序章
2025.1から執筆活動を始めました。誤字脱字はご容赦を。
面白いと感じる作品になれば、幸いです。
大陸の北部、風が冷たく吹き抜ける高原地帯に小さな村があった。名前も記録も残らないその村は、戦争の影に飲み込まれた無数の集落のひとつに過ぎない。川沿いの土地は痩せており、木々も風に怯えるように背を縮めている。それでも村人たちは質素ながらも穏やかな暮らしを営んでいた。
しかし、その静けさは突然破られた。
剣戟の音、土埃の匂い、兵士たちの怒声——すべてが一瞬で村の風景を変えた。人々の悲鳴とともに家々は燃え、緑の野原は灰色に染まった。わずか2歳の少年リムはその光景を理解できなかった。ただ、母の震える腕に抱かれながら、赤い炎が空を裂くのを見上げていた。父は最後まで村を守ろうと剣を握りしめたが、彼の姿もまた炎に消えた。
生き残ったリムは戦乱の中を泣き叫びながらさまよい、やがて兵士の手により帝国北東部の孤児院に引き取られた。
少年リムは手先が器用であったことから、6歳で小さな村に引き取られた。だが、その村では奴隷のような扱いを受け、ある夜村を抜け出し、無我夢中で走った。森の果実で空腹を癒し、たどり着いた街に潜り込んだ。
ミルダの街の朝
日が昇りきる前、ミルダの街のスラムはすでにざわめき始めていた。街の鐘が鈍い音を響かせると、リムはぼろ布の寝床から身を起こした。赤茶色の髪は湿った空気で癖がつき、首筋に張り付いている。ここでは朝が早い。早く動き出さなければ、廃棄物の中からまともなものを拾うことすらできない。
リムは素早く手製の編み袋を手に取り、城壁沿いに向かう。瓦礫と倒壊しかけた建物が入り組むスラムの道を抜け、街の廃棄場所へと足を運んだ。鼻をつく腐臭にも慣れてしまった。そこに転がる物はほとんどが鉄貨1枚の価値にもならないガラクタだ。それでも、時折運良く見つける鉄貨数枚の価値のある品が、今日を生き延びるための希望となる。
「今日も何か拾えますように……」
心の中で小さな願いを込め、リムは廃棄物の山へと足を踏み入れた。