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最終試験近づく

二年目の後期授業も後半を迎えていた。

最終試験が近づくにつれて、実践授業が多く組まれるようになり、それに伴って授業も熱が帯びてくる。

森での採取や討伐訓練など、学校の外でおこなわれる講義が増えていた。

そのような中、身体強化魔法の講義だけは、今年の試験には関係ないため気を抜くことができる唯一の授業となっていた。

結局ギルベルトは、ディアナに敗れた後すぐに退職してしまった。

この一件を受け、学校側も講師に丸投げだった身体強化魔法の教育カリキュラムを見直した。そしてカリキュラムを部分強化魔法と制定すると、それに則って教師を探し始めることとなった。

しかし、三組から五組までの授業は中止となったものの、一組と二組に関しては前期と同様、引き続きディアナ達が講師となり続けられることとなった。

しかも前期のように臨時授業ではなく、二週に一度おこなわれる準正規授業の扱いだ。

内容は前期の続きのため、基礎的な身体強化のやり方をレクチャーしていくだけだったが、ディアナは前期同様ブルーノ達の専属となっていた。

クラリッサからそのことを告げられたディアナは、「むぅ」と頬を膨らませてむくれていたが、それでもブルーノとのトラブルを起こすことなく淡々とこなし続けた。

彼女達の教え方がよかったのもあるが、さすがに一、二組ともなれば授業後半には、ある程度使いこなす学生が現れるようになっていた。


「はぁはぁ……」


「やっぱりディアナさんには敵いませんわね」


涼しい顔をしたディアナに対して、クラリッサやアルマは訓練場に座り込み、ブルーノは大の字に倒れ、エルマーも膝に手を当てて激しく息をしていた。

この日、デモンストレーションと称して模擬戦がおこなわれた後、ディアナ対クラリッサ&アルマ&ブルーノ&エルマーの四対一で、いわゆる『鬼ごっこ』がおこなわれた。

結果だけを言えば、ディアナの圧勝である。

圧巻だったのは、ディアナが鬼をしたときだった。

スタートの合図とほぼ同時にエルマーが捕まり、その後三十秒も経たないうちに全員が捕まってしまったのだ。

その後攻守を交代したが、四人で連携してディアナを追い詰めようとしてもスルリとかわしてしまう。

結局授業が終わるまでの間、誰もディアナに触れることすらできなかったのだ。


「わたしのディアナちゃんがどんどん遠いところにいっちゃう!」


授業の最後には、アルマが涙目になりながら力一杯ディアナを抱きしめて、失神させるという想定外の事態が起きていた。

しかし、うっとりした顔で気を失っていた彼女に、ほとんどの男子が羨ましそうな表情を浮かべていたため、女子から一斉に蔑んだ目で見られるというおまけがついた。




最終試験まで残り一ヶ月を切ると、各授業でも試験がおこなわれるようになり、学生達は試験結果に一喜一憂する姿が見られるようになる。

一組担任のレオニーの薬草学は、森で実際に採取をおこなった後の調合までが試験となった。

期限は二週間と定められ、学生達は課題として出された回復薬を調合するため、授業の合間を縫って森へと出向いて素材を採取し、放課後などに調合をおこなった。


「ディアナさんとアルマさんの二人は満点です」


結果はディアナとアルマの二人だけが満点となり、惜しくもクラリッサが次点で続き、普段からの実践の成果を見せつける結果となった。

ディアナやアルマは、その後の魔法学の試験では苦戦したものの、それ以外の試験ではクラリッサも含めて概ね優秀な成績を修めたのであった。

その後、ほどなくして最終試験の概要が発表され、掲示板にも掲出されていた。

最終試験は、ディアナ達にはなじみの森で三日間にわたっておこなわれる。

広大な森を、三日かけて北から南へと縦断する過酷な試験だ。

途中、二ヵ所にキャンプ地を兼ねたチェックポイントが設けられていて、制限時間内にチェックポイントにたどり着くことができなければ、即失格となるサバイバルだ。厳しい試験内容だが合格者には無条件で六級から五級魔法士の資格が与えられる。

試験中は、学生は五人でパーティを組んで行動することが義務づけられ、道中一人でも欠けると失格となる。

試験中、一日目と二日目には採取も課題として出され、試験結果に加算される。また、二日目以降には森にネズミの魔獣が放たれるため、これの討伐も得点に加わる。さらに最終三日目は、採取はなくなるが最長区間となっていて、疲労した中での長距離の踏破が求められるという過酷な試験だった。


「これってほとんど探索士に必要な試験内容よね?

魔法士としてこの試験は必要なのかしら?」


掲示板に貼り出された試験の概要を読んだアルマが、ほぼ全員の心情を吐露する。


「そう? わたくしなんだかわくわくしてきましたわ」


「クレアは冒険ができて嬉しいだけ」


探索士に憧れているクラリッサは、試験とはいえ幼い頃に読んだ物語の主人公のような冒険ができると目を輝かせている。そのクラリッサに冷静に突っ込んでいるディアナだが、彼女もまた口元が緩むのを抑えきれていなかった。


「ディアナちゃんもクレアちゃんと同じ顔してるわよ」


アルマがそう指摘すると、ディアナは慌てて口元を抑えるがすぐに口角が上がってしまう。


「はいはい、二人とも楽しいのはわかったから。それより毎年怪我人や失格者が続出してるんでしょ。かなり危険ってことよね」


「魔法士になれば魔獣災害や戦争に駆り出されますから。その前に向き不向きを確認できていいのではないかしら?」


「いざというときに『話が違う!』って言われても迷惑」


卒業すれば多くの者が魔法士となる。

魔法士は基本的に魔法士団に所属することになり、有事の際には兵とともに災害や戦争に駆り出されることになる。

またそれを嫌って探索士になる者もいるが、採取のみで食べていけるほど甘い職業ではなく、等級を上げるためには魔獣を討伐したり、それこそ冒険をする必要がある。

結局どちらを選んでも魔法士を選んだ以上は、命の危険は多少なりともつきまとってくるのだ。


「討伐訓練と違って今度は任意でパーティを組めるのよね。わたし達三人は確定として、残り二人はやっぱりモニカとマーヤの二人かしら?」


「そうですわね。他の子だとディアナさんは、人見知り全開で喋らなくなりますから」


「あたしは人見知りじゃない。無口なだけ」


「喋らなければどっちでも一緒だよ。ディアナちゃんはわたし達以外には必要最低限しか口を開かないじゃない。誕生日のパーティで呼んだわたしの友達とは、ほとんど喋らなかったでしょ。あの後友達から『わたしディアナちゃんに嫌われてるのかな?』って真剣に相談されたんだからね」


アルマが言う誕生日のパーティとは、彼女の成人と魔鳥討伐の祝勝会を兼ねたパーティを、モニカの両親が経営する店でおこなったときのことだ。

参加者はアルマとクラリッサに加えて、討伐訓練時にディアナとパーティを組んだモニカとマーヤ。それにアルマとパーティを組んだ二人の女の子も招待されていたのだ。


「あのときは料理に釘付けになってた」


「ずっと食べてましたものね」


ディアナの照れたような言い訳に、クラリッサが思い出したように笑う。

彼女は入院中に思いっきり食べられなかった鬱憤を晴らすように、会話はそっちのけでひたすら料理を堪能していたのだ。


「たしかに入院中いびきよりも、ディアナちゃんのお腹の音が気になって眠れなかったから気持ちはわかるよ。でも皆、頑張って話しかけても、ディアナちゃんたら『ん』しか喋らないんだもん」


「ゴメンね」


口を尖らせたアルマがそう言うと、ディアナが小首をかしげ、上目遣いで見ながら素直に謝った。

普段無表情でツンツンしているディアナが、めったに見せないデレた表情の破壊力に、アルマは思わず頬を染めてしまう。


「ぐっ、そ、そんなかわいく謝ったってダメなんだから。

あの子達にちゃんと謝らないと許してあげないんだから。一人で行くのが嫌なら、後でわたしが一緒に行ってあげるから。

それでパーティだけどディアナちゃんはモニカとマーヤでいいよね?」


「ん」


「じゃあ二人に声をかけておくから」


アルマは明らかに狼狽した様子で、ディアナに目を合わすこともできずに早口にまくし立てると、そそくさと二人を探しに行くのだった。

その後、すぐに最終試験はモニカとマーヤを加えた五人パーティで挑むことに決まった。

そしていよいよ、過酷な最終試験の日を迎えたのである。

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