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ゴシップ記事

「それとクラリッサ様とディアナは、今日から二組だからな」


「はい!? 突然すぎません?」


唐突にエメリヒから告げられた言葉に、クラリッサが素っ頓狂な声を上げた。

ディアナももちろん、目を丸くしている。


「前期の成績から昇級が妥当だという判断だ」


後期直前の会議で決まったらしく、エメリヒは周知が遅れたことを詫びていた。

だが毎年、昇降格の検討をおこなうのはこの時期らしく、言葉ほどエメリヒに悪びれた様子はない。


「学年途中での昇格は五年ぶりくらいか。二人揃ってというと十年以上出ていないぞ。しっかり励めよ」


人事のようにそう言って笑うと、エメリヒは校門に戻っていった。


「口頭での通知しかないのかしら?」


「ちょっと信じられないよねぇ?」


書面ではなく口頭で、まるで物のついでのような通知に、クラリッサは不信感を持ち、アルマも同意するように首を傾げている。

二組に昇級したことは理解できたが、このまま二組の教室に行って本当に大丈夫なのだろうかと不安に思いながら校舎の入口まで来ると、掲示板の前に人だかりができている。

昇級の通知が掲示されているのかもと、三人で人だかりの後から掲示板を覗き込んだ。


「うわっ!」


掲示板を確認した三人は、思わず仰け反っていた。

確かに昇級通知は掲示されていた。

エメリヒの言った通りに、後期からディアナとクラリッサの二人は、二組に昇級となっていた。

しかしその昇級通知を取り囲むように、ディアナとブルーノの決闘の様子やクラリッサとディアナの禁断の恋。そして、アルマも含めた三人の秘められた関係を推測するような学校新聞が、掲示されていたのだ。

決闘の記事以外は、一応個人名は伏せられているが、魔法学校の生徒なら誰のことを書いているのかは分かるに違いない。

どれもこれもゴシップ紙のような、センセーショナルな見出しとともに、面白おかしく書かれていた。周りの生徒は昇級通知そっちのけで、記事を読みあさっていたのだった。

朝から妙に注目されていた理由はこれだったのだ。


「なっ、なんですのこれは!?」


思わず叫んだクラリッサに注目が集まった。

「あっ」と気付いた時には遅かった。すぐに三人に人だかりができる。


「ねぇアルマ、この記事って本当?」


似非(えせ)エルフのくせにブルーノ様に勝っただなんて、きっと何かの間違いよ!」


「三人でだなんて。破廉恥ですわ。……ぽっ」


「ブルーノ様が負けただなんて信じないわ。きっと調子が悪かったのよ」


「クラリッサ様、マネキンでいいのなら、ぜひわたくしと!」


ディアナに対しては非難めいたものが大半だったが、三人は次々に質問攻めに遭ってしまった。

記事になったという影響は絶大で、三人がどれだけ否定しても、記事の内容が事実として学校中に広まってしまうのだった。

結局三人への質問は、予鈴が鳴るまで続いていた。


「一体誰があの記事を書いたのかしら?」


予鈴に救われた三人は、足早に教室に向かった。

学校新聞ということは、新聞部の誰かが書いたものであることは間違いない。

すぐに人に囲まれてしまったせいで、誰が書いたものか確認できなかったのが悔やまれた。

だがその答えはすぐに見つかった。


「んー、記事書いたのって、多分エルマーじゃないかな?」


「エルマーですって?」


「誰?」


エルマーと同じ一組のアルマの推測に、クラリッサが食いつく。

ディアナはピンときていない様子だったが、エルマーは決闘をおこなった際ブルーノの立会人を務めた少年だ。


「確かエルマーは新聞部だったと思う」


意識しないと認識できないほど存在感が希薄なため、その隠密性を活かして新聞部で密かにスクープを狙っていると噂されていた。ただし彼の書く記事はスクープとはほど遠く、何故かゴシップ色の強い記事になるのだという。

だが十代になりたての少年少女の通う学校では、堅苦しい記事よりもこうしたインパクトのある記事の方が読まれやすいのも確かだ。そのため面白おかしく書かれたエルマーの記事は、思春期を迎えた学生達に、意外にも人気が高かったのであった。


「どうする? 同じクラスだし抗議しておこうか?」


アルマが二人を振り返って尋ねる。

若干頬が赤く染まっているのは、エルマーと一緒にいるブルーノを意識してのことだろうか。


「もう手遅れ」


「そうですわね。多くの学生の目に止まってしまってるでしょうし、修正記事を掲載したところで効果はどれほどあるのかしら?」


後期が始まった絶妙なタイミングでの記事だ。すでに広まってしまった記事を、取り消すにせよ修正するにせよ手遅れだろう。ディアナはすでに諦めたかのように肩を竦め、クラリッサも抗議することに疑問を持っているようだった。

幸い狭い学校内でのことだ。

記事内容も誹謗中傷のような類いではなく、ミスリードを誘うような推測記事となっている。学生達も本気で記事の内容を信じている者は少ないと思われた。

婚約者が同性愛者だったなどという噂が王都にまで広がり、侯爵家の耳に入るようなことがあれば問題になりそうだが、そうでない限り騒ぎ立てるほどのことではないだろう。


「そう?」


アルマは若干残念そうな表情を浮かべた。


「どうしようもなくなれば、伝家の宝刀を抜けばいいんですもの」


クラリッサが自信満々で言い放った。

それこそ辺境伯家であるクラリッサの立場を使えば、エルマーどころかブルーノの立場でさえ、簡単に吹き消すことができることを示唆していたからだ。

若干天然なところがあり普段は忘れがちになるが、クラリッサはれっきとした辺境伯令嬢だ。いざとなれば、躊躇(ためら)いなく冷酷な判断を下せるのだ。

クラリッサが冗談めかして笑っていたが、ディアナとアルマは彼女の貴族の一面を垣間見て思わず顔を見合わせるのだった。






「それじゃまた放課後ねぇ」


二組の教室の前でアルマが手を振って一組へと向かっていった。

久しぶりに三人揃ったので、放課後はいつものカフェに行く約束をしていた。

アルマを見送った二人は、教室の前で一瞬躊躇するように立ち止まる。

昇級とはいえ、後期から突然違うクラスへと移ることになり、初めての教室を前に流石に物怖じしていた。

やがて、意を決したようにディアナが扉に手をかけた。


「たのもー!」


勢いよく開いた扉とともに教室に足を踏み入れたディアナが、いつものように抑揚を抑えた大声で叫んだ。


「いつも思いますけど、一体それは何ですの?」


「ん。先制攻撃」


そんなことを言いながら二人は揃って教室の最前列へと進み、まだポカンとしている同級生に挨拶をおこなう。


「本日より二組に編入となりました。わたくしクラリッサと申します」


「ディアナ」


「皆様よろしくお願いします」


「します」


そう言うと呆気に取られたままのクラスメイトに、二人は揃って華麗にカーテシーを決めた。


「ちょっとディアナさん。ちゃんと挨拶をしなさいよ」


「最初にかましたから大丈夫」


挨拶を省略したディアナに苦言を呈したクラリッサだったが、彼女は意に介した様子もなく、理解不能な言葉を述べながらクラリッサに親指を立てるのだった。






放課後、約束通りアルホフ通りへとやってきた三人は、いつものカフェに腰を下ろし、休暇中の出来事を話しながらパフェを頬張っていた。


「じゃあクレアちゃんは、本当に身体強化魔法の練習してるんだ!?」


「ええ、まだ全身に魔力を纏わせてる段階ですけれど」


ディアナからも説明を受けていたはずだが、どうやら半信半疑だったらしく、クラリッサから説明を受けて、ようやく納得したような顔を浮かべていた。


「でも身体強化魔法って、普通は全身に魔力を纏わせることじゃなかったっけ?」


クラリッサの説明に納得したものの、不思議そうな顔を浮かべてディアナを見る。

身体機能を強化するのが身体強化魔法だ。全身に万遍なく魔力を巡らせることで身体能力を強化し、運動能力を強化させることが、身体強化魔法だとアルマは理解していた。

基本的には兵や騎士などが肉弾戦を中心に戦う者が使い、重い甲冑や武器を少ない力で扱えるようにし、攻撃力や防御力を高めるための魔法だ。


「多分それであってる」


「でもディアナさんのは少し違いますわよね?」


今ディアナからクラリッサが教わっている方法は、全身に巡らせた魔力を手や足など身体の一部に集中させる方法だ。アルマの言う一般的な身体強化魔法とはやり方が違った。


「あたしのはお父さんから教わった部分強化型。……それの派生版」


「派生版!?」


父アランから詳しくは聞くことはできなかったが、魔力量に乏しかったアランは一般的な身体強化魔法だと長時間保たせることが難しかった。そのため一部を強化する部分強化型を習得するしかなかった。

任意の部位を強化する方法は、全身強化型と比べて消費魔力は少なくなるが、その分強化する部位を細かく調整する繊細さが必要な強化方法だ。どちらも同じ身体強化魔法だが、魔力消費が少ないため、魔力量が乏しい兵はこちらを使う者の方が多かった。

ただ激しい戦闘中に、任意に部位や魔力の出力を切り替えるにはかなりの熟練度が必要で、通常は武器を含めた腕力のみを強化して使用する者がほとんどだった。


「ん、あたしは全身強化と同じ魔力量を部分集中で使ってる」


アランから学んだ身体強化魔法だったが、当初から若木を破壊するなど、ディアナの使う身体強化魔法は威力が普通ではなかった。

膨大な魔力量を誇るディアナならではの派生型で、身体の一部とはいえ通常の身体強化魔法とは比較にならないほどの強化具合となっていた。このような使い方はおそらく彼女しかできないだろう。そういう意味では彼女のオリジナル魔法と言えなくもなかった。


「それがあの決闘のときの動きだったのですね」


クラリッサが納得したように声を上げた。

あのときのディアナの一瞬の動きは、異常といえるほどのものだった。

対戦者であるブルーノはもちろん、立会人のクラリッサやエルマー、離れたところで見ていた学生達、その誰もがディアナを見失うほどだったのだ。


「ふふん。凄いでしょ」


珍しく自慢げな表情を浮かべたディアナが、鼻の穴を膨らませている。

実際彼女の方法は、膨大な魔力量がなければ成り立たない方法ではあるが、瞬間的に込める魔力の量が多いだけで、消費魔力だけでいえば全身強化型と比べても少なくすんでいた。

もっとも魔力量が多くなれば、それに比例してコントロールも難しくなる。

これは毎日練習を繰り返しているディアナだからこそできる技であって、下手に真似をしようものなら、制御に失敗して自爆してしまうのが落ちであろう。


「凄いわね」


「ディアナちゃんなら本当に王宮魔法師になれそうな気がする」


地味な練習をやり続けるだけでなく、自分で工夫して新しいことに挑戦し続ける。それをわずか十歳の少女がおこなっているのだ。

二人はディアナなら、本当に王宮魔法師になれるのではないかと考え始めていた。


「わたしもやってみようかしら?」


不意にアルマが零した言葉に、二人は思わず顔を見合わせた。


「アルマもついにやる気に?」


「魔力循環は無理だったけど、身体強化魔法ならできそうじゃない?

クラリッサちゃんが始めたならわたしも一緒にやってみたいわ」


「わたくしも始めたばかりですもの、一緒に頑張りましょう」


「あっという間に追い越しちゃったらゴメンね」


「ふふっ、望むところです。わたくしも負けるつもりはありませんわよ」


二人は笑顔で見つめ合い、静かに闘志を燃やすのであった。

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ディアナちゃん立派なヤンキー娘になって…(涙)
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