寮対抗戦最終日(2)
賭けの賞品にされていることを知らないディアナは、そんな裏事情とは無縁に、山盛りのソーセージを美味しそうに頬張りながら、目の前で繰り広げられるフェーニックスチームとの第二試合を観戦していた。
一戦目とは異なり、最初からフランツを本来のフェアタイディガーに配置したことで、アインホルンチームの守備陣は落ち着きを取り戻し、相手の攻撃に冷静に対応していた。しかしその代償として、今度は攻撃陣が全く機能しなくなっていた。もともと攻撃はルーカスの個人技に頼る部分が大きかったが、そのルーカスがフェーニックスチームの徹底的なマークにあうと、攻撃のカタチを全く作ることができなくなったのだ。
やがて、均衡が破られる。
幾度となく攻め込まれ続けた守備陣が、ついに耐えきれなくなりシンボルを奪われてしまう。
その後もアインホルンチームは防戦一方となり、一戦目と似たような試合展開に、満腹になったディアナは、守ってばかりの単調な試合内容に飽きて、途中でうつらうつらと居眠りをしてしまうほどだった。彼女の小さな寝息が、応援の声に混じって静かに響いていた。
結局、劣勢を打開しようとフェアタイディガーの人数を削って逆転を狙うも、その薄くなった守備陣の穴を突かれ、立て続けに失点を重ねる。
試合終了のホイッスルが鳴り響いたときには、スコアは四対〇。アインホルンチームは今年も二戦二敗という完敗で、レヴィアカンプフェを終えたのだった。
選手たちの肩は力なく垂れ下がり、グラウンドには重苦しい沈黙が広がっていた。
「完敗でしたわね」
「攻撃がルーカス頼りではダメ」
「連携も見直さないと、来年も厳しいぞ」
クラリッサとディアナ、ブルーノが三者三様の感想を言い合ったが、要約すれば「弱い」の一言に尽きる。始まる前は多少の期待があっただけに、これほどのレベル差を見せつけられるとは思ってもみなかった。選手たちの間には、悔しさと共に、どうしようもない無力感が漂っていた。
「来年は俺達が出て、チームを変えようぜ!」
そんな重苦しい空気を打ち破るかのように、まるで憑き物が落ちたかのように立ち直っていたブルーノが、妙に張り切った様子を見せていた。
買い出しに行っている間に何かあったのかと、ディアナはクラリッサに訝しげな視線を送るが、彼女は澄ました顔で「知りません」と首を振るだけだった。
「ブルーノは魔力制御を覚えないとダメ」
妙に圧力が高く接してくるブルーノを鬱陶しく感じたディアナが、冷静に彼の問題点を指摘したところ、ブルーノは露骨に意気消沈し、がっくりと肩を落とした。それを見たディアナは、逆に狼狽え視線が泳いでしまうのだった。いつもと違って、ブルーノがまさかここまで落ち込むとは思っていなかったのだ。
「そうですわね。ブルーノはまず安定して飛行できるようにならなければ、チームを変えるどころの話ではありませんわね」
「はい。頑張ります」
どことなく笑いを堪えたようなクラリッサがそう言うと、消え入りそうな声でブルーノが唇を噛んだ。
彼の大きな課題となっている魔力制御の甘さは、特に飛行魔法で顕著に現れていた。飛行の基本となる浮遊状態は、魔力を一定に杖へと流すことができなければならない。それにはある程度、魔力制御ができれば十分だったのだが、ブルーノはその段階で躓いていたのだ。
「魔力循環ができれば魔力制御も簡単」
ディアナがそう言うと、クラリッサも同意するように頷く。
ブルーノもユンカー時代から魔力循環を続けていた。だが苦痛を伴う魔力循環は、魔法と違って簡単にマスターできるものではない。体中に魔力が巡る感覚は、まるで身体の中を蛇がのたうつような気持ち悪さが伴い、多くの者が途中で挫折する。そのためクラリッサと違ってあまり真面目に取り組まず、ブルーノはいまだに一人で循環させることができなかった。
「もう少しで循環できるんだ。真面目にするからさ、よければ少し手伝ってくれないか?」
意を決したような真剣な表情で、ブルーノは隣のディアナに魔力循環を手伝ってくれるよう頼んだ。まさかブルーノがこういう行動に出ると考えていなかったクラリッサは、軽く目を見開いていた。彼女は表情にこそ出さなかったが、賭けが成立してからすぐに動いたブルーノを、内心では少し見直していた。
「朝の日課のときなら別に構わない」
いつものように素っ気なく了承したディアナに対し、ブルーノは「分かった! ありがとう!」と嬉しそうに小さく右手を握るのだった。
そんなことを話し合っている間に、三戦目の準備が整ったようだ。競技場全体に緊張感が漂い、観客たちのざわめきが大きくなる。
競技場内に、青いユニフォームのグライフチームと、赤いフェーニックスチームが入場してきた。両チームの選手たちは、自信に満ちた表情でフィールドを見据えている。
「どっちが勝つと思う?」
「どっちでもいい」
先ほどから妙に距離が近づいてきたブルーノに戸惑いながらも、ディアナは結果に興味ない様子で素っ気なく答える。しかし試合が始まると、興味なさそうにしていたディアナの目ですら釘付けにするほどの、見応えのある戦いが展開された。
赤と青の選手が、まるで風が通り過ぎるかのように、ディアナの目の前ギリギリを高速で通過していく。
ただ飛んでいるだけではない。ガシガシと肉体同士のぶつかる音が聞こえてくることから、相当激しく身体をぶつけているに違いない。それでいて制御を失わず飛んでいくのだ。彼らの動きは、まるで空中で繰り広げられるダンスのようでもあり、激しい格闘のようでもあった。
一方で上空からシンボルを狙って急降下するグライフチームに、待ち構えたフェーニックスチームが一糸乱れぬ連携で、見事にシンボルを守り抜いていた。彼らの守備は鉄壁で、グライフチームの攻撃をことごとく跳ね返す。
「……すごい」
ディアナの口から、感嘆の声が漏れた。
競技場全体で見応えのある攻防が繰り広げられいて、ディアナは片時も目を離すことができなかった。彼女の目は、フィールドを縦横無尽に飛び回る選手たちの動きを追っていた。その表情には、普段は見せることのない、真剣な眼差しがあった。
――これが本来のレヴィアカンプフェ?
アインホルンの試合は、あまりにも一方的で、見ている者をひたすらハラハラさせるだけだった。しかし、今目の前で繰り広げられている試合は、まったく異なるものだ。
競技場全体を使った縦横無尽に駆け巡る、立体的でダイナミックな陣形や戦術の応酬。そして、局面ごとに激しくぶつかり合う肉弾戦。それら全てが、見る者の心を鷲掴みにする。レヴィアカンプフェにこれまで全く興味がなかったディアナでさえ、気づけば思わず手に汗を握り、興奮に震えていた。
確かに、これほどまでの白熱した試合を見せつけられれば、人が熱狂するほどの人気競技となるのも無理はないと、心から納得できた。
「す、すげえな……」
「先ほどまでとまったく違う競技を見ているようですね」
ブルーノとクラリッサの二人も、ディアナと全く同じ感想を抱いたようだった。
特にブルーノは、口をポカンと開けたまま、そのことに気付く様子もなく、試合を食い入るように見つめていた。
いや、二人だけではない。今や観客席全体が熱狂の坩堝と化し、声を枯らしながら声援を送り、拳を天高く振り上げていた。
やがて、魔力が尽きたり、激しい肉弾戦で弾き飛ばされたりして、競技場内に落下する選手が出始めた。
レヴィアカンプフェでは、交代は三人までしか認められていないため、魔力不足や負傷交代を順次おこなっていくが、試合も終盤に差し掛かるとどのチームも交代枠を使い切っていて、選手の交代をおこなうことができなくなる。
それでも選手達は、決して諦めることなく競技場内を走り続け、自陣のシンボルを守ったり、相手のわずかな隙を突いて相手のシンボルを目指したりと、誰もが勝負を諦めることなく全力を尽くしていた。
〇対〇のまま、試合は終了間際まで進んだ。張り詰めた緊張感が競技場全体を覆う中、残り数秒というところで、ついにグライフチームが不死鳥の像を奪うことに成功した。
誇らし気に高く掲げたシンボル像を中心に、グライフチームの歓喜の輪が広がっていく。一方、守り切れなかったフェーニックスチームの選手達は、天を仰いで悔しさを噛み締めていた。その時、試合終了を告げる鐘の音が、競技場全体に厳かに響き渡った。
客席からは、健闘を称える惜しみない拍手が鳴り響く中、両チームの選手が中央に整列する。
グライフチームは、これで八連覇達成という偉業を成し遂げたのだった。
抱き合って喜びを爆発させる青いユニフォームの選手達。そんな彼らに、悔しさの残る表情で相手チームに握手を求める赤いユニフォームの選手もいる。しかし、中には競技場に大の字に倒れ込み、人目を憚らず号泣する選手や、疲労困憊で立ち上がることのできない選手の姿が見えた。
「ふう……」
ブルーノが大きく息を吐きながら、観客席に深く座り直した。
いまだに興奮冷めやらずといった様子で、目を細めて虚空を見つめている。
「連携を鍛えれば何とかなると思ってましたけれど、アインホルンチームは技術や気迫、全てにおいて一段も二段も劣っていましたわね?」
「ん。越えられない壁がある。ワンチャン勝てるとかそんなレベルじゃない」
負けられない寮の意地があったとしても、とても学生競技とは思えない、プロの試合のような戦いだった。あれほどの試合をするには、相当な鍛錬を積んだに違いない。少なくとも、アインホルン寮のように三カ月程度の練習時間では、絶対に出せないクオリティだった。彼らに勝とうとするなら、相当な練習を積まなければならないだろう。
「溜息しか出ませんわね」
クラリッサの苦笑いが全てを物語っていた。
ルーカスは寮対抗戦で勝つことにこだわっていたが、アインホルン寮が練習を開始したのは後期授業が始まってからだ。先ほどの試合を見ると、おそらく他寮では代表チームはほとんど一年中活動しているのだろう。次のハウスリーダーの方針にもよるが、他寮に本気で対抗するなら、よほど鍛えなければ他の代表チームに勝つことは難しいと思えた。アインホルン寮の道のりは、想像以上に険しいものになりそうだった。
そのようなことを考えているうちに、場内が整えられ長かった寮対抗戦の表彰式が始まろうとしていた。
場内には、レヴィアカンプフェに出場したメンバーやヴェットカンプの優勝者、研究発表の発表者らも並び始めていた。
「ディアナさん、表彰式ですわよ?」
「のんびり座ってちゃダメだろ!?」
「そうだった」
我関せずと欠伸をしながら伸びをしていたディアナを、クラリッサとブルーノが促した。完全に表彰式を忘れていたディアナは、慌てて駆けだしていった。
「相変わらずですわね。ブルーノは行かなくていいのですか? 準優勝なのでしょう?」
クラリッサが問いかけると、ブルーノは気まずそうに視線を逸らした。
「表彰されるのは勝者のみなので、俺は出られません」
彼の言葉には、わずかながらの悔しさが滲んでいた。
表彰式はあくまでも勝者のための式のようで、準優勝のブルーノは呼ばれていないと言って、ブルーノは静かに俯いた。
『これより表彰式を始めます』
進行役の凛とした声が競技場に響き渡ると、それまでざわついていた観客席が瞬時に静まり返った。
全ての視線が、競技場中央に設えられた表彰台へと集中する。バラバラに座っていた列も、いつの間にか綺麗に整列し、会場全体に厳粛な空気が満ちた。
「ディアナおめでとう! アングリフ見てたよ。満点なんて本当に凄いじゃないか!」
隣り合ったウルスラが、ディアナの偉業を心から称えた。
彼女の不調を知っていたウルスラだからこそ、彼女の優勝がどれほどの努力の賜物であったかを理解し、自分のことのように喜んでくれた。
「ありがと、ウッシー! ウッシーも模擬戦の優勝おめでと。ゴメン、あたし研究発表の会場にいたから、全然試合見れてない」
「そんなの気にしないでよ。それよりブルーノだっけ? 時折、身体強化魔法使うから焦ったよ。もう少し魔力制御が上手かったら、わたしが負けてたかも知れない」
ウルスラは、ブルーノの潜在能力を高く評価しているようだった。
「ありがと。ブルーノに伝えておく。それよりグライフのレヴィアカンプフェ強すぎ」
ディアナの言葉に、ウルスラは笑いながら首を横に振った。
「いやいや、わたし達グライフ寮は、毎週卒業生のOBから指導受けてるからね。多分フェーニックスもそうだと思うよ」
ウルスラは何でもないことのように、グライフ寮もフェーニックス寮も現役レヴィアカンプフェ選手であるOBから指導を仰いでいるとと明かした。
確かに、アインホルン寮のように学生達が主体で練習していては、あれほど洗練された動きにはならないだろう。ディアナは納得したように深く頷いた。
『それではまずは個人賞から発表していきます!』
表彰式は、厳粛な雰囲気の中で始まった。
表彰がおこなわれる壇上には、カイゼル髭を生やした学院長がすでに登壇している。
最初に呼ばれたのは、飛行部門の優勝者達であった。
『ヴィンド部門優勝、グライフ寮三年生、ハーロルト』
『ルンド部門優勝、フェーニックス寮三年生、ヨナタン』
ヴィンドは立った状態から、三〇〇メートル離れた目標までの到達時間を競い、ルンドは決められた周回コースを十周してその速さを競う。この二つの競技で優勝を飾ったハーロルトとヨナタンは、共に最終競技のレヴィアカンプフェでも目覚ましい活躍を見せた選手であり、卒業後には名門のレヴィアカンプフェチームへの入団がすでに内定しているという。
彼らの優勝は、レヴィアカンプフェにおける潜在能力を遺憾なく発揮した結果であり、観客たちはその実力に改めて感嘆の声を上げた。
『ブリッツ部門優勝、グライフ寮二年生、フランク』
フランクは、準決勝でブルーノを下したグライフ寮の二年生だ。彼の名が呼ばれると、グライフ寮の生徒たちから大きな拍手と歓声が上がった。
そして、競技場に静寂が訪れた後、ディアナの名が呼ばれた瞬間、再び大きな歓声が巻き起こった。
『アングリフ部門優勝はアインホルン寮一年生、ディアナ』
彼女が前人未踏の満点を出したという事実は、すでに学校中に知れ渡っており、その偉業が彼女の名にさらなる輝きを与えていた。
「ほら、ディアナ。早くいきなよ」
熱狂的な歓声に戸惑い、一瞬立ち尽くしたディアナに、隣にいたウルスラが優しく微笑みかけ、壇上へ上るよう促した。緊張から左右の手足が一緒に出てしまうぎこちない足取りで壇上へ上ったディアナを、観客たちは再び惜しみない拍手で迎えた。
学院長はディアナを温かい眼差しで見つめ、その栄誉を称えた。
『アングリフ優勝に加え、史上初となるフルスコアを出した栄誉を称え、ディアナにバッジを贈る。おめでとう』
学院長はそう言うと、手ずからディアナのローブに金色のバッジを取り付けた。
そのバッジは三センチメートル程度の小さいものであったが、アルケミアの紋章が精巧に象られ、紋章の下には「アングリフ優勝」の文言が誇らしげに刻まれていた。
『模擬戦部門優勝、グライフ寮二年生、ウルスラ』
次に呼ばれたのは、模擬戦部門の優勝者であった。
ディアナの隣にウルスラが並び、彼女にも同様にバッジが授与された。二人は顔を見合わせ、小さく微笑み合った。
個人部門の全ての優勝者が壇上に揃うと、学院長は再び大きな声で呼びかけた。
『個人部門の優勝者にもう一度大きな拍手を!』
競技場に響き渡る万雷の拍手が降り注ぐ中、個人部門で栄冠を手にした五人の選手が、晴れやかな表情でステージを後にした。その熱狂の余韻が冷めやらぬうちに、次の表彰へと移る。
いよいよ、各寮の誇りをかけた団体戦「レヴィアカンプフェ」の表彰だ。
『レヴィアカンプフェ部門、第三位アインホルン寮、第二位フェーニックス寮』
アナウンスと共に、アインホルン寮のキャプテン、ルーカスと、フェーニックス寮のキャプテンが壇上へと上がった。
学院長が労いの言葉をかけ、固い握手を交わす。
優勝寮以外の選手にはバッジが贈られないのが恒例で、言葉と握手のみが彼らの健闘を称える証となった。
そして、最も注目された瞬間が訪れる。
『レヴィアカンプフェ部門優勝、グライフ寮チーム!』
その瞬間、観客席の青いグライフ寮の応援団から、ひときわ大きな歓声が沸き上がった。
地鳴りのような歓声に包まれながら、グライフ寮のチームメンバー十五名全員が、誇らしげに壇上へと上がっていく。
学院長は一人ひとりの胸に金色のバッジを丁寧に付け、力強い握手を交わした。
全員が金色のバッジを身につけ、一列に並んで両手を高々と突き上げると、優勝を称える歓声が鳴り止まなかった。彼らの顔には、この日のために重ねた努力と、チームワークで掴み取った勝利の喜びが満ち溢れていた。
興奮冷めやらぬ会場に、再びアナウンスが響き渡る。
『続いて研究発表部門最優秀は、アインホルン寮の古代魔法文明ナハトゲレートです!』
白いローブを纏ったアインホルン寮の一角から、「おおぉ」という驚きと感嘆の声が上がった。
代表のエミーリアは、その名が呼ばれた瞬間、感極まった表情で誇らしげに壇上へと上がった。会場全体が温かい拍手に包まれる。
ナハトゲレートは、エミーリアが一年生の時から情熱を注いできた研究テーマだった。古代魔法文明時代の魔法具の再現を目指すその研究は、幾度となく困難に直面し、挫折しかけたこともあった。しかし、三年間の苦労が報われた瞬間、彼女と共に研究に打ち込んできた仲間達は、感動の涙を流しながら喜び合った。
『さて、いよいよ表彰式も最後の最優秀賞を残すのみとなります。本年の寮対抗戦最優秀賞は、アインホルン寮一年生、ディアナ!』
彼女の名が呼ばれると、それまでにも増して、競技場が揺れるかと思うほどの地鳴りのような歓声が沸き起こった。
「あ、あたし!?」
当の本人であるディアナは、まさか自分が最優秀賞に選ばれるとは夢にも思っていなかった。彼女は、寮対抗戦の決勝戦にしか出場していなかったため、その自覚がなかったのである。
しかし、彼女が長いアルケミアの歴史上、初めて叩き出した満点というインパクトは、やはり絶大だった。一般入学組で初の優勝者となったウルスラの活躍も会場に大きな衝撃を与えたが、得票率ではディアナが圧倒的な支持を集めていたのだ。
「ほら、ディアナ。早くいっておいで」
隣にいたウルスラが、温かい眼差しでディアナを促した。
戸惑いながらも、再び彼女が壇上へ上がると、今度は一段と大きなそして温かい拍手が会場全体を包み込んだ。
それは、まだ一年生ながら歴史に名を刻んだ少女への、心からの祝福の拍手だった。
長かった寮対抗戦もこれで終わりです。




