アルラウネ?
「何をしたの!この足環と鎖の金属はオリハルゴンをへファイが神力で強化して作成した特注品だよ。どうして、あなたが壊せるの?」
「スゴくあなたの前の世界を馬鹿にしたみたいに聞こえるかもしれないけど、これは相性の問題だからね。」
そう前置きして、そのチビは語り出した。
「これはね、化学反応なんだよ。この金属そのものは、たぶんとても硬くて、魔力にも神力にも強い抵抗性を持つかもしれないけど、相性の良い金属と反応させて合金を作ると性質が変わるんだ。だから、その中で一番物理的に弱い合金を選んでそれに変化させたから、こんなにも簡単に灰みたいに変わってしまったんだよ。」
そんなことを喋りながら、残った左足の足環も、チビは壊してしまった。
「さぁ、これで自由だね。これならどこにでも行けるね。」
私の数十万年にも及ぶ苦しみは、切っ掛けさえあればこんなにも容易く解決してしまうのかと、嬉しい以上に呆然としてしまうウェスタだったが、次第に身体の中から畝るような歓びが溢れてきて、涙をボロボロ零しながらチビに抱きついてしまった。
「く....く..るしい」
と言いながら、ペシペシとウェスタの腕を叩くチビだったが、その意図は相手に伝わることはなかった。
クタッと気絶してしまったチビをテーブルに寝かせ、せっせと扇子で風を送っていたウェスタは、彼が目を覚ましたことに気付いた。
「ごめんねぇ。嬉しすぎたからだと思うんだけど、全く気がつかなかったんだ。ホントにごめんね。」
「はぁ、数十万年も閉じ込められてたんだから、仕方ないことにしてあげるよ。これで最後だから、よく覚えといてね。こんなんで死にたくないから!」
人差し指をウェスタに向けて怒る一見幼女の人形に、微笑ましさは感じても、怖さは全く感じ取れないウェスタだった。
「ところであなたの種族は、アルラウネで合ってる?」
「たぶんそうだけど、身体の中にあなたの気配を感じるから、あなたの涙から生まれたのは間違いないと思うよ。でも、僕の知ってるアルラウネは雌だと思うんだよね。僕って元の魂は雄だから、どうしてアルラウネに転生するのかなぁ....」
そのチビの問いに、顎に手を当てて少し首を傾げたウェスタが答えた。
「確かに通常のアルラウネは雌型が多いわね。でも例外があって、将来進化した際に世界樹、つまりユグドラシルに成長する個体があるのよ。世界に一本しか育たないって言われてるけど、私はこの世界の神ではないから、この世界に既に世界樹があるかどうかは判らない。でも、その可能性は否定できないわね。」
「へっ?世界樹?僕って木なんですか?最終的にドカンと根を張って、長い一生、この世界が滅ぶまでそこに立ってないと駄目なんですか?」
そう言って、そのチビは倒れ伏すようにテーブルの上に泣き崩れた。
「そ....そ..れは、私の世界の話だから、この世界のアルラウネは、全く違う個性があるかもしれないから、そうだ!私は鑑定のスキルがあるから鑑定してみようか?」
その言葉に、チビはガシッと小さな手でウェスタの両手を摑んで、コクコクと頷いた。
「鑑定!」
種族..アルラウネ?(幼体)
年齢..零歳
性別..男の娘
魔法..元素魔法、植物魔法、回復魔法、収納魔法
加護..大地神の加護、地球神の加護
祝福..なし
「はいっ?」
本来であれば、男か女か無しの何れかになるであろう性別が『男の娘』と出た。ウェスタが全く知らない単語である。
種族はアルラウネと出たから、ユグドラシル、世界樹の可能性は低いけど否定はできないとの予想はついたが、男の娘....判らない。それにアルラウネの後ろに?がついてる。イミフが過ぎるんだけど。
それに神の加護が二つもある。一つあれば最優秀と言われる神の加護が二つ。それも訳の判らない単語があった。地球神って何?
これは正直に答えるしかないと判断し、ありのままをチビに伝えると、
「え〜、マジ?良かったぁ。男の娘なら男に間違いないし、地球神も見守ってくれているということも励みになるじゃん。最高じゃん。」
大絶賛だった。訳が分からないウェスタは途方に暮れた。
チビが、自分が地球という異世界から、妻を探して家族で転生してきたことや、その際にこの世界の神であろう女神とか、地球の創造神に会ったことなどをウェスタに伝えると、彼女は自分のことでもあるかのように号泣して話しを聞いてくれた。
この家族の繋がりこそ、家庭も司る私の祝福に相応しいと、加護と祝福まで付与してくれたことで、彼の魔法に家事魔法が追加された。
「ところでウェスタ様、私に名前をつけてくれませんか?」
「えっ?チビで良いんじゃないの?」
「冗談はよしてくださいよ。これから成長したら、きっとウェスタ様より大きくなりますよ。その時にチビじゃ変じゃないですか。」
確かに、相手を見上げながらチビと呼ぶのは些か気まずいと思い直したウェスタが、しばらく悩んだ後に、
「じゃあ、アルラウネだから、ラルネという名前はどうかな?響きも中性っぽくない?」
と答えると、チビの全身が青碧色に輝いて、身長が三十センチほどに伸びた。
「いよっしゃあ!ラルネ良い名前ですね。気に入りました。これからよろしくお願いします。さぁ、出かけましょうか?」
「はいっ?」
素晴らしく早いテンポに、数十万年囚われていたウェスタは全くついていけずオタオタしていると、
「じゃあ、荷物の片付けも面倒でしょうから、この社もそのまま持っていきましょうか。」
と言ってラルネが、長めの髪を後ろで一つにまとめてポニーテールとして、腕まくりしながら作業を開始した。そして社ごと収納すると、そこにはウェスタを捉えていた鎖だけが残されていた。
「これも武器を作る良い材料になりそうですね。これも持っていきますね。」
と、さっさと収納するラルネの頭を、ウェストの平手が張り倒した。
「あんたさ、待てって言ってんじゃん!人の話を聞きなよ!何他人のもんを指示も聞かずに勝手に運んでんだよ。そんなんじゃあ、泥棒と一緒だよ!」」
「えっ?もしかしてウェスタ様は、ここがお気に入りだったのですか?きっとすぐに出ていきたいだろうと思った僕の早とちりだったんですか?」
一分一秒でも早く出ていきたいと思っているのは、まさにラルネの言う通りだったので、まずはラルネの隣に立ち、
「あんたさ、私の格好を見て何か思わないですか?ペラペラのレースを多用した引き摺るようなドレスを着て、それ以上に長い白い髪を引きずりながら、裸足で移動することができると思いますか?」
とウェスタが冷たい口調で尋ねると、
「すみませんでしたぁ!」
とラルネは土下座で応えた。
それから三時間ほど時間をかけて、家事魔法を覚えたラルネが、ウェスタの支度を整えた。長くてサラッとした柔らかな白銀のストレートの髪は腰の少し上で切り揃えられて、前髪は眉の長さで揃えてから、全体をハイツインテールに纏めた。レースのワンピースドレスは、家事魔法に含まれる裁縫のスキルで、キュロットとベストを使用したポケットいっぱいの探検者スタイルに変更され、足にはラルネと同じような編み込みのロングブーツが採用された。
「どうかな?なかなか似合ってるんじゃないかな?」
そのウェスタの言葉に、ラルネは親指を立てて同意した。
「僕の前世の地球のスタイルですけど、そんだけ着こなして頂けると、なんか嬉しくなりますね。最高です!」
こうして、元女神とアルラウネの二人のパーティがダンジョン最下層を出発した。これからどれだけの階層を登らなければならないのか、この時の二人は全く理解していなかった。
最下層への入り口であった扉の前に立ち、十メートル程の高さのある重い扉を何とか僅かに押し開け、二人がそそくさとその僅かな隙間を擦り抜けると、二人の目の前には上へと続く真っ白な螺旋状の階段があった。
「いよいよだね。」
「うん。」
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