閑話・ 瑠夏とケビアスの死人の王退治
「これはもう炎竜神のゴドルフィに焼き払って貰うしかないかもしれない。」
知恵の神ミルヴァ姿のケビアスが、居間で四龍を前に深刻な顔をして話しをしていた。
「しかし、以前の時には儂の炎でも、一旦は焼き払っても、直に気が狂ったような死者共が溢れかえったぞ。それでは解決にならん。」
「深刻な顔してどうしたの?」
ノートとソールを連れた瑠夏と彩芽が、テーブルに赤福餅の十二個入りの詰め合わせ四つと、焙じ茶を入れたポットと湯呑みを人数分お盆に入れて運んできた。
「おっ!赤◯じゃん!私はこれが大好きなんだよね。」
「俺も、俺も、この上品な甘さと柔らかな餅のバランスが最高だよね。」
四龍はケビアスの悩みよりも、赤◯の方が大事そうだった。
「あんた達ねぇ!私の分も残しといてよね。」
「ミネルヴァさん、どうしたの?また死人の王のこと?」
瑠夏の問い掛けに、
「やっぱり頼りになるのは、瑠夏君だけだよ〜。」
と抱きつきかけたミルヴァの顔に、彩芽の小さな手が押し付けられて、ハグが邪魔されていた。
「ケチ〜、少しくらい良いじゃん!」
「ダ〜メ、瑠夏君はノートとソールのパパであり、預かっている子達のお父さんなの!あんたみたいな変なのを近づけることはできないの!」
「え〜、変なのって何よ!私はこう見えても元は神様なんだからね!」
「へん!元はでしょ!元!」
「こらこら、子供も見てるからそれぐらいでね。」
そう言いながら、二人の間に入って、睨み合う二人を引きはがす瑠夏だった。この二人のじゃれ合いは毎度のことなので、周囲は既に慣れっこになっており、傍らではノートとソールが二人で四龍のおもてなしを平然と続けていた。
「そもそも死人の王って、どこから来たの?やっぱり異世界?」
「ううん、あいつは星と共にこの世界に落ちてきた。」
「灰も残さぬ位に焼けば、王以外は消滅するけど、王の心臓だけは残るんでしょ。」
「まるでバイオハザードみたいね。」
「でも、ウィルスや細菌なら焼けば大抵は死滅するかね。灰からでも汚染が広がるっていうのは、少し違うよね。」
「ちょっと、ちょっと待って!君達死人の王のこと知ってるの?」
瑠夏と彩芽の話しを聞いていたミルヴァが割って入った。
「死人の王のことは、知らないけど似たような話しはあったから、少しは知識があるのよね。そもそも宇宙空間漂ってて、大気圏突入しても燃え尽きないなんて、耐熱性とか耐寒性とか言うレベルじゃないわよね。」
その二人の話す言葉が、知恵の神であったミルヴァが全く理解できないレベルであったことに驚き、この二人はただの異世界人ではなく、別の世界の神界から来たのではないかと疑うミルヴァであった。
「そもそも宇宙って何?大気圏って何?」
「そこからかぁ。パァパにお任せ!」
「え〜、僕だってせいぜい高卒レベルだよ....仕方ないなぁ。」
そう言って、瑠夏は自室からiPadを持ってきた。それを使って、宇宙や恒星、惑星や衛星などの成り立ちを説明していくと、知恵の神の能力がフル活動したのか、直に画面に出てくる日本語を理解し、読み書きが可能なレベルになった。
「ねぇ、少しこれを借りても良い?」
ミルヴァは、iPadの使い方を教えてもらうと、自分でどんどん検索を推し進め、洞窟に作って貰った自室に閉じ籠もり、食時も部屋の中で取り、一日の大半をそこで過ごすようになった。
そして、三年が経過した頃に部屋から出てきたミルヴァは、地球でも超一流と言われる頭脳を既に身に着け終わっていた。ただし、色々な文化の雑多煮状態で、仮想と現実が入り混じったカオスな存在であったことには間違いない。
「原爆とか水爆では、周りを放射能汚染してしまうからよくありませんが、レーザー兵器などを用いれば殲滅は可能でしょうか?」
ミルヴァの質問に、そんなもん判るかと思った瑠夏は、問題点のみをあげた。
「どこにレーザー作り出すエネルギーがあるんですから?電気も何もなくてレーザー作れますか?」
「滝を利用して水力発電する予定です。」
「電力設備作るのに、どこから材料持ってきて、誰が作るの?」
「私が....」
「どんだけ時間がかかると思うの?確認したいんだけど、本当にこの世界の技術では処理できないの?」
「凍らせて、火山の火口に放り込めば、死人の王以外は何とかなります。」
「凍らせて、どうやって運ぶの?」
「収納袋に入れます。」
「凍らせたら、収納袋に入れることができるの?」
「可能です。」
「人間も凍らせたら入る?」
「凍らせた時点で死んでますから入ります。」
「じゃあ、グールやゾンビとかのアンデッドって動いてる状態でも収納できるの?」
「......??試したことがありません。」
「凍らせたアンデッドは、解凍したら動き出すんでしょ。」
「....はい。」
「できるんじゃないの?」
「....!!!瑠夏さん、行きましょう。さっそく試してみましょう。」
ーーーー
眼下には、死人の国の軍勢に連行される集団が歩いていた。そして、その三百メートルほど上空に浮かぶ、瑠夏の作成した空間を応用した少人数用の飛行船の中には、ミルヴァと瑠夏の実験班が待機していた。
「じゃあ、さっそくやってみよう。」
たぶん生者は収納できないはずと考え、一応三十メートル程の集団全てを範囲指定し、先頭から最後尾までを、瑠夏は空間固定した。
「収納!」
すると、連行されていた獣人だけを残して、死人の国の兵隊と馬だけが収納された。
「あれ?馬も収納されたけど、大丈夫?」
「大丈夫!馬もアンデッドだから問題ない!スゴい!こんなこと誰も考えなかった。これならアンデッドだけを捕えることができます。まさに目から鱗です!瑠夏さん、最高です!」
その後、飛行船は旧大陸最大の活火山であるヤマラクナ火山へと向かい、火口に溜まるドロドロに融けている真っ赤なマグマの中に、収納してきたアンデッド達を開放した。
マグマの深くに開放した為に、大気中に灰などは全く放出されることもなく、アンデッドに対する処置は完璧と言えた。
ーーーー
この日から、ミルヴァと瑠夏の『死人の国殲滅戦』が開始された。
瑠夏の収納空間が無限大であることから、エルフ王国の全ての村や街を一つ残らず飛行船擬きで周って、片っ端から街ごとアンデッドを収納して、その日の終わりに収納した死人達をヤマラクナ火山口のマグマの中に開放するということを繰り返したことで、二ヶ月程でエルフの王都以外の街や村は、全て処理を受けてただの無人の空き地へと変わっていた。
「いったい、どうなっているんだ?この二ヶ月程で、王都以外は全滅だぞ。」
「申し訳ありません。何分にも一人も残すことなく建物ごと行方不明となっておりますので、詳細不明で参考になるものが何一つありません。」
死人の王であるシリスの問い掛けに、困ったようにデュラハンのペルネは身を縮めた。
「既に我が民は、この王都にしか残っていないのだぞ。このようなことは、我の一生においても過去に例がない!....」
その次の言葉を言う前に、シリス王の周りの全てが消え失せ、彼は大地に尻餅をついた。
「....な..何が?」
シリスが戸惑っている所に声が響いた。
「あれぇ、一人残ってますよ。格好からいって、あれって死人の王とかじゃないですか?」
「ホントだ、少し話しも聞いてみたいけど、何されるか判らないから油断しないほうが良いよね。収納できないなら、生きてるってことだから、何とかできるかな?」
瑠夏は軽く頷いて、死人の王を空間固定して直径二メートル程の球体に閉じ込めた。
「な....な..んだこれは!出せ!ここから出すんだ!」
「あっ!念話で会話できそうですよ。ミルヴァさん、話しをしてみますか?」
ミルヴァは大きく頷いて、死人の王に念話を繋げた。
(初めまして、死人の王さん。聞こえますか?)
(誰だ!誰だ、貴様!)
(この世界の神の一柱であるミルヴァと申します。単刀直入に言います。これからあなたには宇宙へと帰って頂きます。この世界に、あなたの居場所はありません)
その言葉を聞いたシリスの顔色が変わった。
(何を馬鹿なことを言っている。この星にはロケットなどないはずだ。そんな技術力などどこにもない。俺を宇宙に帰せるわけがない)
(この世界にはね。でもね、この世界には異世界からの訪問者も多いんだよ。私達より文化水準の低いものもいれば、宇宙速度を理解している異世界人もいるんだよ。上を見てご覧よ。僕達の姿が見えるよ)
シリスが頭上を見上げると、そこには透き通った小型の飛行船のようなものが上空に浮揚しており、中に二人の人間の姿を認めた。
「まさか、この世界にあんなものがあるはずがない....」
(君は、外宇宙の絶対零度近い温度でも死なないんだから、凍らせてもダメ。あとは太陽にでも放り込んで見るしかないね。検討した結果はそいうことになってるよ。あそこなら生物いないから、君が死ななくても悪影響ないしね)
(や....や..めろ!)
(君は、そう言われて止めたことないじゃん、それじゃあね)
その言葉と同時に、シリスのいた球体は圧縮されてハンドボール大の真っ赤な珠へと変わり、シリスからの念話も止まった。
「じゃあやるよ。」
真っ赤な球体に取り付けられたもう一つの空間が急速にその体積を膨らませて、すごい速さで上空へと昇り始めた。特大の気球のような空間の下部に大気を圧縮して作られた二メートル程の球体がいくつも取り付けられた。
その気球は成層圏を突破すると切り離され、次には真っ赤な球体に取り付けられた一番下部の球体からスゴい勢いでガスが噴出し始め、それらが順番に噴出を繰り返すことで、その真っ赤な球体を太陽が登ってくる方向に向かってひたすら加速していった。
まるで星から火球が放たれたように、その球体は燃えるように真っ赤になっており、十分に第四宇宙速度まで達していることが推測された。
「あれで大丈夫でしょうか?自分には宇宙速度にどのくらいで達するかもよく判らないので心配です。」
「大丈夫だよ。ちゃんとこの世界の自転方向と同じ向きに加速してるし、公転方向にも一致してるから、かなりの上乗せ期待できるから、確実に外宇宙一直線だよ。」
「でも、僕の作る空間ですけど、維持時間が長くなったと言っても二時間位しか持たないですから、宇宙で解放されてしまいますよ。」
「ちゃんと慣性の法則に従って、開放されても奴は進行方向に飛び続けるし、あいつの心臓は、他人の血を吸収しないと元の身体を取り戻せないからね。つまりね、身体を再建するのにも他人の血を必要とするんだよ。それこそ絶対零度でガチガチに凍った血なんて絶対に使えないから、例え自分の血を使おうとしても無理だと思うよ。」
その後で、最後に収納した王都のアンデッドをマグマの中で開放して処分し、心配だったので、何度かマグマを収納して開放するということを繰り返して、収納空間内を消毒してから自宅へと帰宅した。
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