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ともだちならあたりまえ

「ようやくわたくしも、五等級に昇格いたしましたわ!」


「おお、おめでと」


「おめでとう、クラリッサちゃん!」


それから数日後、五等級探索士に無事昇級を果たしたクラリッサは、嬉しそうに五等級と刻印された認識票を二人に見せ、ディアナとアルマの二人も喜んだ。

だがそうなってくると、先送りにしていた重要な案件を決める必要が出てくる。

そう、三人のパーティ名だ。

そのことに気づいた三人は先ほどまでと打って変わり、難しい表情を浮かべてパーティ名を考えはじめた。


「ダメだぁ! わたしもうクラリッサと愉快な仲間たちしか浮かばない」


「だからどうして、わたくしの名前を出すんですの」


「意外と名前って難しい」


その名前が自分達を表すことになると思うと、なかなかしっくりくる名前が出てこなかった。


「そう言えばマヌエラに、どのような名前にすればいいか相談しましたの」


クラリッサはランクアップの申請をおこなった際に、受付のマヌエラにどういった名前が多いのか確認したことを思い出した。


「それでマヌエラは何と言っていたの?」


「三本の槍みたいに自分たちの特徴や好きなものを名前に入れる人が多いようですわ」


「特徴……三本の杖とか?」


「それだと、そのままで面白くないじゃない」


「三人の特徴……。出身はバラバラですし、共通するものといえば女性とか魔法学校生くらいですわね?」


「うーん、やっぱりしっくりこないね」


クラリッサが三人に共通するものを並べていくが、どれもピンとくるものがない。彼女の挙げるものは確かに三人に共通する項目だったが、表す範囲が広すぎて逆に彼女達の特徴が、ぼやけてしまうように感じるのだ。それからも色々意見を出し合うものの、これといった決め手が見つからず完全に煮詰まってしまい、特徴をパーティ名にするのは諦めることになった。


「じゃ、好きなものだとパフェ?」


ディアナが、三人が共通で好きなものとして、パフェを挙げた。


「あら、何かいいですわね」


「それなら三人とも好物だからドライ・パフェとか?」


「三人だからドライというのもありきたりですわね。

流石にお店の名前を使うのはまずいかしら。それならいっそ通りの名を取ってアルホフ・パフェなんてどうでしょう?」


「もうそれでいい」


「そうね。わたしたちの好物だし、分かりやすいからそれでいいんじゃない?

これ以上考えても出てきそうにないし、後でパーティ名を変えることもできるんでしょ?」


最後にクラリッサが提案した案で妥協するカタチではあったが、パーティ名は「アルホフ・パフェ」と決まったのである。


五等級パーティ「アルホフ・パフェ」は、その後も順調に活動を重ねていた。

はじめは採取すら覚束なかったクラリッサだったが、前期授業が終了する頃には、本人の努力もあってメキメキと採取の腕を上げ、今では師匠二人のお墨付きを貰うまでになっていた。

またディアナとアルマの調合する魔法薬も「質がいい」と評判になり、彼女らのパーティは等級は低いものの、ヴィンデルシュタットの探索士協会では徐々に注目を浴び始めていた。






「わたくしも早く調合を覚えたいですわ」


放課後にクラリッサが、教室でいつものように魔力循環の練習を続けていた。

もちろんディアナの補助付きだ。


「クラリッサは、休暇までにこれが一人でできるようにならないとダメ」


ディアナはクラリッサの両手を手に取って、魔力をゆっくりと流しながら諭すような口調で、クラリッサに集中するように促していた。

クラリッサの魔力循環は上達していたが、まだ一人では循環できるまではいかず、途中で力尽きるということを繰り返していた。学校が長期休暇に入ってしまうと、ディアナの補助が難しくなる。それまでにクラリッサが、一人で魔力循環をできるようにならなければならないのだ。


「もう少しだけど、今のままじゃ長期休暇までに間に合わない」


放課後だけでなく家に帰っても一人で練習を続けていたクラリッサだったが、体力的に辛くてなかなか最後までできないでいた。

魔力循環はなかなかうまくいっていなかったが、それでも諦めずに毎日続けているおかげで、最近では魔力量が伸びてきたのだと、クラリッサは弾んだ声で笑顔を浮かべていた。


「それでは少し速度を上げてみてはくれませんこと?」


「それはできない。多分酔う」


「大丈夫ですわ。これでも毎日練習を続けてますもの」


「クラリッサの想像以上。今やってるのと全然違う」


「一度でいいのです。試してくださいませ」


体力的に厳しいのなら、体力が尽きる前に循環できるよう、速度を速める提案をおこなったクラリッサだったが、ディアナは難色を示した。

今でこそ光速循環と言って高速で魔力循環をおこなっているディアナだったが、循環の速度を上げると体力的には楽になるかも知れないが、循環する速度に比例して気持ち悪さが増してくるのだ。これには魔力循環を使いこなしているディアナでさえ最初は面くらい、途中で目を回して何度も嘔吐を繰り返したほどだった。

そのようにディアナが根気よく説明しても、クラリッサは諦めなかった。


「……わかった」


彼女の真剣な表情に最後はディアナが折れ、ほんの少し速度を早めて魔力循環をおこなったのである。


「うっ!」


頑張って最後まで耐えていたが終わった途端、クラリッサは口元を押さえながら慌ててお手洗いへと駆け込んでいった。


「大丈夫?」


追いかけてきたディアナが心配そうにクラリッサの背中をさすったが、彼女はしばらく顔を上げられずに吐き続けていた。


「はぁはぁ、……見ましたわよね?」


「ん、ちゃんと循環できてた」


散々な目に遭ったにもかかわらず顔を上げたクラリッサは、涙目を浮かべながらも嬉しそうにディアナに同意を求めてきた。クラリッサは、速度を速めた魔力循環をギリギリで成功させていたのだ。


「見なさい。ちゃんとできたでしょう?」


「ギリギリだった。もう少しで大惨事になってた」


「そ、それは認めますわ。でも今の速度ならわたくしでも循環できるのではないかしら」


「できるかも知れないけど、毎回大惨事になる」


「慣れれば……」


「慣れるまでに休暇になる」


魔力循環は身体の中を(うごめ)く魔力の気持ち悪さに耐えることが、最初にして最大の難関になる。ここを超えることができれば魔力量を伸ばすことができるが、この段階でアルマのように脱落してしまう者も多いのだ。

慣れるのも人それぞれであり、ディアナのように数日から十日くらいで慣れることもあれば、何カ月経っても慣れることができずに断念してしまう者もいる。

クラリッサは割と早い段階で慣れることができたが、ほんの少し速度を上げただけでそれまでの感覚が無駄となり、また最初の慣れるところから始めないといけないのだ。

長期休暇まではもう十日もなかった。この調子だと気持ち悪さに耐えるだけで休暇に入りそうだった。


「……ディアナさん。貴女お休みは寄宿舎に残るのですわよね?」


「ん、採取と調合をして過ごす」


クラリッサが問うたように、ディアナは二カ月近くある長期休暇は、村に帰らずにヴィンデルシュタットで過ごすつもりだった。

帰っても居場所のないディアナは、休暇の間は採取と調合をおこない、あわよくば四等級への昇格を目論んでいた。一方で同じ寄宿舎で生活しているアルマは、休みの期間は田舎に帰省する予定だ。

彼女達のように親元を離れて寄宿舎で生活している魔法学校生達は、基本的には十代前半の者ばかりだ。余程の事情がない限り、アルマのように帰省する者がほとんどだった。


「それならディアナさんに指名依頼をおこないますわ。それならば昇格の足しにもできますし、依頼料も入るでしょう?

どうかわたくしに力を貸して下さいませ」


クラリッサは真剣な表情で、ディアナの手を取って懇願した。


「……」


しばらくクラリッサを見つめていたディアナは、軽く息を吐くと首を振った。


「そんな……。どうしてですの!?」


拒否されたと感じたクラリッサが、絶望したような表情で詰め寄った。

毎月の生活費に汲々としていたディアナだ。しかも指名依頼というカタチで依頼すれば、等級昇格の評定にも有利になる。クラリッサには、ディアナがそれを拒否する理由が分からなかった。


「確かに採取依頼に比べると長期依頼となってしまいますけれど、その分報酬は弾ませていただくつもりですわよ」


「違う」


「ならばどうして?」


「クラリッサは友達。依頼のつもりなら今までの分も請求する」


「ともだち?」


「あたしにとっては、クラリッサとアルマは大切な友達。

……友達が困っていたら、助けるのはあたりまえ」


ディアナから思わぬ言葉を聞いたクラリッサは、思わず目を見開いていた。

これまで彼女には、友達と呼べる人物はいなかった。

立場的に多くの貴族と接する機会もあり仲良くしている貴族も中にはいるがどちらかと言えば、やはりお互いの立場での付き合いとなってしまう。肩肘張らずに素の自分を出せるような、心から信頼できるような付き合いは今までなかった。

ディアナとアルマの二人は、そんな彼女にとって初めて素の自分を出せる存在だった。

そのディアナから「友達」と認定されていたことに驚いたが、同時に心の底から沸き上がるような嬉しさが彼女の中に広がってくる。


「それじゃあ」


「ん、できるまで付き合う」


若干照れたような表情を浮かべたディアナが、コクリと頷いた。


「ありがとう存じます!」


感極まったクラリッサが、涙を浮かべてディアナに飛びついた。

無防備だったディアナだったが、二、三歩よろめいただけで何とか彼女を受け止めた。


「ちょ、クラリッサ離れて。みんなが見てる」


慌てたディアナが引き離そうとするが、感激のあまり周りが見えなくなっている彼女は、お構いなしで抱きついたままだ。二人がいるのは校舎の入口に近いお手洗いだ。放課後とはいえ、期末が近いせいか生徒の姿は普段よりも多かった。

もともと放課後の教室で二人が向かい合って手を繋いでる姿は、よく見られていた。それに加えて、今回二人が目立つ場所で抱き合ってたという目撃情報が加わると、二人がそういう関係だという噂が、あっと言う間に学校中に広まったのは言うまでもない。

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