第7話 涙のあとに残るもの
薄暗いスラムに、ようやく朝が訪れた。
しかし、陽の光は城壁の影に遮られ、空気は相変わらず淀んでいる。
リムは瓦礫に背を預けながらぼんやりと目を開けた。
夜中の出来事が夢ではなかった現実が、胸を鋭く刺す。
昨日まで胸に抱えていた布袋の銅貨は、どこにもない。
「……ない……全部……」
絞り出すような声が漏れた。
目の周りは涙が乾いて突っ張り、頬は冷たくなっていた。
悔しさと落胆が頭を支配していたが、夜が明けるとその感情は少しだけ収まっていた。
(今を考えなきゃ……ここで止まったら…あいつらと変わらない…)
リムは自分に言い聞かせた。
「金……奪われちゃった……」
口に出した途端、また込み上げてくるものがあった。
(もう……やだ……)
震えた声が喉に詰まる。目尻から再び涙がこぼれそうになったが、リムは奥歯を噛みしめて堪えた。
(ぐぅぅぅ…)
泣いたところで、空腹は癒せない。
腹は正直だ。空っぽの胃がリムを現実に引き戻す。
(……でも……でも…俺は…)
リムは自分に言い聞かせるように考えた。
「あの日から……昨日まで、効率よくゴミを拾った経験……」
「大丈夫。またやり直せる。」
【恩寵と経験】それは奪われなかった。
「もう、あんなことにはいやだ………考えなきゃ……」
リムは小さな手で涙を拭った。
そしてゆっくりと立ち上がる。
瓦礫の間を抜け、廃棄物の溜まる場所へと歩き始めた。
スラムの薄暗い空に、微かに朝日が差し込んでいる。
(生き抜くんだ……俺は……)
その歩みは、昨日までとは違っていた。少しだけだが、力強さを宿していた。
リムの成長メモ:
• 金銭を失ったが、経験という無形の財産が自分に残ることに気づいた。
• 「考える」ことで状況を打破しようとする姿勢が芽生える。
所持金・所持品:
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