体化したような印象を与えるよう工夫されていた。洗い場も広く、シャワーや流しも三セット設置され、まるで日本の高級温泉旅館の露天風呂を彷彿させるような浴室だった。
「ラルネ君、これは少し感心しないな。これでは外から丸見えではないか。」
その質問を待ってましたとばかりにキャッチしたラルネは、テレスやファナ、アテルに外側からこの部分を見てもらうように伝えた。
何かあると感じた三人は、急いで甲板へと上がると、すぐに大声をあげた。
「全く中が見えない。その部分はまるで大きな鏡をはめ込んだみたいになってる。」
そんなことを言いながら、窓の部分をかわいい拳骨で外からドンドンしていた。
「ホントに見えないのか....信じられん。」
「これと似たものはね、僕達の世界ではマジックミラーって呼ばれているんだ。中からは透き通ったガラスみたいだけど、外からはまるで鏡みたいなガラスだよ。当然、無茶苦茶強化してあるけどね。」
全員の高評価を貰い、一通り中の設備を堪能したあとで、一行は甲板まで上がってきた。
「少し確認して良いか?本当に最高に素敵な船なんだけど、これって動くのか?こういう物は、動くのに動力というものが必要じゃないのか?」
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