第一章 恩寵の目覚め 第1話 偶然の目覚め
街は朝からざわめいていた。今年も成人式が開催される。14歳を迎えた若者たちが教会に集い、華やかな衣装を身にまとった家族や商人たちで広場は賑わっていた。前夜の祭りの名残がまだあちらこちらに散らばっている。スラムに住むリムにとっては、こうした祭りの後こそが重要だった。なぜなら、街が生み出す大量のゴミが唯一の「収入源」となるからだ。リムのゴミ拾い8年間の経験で、この成人式の前夜後が贅沢なゴミが拾える可能性が最も高い日だった。
だが今日はいつもと違った。
「……はぁ……」
リムは身体をだるそうに起こし、重たい頭を抱えた。夜の冷え込みに身体をやられたのだろう。喉の奥が乾いて熱っぽい。それでも寝床に居続けるわけにはいかなかった。遅れて行けば、残るのはただの腐った屑ばかりだ。仕方なくぼろ布を肩にかけ、蔦で編んだ手製の袋を手に取る。
「急がなきゃ……」
陽はすでに少し昇っていた。スラムの人々が出払った後、リムがたどり着いた教会裏のゴミ捨て場は閑散としていた。石畳の路地に散らばった屑パンや果物の皮は、すでに誰かがかき集めた後だった。
「……今日はダメかな」
胃が鈍く痛む。まともな物が見つからなければ、今日は何も食べられない。半ば諦めかけたそのとき、リムの視界に小さな木箱が転がっているのを見つけた。
「……何だろう?」
かがみ込み、手を伸ばしてそれを拾い上げた瞬間——
——ゴォン——
教会の鐘が澄んだ音を奏でた。成人式を告げる清らかな音だ。その音が街中に響き渡ると同時に、リムの視界が突然歪んだ。
「な、何だ……?」
手の中の木箱がまばゆく輝き出す。目を閉じても感じるほどの強い光だった。リムは驚いて箱を放り出そうとしたが、身体が言うことを聞かない。頭の奥に直接響くような不思議な感覚が広がり、世界がぐらりと揺れた。
次の瞬間、光が静かに収まった。
「……何だったんだ?」
リムは震える手で木箱を握り直した。すると、視界の片隅に奇妙な文字が浮かび上がる。
品:木製の小箱
基準価値:鉄貨3枚
「え……?」
何のことか理解できなかった。けれど、頭の中に浮かぶ情報が消えることはなかった。
リムは木箱を見つめたまま息を呑んだ。何かが起きた——自分でも説明できないが、確かに世界が変わった瞬間だった。
誰にも知られず、リムはその日、神々から与えられた恩寵を手に入れた。モノの価値を見極める「鑑定」の力——それこそが、リムに与えられた新たな運命の始まりだった。