王都
「さぁ、ここが王都? 王都のはずだ。」
本来なら王都全部を見渡せる丘に立った三人の眼下には、融けた大地が広がるのみで、そこには何もなかった。
何もない大地をウロウロ移動していると、警備と思われる一団を眼下に発見したので、とりあえず話を聞くために三人は丘を下っていった。
大地には火の精霊王の魔力が大量に残っており、水の属性の強いマサシゲには少しキツイ環境だったが、その融けた大地の中央付近まで連れて行かれた時に、彼はふと懐かしい匂いというか香りというか、気配を感じた。
それはすぐに、家族の誰かがここにいたという確信に変わった。マサシゲの顔色が変わった。全身の神経が研ぎ澄まされ、髪の毛はまるで某スーパー○○○人のようにブワッと音を立てて逆立った。
(ここに姉がいたのは間違いない。火の精霊王に関わりがあるのかは判らないけど....でも、確実にここにいた)
そんな結論に到達したマサシゲの目から、涙が次から次へと溢れてきて止まらなくなっていた。この世界に転生してきて初めて感じた家族の気配だった。そして、とうとう我慢できなくなって堪えきれずに大声で泣いた。産まれてから初めて泣いた。
泣かない子として周囲からは気味悪がれ、精神が壊れているんじゃないか、何か悪いものでも憑いているんじゃないかとずっと言われ続けていた。
そんな赤子が初めて大泣きしたことに、トエは驚き戸惑いながら、やはり気味が悪いと感じていた。
この土地では、かなり多くの人間が城と共に焼け死に、その数は万を超えると言われていた。赤子は感性が鋭いから大人には見えないものを見たり、感じ取ることができると言われていることは理解していた。でも、この息子の泣き方は度を超えていた。しかも、これまで殆ど泣くことのなかった子が泣いているのである。
館にいる時に言われていたことが、次から次へと思い浮かび、不安と不信はますます大きくなっていった。
「どうしたんだ?マサシゲが泣くなんて珍しいな。腹でも空いたのかな?乳は飲んだのか?」
「さっきあげたばかりだし、おじやも軽くお茶碗一杯は食べたから、お腹は空いてないはず。逆にお腹でも冷えて痛くなってるのかしら?」
「儂は子育てのことは全く判らんから、お前に任せる。それと、王都は遷都されたようだ。ここより南へ馬で三日ほどの所に移されたらしいぞ。アルソルト帝もそこにいるらしい。さぁ、目的地はもうすぐだ。急ぐぞ。」
馬を南へ向け進み出すと、マサシゲは更に大きな声で泣いた。しかし、二人には泣く理由に心当たりはなく、いつか泣き止むたろうとそのまま馬を駆り続け、いつしか王都で感じた気配は完全に消えていた。
マサシゲは、必ず自分の足でもう一度ここに来ると誓いを立て、そのまま深い眠りに落ちていった。
「さすがに泣き疲れたか。マサシゲがこんなに泣くことは、今までにあったか?」
「ううん、泣かない子って有名だったし、なんか独り言みたいな意味不明な言葉を喋り続けていることもよくあったから、何か見えないものでも見えてるんじゃないかって言われてた。」
「あの焼け落ちた、融けた王都で、儂らには見えないものでも見たのかもな。かなり恐ろしいものでも見たのだろうか....」
そんな言葉を交わしながら、三人は南へと馬を駆り続け、山を越えた所で眼下に広がる新しい王都ザイラルドを眺めていた。
「着いたな。トエとマサシゲは宿で待機するか?」
その提案にトエは首を横に振った。
「独立宣言文を渡すだけの簡単な仕事だが、アルソルト帝の性格では、出した途端に斬り捨てられる可能性も高い。万が一の場合は、死ぬのは儂一人で良い。」
「死なばもろともです。その時は二人で一矢報いてやりましょう。」
そう言って、トエはニヤリと笑ってセキシュウを見た。その笑みを見たセキシュウも釣られてニヤリと笑い返した。
「マサシゲは、どうする?」
「もちろん連れて行くわ。下手に預けても、攫われるリスクもあるし、人質にされれば、目標達成の障害になる可能性もある。」
セキシュウの問いに、トエはそう答えたが、本音は万が一の時には、自らの手でマサシゲを手に掛けるつもりだった。もしも、息子がアルソルトの手に渡れば、世界に害をなす存在になると思い込んでいた。
(こいつら最悪だな。俺には母を、家族を探す目的があるんだ。お前らの自己満足に付き合う気はないからな)
マサシゲは、最悪の場合は二人を見捨てて逃げることを決めた。我が子の命は何物にも代え難いと徹底的に教えてくれた前世の母の教えとあまりに異なる価値観に、この二人は生物的には自分の母であり、祖父ではあるが、自分を一人の人間と捉えず、利用価値の高い魔臓を持つ、都合のよい道具と考えるだけの人間でしかないと割り切った。
ーーーー
玉座の間の扉の前に、セキシュウとマサシゲを抱いたトエが立っていた。
「いよいよだな。準備はできておるな?覚悟は良いか。」
「大丈夫です。」
そう答えて、トエのマサシゲを抱く手に力が入った。
「武器をお預かりさせて頂きます。」
「刀は武士の命だ!手放すことは死ぬことと同じだ!」
「では、ご面会は諦めて頂けますかな?」
そう言われて、セキシュウとトエは予め準備してあった見せ刀を手渡した。
「では、どうぞお入りください。」
そう言って、その官僚は両側を衛兵に守られた重たそうな扉を開けた。
二人が玉座の間へと足を踏み入れ扉が閉められた瞬間、頭上から太い重々しい声がかかった。
「ウンエノ国からの使いと聞いた。要件を述べよ。簡潔にな。」
二人は跪いたまま面も上げることなく淡々と族長会議の報告を行った。
「......以上の理由により、ウンエノ国はドラマドル帝国の属国の立場から、二国が対等である友好国へと立場の引き上げをお願いしたく参りました。」
「寝言をほざくな!」
その言葉を聞いた軍務大臣と思われる者が叫ぶと同時に、男の首が飛んだ。
「私はお前に発言の許可は与えていない。さっさと片付けろ。のうセキシュウよ。ウンエノ国の主張は理解した。では、それを認める代わりに、お前達は何を提供することができる?」
そう言われたセキシュウは固まった。当然激怒され斬り捨てられることを覚悟していたにも関わらず、この帝の言葉は想定外であった。
「なんだ?土産はないのか?では、私から提案しよう。」
怜悧な笑みを浮かべながら、アルソルトは静かに人差し指を伸ばした。
「それを置いていけ。それを土産とできるなら、お前達の独立、友好国への立場の引き上げを認めてやろう。」
今度はトエが固まり、マサシゲを抱く手に力が入った。言われた意味が理解できなくて、頭がグルグルと空回りしていた。
「それでは、取引が成立したと言うことで良いな。」
アルソルトの言葉に、側に控えていた官僚が、嫌がるトエの手からマサシゲを奪い取った。
「それでは要件は以上でよいな。条約を纏めるための使いは直ちに派遣する。お前達は国へと戻り、その為の準備をせよ。これにて会見は終了だ。退廷せよ。」
その言葉と同時に、セキシュウとトエは玉座の間から引き摺り出されていった。
「陛下、宜しいのですか?」
「お前らの目は節穴か?この子をよく見てみよ。白銀の髪に濃い蒼色の房と金色に輝く房、更に深海のように深い蒼色の瞳とと稲妻のように黄金に輝く金色の瞳のオッドアイ、エルフやドワーフにもこれだけの魔法の才に溢れた者はおらんぞ。」
そう言って、アルソルトは大きな声で笑い続けた。
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