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アルマとの再会

「たのもー!」


いつもの声を上げながら、ディアナがビッテラウフ商会の入口を入る。

ヴィンデルシュタットに到着した翌日、ディアナはクラリッサと一緒にビッテラウフ商会を訪れていた。

事前に知らせていたからか、普段は工房にいるはずのアルマが、ホルストとヘルマンと並んで出迎えてくれた。


「いらっしゃい。ディアナちゃん、クレアちゃん、久しぶりね」


「アルマさんも元気そうね?」


「ん、アルマはまた少し成長した」


「ちょっと久しぶりに会ったのに、いきなりそれなの?

そんなわけないでしょ」


彼女の胸を確認したディアナが笑顔を浮かべると、アルマは恥ずかしそうに身を捩る。


「こ、こほん。二人とも元気そうでなりよりだ」


ホルストとヘルマンの二人が、気にしない素振りをしながら、微妙な顔で二人に声をかけた。


「久しぶりですわね」


「ん、二人とも元気そう」


「ディアナさんは随分と雰囲気がかわりましたね。見違えましたよ」


そうヘルマンが口にした瞬間、ディアナはムスッとした表情を浮かべ、ジトッとした目をクラリッサに向けた。

彼女は朝から、クラリッサやイリーナから何着ものドレスを試着させられていたのだ。嬉々として次々とドレスを用意する二人に我慢して付き合っていたディアナだったが、出かけるまでに疲れ果てていた。

そうして決定した彼女のドレスは、紺色と薄桃色と色は違うが、クラリッサのドレスとお揃いの姉妹コーデとなっていた。

そのクラリッサは、ディアナが褒められたことに、満面の笑みを浮かべてヘルマンに答えた。


「ふふふっ、可愛らしいでしょう」


「え、ええ、そうですね。お二人ともまるでお人形のようです」


ディアナのふてくされた態度とクラリッサの笑顔を交互に見ながら、ヘルマンは触れてはいけなかったことを悟るが、気付くのが遅かったようだ。

彼は一瞬動揺を見せたものの、すぐに笑顔を浮かべると商売人らしくクラリッサに相づちを打った。


「どうしたの?」


むくれるディアナにアルマが小声で問うが、ディアナは明らかに不機嫌そうな顔で「クレアが……」と首を振るのだった。






「あっはっはっ……。それはひどい! ディアナが怒るのも無理はない」


応接室へと通されたディアナは、アルマ達に着せ替え人形のように、次々におめかしをさせられたのだと暴露した。

事情を説明すると、ホルストは大声を上げて笑い、ヘルマンも声こそ上げていないものの、必死で笑いを堪えている様子で、目には涙を浮かべていた。


「呆れた。それで出かけるときもこの格好になったの?」


「だ、だって。可愛いディアナさんを見てるとつい……」


アルマが呆れた声を上げると、クラリッサは恥ずかしさのあまり小さくなっていた。

調子に乗ってる自覚は、多少はあった。

だが、小柄なディアナは何を着せても可愛らしく、いつの間にか夢中になってディアナを着飾らせていた。さらに悪いことに、本来それを諫めなければならないイリーナが、逆に率先してあれこれとメイドに指示をする始末だ。

クラリッサとイリーナが嬉々としておこなっていることを、止めることができる者はビンデバルト家にはいない。

ベルンハルトは仕事といって執務室に向かい、エッカルトとファビアンも途中で説得を諦めてしまった。


「朝から何着も着せられた……」


「でもディアナちゃんが言うほど悪くないわよ。髪の毛も凄く丁寧に編み込まれてるわね。こんなのどう編み込んだのか、わたしわかんないわ」


「ディアナがむくれる理由はわかったが、その格好は似合ってるぜ」


「そうですね。クラリッサ様と並べば本当に姉妹に見えますよ」


ディアナが頬を膨らませるが、彼女の意に反してアルマ達は口々に似合ってると褒めた。そのためディアナは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、プイと横を向いてしまう。


「そうでしょう?」


「クレアちゃんはちゃんと反省しないとダメよ。

慣れない環境で緊張してるディアナちゃんを守れるのは、クレアちゃんだけなんだからね」


喜色を浮かべて顔を上げたクラリッサを、すぐにアルマがぴしゃりとたしなめる。

ただでさえ慣れないビンデバルト邸で、気の休まる時間のないディアナだ。クラリッサが寄り添わなければ、逃げ場がどこにもなくなってしまう。


「そうですわね、気を付けますわ」


クラリッサは、反省を示すように姿勢を正すのだった。


「さて、もうそのくらいでいいだろう。

アルマは今日の仕事はいいから、三人で出かけてこい。と言ってもどうせアルホフ通りへ行くんだろ?」


「えっ、いいんですか?」


気分を変えるように明るい声で、ホルストが口を開いた。

アルマが嬉しそうに声を上げる。


「どうせその様子じゃ、今日の調合は気になって上手くいきやしねぇからな」


二人と再会したアルマの集中力が乱れ、今日は調合してもうまくいかないだろうと指摘すると肩を竦めた。


「ご、ごめんなさい」


「いや、いいんだ。その代わり明日からまたしっかりやってくれ」


「はぁい」


ホルストの許可が出たため、アルマは嬉しそうな表情を浮かべると、すぐに店の奥へと駆け出し、出かける準備を始めた。

別れ際、ディアナがホルストに近づき、月の雫亭を紹介してくれたお礼を言う。


「バイト先、助かった。ありがとう」


「おう、ティムは元気だったか?」


照れくさそうなディアナに、ホルストは笑顔で答える。

ティムとはウルスラの父で、ホルストとティムは兄弟弟子だった。


「ん、よくしてくれてる。だけど、バイトのときはあたし達に任せて、ほとんど店にいない」


「どうせ昼間からパブにでも行ってるんだろう」


「ん。赤ら顔で戻ってくるから多分そう」


「あいつは相変わらずだな。今度行ったら俺が怒ってたって伝えてくれ」


「わかった」


ディアナは、ホルストの優しい笑顔に親指を立てて応えた。

思いがけず仕事が休みとなったアルマと共に、三人はベッカ―通りから懐かしいユンカー魔法学校を見ながら庁舎街を抜け、西のアルホフ通りへ向かった。


「んー。やっぱりここのパフェは最高!」


「そうですわね。やはりこの味ですわっ!

このイチゴとクリームのハーモニーがたまりませんわ!」


「チョコレートソースとナッツの組み合わせも、相変わらず絶妙」


久しぶりのパフェに、ディアナとクラリッサが舌鼓を打つ。


「そんな大げさよ」


「そんなことありませんわ!

わたくし達は休みの日に、王都の評判のカフェを巡りましたもの」


「ん。ここを越える味はなかった」


久しぶりの味を堪能する二人をアルマが笑うが、大まじめな顔でここのパフェが最高と口にする。

実際休日を利用して二人は、王都でパフェ巡りをしていたのだ。街の人や学生に評判の店を聞いて店を巡ったが、ここのパフェを越える味にはついに出会えなかったのだという。


「それで、仕事の方はどうですの?」


「だいぶ確率が上がってきたけど、まだディアナちゃんみたいにはできないなぁ。それでも五本作れば三本くらいは、エルフ印を付けられるようになってきたわよ。最近は調合のコツもつかめてきたから、前よりもずっとスムーズに作れるようになったわ」


ビッテラウフ商会の工房で薬師として働いているアルマは、毎日調合して過ごしているらしい。

回復薬ばかりを作ってる訳ではないようだが、工房で「エルフ印の回復薬」を調合できるのはアルマだけだ。そのため他の魔法薬の注文がない場合は、優先的に回復薬ばかりを調合しているのだという。


「おお、凄い!」


「ほぼ百パーセントの、ディアナちゃんに褒められても嬉しくないよ」


「でも、最初に比べたら凄いじゃない。その分だと月の販売本数も増えているのではなくて?」


「そうね。月によって違うけど、平均したら四十本くらいかしら?」


ディアナとアルマの二人で納品していたときは、最高で月三十本だった。それを考えると、専属とはいえアルマは頑張って納品しているのだろう。


「それで、アルマ」


「何?」


真面目な顔をしたディアナに何気なく返事をしたアルマは、彼女からの予想外の質問にうろたえてしまった。


「ホルストとはどうなったの?」


「なななな、なんで知ってるの!? あっ!」


慌てて口を閉じたがすでに手遅れだ。

ディアナとクラリッサが、獲物を見つけたという顔を浮かべていた。


「見てたらわかる」


「アルマさん、わかりやすいですもの」


「えー、そんなにわかりやすかったかなぁ……」


自分ではうまく隠せてると思っていた。

だがクラリッサはともかく、あまり他人に興味のなさそうなディアナにまで指摘されたのがショックだったようで、何度も手で顔を触っていた。

アルマはユンカーの学生時代から、密かにホルストに思いを寄せていた。

両親を事故で亡くした後、月の雫亭で薬師になるため修行していたホルストは、呼び戻されてビッテラウフ商会を両親から引き継いだ。商人としての修行をしていなかった彼は、若かったこともあり多くの取引先を失ったが、ヘルマンと共にここまで商会を大きくしてきたのだ。

年齢はアルマとは二十歳近く離れていたが、ホルストはそのような事情もあって独身だった。

彼に思いを寄せるアルマは、学生時代は探索士としての活動のない日になると、わざわざビッテラウフ商会の工房でアルバイトをしていたほどだ。


「それで、本当はどうなの?」


「薬師兼護衛なら、二人で出かけることもあるのでしょ?」


興味津々のような二人の視線に、顔を真っ赤に染めながらアルマは慌てたように否定する。


「ま、まだ何もないわよ!」


「まだ?」


「と言うことは、少しは何かあったのかしら?」


二人の鋭い指摘に、アルマは「ノーコメントだから!」と言って、強引に話を打ち切るのだった。

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