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最終試験はじまる

「さて、最終試験もこの一組と二組を残すところとなりました」


レオニーが森の外れで学生に語りかける。


「これから三日かけて森を縦断していきます。

毎年多くの脱落者を出していますが、その多くは準備不足によるものです。回復薬や食料は多めに用意しましたね」


このことは準備期間中に、講師から耳にたこができるほど言われたことだ。

一組の学生は試験の三日分だけではなく、全員五日分の回復薬や非常食を準備していた。


「すでに試験が終わっている三組から五組ですが、あれだけ準備しなさいと言ったにもかかわらず、試験を舐めていたため失格となった学生達が例年以上に多かったようです」


この最終試験は、ユンカー魔法学校の恒例行事となっているが、毎年遭難する学生が後を絶たないことでも有名だ。現に試験が終了した組では、ご多分にもれず今年も多くの落伍者を出していた。

ちなみに三組から五組はコースが違っていて、日程は二日間となり東西への横断コースとなっている。

道中では採取の課題こそあるものの魔獣が放たれることはない。

その代わり、合格しても五級ではなく、六級の魔法士の資格しか与えられないなどの違いがあった。

一般的に魔法士とは五級以上の者を指し、六級は見習いや駆け出しの扱いとなっている。

わずか一級だけの違いとはいえ、六級と五級の差は大きいのだ。


「もう一度言いますがこれは最終試験です。

この二年間で学んできたことすべてが試されます。三日後、森の出口で全員が揃っていることを期待しています」


レオニーの訓示が終わると試験スタートだ。

事前に決められた順番で順次スタートしていく。

ひとクラス二十名なので一組、二組合わせて十パーティに分かれていて、事前のくじ引きによって出発する順番が決まっている。ディアナらのパーティは、六番目のスタートとなっていた。


「では事前の取り決めの通り、最初はディアナさんが斥候兼前衛、左右の警戒と素材の採取はアルマさんとマーヤさん、中央にモニカさん、後衛はわたくしがしますわね。全員揃ってゴールを目指しますわよ」


リーダー役のクラリッサの言葉に頷く四人の少女。

今の取り決めでは、モニカには特に役割が割り振られていなかったが、三日間かけて踏破しなければならない課題だ。体力温存のため少しでも交代で休息できるよう配慮したためである。

またクラリッサがリーダーになっているのは、モニカやマーヤが貴族である彼女を差し置いてリーダーなんかあり得ないと譲らなかったからだ。

現に貴族と平民の混在するパーティでは、どこも貴族出身の学生がリーダー役を務めていた。


「では、チームアルホフ・パフェ(プルス)スタートしてください」


ディアナらが呼ばれ、スタート地点へと向かう。

最初はまったく違うチーム名を考えていた彼女達だったが、実績からも実力からもディアナ達三人が中心のパーティであることは明らかなため、結局いつものパーティ名に「+」を付け足しただけの無難な名前となっていた。


「それでは皆様、気合い入れて行きますわよ」


「おう!」


クラリッサのかけ声に元気よく応えた四人は、クラリッサの合図と共に森に入っていくのだった。






「見つけた」


ディアナは木々の生い茂るすき間に、アヒレス草の群生地を見つけると、大きく手を振って合図を送った。

群生といってもそれほど多くあるわけではない。せいぜい十から十五株ぐらいだろう。

それでも課題達成には十分すぎる量だった。


「さすがディアナちゃんね」


「よくこんな所に生えてるの見つけられるわね?」


採取担当のアルマとマーヤの二人が、丁寧な手つきでアヒレス草を採取していく。群生には時折アヒレスモドキも混ざっているが、さすがに二年間レオニーから言われ続けているため、マーヤも間違えることはなかった。

初めてディアナ達と採取に臨むマーヤは、試験が始まってからそれほど経っていないにもかかわらず、課題となる植物を確実に見つけてくるディアナに驚きっぱなしだった。


「そうよね。慣れちゃっててもはや普通だけど、わたしも最初はそうだったわ」


アルマは若干遠い目をしながら苦笑いを零した。


「ディアナちゃんは採取してるうちに、群生地がなんとなくわかるようになったって言ってたけど、わたしにはさっぱりわかんないわ」


アルマも同じように幼い頃から採取をこなしてきている。

また、ディアナにも教わりながら、群生地を見分けようとしたこともあった。しかしアルマには違いを見分けることができなかったのだ。


「ディアナちゃんって、エルフの血が入っていたわよね?」


「うん、遠い遠いご先祖がエルフだったみたい。ディアナちゃんの名前はそのご先祖様からとったそうよ。それがどうかした?」


「ディアナちゃんが見分けることができるのは、もしかしてそのせいかなと思って。確かエルフって別名『森の人』っていうじゃない。だからこういった森の中では能力が解放される、みたいな?」


冗談めかしてエルフの血が関係あるのではとマーヤが言う。だが実は、アルマもクラリッサと一緒に同じようなことを考えたことがあった。

だが耳に名残が残っているとはいえ、現代ではその血はわずか数パーセントあるかどうかだ。結局、他のエルフに会ったことがないため比べようもなかったが、結論としては多少なりとも影響があるのではないかと、そのときはそう結論づけていた。


「あの尖った耳が探し物の在処を教えてくれる。とかじゃないよね?」


二人でそう言って笑っていると、茂みの向こうからクラリッサの声が聞こえてきた。


「アルマさん、マーヤさん。そろそろ移動したいのですけれどいいかしら?」


「あっゴメン、すぐ行く! 行きましょマーヤちゃん」


アルマはマーヤを促して立ち上がるとクラリッサの所へ戻っていく。

すでに皆が集合しているようで、アルマ達が合流したときには、すでにディアナも戻ってきていた。


「どうでした?」


「うん、今日の採取分はもうバッチリだよ」


一日目に出された採取の課題は、ディアナのお陰で問題なく終わっていた。あとはこれをチェックポイントに提出するだけだ。

夕食の材料になる木の実や果実などは、ディアナが真っ先に発見していている。


「では、役割を交代して先に進みましょうか?」


「じゃ、次はわたしが前衛だったわね」


これまでただついていくだけだったモニカが、そう言って意気込んだ。


「わたしが後ろで、クレアちゃんを中心にマーヤちゃんが左、ディアナちゃんが右だったわね?」


「ええそうよ」


彼女らは隊列を組み直し、方角を確認すると出発していった。

程なくして一日目のキャンプ地が見えてきた。

採取に慣れた三人がいたためか、日が陰る前に到着することができたようだ。

キャンプ地はそれほど広くはないが、森の中を切り開いた広場のような場所だった。

毎年使うために定期的に手入れがされているようで、下草などはきれいに伐採されている。

広場の中央には組み立て式の簡易住居であるユルトが一基建てられていて、教師達が本部として使用していた。本部の周りには先に到着したパーティが三組ほど、まったりとくつろいでいる様子が見える。

六番目スタートのディアナ達は、どうやら他のパーティより早めに到着できたようだ。


「ではわたくしは、報告に行って参ります。あなたたちは野営の準備をお願いするわね」


クラリッサは採取物の詰まった鞄をアルマから受け取ると、本部に到着の報告と課題の提出に向かった。


「じゃあ、わたしたちは晩ごはんの準備をしましょうか?」


「じゃわたしはかまどを作るわね。マーヤちゃん手伝ってくれる?」


モニカとマーヤが手頃な石を拾ってかまどを作り始める。

長年最終試験でキャンプ地とされている場所だけに、周りにはかまどに使えそうな石がゴロゴロと転がっていた。


「それじゃわたしは料理を作るから、ディアナちゃんは(たきぎ)を集めてくれる?」


「ん」


それぞれが準備に動き始めると、それを見た他のチームも慌てて野営の準備を始める。


「わたくし達は四番目の到着でしたわ。素材の状態もよくて素晴らしいと、お褒めの言葉をいただいておりますわ」


「採取は完全にディアナちゃんとアルマちゃんのお陰。わたしだけじゃ見つけるだけでも時間が掛かったかも」


マーヤは申し訳なさそうに採取であまり役に立たなかったことを嘆いた。


「それはお互い様だよ。わたし達じゃ晩ごはんこんなに豪華にできないもん」


飲食店の娘のモニカと、料理が趣味というマーヤが作った晩ごはんは、野営とは思えないクオリティで、他のパーティから羨望の眼差しを集めるほどだった。


「チームですもの助け合うのは当然ですわ。誰でも得手不得手はありますもの。苦手なところは得意な人に任せて、その分違うところで活躍すればいいですわ」


「そう言っていただけると気が楽になるわね」


マーヤとモニカがホッとした笑顔を見せた。


「気にしなくていいわよ。ディアナちゃんなんか二人の料理にすっかり虜になっているもの」


最近になって、食いしん坊がすっかり定着してしまったディアナを、アルマが指差した。

彼女は満足そうな様子で、お腹をさすって寛いでいた。

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― 新着の感想 ―
ひとクラス20人とありますがそしたら1組、2組合わせて40人、1チーム5人なので8チームのはずなのに10チーム?
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